melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

William Bell – This Is Where I Live [2016 Stax, Concord]

50年代にデル・リオスの一員としてデビューして以来、主にソロ・シンガーとして、ディレイテッド・ピープルズが”Worst Comes To Worst”でサンプリングしたことで、若い世代からも注目を集めた“I Forgot To Be Your Lover”や、ジュディ・クレイとのデュエット曲”Private Number”など、多くのヒット曲を残している、テネシー州メンフィス出身のシンガー・ソングライター、ウィリアム・ベル。彼にとって通算14枚目となるスタジオ・アルバムが本作だ。

繊細なメロディからダイナミックなメロディまで、どんな曲でも自分の色に染め上げる歌唱力と、噛めば噛むほど味が出る、スルメイカのように味わい深いフレーズを生み出す作曲技術を兼ね備えているにも関わらず、同時代に活躍したシンガーと比べて知名度が低い彼。その最大の不運は、生まれた時代が悪かったことだとろう。60年代から70年代中盤にかけて、主にメンフィスのスタックス・レコードを舞台に、多くの作品を発表していた彼だが、この時代のスタックスには、オーティス・レディングやジョニー・テイラー、アイザック・ヘイズといったポピュラー・ミュージックの歴史に多くの足跡を残す名シンガー達が在籍し、人種の枠を超えて愛される名曲を残していた。そんな不運もあり、彼の評価は、その作品のクオリティに比べて、低かったように思える。

あれから40年、2006年の『New Lease on Life』から10年ぶりとなる新作は、コンコード傘下で復活したスタックス・レコードからのリリース。現在のスタックスは、リーラ・ジェイムズのような中堅から、アンジー・ストーンのようなベテラン、リオン・ウェアのような大御所まで、新旧の実力派シンガーの作品をリリースしている、現在では希少な黒人音楽中心のレーベル。彼の作品でも、同社のブランドと彼の実績を裏切らない、魅力的なソウル・ミュージックを聴かせてくれる。

今回のアルバムは、ニューヨーク出身のシンガー・ソングライター、ジョン・レヴンサルがプロデュースした作品。カントリー・ミュージック畑出身の彼は、プロデューサーやソングライターとして、これまでにもミッシェル・ブランチやシャウン・コルヴァンなどの楽曲を手掛けている、ルーツ・ミュージックに強いアーティスト。ベテランのソウル・シンガーが、ロックやカントリーのミュージシャンの力を借りて新作を録音するというパターンは、ブラック・キーズのダン・オーバックが手掛けたドクター・ジョンの2013年作『Locked Down』や、シー&ヒムのM.ワードが携わったメイヴィス・ステイプルズの2016年作『Livin' On A High Note』など、近年特に目立っているが、本作の場合は、ウィリアム・ベル自身が積極的にペンを執り、自身のカラーを存分に発揮した曲をベースに、ジョンがルーツ・ミュージックのDNAを吹き込んだ、60年代のソウル・ミュージックを現代風にアレンジした作品に仕上がっている。

アルバムの1曲目”The Three Of Me”は、ジョンの繊細なギター演奏と、ウィリアム・ベルの貫禄たっぷりな歌唱が魅力的なミディアム・バラード。オーティス・レディングのようにはじけ飛ぶようなエネルギーはないが、ベテランらしい緩急をつけた豊かな歌声が堪能できる名曲だ。

続く”The House Always Wins”は、ジョニーのセンスが光るカントリー色の強いアップ・ナンバー。ブッカー・Tを彷彿させるオルガンの演奏をアクセントにしつつ、ベルの渋い歌声を惜しみなく聴かせる、大人っぽい雰囲気の楽曲だ。

それ以外の曲では、69年に発表した”Born Under A Bad Sign”のリメイクが独特の存在感を示している。荒々しいエレキギターの伴奏をバックに歌う、カントリーとブルースの折衷案みたいなミディアム・ナンバー。これまでの曲ではあまり聞けなかった、ドスの効いた威圧感たっぷりのヴォーカルが格好良い。柔らかい歌声の曲が多い本作の中では、異彩を放っている曲だ。

そして、絶対に見逃せないのは、繊細なギターの演奏に乗せて丁寧な歌を聴かせる”All The Things You Can't Remember”だ。”I Forgot To Be Your Lover”のフレーズを引用したこの曲は、彼が活躍した時代を振り返りつつ、当時の音楽のイメージに縛られることなく、現代のトレンドや録音技術に合わせて、泥臭いヴォーカルとスタイリッシュなサウンドを一つの音楽に融合している。

彼自身がインタビューで述べているとおり、このアルバムは新しいことに挑戦したアルバムではない。むしろ、過去の蓄積を活かして、自分ができることをやり切った作品だと思う。だが、それはマンネリという意味ではなく、サザン・ソウルからディスコ音楽、シンセサイザーの普及にバンド・サウンドへの再評価と、色々な音楽が流行しては廃れていった40年間を振り返り、そこで経験したことをフィードバックした。彼の集大成という方が合っていると思う。

16枚目のアルバムで初のグラミー賞という結果も納得の内容。オーティスやヘイズのように、一つの流行を生み出すことはなかったが、細く長く活躍してきた50年以上の音楽生活で積み重ねてきた経験が熟成し、一つの作品の中に収束した。味わい深い作品だ。

Producer
John Leventhal

Track List
1. The Three Of Me
2. The House Always Wins
3. Poison In The Well
4. I Will Take Care Of You
5. Born Under A Bad Sign
6. All Your Stories
7. Walking On A Tightrope
8. This Is Where I Live
9. More Rooms
10. All The Things You Can't Remember
11. Mississippi-Arkansas Bridge
12. People Want To Go Home





This Is Where I Live
William Bell
Stax
2016-06-03

DJ Khaled – Shining feat. Beyonce & Jay Z [2017 Epic]

プロデューサーとしてファビュラスの”Gangsta”やファット・ジョーの”Get It for Life”、リック・ロス”I'm A G”などを手掛け、2006年以降は自身名義のアルバムを年に1枚のペースでリリースしている、フロリダ州マイアミ出身のDJでプロデューサーのDJキャレドことカリッド・カリッド。彼にとって通算10枚目となるスタジオ・アルバム『Grateful』からのリード・シングルが、この『Shining』だ。

グラミー賞の授賞式直前、2月12日にリリースされたこの曲は、ニッキー・ミナージュやクリス・ブラウンをフィーチャーした1つ前のシングル『Do You Mind』に引き続き、ヴォーカルが主役のR&Bナンバー。ゲスト・ヴォーカルにビヨンセとジェイZを起用し、ソングライターとしてアルバム『PARTYNEXTDOOR 3』やドレイクの”Come and See Me”がヒットした、カナダ出身のシンガー・ソングライター、パーティネクストドアが参加するなど、2016年のR&B,ヒップホップ・シーンを代表する豪華な面々が終結したパーティー・チューンになっている。

ビヨンセとジェイZが一緒に新曲を録音するのは、2013年の”Part II(On The Run)”(ジェイZのアルバム『Magna Carta... Holy Grail』に収録)と”Drunk In Love”(ビヨンセのアルバム『Beyonce』に収録)以来4年ぶり。ジェイZがキャレドの作品に参加するのは2016年の”I Got The Keys”以来だが、ビヨンセとパーティネクストドアにとっては、初のコラボーレーションとなる。

今回のシングルは、ディオンヌ・ワーウィックが70年に発表した”Walk The Way You Talk”をサンプリングしたソウルフルな楽曲。ヴォーカルやストリングスの繊細なタッチが魅力の原曲を、ファットなベース・ラインや思わず踊りだしたくなる高揚感たっぷりのビートで、現代的なR&Bに組み替えた、キャッチーでスタイリッシュな曲になっている。

歌とラップの比率は大体7:3程度で、ビヨンセの”Crazy In Love”に近い構成。だが、彼女が歌うのは、マーク・ロンソンがネイト・ドッグを起用した”Ooh Wee”、ファンクマスター・フレックスがフェイス・エヴァンスをフィーチャーした”Good Life”のような、流れるような洗練されたメロディで、どちらかといえば奇抜な楽曲が多かった彼女の近作をイメージしている人には、拍子抜けする内容かもしれない。また、電子楽器を多用することの多いキャレドの作品では珍しい、有名名曲を原曲がわかる形でサンプリングしたトラックも、過去の作品のような新曲を期待する人には、ちょっと違和感があるかもしれない。

だが、余計な情報を遮断してこの曲と向き合うと、その完成度に驚かされるのも事実だ。一つ一つの音が繊細なディオンヌ・ワーウィックの楽曲を、原曲の魅力を損ねることなく、しなやかなメロディとダンサブルなビートのR&Bナンバーに取り込む技術は恐るべきものだし、豊かな声量と表現力を兼ね備えたビヨンセの持ち味を生かしつつ、流麗なメロディを歌わせる作曲技術も極めて高いものだ。そして、終盤に絶妙なタイミングで入り込み、リスナーを盛り上げつつ、楽曲のアクセントとしても機能しているジェイZのラップも非常に刺激的だ。過去のシングル曲を考えると、この曲がアルバム全体の方向性を指し示しているとは考えにくいが、この曲に関わった面々が、今まで見せてこなかった隠れた魅力を引き出していると思う。

ファンクマスター・フレックスやDJケイスレイのような、コーディネーターとしての才能が魅力のキャリドの持ち味が発揮された面白い楽曲。ファンクマスター・フレックスの”Good Life”やケイスレイの”Not Your Average Joe”、トニー・タッチの”I Wonder Why(He’s The Greatest DJ)”に比類する、DJ発のR&Bクラシックになりそうだ。

Producer
Dj Khaled, Danja


PARTYNEXTDOOR - PARTYNEXTDOOR 3 [2016 OVO Sound, Warner]

2010年にドレイクがアルバム『Thank Me Later』でブレイクして以降、アメリカのヒップホップ、R&Bシーンで存在感を増し続けているカナダ出身のミュージシャン達。そのムーブメントを牽引する、ドレイクとノア・シャビブ率いるOVOサウンドの一員で、彼に次ぐ成功を期待されているのが、オンタリオ州ミシサガ出身のシンガーソングライター、パーティネクストドアことジャーロン・アンソニー・ブラスウェイトだ。

ジャマイカ系の母とトリニダード系の父の間に生まれた彼は、10代のころからシンセサイザーを使ってヒップホップやR&Bを作っていたらしい。その後、本名で発表した曲が音楽情報サイトで高い評価を受けた彼は、友人達と自身のウェブサイトを作成。同サイトで発表したミックス・テープが注目を集め、ワーナーと契約、OVOへの加入と至った。

OVOに加入した彼は、2013年にEP『PARTYNEXTDOOR』を、2014年にフル・アルバム『PartyNextDoor Two』を発表。この2作品では、ドゥー・ヒルの”Share My World”をサンプリングした”SLS”やリル・ジョン&イースト・サイド・ボーイズの”Who U Wit?”を引用した”Welcome to the Party”を収録するなど、ヒップホップのミックス・テープやダンスホール・レゲエを連想させる、既存のヒット曲から巧みに引用、アレンジしたフレーズを盛り込んだ、熱心な音楽ファンなら思わずニヤリとしてしまいそうな楽しい曲を聴かせてくれた。

前作から2年ぶりの新作となる、今回のアルバムでも、彼の音楽性に大きな変化はなく、色々な音楽のエッセンスを取り込みつつ、それに手を加え、自分の音楽として再編集した、新鮮だけど耳馴染みの良い音楽を聴かせている。

前作でも見せてくれた、巧みなサンプリング技術は、アルバムのオープニングを飾る”High Hopes”で既に発揮されている。スウェーデンの電子音楽家、ヴァルグの”Skaeliptom”を使ったこの曲は、陰鬱で繊細な電子音楽の特徴をうまく取り込んだ、音と音の隙間を活かしたダークなトラックが格好良い。その上に乗っかる、ドレイクのようなラップっぽい荒々しいヴォーカルが、突然ブラックストリートの”No Diggity”のフレーズを歌い出す演出も面白い。93年生まれの彼が96年のヒット曲を使って新しい音楽を作る姿に、時間の流れを感じずにはいられない。

それ以外にも、過去のヒット曲を引用した楽曲は複数収められており、T.O.K.が2001年に発表した”Eagles Cry”のトラックを再利用したレゲエ・ナンバー”Only U”や、アメリカのシンガー・ソングライター、デヴァンドラ・バンハートが2013年に公開した”Daniel”を使ったフォークソング風の楽曲”Joy”、ウェイルが2015年にリリースしたアルバム『The Album About Nothing』の収録曲”The Need to Know”のビートを、フィーチャーされたSZAのヴォーカルごと引用した”Nobody”など、色々なジャンルの新旧の名曲を使ったトラックが登場している。

だが、彼の一番の魅力は、多彩なトラックにキャッチーなメロディを乗せるソングライティングとヴォーカルの技術だろう。ドレイクをフィーチャー”Come and See Me”では、彼の作品を彷彿させるコンピュータを使ったチキチキと鳴るビートの上で、胸がキュンと締め付けられるような切ない歌を聴かせてくれるスロー・ナンバー。ラップっぽい歌唱のジャーロンと、メロディのついたドレイクのラップが、楽曲から重苦しい雰囲気を取り払い、切ない印象だけを残している。

また、本作からシングル・カットされた”Nobody”でも、トラックこそウェイルの曲を下敷きにしているが、そこから独特のメロディを紡ぎ出し、ドレイクとは異なるアプローチで、ヒップホップにもR&Bにも分類できない、彼独自の音楽を生み出している。

彼の音楽は、シンセサイザーを多用したシンプルなトラックや、ラップにも歌にも聴こえる明確なメロディを持ちながら音節数が異常に多いヴォーカルなど、ドレイクの影響を伺わせる要素が多いのは事実だと思う。だが、レゲエ作品やミックス・テープ文化からの影響を感じさせる、既存の曲からビートやメロディを引用して、自分の音楽に組み込むセンスや、ヴォーカルの表現の幅など、ドレイクにはない持ち味も数多く見受けられる。

本作には粗削りな部分もあるが、彼はまだ23歳。このアルバムが発表された後、リアーナの『Anti』やアッシャーの『Hard II Love』に起用されるなど、ポップ・スターの作品で着々と実績を積み上げながら、彼自身の音楽にも磨きをかけている。彼自身の将来性も含め、R&Bの今後を左右しそうな、とても面白い作品だ。

Producer
PARTYNEXTDOOR, Sevn Thomas, L8 Show etc

Track List
1. High Hopes
2. Don't Run
3. Nobody
4. Not Nice
5. Only U
6. Don't Know How
7. Problems & Selfless
8. Temptations
9. Spiteful
10. Joy
11. You've Been Missed
12. Transparency
13. Brown Skin
14. 1942
15. Come and See Me feat. Drake
16. Nothing Easy to Please





Partynextdoor 3
Partynextdoor
Warner Bros / Wea
2016-10-07

記事検索
タグ絞り込み検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

アクセスカウンター


    にほんブログ村 音楽ブログへ
    にほんブログ村
    にほんブログ村 音楽ブログ ブラックミュージックへ
    にほんブログ村

    音楽ランキングへ

    ソウル・R&Bランキングへ
    読者登録
    LINE読者登録QRコード
    メッセージ

    名前
    メール
    本文
    • ライブドアブログ