ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Jamila Woods - HEAVN [2017 Closed Sessions]

ルシール・クリフトンやグウェンドリン・ブルックスのような女性詩人に憧れて表現の道を志し、2012年には初の作品集「The Truth About Dolls」を発表しているという、異色の経歴を持つシカゴ出身のシンガー・ソングライター、ジャミラ・ウッズ。その一方で、ミュージシャンとしても教会などで腕を磨いてきた彼女は、エリカ・バドゥやカーク・フランクリン、ケンドリック・ラマーといった、多彩なアーティストから刺激を受けたという、個性的なパフォーマンスで聴衆を魅了し、アマチュアながら複数の音楽メディアで取り上げられてきた。

そんな彼女は、自身名義の楽曲を発売する前から、チャンス・ザ・ラッパーやマックルモア&ライアン・ルイスの作品に起用されるなど、ミュージシャンの間でも高い評価を受けてきたが、2016年になると地元シカゴのヒップホップ・レーベル、クローズド・セッションと契約。自身の作品をリリースする機会を得た。

今回のアルバムは、2016年にリリースされた、彼女名義では初の音楽作品となるLPのフィジカル版。彼女自身が全ての曲でペンを執る一方、レーベルメイトのオッドカップルや、ブレイク前の彼女を自分達が運営するメディアで取り上げたザ・ルーツがプロデュースを担当。ゲスト・ミュージシャンとして、同じシカゴ出身のチャンス・ザ・ラッパーやノーネームなどが参加するなど、彼女の豊かな実績と恵まれた人脈が活かされた、豪華な作品になっている。

収録曲の中で最初に面白いと思ったのは、彼女と同じ時期にデビュー・アルバム『Telefone』を発表した女性ラッパー、ノーネームが客演した”VRY BLK”。オッドカップルが手掛ける音数の少ないビートと、繊細なジャミラのヴォーカルはエリカ・バドゥの”Window Seat”を思い起こさせるものだ。ノーネームの低音を効かせた力強いラップがジャミラのヴォーカルの神秘的な雰囲気を引き立てている。

また、ザ・ルーツがプロデュースを担当した”HEAVN”は、生バンドが奏でる暖かく、柔らかい音色のトラックと、繊細で優しいジャミラの歌声が心地よいミディアム・ナンバー。エリカ・バドゥやジル・スコットの音楽を彷彿させる、ヒップホップの要素を取り入れたアレンジが魅力的だ。楽曲の途中で披露するアドリブが、ジェイZの『unplugged』のようなライブ感を醸し出している点も見逃せない。

それ以外の曲では、チャンス・ザ・ラッパーをフィーチャーした”LSD”が面白い。マット・ゴールドのギターなどを取り入れたロマンティックなトラックが印象的な作品で、オッドカップルが作るゆったりとしたトラックをバックに、しっとりとした歌声を響かせる姿がインターネットのシドを連想させる。遅いテンポのビートを軽やかに乗りこなすチャンス・ザ・ラッパーもいい味を出している。

そして、本作の中でも特に人気があるのが、ソーシャル・エクスペリメントのピーター・コットンテイルが制作に携わったスロー・ナンバー” Holy”だ。自主制作ながら、チャンス・ザ・ラッパーやBJザ・シカゴ・キッドといった人気ミュージシャンが多数参加したことでも話題になったアルバム『Surf』などの作品で知られる人気バンドのメンバーが手掛けたこの曲は、ジャズの要素をふんだんに取り入れたバンドをバックにじっくりと歌い込んだジャミラの姿が魅力的な作品だ。随所にアドリブを盛り込んで、生演奏の柔軟で自由な伴奏を活かして、彼女の繊細な感情表現を強調したトラックが心地よい。エリカ・バドゥっぽいミステリアスで妖艶な雰囲気のヴォーカルを聴かせていた”VRY BLK”に対し、こちらの曲ではインディア・アリーのような、爽やかで健康的な歌唱が堪能できる点も面白い。

彼女の音楽は、エリカ・バドゥやジル・スコット、インディア・アリーのようなヒップホップやR&B、ジャズといった色々なジャンルを巧みに取り込み、融合したものだ。しかし、先人に比べると色々な音楽のエッセンスを意図的に出し入れし、楽曲に個性と起伏を与えているように見える。その姿は、文章の形式や文体を使い分け、バラエティ豊かな作品を生み出す作家のスタイルにダブって見える。

インディー・レーベル発の配信限定作品ながら、ヒップホップやR&Bとジャズを融合した音楽、ネオ・ソウルに新しい解釈を吹き込んでいる。本作のリリース時点では、まだ大学生という彼女。これから多くの芸術に触れ、様々な経験を積んでいく中で、どんな表現者に成長していくのか、今から楽しみな逸材だと思う。

Producer
oddCouple, The Roots, Saba etc

Track List
1. Bubbles
2. VRY BLK feat. Noname
3. Lonely Lonely feat. Lorine Chia
4. HEAVN
5. In My Name
6. LSD feat. Chance The Rapper
7. Blk Girl Soldier
8. Emerald St. feat. Saba
9. Lately
10. Breadcrumbs feat. Donnie Trumpet
11. Stellar
12. Holy
13. Way Up





Heavn
Jamila Woods
Jagjaguwar
2017-10-06

Toddla T - Foreign Light [2017 Steeze]

14歳の頃からDJとして活動し、16歳になるとハイスクールを辞めて専業のミュージシャンに転身した、サウスヨークシャー州シェフィールド出身のDJでトラックメイカーのトドラTことトーマス・マッケンジー・ベル。

2007年にロンドンの1965レコーズと契約すると、同年に初のEP『Do U Know』を発表。ダンスホール・レゲエとエレクトロ・ミュージックを融合したサウンドで話題になった。その後も、ルーツ・マヌーヴァなどを起用した初のフル・アルバム『Skanky Skanky』を2009年にリリースするなど、精力的に活動していた彼は、2011年にはクラブ・ミュージックの名門、ニンジャ・チューンと契約。2枚目のフルアルバム『Watch Me Dance』を発売する一方、ジャマーやリトル・ドラゴンの作品をプロデュース、リミックスするなど、活躍の場を広げていた。

今回のアルバムは、2012年の『Watch Me Dance: Agitated By Ross Orton & Pipes 』から実に5年ぶりとなる新作(といっても、シングルは継続的に発売していたが)。自身のレーベル、スティーズからのリリースだが、ほぼすべての曲で”Set It Off”などのヒット曲を手掛けたことでも知られているブルックリン出身のシンガー・ソングライター、アンドレア・マーティンがマイクを執った、キャリア初の本格的なヴォーカル作品になっている。

本作の1曲目は、2017年5月に発売された先行シングル”Blackjack21”。ダフト・パンクの” Get Lucky”を連想させる、強靭なベースの演奏と、芯の強い歌声、そしてしなやかなメロディの一体感が心地よいアップ・ナンバーだ。シックやシャラマーといった80年代に活躍したディスコ・バンドの影響を感じさせるが、シンセサイザーを多用して、当時の音楽以上に洗練された雰囲気に纏め上げるなど、随所で差別化を図っている。

また、アンドレアに加えてバーミンガム出身のラッパー、ステフロン・ドンを起用した”Beast”は、重く、陰鬱な音色のシンセサイザーを効果的に使ったスリリングなアップ・ナンバー。ディジー・ラスカルのようなグライムをベースにしつつ、ビートの音圧を抑えて、ポップスっぽく聴かせている点が面白い。彼の器用な一面が垣間見える佳曲だ。

それ以外の曲にも、BBCのRadio1でラジオ・パーソナリティとして活躍するベンジBがミックスで参加した”Always”など、魅力的な作品は多い。この曲ではアンドレア・マーティンに加えて、レゲエDJのシルキ・ワンダをフィーチャー。80年代終盤に一世を風靡したリディム、スレンテンを思い起こさせる重低音を強調したビートの上で、朗々と声を張り上げるアンドレアと柔らかい声で言葉を繋ぐシルキのコンビネーションがのんびりとした雰囲気を醸し出している。往年のダンスホール・レゲエをベースにしつつ、現代のクラブ・ミュージックと一緒に聴いても違和感を感じさせないミックス技術にも注目してほしい。

そして、本作の最後を締める”Magnet ”はジェイソン・ベックが制作に参加したダンス・チューン。アンドレア・マーティンの力強い歌声で幕を開ける手法は、ロリータ・ハロウェイやグロリア・ゲイナーのようなディスコ音楽の歌姫を連想させる。しかし、シンプルな四つ打ちのビートと、太く温かい音色のシンセサイザーを使った伴奏は、ムーディーマンやルイ・ヴェガのようなハウス・ミュージックっぽくも聴こえる。往年のディスコ・ミュージックの高級感を残しつつ、気鋭のミュージシャンらしい新鮮な音楽に落とし込むトドラTのセンスが炸裂した面白い曲だ。

デビュー作でもダンスホール・レゲエやグライムを取り入れた楽曲を披露していたように、一つのジャンルにとらわれない柔軟な感性と広い視野が持ち味のトドラTだが、その作風は本作でも変わらない。しかし、本作は過去の作品とは異なり、アンドレア・マーティンという確かな実力を持ったシンガーをフロントに据えたからか、ディスコ音楽やレゲエ、ハウスといった多彩なスタイルを取り入れた「女性ヴォーカルの黒人音楽」という、クラブ・ミュージックには縁遠い人にも楽しめる作品になっている。

ブラック・ミュージックを音楽のいちジャンルとして親しんできた彼らしい、様々なスタイルの要諦を押さえて、自分の音楽の糧にした完成度の高いアルバム。懐かしさと新鮮さを一つの作品に閉じ込めた、先鋭的なクリエイターらしい音作りが堪能できる良作だ。

Producer
Benji B, Toddla T etc

Track List
1. Blackjack21 feat. Andrea Martin
2. Won't Admit It's Love feat. Andrea Martin, Casisdead
3. Beast feat. Andrea Martin, Stefflon Don
4. Ungrateful feat. Andrea Martin
5. Foreign Light feat. Andrea Martin, Coco
6. Foundation feat. Addis Pablo
7. Always feat. Andrea Martin, Silkki Wonda
8. Tribute feat. Wiley
9. Faithful Skit feat. Andrea Martin
10. Magnet feat. Andrea Martin



a

FOREIGN LIGHT
TODDLA T
BELIE
2017-07-28

ELHAE - AURA II [2017 Atlantic]

2010年代初頭からアトランタを拠点に活動。配信限定ながら、複数の作品を発表し、耳の速い音楽ファンから注目を集めていたノースダコタ出身のシンガー・ソングライター、エルハエことジャマール・ジョーンズ。

2016年にアトランティックと契約。同年に配信限定のアルバム『All Have Fallen』でメジャー・デビューを果たすと、その後もガウヴィの”Rock n Roll”に客演するなど、ジャンルの枠を超えた活躍を見せる。

本作は、そんな彼にとって2枚目のフル・アルバム。タイ・ダラ・サインやエリック・ベリンガーなど、実力には定評のある叩き上げのミュージシャン達を招き、トラップ等の要素を盛り込んだトラックに乗せて、ラップとヴォーカルを組み合わせたパフォーマンスを聴かせる、2017年のトレンドを的確に押さえたR&Bを披露している。

アルバムからの先行シングル”Something”は、カナダ出身のシンガー・ソングライター、パーティーネクストドアが2016年にシングル限定でリリースした”Don’t Do It For You No More”をサンプリングしたアップ・ナンバー。オリジナル・ナンバーのトラックを取り入れつつ、高音を強調することで、パーティーネクストドアのウリである色鮮やかなサウンドを際立たせている。パーティーネクストドアに比べると、滑らかでテナー寄りの声質を活かして、丁寧な歌唱を聴かせるR&Bナンバーにリメイクした点は面白い。

また、ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』や『DAMN.』等で辣腕を振るってきたロス・アンジェルス出身のプロデューサー、テラス・マーティンが制作を担当した”Bang Your Line”は、ロス・アンジェルス出身のラッパー、タイ・ダラ・サインをフィーチャーしたスロー・ナンバー。トラップの要素を取り入れた、チキチキという音が印象的なビートと、オートチューンで加工したヴォーカルが印象的な曲だ。シンセサイザーとオートチューンを駆使した、爽やかなサウンドが心地良い。個性的な声質を活かした掛け合いもいい味を出している。

そして、シカゴ出身のロッキー・フレッシュをフィーチャーした”Circa 09'”は、フロリダ出身のアヨ・ザ・プロデューサーなどがプロデュースで参加。トレイ・ソングスアッシャーの作品を思い起こさせるロマンティックなメロディと、甘い歌声が印象的なスロー・ナンバー。ロッキー・フレッシュの武骨なラップが、彼の歌声の柔らかさを引き立てている点も見逃せない。

だが、本作の目玉はエリック・ベリンガーが客演した”Slip & Fall”だろう。ソングライターとしても活躍しているエリックとのコラボレーション作品は、触ったらとろけそうなほど、甘く繊細なメロディと歌声が魅力のスロー・ナンバー。声質こそ違うものの、声域が近いテナーの二人によるデュエットということもあり、滑らかにバトンを繋げている点も面白い。ディアンジェロを”Untitled”を彷彿させる、エリックの空気を切り裂くようなファルセットもたまらない。

彼の音楽は、ラップやトラップなど、現代の流行をしっかりと押さえているものの、あくまでもメロディと歌声をじっくりと聴かせることに主軸を置いたR&Bだ。しかも、新しいサウンドを取り入れながら、奇抜さや斬新さのみに頼らず、ニーヨやドリームが作りそうな、流麗でロマンティックなメロディにフォーカスを当てた作品に落とし込んでいる点が、他のアーティストとは大きく違うと思う。

90年代のR.ケリーやジョーのように、美しいメロディのR&Bをベースにしつつ、ブラック・ミュージックのトレンドを取り入れた音楽が堪能できる。音楽配信よりもCDやアナログ・レコードで音楽を楽しんできた世代の人にこそ聴いてほしい佳作だ。

Producer
Aaron Sumlin, Ayo The Producer, Fortune etc

Track List
1. Admit It (Intro)
2. Something
3. Bang Your Line feat. Ty Dolla $ign
4. Drama
5. Otherside
6. Blue (Interlude)
7. Circa 09' feat. Ro
ckie Fresh
8. It's Not a Race
9. Slip & Fall feat. Eric Bellinger
10. You






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