ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Jovan - Not Made For These Times [2018 Diggy Down Recordz]

ロジャー・トラウトマンの遠戚であるアメリカのシンガー・ソングライター、B.トンプソンや、49歳の時に発表した初のスタジオ・アルバム『One For Funk And Funk For All』で、遅咲きのブレイクを果たしたエノイス・スクロギンス、東京在住ながら、複数の楽曲がイギリスやフランスのラジオ局でヘビー・ローテーションされているT-グルーヴなど、70年代、80年代のディスコ音楽から影響を受けたスタイリッシュなサウンドと、ダイナミックなヴォーカルを活かした曲作りで、高い評価を受けているフランスのディギー・ダウン・レコーズ

同レーベルが2018年の第1弾作品として送り出したのは、シカゴ出身のシンガー・ソングライター、ジョヴァンの初のスタジオ・アルバム。現在はカリフォルニア州のヴァレーホを拠点に活動する彼は、2017年にT-グルーヴのアルバム『Move Your Body』に収録されている”Family”で、美しい歌声を披露したことでも話題になった実力者。その一方で、以前から、多くの楽曲をインターネット経由で発表し、耳の早いリスナーから注目を集めてきたことでも知られている。そんな彼の、初のスタジオ・アルバムは、先述のT-グルーヴのほか、コラボレーション作品が予定されている、タッチ・ファンクのDJネスDとD.ゴズ、フランスのビートメイカー、ワズなど、個性豊かな面々をプロデューサーに起用した力作。同時に、全ての曲で彼自身がペンを執り、美しいメロディと躍動感あふれるビートを同居させた、独創的な音楽に仕立て上げている。

アルバムの1曲目は、本作に先駆けてリリースされた”Chi-Town Lovin'”。フランスのラップグループ、ヴォイジャー・ワンの一員としても活躍している、プロデューサーのソヴァンがトラックを担当したアップ・ナンバー。ビヨビヨというアナログ・シンセサイザーの音色と、軽やかに刻まれるギターの伴奏が心地よい、ゆったりとしたテンポのダンス・ナンバー。スタイリッシュなディスコ・ブギーをベースにしつつ、生の声と、エフェクターを通した声を使い分けることで曲にメリハリをつけている。80年代のディスコ音楽を、ヒップホップを意識したゆるいビートと融合した面白い曲だ。

これに対し、フランスのトラックメイカー、ワズが制作に参加した”Stayin'Powers”は、カシーフやキース・スウェットを思い起こさせる洗練された伴奏と、豊かな低声を活かしたダンディなヴォーカルが魅力のスロー・ナンバー。ヒップホップやソウル、ファンクに強いワズらしい、太いベースや重いビートと、シンセサイザーを使った煌びやかな伴奏を組み合わせたトラックと、アーロン・ホールを思い起こさせるグラマラスなバリトン・ヴォイスのコンビネーションが聴きどころ。

また、タッチ・ファンクのDJネスDとD.ゴズがプロデュースした”Like A Siren”は、彼らが得意とする、太いシンセ・ベースのサウンドを活かした、ダイナミックなグルーヴが心地良いダンス・ナンバー。シンセ・ベースの跳ねるような演奏が、スレイヴやブーツィー・コリンズを思い起こさせる。躍動感が魅力の佳曲だ。

そして、T-グルーヴがプロデュースした”L.O.V.E”は、彼をフィーチャーしたT-グルーヴの”Family”のスタイルを踏襲した、洗練されたサウンドが魅力のミディアム・ナンバー。ボコーダーを使ったロボット・ヴォイスによるイントロから、テンポを落としたハウスのビートへと繋ぎ、テンプテーションズのデヴィッド・ラフィンを彷彿させる、甘くしなやかなヴォーカルへと展開していく構成が心を揺さぶる。『Move Your Body』で多用された音色を使うことで、さりげなく存在感をアピールするT-グルーヴの遊び心が憎い。

このアルバムで彼が聴かせているのは、70年代や80年代のディスコ・ミュージックから多くの影響を受けたアーティストが在籍する、ディギー・ダウンの作風を踏襲しつつ、80年代後半以降に流行した、じっくりと歌を聴かせるR&Bのエッセンスを盛り込んだ作品。尖ったサウンドでリスナーを魅了したディスコ音楽と、歌手のパフォーマンスを丁寧に聴かせるR&Bの手法を、一つの作品に同居させた点が、一番の特徴だ。そのために、既に確固たる個性を築き上げたプロデューサー達とコミュニケーションを取りながら、普段の彼らの作品とは一味違う音楽を作り上げたところが、このアルバムの聴きどころだと思う。

個性豊かなアーティストとプロデューサーが交わることで、アメリカで流行しているR&Bとも、レーベルが得意とするディスコ音楽とも異なる、独創的な作品に落とし込んだ魅力的なアルバム。「コラボレーション」のお手本のような作品だと思う。

Producer
Jovan Benson, Sick-So, Wadz, Yuki T-Groove Takahashi, DJ Ness D, Goz etc
Track List
1. Chi-Town Lovin'
2. Ghetto Superman
3. That Kind Of Love
4. Stayin'Powers
5. Carte Blanche
6. Guilty
7. Smile
8. Like A Siren
9. Not Made For These Times Feat. Sammy
10. Don't Take My Joy
11. Funk In You
12. L.O.V.E
13. Wait For You
14. Funky Side Of The Moon
15. Let The Rain Fall
16. Special Flower
17. Don't Say Goodbye




Ravyn Lenae - Crush [2018 323Music, Atlantic]

2015年に自主制作で発表したEP『Moon Shoes』が、音楽通の間で注目を集めたことをきっかけに、アトランティックと契約。2016年に同作をアトランティックから再発すると、音と音の隙間を効果的に使った構成と、繊細なヴォーカルで多くの人を魅了した、イリノイ州シカゴ出身のシンガー・ソングライター、ラヴィン・レネー・ワシントン。

シカゴで生まれ育った彼女は、教会で宣教師をしていた祖父の影響もあり、子供のころから教会で音楽に慣れ親しんでいた。そんな彼女は、シカゴのハイスクールでクラシック音楽を専攻。卒業後は自身の作品を作りながら、同郷のプロデューサー、モンテ・ブッカーや、セントルイス出身のラッパーのスミノなどとコラボレーションしてきた。また、それらの縁もあり、2015年にはモンテが制作を担当した、自身名義では初となるミニ・アルバム『Moon Shoes』を録音している。

そして、2017年には2枚目のEP『Midnight Moonlight』をリリース。モンテに加え、シーザの作品に携わっているカーター・ラングなどが参加したことが話題になる。また、同じ年に行われたシーザのツアーでは、オープニング・アクトとして起用されるなど、着実に知名度を上げてきた。

このアルバムは、そんな彼女にとって、1年ぶり3枚目のEP。プロデューサーには初のソロ作品『Steve Lacy's Demo』を発表して話題になった、ザ・インターネットのスティーヴ・レイシーが担当。本作でも、バンド名義やシドの作品で魅せた、泥臭いソウル・ミュージックと先鋭的なヒップホップが融合した、独創的な音楽に取り組んでいる。

アルバムの1曲目は、本作からの先行シングル”Sticky”。不気味な雰囲気を醸し出すオルガンのイントロから、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの作品を彷彿させる乾いた音色のギターへと繋がる展開が面白い曲。少し早めのイントロから一転、ゆったりとしたテンポのビートの上で、ラップとも歌とも形容しがたい、個性的なパフォーマンスを披露するラヴィンの姿が光るっている。バック・トラックはエリカ・バドゥやシドの作品にも少し似ているが、ヒップホップのエッセンスを盛り込んだヴォーカルはドレイクっぽくも聴こえる不思議な音楽だ。

続く”Closer (Ode 2 U)”は、エフェクターを使って歪ませたギターの伴奏や躍動感あふれるビートが、サイケデリック・ロックとソウル・ミュージックを融合した、70年代初頭のファンカデリックやカーティス・メイフィールドを思い起こさせるアップ・ナンバー。バス・ドラムの音を強調して、現代のヒップホップっぽく纏め上げたトラックや、ラヴィンの繊細な歌声を際立たせた演出が、サイケデリックなソウル・ミュージックを、2018年のR&Bのように聴かせた異色の作品だ。

また、スティーヴをフィーチャーした”Computer Luv”は、彼の作品では珍しい、思いっ切りギターをかき鳴らすフォーク・ミュージック寄りのアレンジが新鮮な作品。複数のシンセサイザーの音色を組み合わせて、エフェクターを多用したサイケデリックなサウンドとは一味違う、幻想的なフォーク・ソングに仕立てた伴奏が聴きどころ。

そして、もう一つのコラボレーション曲”4 Leaf Clover”は、リズム・マシンを使った軽快なビートとパワフルなギターの音色が眩しいミディアム・ナンバー。70年代前半のロキシー・ミュージックやデイヴィッド・ボウイを連想させる、グラマラスな伴奏に乗って、爽やかなヴォーカルを披露する二人の姿が心に残る良曲だ。

今回の作品で彼女は、独創的なサウンドに定評のあるスティーヴを起用することで、自身の持ち味である尖ったR&Bを維持しつつ。それを新しい切り口で表現した作品を生み出すことに成功している。多くのバンド・メンバーを抱えるザ・インターネットの中でも一番若く、かつ個性的な作品を残しているスティーヴを相方に選ぶことで、ゴスペルやクラシック音楽から、最新のヒップホップやR&Bまで、色々なジャンルに取り組んできた彼女の強みが遺憾なく発揮されている。

恵まれた環境で色々なジャンルの音楽を吸収する一方、自身の作品では鋭いセンスを発揮してきた彼女の長所が、遺憾なく発揮された佳作。大ベテランのエリカ・バドゥを筆頭に、シーザやシドといった多くの名シンガーが鎬を削る、ネオ・ソウルの分野に新しい風を吹き込んだ良盤だ。

Producer
Steve Lacy

Track List
1. Sticky
2. Closer (Ode 2 U)
3. Computer Luv feat. Steve Lacy
4. The Night Song
5. 4 Leaf Clover feat. Steve Lacy





Crush EP [Explicit]
Atlantic Records/Three Twenty Three Music Group
2018-02-09

Various Artist - Black Panther The Album [2018 Top Dawg, Aftermath, Interscope]

2017年には4枚目のスタジオ・アルバム『Damn』を発表。複数の国でゴールド・ディスクを獲得し、同作に収録されているシングル”Humble”は、各国の年間チャートに名前を連ねる大ヒットとなった、カリフォルニア州コンプトン出身のラッパー、ケンドリック・ラマー。2018年1月に開催されたグラミー賞では、主要部門のうち、最優秀レコードと最優秀アルバムの2部門にノミネートし、ラップ部門を総なめにするなど、2017年を代表するヒップホップ・アーティストとして、華々しい成果を上げた彼の2018年最初の作品は、アフリカ系アメリカ人が主人公のマーベル・コミックを実写化した、ハリウッド映画のサウンド・トラック。

彼が在籍するレーベル、トップ・ドーグから発売されたこのアルバムでは、同レーベルの所属アーティストを中心に、ジェイムス・ブレイクやウィークエンド、アンダーソン・パークなど、凝ったサウンドで多くの音楽ファンを魅了してきた面々が集結。斬新なサウンドとキャッチーな曲作りで、聴き手を魅了している。

本作の1曲目は、ケンドリック・ラマーと同郷のプロデューサー、マーク・スピアーズが手掛けるタイトル・トラック”Black Panther”。60年代のポピュラー・ミュージックから引用したような、ロマンティックなピアノの伴奏に始まり、シンセサイザーを駆使したおどろおどろしいビートへと繋ぐ展開が新鮮な作品。トラックの変化に合わせて、ラップのスタイルを変えるケンドリック・ラマーのテクニックも光っている。

これに続く”All the Stars”は、プロデュースをマークとロンドン出身のアル・シャックスが担当した、ケンドリック・ラマーとシーザのコラボレーション曲。エムトゥーメイの”Juicy Fruits”を彷彿させる、スタイリッシュなビートに乗って、爽やかな歌声を響かせるシーザと、切れ味の鋭いラップを聴かせるケンドリック・ラマーのコンビネーションが格好良いミディアム・ナンバー。強烈な存在感を発揮しながら、息の合ったパフォーマンスを見せる姿は、多くのシンガーとヒット曲を残してきた、ナズやジェイZを思い起こさせる。

また”Humble”の共作者としても有名な、マイク・ウィル・メイド・イットが制作に参加した”King's Dead ”は、ジェイ・ロックやフューチャーといった、実力に定評のあるラッパーに加え、ビヨンセやフランク・オーシャンのアルバムにも拘わっているジェイムス・ブレイクを起用。マイクが得意とするチキチキ・ビートの上で、三人が豊かな個性を遺憾なく発揮している。ジェイムス・ブレイクのヴォーカルを含め、最小限の音数でスリリングなヒップホップを聴かせるテクニックは、流石としか言えない。

そして、本作の最後を締める”Pray For Me”は、2016年のアルバム『Starboy』が年を跨いで売れ続けた、カナダ出身のシンガー・ソングライター、ウィークエンドとのコラボレーション曲。ウィークエンドがダフト・パンクと録音した大ヒット曲”Starboy”の共作者でもあるドック・マッキンネイに加え、ドレイクやニッキー・ミナージュに楽曲を提供しているカナダ出身のヒット・メイカー、フランク・デュークスが制作者に名を連ねるこの曲は、アナログ・シンセサイザーの太く、柔らかい音色を使ったトラックが”、Starboy”を連想させるミディアム・ナンバー。殺伐とした雰囲気の作品が多いケンドリック・ラマーに合わせて、哀愁を帯びたメロディや伴奏を取り入れた構成が心憎い。”Starboy”の路線を踏襲しつつ、このアルバムに合わせて絶妙な調整を加えた佳作だ。

本作の聴きどころは、強烈な個性で台頭したトップ・ドーグの面々の持ち味を際立たせながら、ゲスト・ミュージシャンやアルバム全体の構成で、作品全体に起伏をつけているところだろう。単独名義の作品ではアクが強過ぎて使いづらいスタイルの楽曲を録音しつつ、曲ごとにプロデューサーやアーティストの組み合わせを変えることで、パフォーマーの個性を引き出しつつ、アルバムにメリハリをつけている。また、映画という一つの軸を持つことで、バラエティ豊かな楽曲を揃えつつ、一本筋が通った作品に仕立てている点も見逃せないだろう。

ケンドリック・ラマーやシーザを輩出したトップ・ドーグの、高い実力が遺憾なく発揮された名盤。2018年初頭に発表されたアルバムだが、この年を代表する作品になりそうな風格さえ感じる。

Producer
Anthony "Topdawg" Tiffith, Kendrick Lamar, Dave "Miyatola" Free etc

Track List
1. Black Panther - Kendrick Lamar
2. All the Stars - Kendrick Lamar, SZA
3. X - Schoolboy Q, 2 Chainz, Saudi
4. The Ways - Khalid, Swae Lee
5. Opps - Vince Staples, Yugen Blakrok
6. I Am - Jorja Smith
7. Paramedic! - SOB X RBE
8. Bloody Waters - Ab-Soul, Anderson .Paak, James Blake
9. King's Dead - Jay Rock, Kendrick Lamar, Future, James Blake
10. Redemption Interlude
11. Redemption - Zacari, Babes Wodumo
12. Seasons - Mozzy, Sjava, Reason
13. Big Shot - Kendrick Lamar, Travis Scott
14. Pray For Me - The Weeknd, Kendrick Lamar





Black Panther: The Album
Various Artists
ユニバーサル ミュージック合同会社
2018-02-10

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