melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Blood Orange - Freetown Sound [2016 Domino]

2007年にライトスピード・チャンピオン名義で発表したシングル『Galaxy Of The Lost』でソロ・デビュー。その後、複数の名義で6枚のアルバムを発表している、ロンドン出身のシンガー・ソングライター、デヴ・ハインズ。彼にとって、ブラッド・オレンジ名義の録音としては、2014年に発表されたアメリカ映画『パロ・アルト』のサウンドトラック以来、オリジナル・アルバムとしては2013年の『Cupid Deluxe』以来となる新作が、イギリスのインディペンデント・レーベル、ドミノから発表された。

パンク・ロックやソウル・ミュージック、エレクトロ・ミュージックを飲み込んだ独特の音楽は、以前から熱心な音楽ファンの間で注目を集めてきた。それと同時に、彼の先鋭的な作風はミュージシャンからも高く評価されており、ベースメントジャックスやケミカル・ブラザーズ、カイリー・ミノーグなどは、自身の作品に彼を起用するようになっていた。

そんな彼にとって、大きな転機となったのは、2012年に発売されたソランジュのEP『True』をプロデュースしたことだろう。2008年のアルバム『Sol-Angel and the Hadley St. Dreams』で、モータウン・サウンドやロックを取り入れた楽曲を披露し、姉ビヨンセとは異なる独自のスタイルを確立した彼女にとって、色々なスタイルの音楽を取り込んだ彼の音楽性は、自分が求めるジャンルレスなスタイルを体現したものだったのだと思う。

そして、同作の成功で名を上げた彼は、2013年に『Cupid Deluxe』を発表。このアルバムは、ピッチフォークやステレオガムなどのメディアで絶賛されると同時に、彼のソロ・アルバムでは初めてビルボード・チャートに入るなど、大躍進を象徴するものになった。

その前作から3年ぶりとなる『Freetown Sound』は、前作の路線を踏襲しながら、雑駁な趣味と緻密な構成に磨きをかけた傑作。

アルバムが発売される前年にステージで披露された”Hadron Collider”は、ネリー・ファータードをフィーチャーした、神秘的なスロー・ナンバー。鼻声のような癖のある歌声が魅力のネリーから、アメール・ラリューのように透き通ったヴォーカルを引き出した、彼の慧眼を裏付ける1曲だ。

このほかにも、80年代のロック・バンドが演奏しそうなシンセ・ドラムによる8ビートを使いつつ、音響技術を駆使して幻想的な雰囲気に仕立てたギターやキーボードを組み合わせた伴奏と、飄々と歌うデヴのヴォーカルが不思議な空気を放つアップ・ナンバー”Augustine”や、ガラス細工のように繊細で無機質な声が素敵な、ロスアンジェルス出身の女性R&Bシンガー、エンプレス・オブがDAFを彷彿させる電子楽器を多用したロック風のトラックの上で、淡々と歌い上げるアップ・ナンバー”Best to You”など、色々なスタイルを取り込みつつ、曲の方向性に合わせて、必要な要素だけを組み合わせた。複雑だが親しみやすい曲が並んでいる。

彼の作品を聴いていて常々感じるのは、彼の視野の広さと、吸収した音楽を引用、編集するセンスの良さだ。

このアルバムに限って言えば、電子ドラムなどの楽器の音色は、ドナルド・フェイガンやA-haのような80年代に流行したシンセサイザーを多用したロック・ミュージシャンにそっくりだし、リバーブの使い方はビヨークやレディオヘッドの影響が見え隠れする。また、ファルセットを多用した、しなやかなヴォーカルはマックスウェルやロビン・シックに似ていると言ってもいいかもしれない。

だが、彼はどれだけ多くの音楽を引用しても、誰かのフォロワーになることなく、独自のスタイルを確立している。それは、彼が単なる引用ではなく、楽曲に必要な要素だけを抜き出し、自分のセンスで解釈し、組み込んでいるからだと思う。

例えば、”Augustine”のビートは80年代に流行した、電子ドラム風の音色を使っている。一方、ギターなどの伴奏はエフェクターを駆使したレディオヘッドやゴリラズのスタイルを踏襲したものだ。また、その上に乗っかるヴォーカルは、70年代のソウル・シンガーっぽい洗練されたものと、時代もジャンルも異なる色々な音楽の要素を引用している。

このように、彼の音楽はゼロから創造したのではなく、過去の音楽を吸収しつつ、巧みに抜き差しすることで、自分独自の音楽に編集したものだと思うし、その選択、編集能力が彼の最大の武器なのだと思う。

それは、サンプリングでも顕著で、ジャズ・ベーシスト、チャールズ・ミンガスがピアノを演奏した”Myself When I Am Real”を編集し、自分の演奏と組み合わせて仮想デュエットに仕立てた”By Ourselves”のほか、1990年のドキュメンタリー映画『Paris Is Burning』のセリフや効果音を組み合わせてドラマ風の楽曲に仕立てた”Desiree”、デ・ラ・ソウルの”Stakes Is High”からホーンのフレーズを抜き取って、テンポを落とした上でロマンティックなバラードに組み込んだ“Thank You”のように、有名な音楽や映画から抜き出した音を加工して、原曲とは全く違うタイプの曲の部品として、違和感なく組み込んでいる。

よく考えてみれば、いまや世界中の人が、人種や国籍に関係なく色々な音楽を聴くことができる時代。白人のラッパーが世界を席巻し、アジア出身のメタル・シンガーが活躍するように、パンク・ロックやエレクトロ・ミュージックから影響を受けた黒人シンガーが登場するのは必然なのかもしれない。色々な音楽が自由に交わり、新しい音楽を生み出す21世紀。それを象徴するクリエイターだと思う。

Producer
Dev Hynes

Track List
1. By Ourselves
2. Augustine
3. Chance
4. Best to You
5. With Him
6. E.V.P.
7. Love Ya
8. But You
9. Desiree
10. HandsUp
11. Hadron Collider
12. Squash Squash
13. Juicy 1-4
14. Better Than Me
15. Thank You
16. I Know
17. Better Numb





Freetown Sound
Blood Orange
Domino
2016-08-19

 

Hi-Five – Legacy [2017 Bronx Most Wanted]

50年代に活躍したフランキー・ライモン&ザ・ティーンエイジャーズにはじまり、70年代のジャクソン・ファイブやファイブ・ステアステップス、80年代のニュー・エディションや90年代のイマチュア、2000年以降ではB2Kやプリティ・リッキーなど、それぞれの時代でR&Bシーンを盛り上げてきた、変声期前の少年によるキッズ・グループ。そんなグループの中でも、特に大きな成功を収めたグループの一つが、テキサス州はワコ出身の5人組、ハイ・ファイブだ。

90年にジャイブ・レコードからデビューした彼らは、”I Like the Way (The Kissing Game)”や”I Can't Wait Another Minute”などのヒット曲を残しながら、4年間で3枚のアルバムと9枚のシングルという、驚異的なペースで作品をリリースしていった。

その後は、リード・シンガーのトニー・トンプソンのソロ・デビューやメンバーの入れ替わりなどを経て、2005年には4枚目のアルバム『Return』で表舞台に復帰。大人のヴォーカル・グループとして再始動を図ったが、2007年にトニー・トンプソンが事故死。事実上の解散に追い込まれてしまった。

一方、2作目から参加している、ニューヨーク出身のトレストン・アービーは自身のレーベル、ブロンクス・モスト・ウォンテッドを設立して、2011年にソロ・デビュー。その後、ジャイブから発売したグループ名義の作品も扱うようになり、最終的には新旧のメンバーによる新生ハイ・ファイブの録音も行うようになった。

このアルバムは、2012年以降にグループ名義でリリースした、1枚のEPと5枚のシングル(うち1曲はEPからのシングル・カット)と、トレストン名義のソロ・シングル”Everything”の再録を一つにまとめた編集盤。もっとも、これらの作品は配信限定のものだったので、ほとんどの曲は今回が初CD化ということになる。

収録曲を発表された順に並べると、最も古いのは2012年にリリースされた”Favorite Girl”。メアリー・J.ブライジの”Real Love”を彷彿させる、90年代風の軽快なヒップホップのビートの上で、哀愁を帯びた声を響かせる、切ない雰囲気のアップ・ナンバー。この次に発表されたのは、2012年12月に起きた「サンディフック小学校銃乱射事件」の関係者に捧げたバラード、”You Never Know (Sandy Hook Tribute)”。ケイシー&ジョジョの”Crazy”を思い起こさせる壮大なスケールと、R.ケリーの”I Believe I Can Fly”の荘厳な空気が同居した、ダイナミックな楽曲だ。最後に響く子供の声がなんとも切ない。

その後、5人は2014年に『The EP』をリリース。同作には、後にシングル・カットされた”Kit Kat”のほか、”This Love”(EPでは”This Luv”表記)、”It’s Nothing”、”Different Kiss”、”Drop”を収録している。この中で、特に魅力的なのは、本作のオープニングを飾る”This Love”とシングル化された”Kit Kat”の2曲。前者は、2015年のジョデシィの復活を予見したような、シンセサイザーを多用した粘り強いビートに、5人の熱いパフォーマンスが乗った、彼らの曲の中では比較的泥臭いミディアム・ナンバー。爽やかなヴォーカルで名を残した彼らが、対極の路線を披露する姿に、20年という長い時間をかけて磨き上げた技術の重みを感じさせる。一方、”Kit Kat”は、アコースティック・ギターの柔らかい音色で、5人の甘い歌声を引き立てたロマンティックなバラード。爽やかで甘酸っぱいヴォーカルを活かした、シンプルなメロディが聴きどころだ。

そして、クリスマス・ソングの”Christmas”を除くと、最も新しい”Sunshine”は、デビュー当時の彼らを思い起こさせる軽妙なビートと、爽やかなメロディが気持ちいいアップ・ナンバー。使っている楽器が新しい点を除けば、最も彼らのイメージに忠実な楽曲だと思う。

彼らのようなキッズ・グループの大変なところは、変声期を乗り越えなければならないことだ、ジャクソン・ファイブはマイケルの甘い歌声を活かしたポップな楽曲に手を伸ばし、ニュー・エディションはボビー・ブラウンのワイルドなキャラクターを活かした不良路線に舵を切ることで、成人後も活動することができた。しかし、すべてのグループが路線変更に成功したわけではなく、解散してしまったグループも少なくない。

そんな中で、メイン・ヴォーカルを失いながらも、彼らが復活できたのは、爽やかで甘酸っぱい歌声という、彼らの一番の魅力を奇跡的に維持できたことだと思う。オーティス・レディングやテンプテーションズのような、野性的で荒々しいソウル・ミュージックが好きな人には不評なスタイルだが、少なくとも、「親しみやすさ」という意味では、決して軽視できないものだと思う。

ドレイクに代表されるラップ寄りのしなやかなシンガーと、チタリン・サーキットのシンガーに代表される重く、泥臭い歌唱のシンガーに二極化しつつある10年代。彼らの音楽はその間を埋めてくれる貴重な存在だと思う。R&Bはもっとシンプルで、もっと奥深い。彼らの音楽はそのことを僕らに再認識させてくれる。

Track List
1. This Love
2. It’s Nothing
3. Sunshine
4. Favorite Girl
5. Different Kiss
6. Drop
7. Kit Kat
8. Everything
9. You Never Know (Sandy Hook Tribute)
10. Christmas





レガシー
ハイ・ファイヴ
Pヴァイン・レコード
2017-01-06


Dino Conner – You’re My Morning Star EP [2016 MIND TAKER ENTERTAINMENT]

92年代に2ライヴ・クルーのルーク率いる、ルーク・レコードからデビュー。2003年までの11年間に3枚のアルバムと、”Knockin’ Da Boots”や”A Thin Line Between Love & Hate”(パースエイダーズの同名曲のカヴァー)などのヒット曲を残してきた、ヒューストン出身の3人組ヴォーカル・グループ、H-タウン。2003年にリード・ヴォーカルのケヴィン”ディノ”コナーが交通事故で亡くなったあと、活動が停滞していたが、彼の双子の兄弟で、メンバーの一人でもあるソロモン”シャザム”コナーが自身のレーベルを設立して、そこからデュオとして復活。2015年には10年ぶりにアルバムを発表した。

このEPは、シャザムのレーベルからリリースされた、ディノの未発表曲集。クレジットがないので詳細は不明だが、音を聴く限り98年から2003年の間に録音されたもののようだ。

アルバムのタイトルトラックでもある”You’re My Morning Star”は、テヴィン・キャンベルの”Can We Talk”を連想させる、流れるようなキーボードの伴奏を使った爽やかなトラックの上で、R.ケリーっぽい艶めかしい歌声を響かせるミディアム・バラード。H-タウンの楽曲でも、セクシーなヴォーカルを披露していたディノだが、この曲では、あえて色っぽい歌声を強調せず、あっさりと歌い切ったところが面白い。

続く”Hot Jeans”は、ジャギド・エッジ(というよりは、彼らのプロデューサーのジャーメイン・デュプリ)の楽曲を思い起こさせる、荒々しいシンセサイザーのリフと変則ビートが印象に残るミディアム・ダンサー。録音された時代ならともかく、現代の人間から見ると強引に映るメロディや曲の展開は、好き嫌いが分かれそうだが、アッシャーの”You Make Me Wanna”などが好きな人なら楽しめると思う。

一方、ディノの熱い歌唱が堪能できる”Pure Juice”は収録曲の中では一番、H-タウンの作風に近いスロー・バラード。これでもかというくらいテンポを落とし、スピーカーから汗や唾が飛んできそうな勢いで歌い込む姿は、経験を積んで成熟したヴォーカルを聴かせてくれた『Beggin' After Dark』や『Ladies Edition』の路線をさらに深化させたもの。ジョデシィやドゥー・ヒルの泥臭いバラードが好きだった人にはぜひ聞いてほしい1曲だ。

そして、アルバムのトリを飾る”Love Hurts Bad”は、90年代にジャーメイン・デュプリやティンバランドが作っていそうな変則ビートのアップ・ナンバー。こちらは”Hot Jeans”以上に癖のあるビートだが、ミッシー・エリオットの”She's a Bitch”みたいな、ダンス・ポップ寄りのR&Bやヒップホップが好きならぜひ聞いてほしい。

今回、お披露目された4曲を聴いて強く印象に残ったのは、ディノの類稀な歌声と表現力。特に、”You’re My Morning Star”で見せる爽やかで色っぽいヴォーカルと、”Pure Juice”で聴かせる熱く、泥臭いパフォーマンスを両立する、高度な身体能力と声を巧みにコントロールする技術は、インターネット経由で世界中の音楽が楽しめる21世紀になっても、決して色褪せないものだ。しかし、未発表曲の宿命だが、メロディやトラックには多少、古臭さを感じてしまったのも事実だ。

だが、楽曲の古臭さを織り込んでも、素の歌声で様々な楽曲の個性を引き出す姿は、決して見逃すことができない。表現力豊かな声で、熱いヴォーカルを聴かせる歌手が、何人もヒットチャートの上位に食い込んでいた90年代。jこのアルバムは、そんな時代の音楽の魅力を思い出させてくれる貴重な音源だ。当時の音楽が好きだった人なら、一聴の価値があると思う。

Track List
1. You’re My Morning Star
2. Hot Jeans
3. Pure Juice
4. Love Hurts Bad






You're My Morning Star
MIND TAKER ENTERTAINMENT
2016-12-01


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