melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Emanon – Dystopia [2016 Dirty Science Records]

ストーンズ・スロウから発表したアルバム『Good Things』のほか、”I Need A Dolla”や”The Man”など、多くのヒット作を世に送り出しているシンガー・ソングライターのアロー・ブラックと、同郷のラッパー、ブルーとのユニット、ブルー&エグザイル名義での作品のほか、ジュラシック・ファイブやスヌープ・ドッグへの楽曲提供でも知られているDJ兼トラック・メーカーのDJエグザイルこと、アレクサンダー・マンフレディ。ロス・アンジェルスで一緒に下積み時代を過ごし、それぞれの道で成功を収めた二人によるユニット、エマノンが、10年ぶりの新作を録音した。

渋い歌声を活かしたミディアム・ナンバーに定評のあるアロー・ブラック。だが、このアルバムでは原点に返ってラッパーに専念。DJエグザイルの作る、様々なレコードのフレーズを組み合わせた奇想天外なビートの上で、いぶし銀の声を軽やかに操った、クールなラップを披露している。

アルバムのオープニングを飾る”Make It Over”は、ジャズのレコードからウッドベースのフレーズを抜き出して作った、ソウルフルなグルーヴの上で、歌うようにラップするミディアム・ナンバー。続く”Aloe Be Thy Name”はチェンバロの演奏をサンプリングした、嵐のように音の塊が飛び交うトラックの上で、伴奏に負けじと言葉を畳み掛けるアロー・ブラックの姿が印象的な楽曲だ。この後には、声ネタを効果的に使ったトラックが、ディレイテッド・ピープルズの作品を彷彿させる”Shine Your Light”(一部の盤では”This Little Light”と表記)や、崩れ落ちるようなピアノの演奏をループさせたビートの上で、アロー・ブラックとブルーがラップ・バトルを繰り広げる”Yesterday”、ドラムの響きをエフェクターで強化した高揚感たっぷりのビートの上で、猛々しいラップを聴かせる”Death Is Fair”や、幽霊の声にも妖精の声にも聴こえる、幻想的な女性シンガーの歌声を使ったトラックの上を踊る、LLクールJのように軽妙なライムが格好良い”Night Salkers”や”The E.N.D.”など、サンプリングを軸にしたビートとリズミカルなラップによる、90年代前半のヒップホップを思い起こさせるキャッチーな楽曲が続く。

二人の作品を聴いた瞬間に思い出したのは、ディレイテッド・ピープルズやアルカホリックスなどの、ロス・アンジェルスのローカル・シーンから世界に羽ばたいたラップ・グループの音楽だ。多くのヒップホップ・ミュージシャンは目もくれないマイナーなレコードや、有名なレコードのマイナーなフレーズを組み合わせ、他のミュージシャンとは一味違うトラックを作るDJエグザイルと、奇抜なトラックを前にしても物怖じせず、ジャズ・ミュージシャンがアドリブを演奏するように、言葉を紡ぎ出すアロー・ブラック。両者の姿は個性的なトラックを軽やかに乗りこなす、往年のラップ・グループの姿がダブって見える。

アロー・ブラックの歌手としての経験と、DJエグザイルの独創的な作曲センスが生み出した、ヒップホップの基本に忠実だが極めて独創的な作品。ラップと歌は別物と考えている人にこそ聞いてほしいな。

Producer
Aloe Blacc, Aleksander Manfredi

Track List
1. Make It Over
2. Aloe Be Thy Name
3. Come One Come All feat. Cashus King A.K.A. Co$$
4. Shine Your Light
5. Forgive Us
6. Yesterday feat. Blu
7. In Bruges
8. Death Is Fair
9. Night Salkers
10. The E.N.D.





Dystopia [Explicit]
Dirty Science Records
2016-11-25


NxWorries - Yes Lawd! [2016 Stones Throw]

2010年のデビューながら、既に60枚以上のアルバムをリリースしてる、フィラデルフィア出身のビート・メイカーKnxwledge(ノレッジ)と、2012年のデビュー以降、アンダーグラウンドの音楽シーンで着実に知名度を高め、2015年にリリースされたDr.ドレのアルバム『Compton』では、16曲中6曲にヴォーカルやソングライティングで参加。2016年にリリースされた『Malibu』がグラミー賞を含む各種アワードにノミネートしている、カリフォルニア州はヴェンチュラ出身のシンガー・ソングライター、Anderson Paak(アンダーソン・パーク)。両者によるユニット、NxWorries(ノー・ウォーリーズ)にとって初のフル・アルバムが、ノレッジも所属するストーンズ・スロウからリリースされた。

2015年に発表された『Link & Suede EP』では、ブラジルのソウル・シンガー、カシアーノの”Onda”をサンプリングした”Link Up”や、ギル・スコット・ヘロンの”The Bottle”を使った”Suede”など、70年代のジャズやソウル、それらの音楽を引用したヒップホップやR&Bが好きな人にはお馴染みのフレーズを、彼らの若い感性で斬新なビートに組み替えながら、アンダーソンのいぶし銀のような歌声と組み合わせて、新鮮だがどこか懐かしいR&B作品に纏め上げていた。

今回のアルバムでは、トラックを見ると、ファンク・バンド、カルマの”Tributo Ao Sorriso”を使って、強烈なインパクトのトラックを作った”Livvin”にはじまり、ジャズ・ピアニスト、アーマッド・ジャマルの”Ghetto Child”(スピナーズの同名曲のカヴァー)から、メロウなキーボードの演奏を引用した”Wngs”や、シカゴのヴォーカル・グループ、ノーテイションズの同名曲から、流麗なストリングスをサンプリングした”What More Can I Say”、元エボニーズのメンバーによる男女混成グループ、クリーム・ド・ココアの”Mr. Me, Mrs. You”のフレーズをぶつ切りにして繰り返した”Lyk Dis”、ウェブスター・ルイスやロニー・マクネイア、R.ケリーまで色々なミュージシャンの曲をサンプリングした”Get Bigger / Do U Luv”に、B. B. & Q. バンドの”(I Could Never Say) It's Over”のイントロを、そのままの形で引用した”Scared Money”など、90年代以降のヒップホップで多用された、70年代から80年代のソウル・ミュージックやジャズのフレーズを巧みに取り込んだ曲が並んでいる。

一方、アンダーソン・パークのヴォーカルに目を向けると、ディアンジェロの声質を少し軽くしたような、繊細だけど少し曇った歌声こそソロ作品と同じ。だが、バック・トラックが厚く、抽象的なものになった影響もあるのか、一つ一つのフレーズを丁寧に歌いつつも、彼のソロ作品のような、起承転結が明確になったメロディは控えられ、不安定なトラックに合わせた揺れるようなメロディを巧みに乗りこなしつつ、リスナーの心に残るフレーズを次々と繰り出している。

彼らの音楽を聴くと、一つ一つのパーツは、過去に90年代以降、何度となく登場した手法のように映る。昔のソウル・ミュージックをサンプリングしたR&Bは、ショーン・コムズやRZA、カニエ・ウエストやジャスト・ブレイズなど、多くのプロデューサーによって作られてきたし、ヒップホップをベースにしたトラックと、それに合わせた抽象的なメロディという曲構成は、エイドリアン・ヤングやディアンジェロなど、多くのミュージシャンが何度も行ってきた手法だ。また、有名な楽曲のフレーズを独自の感覚で分解、再構築して、自身の作品にしてしまう手法は、マッドリブやノレッジに代表される、ストーンズ・スロウのミュージシャンの十八番といっても過言ではない。もちろん、アンダーソンのヴォーカルにしても、曇りガラスの向こうから流れてきそうな、少し靄がかかった歌声は、既に幾人もの先人がいる、手垢のついたスタイルだ。

そんな彼らが、独創性を発揮することができた理由を端的に言えば、既に存在するノウハウを徹底的に研究して、自分達の感性を実現する道具のレベルに高めているからだと思う。料理人に例えるなら、煮る、焼く、蒸すといった、同業者なら誰もが熟練している手法を徹底的に磨き上げたうえで、自分達の感性で組み合わせて、創作料理という作品に落とし込む。そういう感性と技術の共存が、彼らの音楽を斬新だけど、どこか懐かしい音楽に仕上げているのだと思う。

誰かが生み出した技は、後進に引き継がれる中で少しずつ変化し、新しい技術を生み出す。二人の演奏は、そんな職人技の歴史を踏まえた、前衛的だが伝統芸能のような重みを感じさせるものだ。彼らの今後の展開と、それを追いかける後進達の存在がとても気になる、2016年最大の問題作だ。

Producer
NxWorries

Track List
1. Intro
2. Livvin
3. Wngs
4. Best One
5. What More Can I Say
6. Kutless
7. Lyk Dis
8. Can’t Stop
9. Get Bigger / Do U Luv
10. Khadijah
11. H.A.N.
12. Scared Money
13. Suede
14. Starlite
15. Sidepiece
16. Jodi
17. Link Up
18. Another Time
19. Fkku





Yes Lawd!
Nxworries
Stones Throw
2016-10-21


The James Hunter Six ‎– Hold On! [2016 Daptone]

イギリス南部の中規模都市、コルチェスター出身のシンガー兼ソングライター、ジェイムズ・ハンター率いるソウル・バンド、ジェイムズ・ハンター・シックスの、3年ぶりとなるオリジナル・アルバムがニューヨークに拠点を置くダップトーン・レコードからリリース。

80年代には、Howlin’ Wilf & The Veejays(50年代から70年代にかけて活躍したブルース・ミュージシャン、ハウリン・ウルフと、同時代に隆盛を極めていた黒人音楽レーベル、Vee-Jayが名前の由来)というバンドで、ウィーバーズ・クラブや100クラブといった、ロンドンの名門ライブ・スペースで頻繁にライブを行い、90年代半ばには、ヴァン・モリソンのライブに起用された時のパフォーマンスが注目を集め(そのころの演奏は、ヴァン・モリソンのライブ・アルバム『A Night In San Francisco』に収められています。要チェック!)、2006年に発表した彼のソロ・アルバム『People Gonna Talk』は、ビルボードのブルース・チャートを制覇し、グラミー賞にもノミネートした、実績豊富な実力派ミュージシャンだ。

ジェイムズ・ハンター・シックスは、2012年に結成された彼の新しいバンド。彼の音楽は、以前からミュージシャンの間では好評で、中でも、ダップトーン一派の看板シンガー、シャロン・ジョーンズは彼らの音楽を特に気に入ったこともあり、2013年のデビュー・アルバム『Minute By Minute』は、彼女の作品も手掛けているボスコー・マンをプロデューサーとして紹介、ユニヴァーサルからリリースされた、同作のアナログ盤をダップトーンから発売している。

今回のアルバムでは、ダップトーンに完全移籍し、カリフォルニアにある、ダップトーン・レコード御用達のペンローズ・スタジオでレコーディング。プロデューサーやエンジニアにも同レーベルで多くの仕事を行っている面々が集まって、ジェイムス・ハンターのソウル趣向を具体的な音楽に落とし込むのに一役買っている。

アルバムに先駆け、7インチ・レコードでリリースされた”(Baby) Hold On”は、50年代末に流行した、ラテン音楽を取り入れたジャズやリズム&ブルースの影響が垣間見えるダンス・ナンバー。パーカッションやホーン・セクションが中心になって生み出す、腰に訴えかけるグルーヴと均整のとれたアンサンブルを聴かせる伴奏をバックに、力強く歌うジェイムズの姿が格好いいダンス・ナンバーだ。

この他には、音の塊になって押し寄せる、息の合ったホーンの演奏をアクセントに、熱いヴォーカルを畳みかける”Free Your Mind (While You Still Got Time)”や、サム・クックやデビュー直後のスモーキー・ロビンソン&ミラクルズを彷彿させる、甘く歌ったヴォーカルと、ゆったりとしたバンド演奏が光るミディアム・ナンバー”Something's Calling”。スカ(最近のロックではなく、60年代に流行したブルー・ビートの方)のエッセンスを取り入れた、まったりとした雰囲気のアップ・ナンバー”Light of My Life”や、ジャズの要素を取り入れた流麗なピアノ演奏と、ジェリー・バトラーを連想させる軽妙な歌い口が心地よいミディアム”In the Dark”など、60年代のソウル・ミュージックをベースに、ジャズやリズム&ブルース、ラテン音楽のエッセンスを取り入れた楽曲が揃っている。

ブルーノ・マースやジョンレジェンドのように、60年代以降のソウル・ミュージックから影響を受けたミュージシャンは数多くいるが、彼のようにリズム&ブルースやラテン音楽、ジャズや50年代から60年代初頭のソウル・ミュージックを引用するミュージシャンは珍しい。だが、彼らの母国イギリスの音楽事情に目を向けると、その嗜好にも納得がいく。英国でも米国と同様、ソウル・ミュージックが好きな人は沢山いるが、その中でも、上でも触れたウィーヴァーズ・クラブや100クラブといったクラブやライブ・ハウスでは、彼らが取り上げるような音楽が、ノーザン・ソウルやポップコーンR&Bと呼ばれ、特に珍重されているのだ。ビートルズがマーサ・リーヴス&ザ・ヴァンデラスの”Please Mr. Postman”をカヴァーしてヒットさせたのは有名な話だが、イギリス人の間では、アメリカのポップでダンサブルな黒人音楽は、他の国の人が想像する以上に愛されているのだと思う。

イギリス人のセンスとアメリカ人の感性が融合することで、イギリス以外の地域ではあまり光が当たってこなかった、往年のソウル・ミュージックの魅力を提示した面白いアルバム。音楽の世界の広さと深さ、自分達が気づかなかった面白みを提示してくれる。

Producer
Gabriel Roth, Neal Sugarman, Steven Erdman

Track List
1. If That Don't Tell You
2. This Is Where We Came In
3. (Baby) Hold On
4. Something's Calling
5. A Truer Heart
6. Free Your Mind (While You Still Got Time)
7. Light of My Life
8. Stranded
9. Satchelfoot
10. In the Dark





Hold on!
James -Six- Hunter
Daptone
2016-02-05

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