melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Gabriel Garzón-Montano – Jardin [2017 Stones Throw]

コロンビア人の父とフランス人の母の間に生まれ、幼いころからバッハの作品やクンビア、ファンクなど、色々な音楽を吸収してきた、ブルックリン出身のシンガー・ソングライター、ガブリエル・ガルゾン・モンターノ。ギターやドラムからバイオリンまで、色々な楽器の演奏技術を習得しながら、独学で作曲を始めた彼は、レニー・クラビッツなどの作品を手掛けたプロデューサー、ヘンリー・ヒルシュと出会ったところで大きな転機を迎える。

彼の協力のもと、2014年にリリースしたEP『Bishouné: Alma del Huila EP』は、楽曲制作だけでなく、ハンドクラップを含む演奏のほとんどを、自身の手で行ったという、DIY感満載の作品だった。だが、このアルバムは、ジャイルズ・ピーターソンなどのDJやミュージシャン達の間で注目を集め、フル・アルバムを出す前にもかかわらず、メイヤー・ホーソンやレニー・クラビッツなどのツアーでオープニング・アクトに起用されるきっかけになるほど、好評を博していた。

そんな前作から3年ぶりとなる、彼にとって初のフル・アルバム『Jardin』は、ロス・アンジェルスのインディー・レーベル、ストーンズ・スロウからのリリース。

ストーンズ・スロウといえば、マッドリヴのようなサンプリングを多用したクリエイターから、ジェイムズ・パンツのような電子音楽にシフトしたもの。そして、メイヤー・ホーソンのように70年代のソウルを独自の解釈で現代の音楽に落とし込んだものなど、一癖も二癖もある、個性豊かなアーティストが揃っているレーベル。その中で、彼がどんな音楽を生み出すのか、とても楽しみだった。

曲の感想を言う前に、結論だけ言ってしまうと。このアルバムは前作の前衛的な音楽性を継承しつつ、それを磨き上げた魅力的な作品だった。

まず、アルバムに先駆けて発表された、”Sour Mango”に耳を傾けると、こちらはどっしりとした重いビートの上で、耳に刺さるようなシンセサイザーのリフとハンドクラップの音が、楽曲に彩を添えているミディアム・ナンバー。ジェイムズ・パンツの作品にも通じる耳に刺さるような電子音の隙間で、線の細いしゃがれた声を上手に操って切々とうたい上げる姿が、なんとも切ない雰囲気を醸し出している良曲だ。

この曲につづく”Fruitflies”は、彼のクラシック音楽の素養が発揮された、鍵盤楽器の弾き語りをベースにしたバラード。もっとも、彼の音楽が単純な弾き語りのバラードなわけもなく、この曲では、鈴から電子音まで、色々な音を曲の随所に埋め込んで、ガブリエルがしっとりと歌うバラードに神秘的な空気を吹き込んでいる。

また、もう一つの先行リリース曲”The Game”は、90年代のヒップホップで使われていそうな、ポップだけど重みのあるバス・ドラムと、シンセサイザーの柔らかい伴奏を軸にした、音数の少ないシンプルなトラックの上で、ディアンジェロやジョージ・アン・マルドロウを連想させる、ラップと歌の中間のような、少し崩したメロディが乗っかるミディアム・ナンバー。ビートの作りはストーンズ・スロウ時代のアロー・ブラックの作品に似ているし、ヴォーカルはディアンジェロと似ているところが散見される。だが、この曲が彼らの音楽と決定的に異なるのは、彼の音楽が洗練されていることだ。耳を爽やかに抜けていくビートと、粗削りだがスマートな歌唱が、「ヒップホップとソウルの融合」という、多くのミュージシャンが取り組んだ題材に、新しい可能性を提示したと思う。

だが、本作の収録曲の中で、最も聴き逃せないのは"Crawl"だと思う。デビュー当時のジョン・レジェンドが好きな人にはたまらない、太く温かい音を使ったビートに乗せて、少し荒々しい歌声で、丁寧にメロディを歌い込む、ミディアム・ナンバー。細い声を振り絞って出す、ファルセットを効果的に使ったこの曲は、彼の作品の中では珍しく、前衛的な音楽の要素が非常に少ないものだ。

このアルバムは、前作で見せた先鋭的な側面を丁寧に磨き上げることで、斬新さと作品としての完成度を両立した良作だと思う。しかし、それ以上に面白いのは、前衛音楽にあるような、奇抜さや難解さを抑え込み、R&Bの枠組みに収めつつ、その枠組みを拡張したところだと思う。使う音色は、ジェイムズ・パンツやジョンティなどの電子音楽に近いものだし、ビートの中には、ジェイ・ディラやマッドリヴのような癖のあるものも少なくない。しかし、それだけにとどまらず、これらの音を使いつつ、ソウル・ミュージックとしても違和感なく聴けるメロディを組み込むことで、斬新さと保守的な側面の両方が混ざり合った楽曲に落とし込まれている。このセンスの良さは、クラシックから民族音楽まで、色々な音楽に慣れ親しんできた彼の視野の広さのおかげじゃないかと思う。

ここ10年、R&B業界の一大潮流になりつつある、異分野の音楽を取り込んだいわゆるオルタナティブR&B。この手法は、成功すればR&Bの新たな魅力を引き出すことができるが、援用する要素の選別、編集に失敗して、「R&Bっぽい何か」になってしまう作品も少なくなかった。その点、本作は、電子音楽を中心に、ファンク、クラシックなど要素を取り入れながら、R&Bの枠組みを拡張することに成功した、先鋭的だが、保守的なファンにも納得させることができそうなアルバムだ。アンダーソン・パックに続く、西海岸発の名作と呼ばれる日は来るのか、今から期待してしまう傑作だ。

Track List
1. Trial
2. Sour Mango
3. Fruitflies
4. The Game
5. Long Ears
6. Crawl
7. Bombo Fabrika
8. Cantiga
9. My Balloon
10. Lullaby




Jardin
Gabriel Garzon-Montano
Stones Throw
2017-01-27


BJ the Chicago Kid – In My Mind [2016 Motown]

19歳の時にミュージシャンを目指してロス・アンジェルスに移住。その後は、スティーヴィー・ワンダーやメアリーJ.ブライジ、ドクター・ドレやチャンス・ザ・ラッパーなどの作品に参加しながら、3枚のミックス・テープと1枚のEPをリリース。新しい音に敏感なリスナーや、次世代のヒット・メイカーを探すミュージシャンの間で注目を集め、2012年にモータウンと契約した、シカゴ出身のシンガー・ソングライター、BJザ・シカゴ・キッドことブライアン・ジェイムズ・カレッジ。レーベルとの契約から4年、2014年に発表したミックス・テープ『The M.A.F.E. Project』から2年ぶりとなる新作で、彼にとって初のオリジナル・アルバムとなるのが、この『In My Mind』だ。

メジャー・デビューの前に発表したミックス・テープでは、昔の曲からサンプリングしたフレーズを効果的に使った、ヒップホップ色の強い曲を披露する一方、裏方としては、多くの人に受け入れられる作品が求められる有名ミュージシャンの曲に携わるなど、求められる音楽が異なるメジャーとアンダーグラウンドの両方のシーンを経験している彼。この作品では、その時の経験を活かした、先鋭的なのに大衆的なR&Bを聴かせてくれる。

まず、収録曲の中で特に気になるのは、同じシカゴ出身のチャンス・ザ・ラッパーをフィーチャーした”Church”だ。50セントやルーペ・フィアスコなどを手掛けてきた、フューチャリスティックス改めマイク&キーズがプロデュースしたこの曲は、 コンピューターを使って作った隙間の多いビートの上で、切々と歌い上げるミディアム・ナンバー。チャンス・ザ・ラッパーの曲にも通じる前衛的なトラックを使いながら、耳障りの良いメロディを埋め込むセンスはなかなかのものだ。

また、ミシシッピ州メリディアン出身のラッパー、ビッグ・クリットがゲストで参加した”The Resume”は、ドクター・ストレンジの名義の活動でも知られている、アイルランドのダブリン出身のプロデューサー、ショーン・クーパーが手掛けるバラード。トークボックスを使ったバック・コーラスとフィンガー・スナップを軸にしたトラックは、ドゥー・ワップとザップの音楽が混ざり合ったような、懐かしさと斬新さが入り混じった不思議なもの。その個性的なトラックの上で、落ち着いた雰囲気のバリトン・ヴォイスをじっくりと聴かせる姿は、聴けば聴くほど好きになる不思議な魅力を備えている。

この他にも、ウィークエンドやドレイクにも通じる、シンセサイザーの音色を駆使したモダンなトラックをバックに、ジェイミー・フォックスを彷彿させるセクシーなヴォーカルを披露する”Love Inside”や、ピアノっぽい音色のキーボードをバックに、ファルセットを多用した丁寧で色っぽい歌唱が光る”Shine”。ジーン・ナイトの”Mr. Big Staff”のフレーズと、90年代のヒップホップを思い起こさせるローファイなドラムを組み合わせたビートの上で、ディアンジェロを爽やかにしたようなヒップホップ色豊かなソウル・ミュージックを聴かせる”Turnin' Me Up”など、90年代のR&Bを連想させる曲から、近年のトレンドを押さえた曲まで、ファンの琴線を巧みに刺激するバラエティ豊かな楽曲が揃っている。

だが、なんといっても、この作品のハイライトは、ケンドリック・ラマーが参加した”The New Cupid”だろう。ラファエル・サディークの”Oh Girl”をサンプリングしたロマンティックな雰囲気のトラックの上で、ほかの曲では見られない、甘い歌声を響かせるミディアム・バラード。ケンドリック・ラマーも普段より柔らかい口調のラップを披露して、スウィートな楽曲に彩を添えている。自分だけかもしれないが、シカゴ出身のヴォーカル・グループ、シャイ・ライツの”Oh Girl”(ラファエル・サディークのものとは同名異曲)に通じる、優しい雰囲気が印象的だ。

このアルバムの面白いところは、90年代以降のヒット・チャートを賑わせた、色々なR&Bシンガーのスタイルを取り入れつつ、インターネットの普及で多くの人の耳に届くようになった、アンダーグラウンドのヒップホップやR&Bのエッセンスを随所に取り入れているところだろう。斬新なビートを耳馴染みのあるメロディと絡めたり、懐かしさを感じるトラックの上で、近年流行しているラップ風の歌唱を披露したりと、様々なタイプのR&Bの要素を組み合わせて、新鮮さと聴きやすさを両立しているところが面白い。おそらく、裏方仕事とアンダーグラウンド・シーンでの活動を両立していたことが、彼の音楽に絶妙なバランス感覚を与えたのだと思う。

スモーキー・ロビンソンやスティーヴィー・ワンダーにはじまり、リック・ジェイムスやエリカ・バドゥ、ベン・ロンクル・ソウルなど、大衆に受け入れられる名作を残しながら独創性を発揮してきたモータウンのミュージシャン達。彼らが作り上げてきたレーベルのカラーを、10年代のトレンドを踏まえつつ継承したのがBJザ・シカゴ・キッドだと思う。昔のモータウン・サウンドとは明らかに異なるが、往年のミュージシャンのように、新しいサウンドと商業的な成果を両立した、モータウンの歴史を継承する次世代のヒットメイカーの更なる飛躍に期待したい。

Producer
Ethiopia Habtemariam etc

Track List
1. Intro (Inside My Mind)
2. Man Down
3. Church
4. Love Inside
5. The Resume
6. Shine
7. Wait Til The Morning
8. Heart Crush
9. Jeremiah/World Needs More Love
10. The New Cupid
11. Woman's World
12. Crazy
13. Home
14. Falling On My Face
15. Turnin' Me Up




In My Mind
Bj the Chicago Kid
Motown
2016-02-19




Anderson .Paak – Malib [2016 OBE, EMPIRE]

サーラ(旧名:サーラ・クリエイティブ・パートナーズ)の後ろ盾で音楽業界に入り、自身の作品を録音しながら、トキモンスタやMED&マッドリヴといった、西海岸出身の人気アーティストの作品に数多く参加してきた、カリフォルニア州ヴェンチュラ出身のシンガー・ソングライター、アンダーソン・パック。彼にとって、2014年の『Venice』以来となる2枚目のフル・アルバムがこの『Malib』だ。

前作が発売されてからの2年間は、彼にとって大きな飛躍の時期だった。一つ目のきっかけは、2015年にドクター・ドレの16年ぶりのオリジナル・アルバム『 Compton』にソングライター兼ヴォーカリストとして参加したこと。若手のシンガーとしては異例の16曲中9曲に関わる大抜擢で、20歳以上も年の離れた西海岸を代表する大物プロデューサーの作品に、若い感性を注ぎ込んだことで話題になった。また、このことは彼の知名度を一気に高めただけでなく、その後のメジャー・レーベルでの仕事や、有名プロデューサーとの共作のきっかけになったことも見逃せない。もう一つのきっかけは、同じ年にフィラデルフィア出身のDJ兼プロデューサーのノウレッジと結成したユニット、ノーウォーリーズの名義でEP『Link Up & Suede』を発表したこと。これまで、セルフ・プロデュースの楽曲や電子音楽が得意なミュージシャンと組むことが多かった彼が、レコードからサンプリングしたフレーズを多用した、東海岸風のヒップホップのトラックを乗りこなした同作は、新しい音が好きな人々だけでなく、90年代のようなスタイルのヒップホップを好む層にもに彼の存在を知らしめた。

今回のアルバムは、DJノーバディやトキモンスタなどの西海岸のアンダーグラウンド・シーンを拠点に活躍するミュージシャンと制作した前作から一転、9thワンダーやDJカリルなどの人気ミュージシャンをプロデュースしているトラック・メーカーが集結し、ザ・ゲームやタリブ・クウェリなどの売れっ子ミュージシャンが客演するなど、大物ミュージシャン顔負けの豪華な布陣で録音している。

アルバムからの先行リリースである”The Season | Carry Me”は、9thワンダーがプロデュースしたミディアム・ナンバー。冨田勲の”Peer Gynt: Solvejg's Song”やクラウンズ・オブ・グローリーの”Ain't No Sunshine”などをサンプリングしたトラックの上で、しゃがれ声を張り上げる泥臭い楽曲。9thワンダーが関わった曲の中では珍しい、音数を絞って、音と音の隙間を意識させる、シンプルだが味わい深いトラックが強く印象に残る。

この他には、マッドリヴが手掛ける、サーラっぽい抽象的なトラックの上で、モータウンに所属するシカゴ出身のシンガー・ソングライターBJザ・シカゴ・キッドとのデュエットを聴かせるミディアム “The Waters”も面白い。爽やかな歌声のBJと、渋い声のパックという好対照な二人が、マッドリヴの手掛ける前衛的なビートの上で一つに纏まる光景は見逃せない。

それ以外の曲では、ケンドリック・ラマーなどの作品を手掛けている、ライクことガブリエル・スティーブンソンがプロデュースを担当、ザ・ゲームがラップで参加した”Room In Here”や、ハイ・テックがプロデュースした”Come Down”などが存在感を発揮している。前者は、メロウなピアノのフレーズとソンヤ・エリスのみずみずしい歌声を効果的に使った、切ない雰囲気のトラックの上で、むせび泣くような物悲しい歌を聴かせるミディアム・ナンバー。淡々と言葉を放つザ・ゲームのラップが感傷的な楽曲を適度に引き締めている点は面白い。また、後者はモス・デフの”Oh No”を彷彿させる生楽器の音色を活かしたジャズっぽいトラックの上で、ほとんどラップと過言ではない、荒っぽいメロディを聴かせるファンキーな楽曲。パック自身はカリフォルニアの出身だが、古いレコードをサンプリングしたニューヨークのヒップホップとも相性がよいことに気づかせてくれる。後にア・トライヴ・コールド・クエストの作品に招聘されることを予見したような1曲だ。

個人的な感想を言うと、このアルバムではR&Bの世界に流れる二つの潮流が上手く混ざり合っているように映った。一つの流れは、ディアンジェロやエリカ・バドゥのような、トラックなどにヒップホップの要素を盛り込みつつ、曲全体で昔のソウル・ミュージックの面影も感じさせるミュージシャン達。もう一つは、フランク・オーシャンやソランジュのような、R&B以外の色々な音楽の要素を取り入れて、ポピュラー・ミュージックとしての新鮮さも両立するミュージシャン達だ。9thワンダーやハイ・テックが作る泥臭いビートは前者の要素が強く反映されたものだし、淡白な歌声のソンヤ・エリスを起用した曲やマッドリヴ作のリズム・マシンを使った抽象性が高いビートは後者の作風だ。しかし、いずれの曲も片方に寄ったものではなく、前者の曲ではパックの声の細さを、後者の曲では彼のしゃがれた声を強調して、耳障りのよさとドロドロとした雰囲気をきちんと両立している。

フランク・オーシャンの登場以降、色々なジャンルのミュージシャンと組んで斬新な曲を生み出すことが、R&Bの世界ではある種の流行になっている。だが、このアルバムは、その流行に逆らうかのように、ヒップホップのプロデューサーを起用しながら、他のミュージシャンにも負けない新鮮な楽曲を作り上げている。鋭敏な感性で、実績豊かなクリエイターの隠れた一面を巧みに引き出した才能は今後も目が離せない。人工知能や機械学習など、コンピューターの可能性が各所で言及された2016年に、人間同士の共同作業が持つ可能性を再認識させてくれた傑作だと思う。

Producer
Adrian L. Miller, Ketrina "Taz" Askew, Kevin Morrow

Track List
1. The Bird
2. Heart Don't Stand A Chance
3. The Waters feat. BJ The Chicago Kid
4. The Season | Carry Me
5. Put Me Thru
6. Am I Wrong feat. ScHoolBoy Q
7. Without You feat. Rapsody
8. Parking Lot
9. Lite Weight feat. The Free Nationals United Fellowship Choir
10. Room In Here feat. The Game & Sonyae Elise
11. Water Fall interluuube
12. Your Prime
13. Come Down
14. Silicon Valley
15. Celebrate
16. The Dreamer feat. Talib Kweli & Timan Family Choir




Malibu
Anderson Paak
Imports
2016-01-22

 
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