melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

The Temptations - All The Time [2018 Universal]

1961年にシングル”Oh Mother of Mine”でレコード・デビューを果たして以来、”My Girl”や”Cloud Nine”、”Papa Was a Rollin' Stone”や”Treat Her Like a Lady”など、今も多くの人に愛される名曲を数多く残している、デトロイト発のヴォーカル・グループ、テンプテーションズ。

現在は、デビュー当時からバリトンを担当しているオーティス・ウィリアムスを中心に、若いメンバー(といっても全員40歳以上だが)と一緒に活動。日本を含む世界各地のステージに立ち続けるなど、今も現役の人気グループとして、音楽業界の一線で活躍している。

このアルバムは、2010年の『Still Here』以来、約8年ぶりの新作となるスタジオ・アルバム。ブルーノ・マーズサム・スミスといった、現代のR&Bシンガーのヒット曲のカヴァーと、彼らのオリジナル曲を収めた、バラエティ豊かな作品になっている。

本作の1曲目は、2014年にロンドン出身の白人のソウル・シンガー、サム・スミスが発表した”Stay With Me”。全英、全米のシングル・チャートを制覇した切ない雰囲気のスロー・ナンバーを、5人の温かい歌声で、優しい雰囲気のバラードに仕立て直している。原曲のミュージック・ビデオでも、曲中で聖歌隊が登場するなど、ゴスペルの影響を匂わせる演出があったが、今回のカヴァーはその要素を強調したものになっている。

続く”Earned It”は、イギリスの同名の官能小説を題材にした、2015年のアメリカの映画 「Fifty Shades Of Grey」のサウンドトラックに収められている、ウィークエンドの楽曲のカヴァー。ストリングスを効果的に使った威圧感のある伴奏や、往年のリズム&ブルースを彷彿させるスウィング、ゴスペルでは頻繁に用いられるコール&レスポンスなど、昔の黒人音楽のエッセンスと現代のポピュラー音楽の要素を組み合わせた楽曲は、当時の音楽を熟知した彼らによって、本格的なソウル・ミュージックに生まれ変わっている。伴奏をギターやベースを用いたシンプルなバンド・サウンドに変え、コール&レスポンスを強調したアレンジは、60年代初頭の彼らの音楽を彷彿させる、ポップでダイナミックなものだ。

また、マックスウェルが2009年にリリースした”Pretty Wings”のリメイクは、繊細さと大胆さを兼ね備えた彼の歌唱を忠実に再現した作品。メロディやアレンジは原曲のものを活かしつつ、声域の異なる5人のヴォーカルを巧みに使い分けることで、楽曲に起伏をつける演出が光っている。

そして、彼らのオリジナル曲である”Waitin’ On You”は、5人のしなやかなヴォーカルを活かした、流麗なメロディが心地よいスロー・ナンバー。変則的なリズムを刻むベースとドラムの伴奏と洗練されたメロディのおかげか、他のアーティストの作品のカヴァー以上に、現代のR&Bっぽく聴こえる。

このアルバムの面白いところは、高いヴォーカル・スキルを使って、既存の音楽を新鮮な音楽に聴かせているところだろう。そして、彼らの音楽が新鮮に映るのは、若いアカペラ・グループのように大胆な改変を行わず、あくまでも原曲の良さを生かしつつ、それに合ったヴォーカル・アレンジを施していることが大きい。この、アカペラの原点に立ち返りつつ、現代の楽曲を意識したアレンジが、ソロ・アーティストがヒット・チャートの大半を占める現代のポップス・シーンでは新鮮に映るのだろう。

アジア出身のヴォーカル・グループを中心に、個性豊かなメンバーのマイク・リレーを武器にしたグループが主流の時代に、美しい歌声と精密なヴォーカル技術を活かした巧妙なアレンジで勝負した意欲作。DAWソフトのような、高機能が機材がなかった時代、自分達の声を駆使して多彩な音楽を生み出してきたベテランの豊かな経験が遺憾なく発揮されている。

Producer
Otis Williams, Dave Darling

Track List
1. Stay With Me
2. Earned It
3. Pretty Wings
4. Thinking Out Loud
5. Waitin’ On You
6. Remember The Time
7. Be My Wife
8. Still Feel Like Your Man
9. When I Was Your Man
10. Move Them Britches



All the Time
Temptations
Ume
2018-05-04




Jorja Smith - Lost & Found [2018 FAMM]

2016年に、ディジー・ラスカルの”Sirens ”をサンプリングした”Blue Lights”を公開して表舞台に登場。シャーデー・アデューやエンディア・ダヴェンポートを彷彿させる透き通った歌声と、ムラ・マサやナオの音楽を思い起こさせる、エレクトロ・ミュージックの要素を取り入れたサウンドで、カナダのドレイクや、イギリスのストームジー、アメリカのカリ・ウチスなど、様々な国のアーティストから絶賛された、イギリスのウエスト・ミッドランズにあるウォルソール出身のシンガー・ソングライター、ジョルジャ・アリシア・スミス。

彼女は子供の頃からトロージャンのレゲエ作品や、カーティス・メイフィールドなどのソウル・ミュージックを聴いて育ったという。また、父がソウル・バンドで活動していたこともあり、早くから音楽への強い興味を示していた。

そんな彼女は2016年に、音楽投稿サイト経由で”Blue Lights”を発表。同年にマーヴェリック・セイブルをフィーチャーした”Where Did I Go?”を公開。その後も、4曲入りのEP『Project 11』をリリースし、ドレイクのUKツアーに帯同するなど、一気にブレイクを果たした。

また、2017年に入るとドレイクのアルバム『More Life』に参加する一方、国際女性デーに”Beautiful Little Fool”を発売、年末にはMOBOアワードやブリット・アワードにノミネートし、後者を獲得するなど、華々しい活躍を見せてきた。

本作は、そんな彼女の初のフル・アルバム。自身のレーベル、FAMMからの配給だが、CD盤やアナログ盤も作られた力作。全ての収録曲で彼女自身がソングライティングを主導し、プロデューサーには、既発曲を一緒に作ったチャーリー・ペリーに加え、アメリカ出身のジェフ・クレインマンや、オーケストラで活動するマーキー・キト・リビングなど、世界各地で活躍する個性的なクリエイターが参加。21歳の瑞々しい歌声と若い感性を最大限引き出した良作になっている。

まず、本作に先駆けてリリースされた彼女のデビュー曲”Blue Lights”は、ディジー・ラスカルの”Sirens”のフレーズを引用し、ガイ・ボネット&ロナルド・ロマネリの”Amour, Émoi... Et Vous” の演奏をサンプリングしたトラックのミディアム・ナンバー。シンセサイザーを多用した哀愁を帯びた上ものが印象的なトラックは、ジャンルも作風も違うがロジックの”1-800-273-825”に似た雰囲気。事前情報がなければディジー・ラスカルの曲を借用したとはわからないジョルジャの歌唱は、歌とラップを織り交ぜた、ドレイクに近いもの。しかし、エリカ・バドゥから泥臭さを抜いたような、滑らかな歌声のおかげで、繊細なR&Bに聴こえる。

また、同じ年にリリースされた”Where Did I Go?”は、ペリーがプロデュースした作品。太く柔らかい音色のベースを強調したトラックは、エリカ・バドゥやエスペランザ・スポルディングのようなジャズの要素を取り込んだミディアム・ナンバー。彼女達に近しい声質の持ち主とはいえ、より爽やかなヴォーカルの彼女が歌うと、ポップで聴きやすい音楽に映る。

これに続く”February 3rd”は、プロデューサーにフランク・オーシャンケヴィン・アブストラクトの作品にも関わっているジェフ・クレインマンを招いた楽曲。オルゴールのような音色を取り入れて、繊細で神秘的、だけど少しポップな雰囲気を演出したミディアム・ナンバーだ。高音に軸足を置いて、丁寧に歌い込むスタイルは、ミニー・リパートンにも少し似ている。

そして、本作の隠れた目玉がオーストラリア在住のエレクトロ・ミュージックのプロデューサー、マーキー・キト・リビングを起用した”On Your Own”。バス・ドラムを強調したビートは、ヒップホップのスタイルだが、それに組み合わせる複雑な構成の伴奏はドラムン・ベースの手法という個性的な作品。ムラ・マサナオのような、エレクトロ・ミュージックとヒップホップを組み合わせたアレンジが印象的だ。

彼女の面白いところは、エンディア・ダヴェンポートやシャーデー・アデューのような、大胆なヴォーカル・アレンジと洗練された歌唱を使い分ける技術と、透き通った歌声を持ちながら、バック・トラックではエレクトロ・ミュージックの新しい手法を積極的に取り入れているところだ。アメリカのR&Bシンガーにも、電子音楽の技法を組み入れた作風の人は一定数いるが、彼女の場合は、他のイギリスのR&Bシンガー同様、より電子音楽に歩み寄ったサウンドを取り入れている。この、懐かしい歌声と、現代的なアプローチが彼女の個性を確立するのに一役買っていると思う。

アメリカやカナダとは一線を画した、独自の進化を遂げたイギリスのR&Bの現在を象徴するようなアルバム。電子音楽が好きな人には、ヴォーカルの多彩な表現が、R&Bが好きな人には電子音楽の柔軟な発想が新鮮に感じられる面白い作品だ。

Track Data
1. Lost & Found
2. Teenage Fantasy
3. Where Did I Go?
4. February 3rd
5. On Your Own
6. The One
7. Wandering Romance
8. Blue Lights
9. Lifeboats (Freestyle)
10. Goodbyes
11. Tomorrow
12. Don't Watch Me Cry





LOST & FOUND
JORJA SMITH
COOKI
2018-06-08

Ne-Yo – Good Man [2018 Compound, Motown]

2006年に発売した初のスタジオ・アルバム『In My Own Words』 がアメリカ国内だけで140万枚 も売れ、多くの音楽賞を獲得したことで、ソングライターがアーティストの有力なキャリア・パスとして再評価されるきっかけになった、アーカンソー州カムデン出身のシンガー・ソングライター、ニーヨことシャイファー・シミア・スミス。

デビュー作が成功した後も、2017年までにリリースした5枚のアルバム全てをアメリカの総合アルバム・チャートの10位以内に送り込みながら、ソングライターやプロデューサーとして、リアーナラトーヤといったR&Bシンガーから、セリーヌ・ディオンのようなポップ・スターまで、多くのアーティストに楽曲を提供。2012年にモータウンへ移籍してからは、A&R(アーティストの発掘と育成を担当する部門)のヴァイス・プレシデント(トップを補佐する役員)に就任。BJザ・シカゴ・キッドラポーシャ・ラナエリル・ヨッティといった、高いセンスとスキルが魅力の名手を送り出してきた。

このアルバムは、彼にとって通算7枚目のスタジオ・アルバム。ソングライター、クリエイターであり、会社経営者としても多くの仕事を抱えながら録音された本作は、全ての曲で彼自身がソングライティングを担当。プロデューサーには、彼の代表曲”So Sick”を一緒に制作したスターゲイトのほか、OGパーカーやステレオタイプスといったヒット・メイカーが多数参加。しなやかで親しみやすいメロディと爽やかな歌声というニーヨの魅力を引き出した作品になっている。

アルバムの実質的な1曲目となる”1 MORE SHOT”は、エリック・ベネイアン・ヴォークなどを手掛けてきたカーティス”ソース”ウィルソンをフィーチャーし、メイジャーの名義でも活躍するブランドン・グリーンと気鋭のクリエイター、マントラ・ビーツを制作者に迎えたダンス・ナンバー。ジェイソン・デルーロの近作を彷彿させる、鮮やかな音色を多用したカリプソっぽいアレンジと、ニーヨの繊細なメロディが光る好作。ハウス・ミュージックのビートを取り入れつつ、上物を強調してラテン音楽っぽく仕立てるアレンジが面白い。

これに対し、スターゲイトがプロデュースを担当した”PUSH BACK”は、ニューヨーク出身のシンガー・ソングライター、ビービー・レクサとロンドン出身のラッパー、ステフロン・ドンをゲストに招いた作品だ。この曲は、スタイリッシュな作風が持ち味のスターゲイトのプロデュース曲では珍しい、レゲトンのビートを用いたダンス・ナンバー。ニーヨの流麗なヴォーカルと、ステフロンのラガマフィン、ポップス畑出身らしい、硬い声質のビービーのヴォーカルのコントラストが聴きどころ。

また、本作のリリース直前に発表された”APOLOGY”は、彼同様、ソングライターの実績が評価され、エンパイア配給のスタジオ・アルバムも発売しているコンプトン出身のシンガー・ソングライター、エリック・ベリンガーと共作したバラード。重いドラムの音を土台にしたヒップホップ色の強いトラックと、ラップのように多くの言葉を詰め込んだメロディという、エリックのカラーが強い曲。 爽やかな歌声としっとりとしたメロディが魅力のニーヨが、ラップのようなメロディに取り組む姿は新鮮だ。

それ以外の曲では、本作のタイトル・トラック”GOOD MAN”も見逃せない作品だ。DJキャンパーがプロデュースを担当、ソングライティングにラファエル・サディークが参加したこの曲は、ディアンジェロが2000年に発表した”Untitled (How Does It Feel)”をサンプリングしたバラード。随所に印象的なフレーズを織り込みつつ、楽曲全体の展開に目を配る構成が特徴的なニーヨの楽曲では珍しい、様々なメロディをモザイクのように組み合わせたスタイルの作品だ。ディアンジェロの楽曲を引用して、彼のスタイルを取り入れつつ、ニーヨの洒脱な歌唱法の組み合わせが新鮮なスロー・ナンバーだ。

このアルバムで彼が披露したのは、多くのソングライターやプロデューサーを招き、彼らの作風を取り入れることで、音楽の幅を広げているところだろう。エリック・ベリンガーやパーティー・ネクストドアといった、楽曲とキャラクターの両方が評価されて頭角を現したシンガー・ソングライターや、ステレオタイプスやDJキャンパーのような尖った作風がウリのヒット・メーカーを揃えつつ、自身も制作に関与することで、楽曲のバラエティと一貫性を確保している。このアルバムからは、「実績豊富なミュージシャンのニーヨ」を「音楽プロデューサーのニーヨ」の目で分析し、伸びしろを活かそうとしているように映る。

マネージメントという新しい仕事を通して、自分の可能性を広げた魅力的な作品。プレイヤーの能力ととマネージメントの技術は相対するものではなく、互いの可能性を引き出す車の両輪であることを教えてくれる優れたアルバムだ。

Producer
Ne-Yo, Darhyl Camper Jr, OG Parker, StarGate, The Stereotypes, DJ Camper etc

Track List
1. ""Caterpillars 1st"" (INTRO)
2. 1 MORE SHOT
3. LA NIGHTS
4. NIGHTS LIKE THESE feat. Romeo Santos
5. U DESERVE
6. SUMMERTIME
7. PUSH BACK feat. Bebe Rexha & Stefflon Don
8. BREATHE
9. ON UR MIND feat. PARTYNEXTDOOR
10. BACK CHAPTERS
11. HOTBOX feat. Eric Bellinger
12. OVER U
13. WITHOUT U
14. APOLOGY
15. OCEAN SURE feat. Candice Boyd & Sam Hook
16. ""The Struggle..."" (Interlude)
17. GOOD MAN





グッド・マン
NE-YO(ニーヨ)
ユニバーサル ミュージック
2018-06-08

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