melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Dam-Funk - Architechture EP [2017 Glydezone Recordings]

2009年にストーンズ・スロウからリリースしたインストゥメンタル作品集『Rhythm Trax Vol. IV』が、新しい音に敏感な人々の間で注目を集め、翌年に発売されたヴォーカル曲を含むCD2枚組(アナログ盤は5枚組!!)のアルバム『Toeachizown』で一気にブレイクした、カリフォルニア州パサデナ出身のミュージシャン、ディム・ファンク。彼が2016年にスペインのレーベル、SAFTからリリースしたシングルのアメリカ盤が、自身のレーベル、グライドゾーンから発売された。

彼の音楽は、スレイヴやリック・ジェイムスのような、強靭なベースの音色を効果的に使ったファンク・ミュージック、通称ディスコ・ブギーと呼ばれるスタイルに、ヒップホップ・レーベル出身らしい様々な音色を織り交ぜたもので、80年代の音が好きなソウル・マニアと、比較的若いヒップホップ世代の両方から高く評価されてきた。

今回のEPは、最初のリリース元がハウス・ミュージックのレーベルということもあり、全曲がシンセサイザーやリズム・マシンを使ったインストゥメンタル。だが、デビュー当初から歌のない曲をコンスタントに発表してきた彼なので、本作でも、過去の歌もの楽曲と同じ感覚で楽しめる、ファンキーなダンス・ミュージックを聴かせてくれる。

1曲目の”Break Out”は、四つ打ちのドラムを軸にしたハウス・ナンバー。ラリー・レバンやデリック・メイの例を挙げるまでもなく、ファンクやソウルとテクノやハウスの距離は決して遠くない。けど、ファンク・ミュージシャンのディム・ファンクがここまでハウスに寄った音を作るとは、正直予想していなかった。ただし、曲をじっくりと聞いてみると、ストリングスのように使われるシンセサイザーのハーモニーこそ、ディープ・ハウスの手法だけど、それ以外は、曲の随所で用いられる極端な設定のエフェクターや、ごつごつとした電子音の塊を混ぜ込んだビートなど、ファンクが好きなヒップホップ畑の人間らしい、個性的な音を盛り込んだ毒っ気のある音色が印象的。

続く”Hazy Stomp”は、1曲目とは大きく変わって、ファンク・ミュージックの要素が強く反映された、マイルドで聴きやすいダンス・ナンバー。ファンク・ミュージックの世界では当たり前のように使われる複雑ベース・ラインに、ファンク以外にもヒップホップやハウスで多用されている、往年のリズム・マシンの音色を使ったパーカッションでファンキーなグルーヴを生み出しながら、比較的新しい時代のシンセサイザーを使ったメインのメロディで、しっかりと現代のダンスミュージックに落とし込んだ楽曲。本作では一番、ファンク寄りの楽曲かも。

3曲目の”Your House”は、本作では最もハウス・ミュージックに寄った曲。ベースなどの音色は、他の曲で使われる楽器の音色よりも新しく、パーカッションなどの打楽器も控えめ。また、メインのフレーズもシンセサイザーを手弾きしたものと、彼の作品の中では最もハウス・ミュージックの基本に忠実な作品かもしれない。だが、単なるハウス・ミュージックのトレースに終わらないのが、彼の面白いところ。曲の後半では、リズム・マシンが故障したかのような、不規則なリズムを鳴らしはじめ、エフェクターの強弱も急に変わるなど、悪戯心たっぷりの演出で、古典的なハウス・ミュージックを期待する人をきちんと裏切っている。

正直に言うと、本作をディム・ファンクや彼の音楽が好きな人にお勧めすべきか?と聞かれたら、自分は「Yes」と即答できる自信がない。自分が彼の音楽を好きになったのは、一昔前に使われた古い楽器や、ノイズ交じりの録音機材で作られたチープな出音を、アレンジの妙味で現代の人間の鑑賞にも耐えうるソウル作品に纏め上げていたからだ。もちろん、その後の環境の変化もあって、彼の作品は、1作ごとに雰囲気はガラリと変わることも珍しくなくなったし、新しいスタイルの作品も楽しめた。だが、今回のEPのような、クリアな音質で洗練されたトラックを聴かせるスタイルは、仮に彼の個性が盛り込まれていても、「なんか違う」と思ってしまうのだ。

誤解を与えないように言っておくけど、僕はこの作品を愛聴している。単純な展開の曲が多い、テクノ、ハウスでは珍しい毒っ気のある展開や、EDMでは味わえないファンキーなグルーヴは、ファンクの世界に育てられ、ヒップホップの世界でのし上がったディム・ファンクの真骨頂だと思うし、それを四つ打ちの世界で発揮したことは、ただ感嘆するばかりだ。でも、彼に求められている音楽はこれじゃないよなあ、そう思ってしまうのも正直なところだ。

Producer
Dam-Funk

1. Break Out
2. Hazy Stomp
3. Your House




Glydezone Recordings
2017-01-17

Eric Benét – Eric Benét [2016 Jordan House, BMG]

1996年にアルバム『True To Myself』でデビュー。その後は、”You're the Only One”やタミアをゲストに招いた”Spend My Life with You”などのヒット曲と、『A Day in the Life』や『Love & Life』などの優れたアルバムを残してきた、ミルウォーキー出身のシンガー・ソングライター、エリック・ベネイ。彼にとって、スタジオ・アルバムとしては2014年の『From E To U : Volume 1』以来2年ぶり9枚目、アメリカ国内で配給されたアルバムとしては2012年の『The One』以来4年ぶり7枚目となるオリジナル・アルバム『Eric Benét』が、自身のレーベル、ジョーダン・ハウスから発売された。

古いレコードからサンプリングしたフレーズや、シンセサイザーの音色を多用した、ヒップホップ寄りのR&Bが流行していた90年代中期。そんな時代に、彼は、生演奏による伴奏と、スマートで色っぽいハイ・テナー組み合わせたスタイルを携えて音楽シーンに登場。年季の入ったソウル・ファンから若い音楽ファンまで、幅広い層から支持を得てきた。

それから約20年、今や、生演奏を使ったR&Bは、ブルーノ・マーズからアデルまで、色々なミュージシャンのアルバムで聴かれるようになったし、ファレル・ウィリアムズのように、スマートなファルセットやハイ・テナーをトレード・マークにする歌手も増えてきた。だが、どれほど時代が変わっても、彼の音楽が多くの人から愛され続けているのは、流麗で親しみやすいメロディと、ハイトーンだが柔らかい歌という、確固たる個性が確立されていいるからだろう。

さて、本作の収録曲はというと、まず、アルバムのオープニングを飾る”Can't Tell U Enough”は、華やかなホーンで70年代のソウル・ミュージックっぽい豪華な雰囲気を演出したトラックに、滑らかなファルセットが乗っかった、2000年以降のプリンスっぽいファンク・ナンバー。ヒップホップの影響を感じさせる重めのビートを取り入れつつ、過去の作品でも数多く収録されている、少しゆったりとしたテンポのアップ・ナンバーを1曲目に持ってきたところが、作風がブレないことで定評のある彼らしくて格好良い。

続く、”Sunshine”は、艶めかしいギターの音色を軸にしたシンプルな伴奏の上で、繊細な歌声をじっくりと聴かせるスロー・ナンバー。ベイビーフェイスの『Playlist』に収録されていても不思議ではない、美しいメロディとみずみずしいテナーが堪能できる本作の目玉だ。一方、日本盤CDと配信バージョンのみに収められている同曲のリミックス・ヴァージョンは、”Spend My Life with You”で共演したタミアをフィーチャーしたデュエット。ギターの伴奏をキーボードに差し替えるなど、90年代の録音を彷彿させるモダンで洗練されたトラックをバックに、二人が交互に歌うロマンティックな曲だ。オリジナル・ヴァージョンでは、他の曲ではあまり見せないワイルドな歌声を響かせるエリックと、円熟した大人の色気を漂わせるタミアの歌が絡みあう 、本作一番の聴きどころだ。

それ以外の曲では、パンチの聴いたドラムとや力強いギターなど、一つ一つの楽器の音色がはっきりした演奏の上で、力強い歌唱をじっくりと聴かせるスロー・ナンバー”Insane”や、マーク・ロンソンの”Uptown Funk”などのヒットで盛り上がっている四つ打ちのビートと、ホーン・セクションやギター、キーボードなどの音色を重ね合わせたモダンな演奏をバックに、クール&ザ・ギャングっぽい軽快なメロディを聴かせる”Cold Trigger”。日本人の耳にはどうしても山下達郎の”Sparkle”っぽく聞こえてしまう、爽やかなエレキ・ギターのリフを取り入れたラフな雰囲気のトラックと、MCライトのワイルドなラップが、エリックの洗練されたヴォーカルを引き立てる”Holdin' On”や、ディジー・ガレスピーとも競演している、キューバ出身のジャズ・トランペット奏者、アルトゥーロ・サンドヴァルが切れ味鋭い演奏を披露するサルサ・ナンバー”Run To Me”(曲の所々で挟みこまれる、異様にセクシーな声の持ち主は誰なんだろう?)など、いずれも魅力的で捨てがたい、ハイレベルな曲が並んでいる。

実は、この文章を書く前に、過去の作品も一通り聴きなおしてみた。そして、彼が発表した楽曲を聴き続ける中で強く感じたことは、エリックが自分のスタイルを貫きながらも、時代の変化に合わせて、核以外の部分を微妙に調整しているということだった。流麗なメロディを、繊細でしなやかなハイ・テナーを使って丁寧に歌い上げるというスタイルは、デビュー当時から変わっていないが、アレンジや音の仕上がりは、時代によってかなり変わっている。本作でいえば、”Can't Tell U Enough”などのビートは、90年代の曲のそれと比べると音の輪郭がはっきりしているし、ディスコ音楽の流行を意識したと思われる”Cold Trigger”や、ヒスパニックの割合が多くなった現代のアメリカらしい、サルサを取り入れた楽曲”Run To Me”のように、特定のジャンルから強い影響を受けた楽曲が増えている。このように、彼は時代の変化を意識し、90年代の音楽のリメイクにならないよう、自身の音楽を更新しているように思えた。

自分の持ち味を大切にしつつ、時代の変化にもきちんと適応する、彼の良さが発揮された佳作。多くのベテラン・ミュージシャンが、自身の代表作が生み出すイメージに縛られて、時代に合わせた作風への転換に苦戦する中、それをいとも簡単に成し遂げたスキルは、もっと注目されてもいいと思う。

Producer
Eric Benét

Track List
1. Can't Tell U Enough
2. Sunshine
3. Insane
4. Cold Trigger
5. Home
6. Holdin' On feat. MC Lyte
7. Fun & Games
8. Run To Me feat. Arturo Sandoval
9. Floating Thru Time
10. Broke, Beat & Busted
11. That Day
12. Never Be The Same (Luna's Lullaby)
13. Sunshine Remix feat. Tamia





Eric Benet
Eric Benet
Primary Wave
2016-10-07

Tuxedo - Fux with the Tux EP [2017 Stones Throw]

ミシガン州アナーバー出身のシンガー・ソングライター兼DJのメイヤー・ホーソンと、シアトル出身のDJ兼プロデューサーのジェイク・ワンによる音楽ユニット、タキシード。ユニット名義での録音としては、2015年のデビュー・アルバム『Tuxedo』から約1年半、メイヤー・ホーソンにとっては、2016年の『Man About Town』から約半年ぶりの新作となる3曲入りのEPが、前作に引き続きロス・アンジェルスのインディー・レーベル、ストーンズ・スロウから発売された。

彼らの音楽性を一言で表せば、21世紀版ディスコ・ミュージック。彼ら自身が、シックやシャラマー、ザップといった70年代後半から80年代にかけて活躍したソウル・グループのような音楽を目指していると述べているように、アナログ・シンセサイザーやリズム・マシンを多用した尖っているけど温かみのあるサウンドと、メイヤーの甘い歌声が融合した、モダンでポップなダンス・ミュージックが特徴だ。しかし、彼らの音楽は単純に往年のソウル・ミュージックをトレースしたものではなく、打ち込み音楽で生バンドが演奏したようなアレンジを再現したダンス・ナンバーを作ったり、近年のR&Bでしばし採用される三連符を使ったバラードを録音したりするなど、色々な音楽の要素を組み合わせて、先達のスタイルを踏襲しながら、彼らとは違う独自性も発揮していた。

さて、今回のEPでは2曲のダンス・ナンバーと1曲のミディアム・バラードを収録している。まず、タイトル・トラックでもある”Fux with the Tux”は、四つ打ちのビートとビヨビヨとしたアナログ・シンセサイザーのリフをアクセントに使った、前作の路線の延長線上にあるダンス・ナンバー。キュートな女性コーラスや中盤で挟まれるMCが80年代のディスコ音楽っぽい。当時の音楽が好きな人なら思わずニヤリとしてしまう曲だ。ヴォーカルのメイヤーも、この曲では冒頭以外、少し抑えるように歌っていて、クールで洗練された80年代初頭のソウル・ミュージックの雰囲気を忠実に再現している。

一方、もう一つのダンス・ナンバーである”Special”は、エムトゥーメイを彷彿させるゴム毬のようなリズムマシンの音色と、ローファイな音のシンセサイザーを活用したムーディーなサウンドに、シャラマーを思い起こさせる地味だがリズミカルなギターなどが加わった彩り豊かな楽曲。こちらの曲では、メイヤーが甘い歌声で軽やかに歌う姿が担当できる。少しファンク寄りのキャッチーなソウルだ。

そして、本作唯一のバラード”July”は、アイズリー・ブラザーズリズム・マシンで生演奏っぽい複雑なリズムを刻みながら、ホーン・セクションやシンセサイザーを加えて、ソウル・バンドっぽく仕立てた伴奏の上で、色っぽい歌声を響かせるミディアム・バラード。ブルーノ・マーズの『24K』などでも見られた路線の曲だが、こちらの方がより当時の音楽に近い雰囲気に仕上がっている。

作品を通して聞くと、本作も前作同様、ディスコ・ミュージックを軸に色々な音楽の要素を組み合わせたモダンなソウル・ミュージックが並んでいる。だが、今回のEPの収録曲では、前作に比べ80年代のソウル・ミュージックの影響がより明確になったように見える。”Fux with the Tux”のパワフルな歌唱としなやかな伴奏の組み合わせはPlushの音楽によく似ているし、”Special”で聴ける柔らかいヴォーカルと流れるようなメロディ、ギターを味付けに使った演奏は男性ヴォーカル版シャラマーといった趣だ。また、じっくりと歌い込むヴォーカルをシンセサイザーやリズム・マシンを使った近未来的な雰囲気のトラックで、ポップでマイルドなバラードに仕立て直した”July”は80年代初頭のアイズリー・ブラザーズの手法を連想させる。

もちろん、本作の収録曲には、それ以外のアーティストの要素も盛り込まれている。だが、全体を通した印象は、前作以上に70年代、80年代のソウル・ミュージックの影響をストレートに体現しているように映った。2013年にダフト・パンクが発表した”Get Lucky”や、2014年にマーク・ロンソンがリリースした”Uptown Funk”のように、それ以前から80年代のダンス・ミュージックにインスパイアされた楽曲がヒットしていたが、その後もドレイクやブルーノ・マースの作品で80年代の音楽が引用されるなど、当時の音が一過性の流行を越えて、定着してきたことも大きいのかもしれない。

マイナーな作品がDJの間で評価されていたものの、メジャーの音楽シーンでは長い間、過小評価されてきた80年代のソウル・ミュージック。その魅力を丁寧に抽出し、現代の音楽として再編したセンスは見逃せない。”Get Lucky”や”Uptown Funk”が好きな人にこそ聞いてほしい、本格的な80年代スタイルの作品だ。

Producer
Tuxedo

Track List
1. Fux with the Tux
2. Special
3. July






 
記事検索
タグ絞り込み検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

アクセスカウンター


    にほんブログ村 音楽ブログへ
    にほんブログ村
    にほんブログ村 音楽ブログ ブラックミュージックへ
    にほんブログ村

    音楽ランキングへ

    ソウル・R&Bランキングへ
    読者登録
    LINE読者登録QRコード
    メッセージ

    名前
    メール
    本文
    • ライブドアブログ