ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Musiq Soulchild - Feel The Real [2017 eOne]

映画「ナッティー・プロフェッサー2」のサウンドトラックに収録された”Just Friends(Sunny)”で注目を集め、同曲を収録したファースト・アルバム『Aijuswanaseing』が全米R&Bアルバムチャートの4位に入り、プラチナ・ディスクにも認定された、ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のシンガー・ソングライター、ミュージック・ソウルチャイルドことターリブ・ジョンソン。

その後も、2016年までに8枚のアルバムを発表。うち、2作目の『Juslisen』と4作目の『Luvanmusiq』は全米総合アルバム・チャートの1位を獲得。往年のソウル・ミュージックを現代の音楽に還元した作風が認められ、人気ミュージシャンの一人になった。

このアルバムは、前作から僅か1年という短い間隔で発表された9枚目のフル・アルバム。前作に引き続き、ワイクリフ・ジョンラトーヤなど、多くのベテラン・ミュージシャンのアルバムを配給しているeOneからのリリース作品。だが、何よりも驚くのはその曲数。彼のキャリアでは初の2枚組24曲という大作だが、マンネリに陥ることなく、彼の豊かな想像力と歌唱力を遺憾なく発揮している。

本作の1曲目は、マイケル・ジャクソンの”Butterfly”の作者としても知られているイギリスの女性デュオ、フロエトリーのマーシャ・アンブロジウスとコラボレーションした曲。”Butterfly”を思い起こさせるゆったりとしたテンポのトラックをバックに、朗々と歌う姿が印象的なミディアム・ナンバー。遅いテンポのトラックの上で敢えてメロディを崩して歌うミュージックの歌唱が格好良い。曲の途中、絶妙なタイミングで入り込み、素晴らしい掛け合いを聴かせるマーシャの存在も見逃せない。

これに対し、ベル・ヴィウ・デヴォーの新曲でもペンを執ったサイラス・デシールドが制作を担当した”Start Over”は、ストリングスを使ったスロー・テンポの伴奏に乗って、しなやかな歌声を響かせるバラード。太く柔らかいミュージックの歌声を際立たせる、流れるようなメロディと温かい音色のトラックの組み合わせは、彼の代表曲”Halfcrazy”を思い起こさせる。デビューから15年以上の時が経っても、変わらない彼の良さと、時間をかけて磨き上げたヴォーカル技術が光る良い曲だ。

また、2枚目の1曲目に収められている”Humble Pie”は、前作にも参加しているウィリー・ヒンと作ったミディアム・ナンバー。ダニー・ハザウェイやマーヴィン・ゲイを思い起こさせる、柔らかい音色を駆使した優雅な伴奏に乗って、軽やかな歌を聴かせるダンス・ナンバー。曲の途中にラップのようなメロディを挟み込み、メリハリをつけている点が面白い。2007年に発表したヒット曲”B.U.D.D.Y.”の手法を踏襲した、ヒップホップとソウル・ミュージックが融合したスタイルが魅力の佳曲だ。

そして、本作の最後を飾るのがアルバムからの先行シングル”Simple Things”だ。ギターとシンセサイザーを組み合わせたロマンティックな演奏に乗せて、ロマンティックなメロディを丁寧に聴かせるスロー・ナンバー。ミュージックのみずみずしい歌声が、流麗なメロディの良さを引き立てている。斬新なメロディも奇抜な演奏もない、シンプルな楽曲だが、それ故に彼の声と制作能力の高さが際立っている。

今回のアルバムには、過去のアルバムの2倍近い量の曲を収めている。それだけの曲を準備するエネルギーも凄いが、それ以上に意外なのは、奇抜な作品や実験的な楽曲を集めたものではなく、従来のスタイルを踏襲しつつ、それを磨き上げたものになっていることだ。だが、そんな作品でも最後まで聴き手を飽きさせることなく、楽しませることができるのは、彼の音楽がジョーブライアン・マックナイトのように、一つのスタイルを磨き上げ、確固たる個性を確立したものだからだろう。

ソウル・ミュージックとヒップホップを融合した独特の作風を突き詰め、一つの芸風として確立したことを感じさせる佳作。ノスタルジーとも目新しさとも違う、楽曲の魅力で勝負している稀有なアーティストだと思う。

Producer
Musiq Soulchild, BLAQSMURPH, Christopher Bradley, Phil Cornish, Gmjr, J'rell etc

Disc 1
1. Feel The Real feat. Marsha Ambrosius
2. Benefits
3. Serendipity feat. Willie Hyn
4. Sooner Or Later
5. My Bad feat. Willie Hyn
6. Start Over
7. Hard Liquor
8. Shudawudacuda
9. Broken Hearts
10. Love Me Back
11. I'm Good
12. Jussa Lil Bih feat. BLAQGxLD
Disc 2
1. Humble Pie
2. Party Life
3. One More Time feat. The Husel, Willie Hyn
4. Let Go
5. Test Drive
6. Like The Weather
7. Fact Of Love
8. Heaven Only Knows
9. The Moon feat. Neil deGrasse Tyson
10. We Go Together Now
11. Sunrise Serenade feat. BLAQGxLD, Chris Theory
12. Simple Things



a


Feel the Real
Musiq Soulchild
Ent. One Music
2017-09-15

Damar Jackson - Unfaithful [2017 Think It's A Game Records, Label Gold]

子供の頃に聞いた、ドネル・ジョーンズやルーシー・パールが奏でる美しいメロディとしなやかな歌声に魅了されて音楽の道を志し、若い頃からボビー・ヴァレンチノやクリセット・ミッシェルと一緒のステージに立ってきたという、ルイジアナ州デリッター出身のシンガー・ソングライター、デイマー・ジャクソン。

2016年には自身のレーベル、レーベル・ゴールドから5曲入りのEP『Ninety3Until EP』を発表。同作に収められている、甘くロマンティックなバラード”Crazy”が、R.ケリーやブライアン・マックナイトがしのぎを削っていた90年代のR&Bを知る人から、絶頂期の彼らを知らない若い世代まで、幅広い年代の人から高く評価された。その後も、ラバーバンドOGなどのラッパーの作品に客演しつつ、様々なステージを経験。経験と実力を蓄えていった。

このアルバムは、前作から約1年ぶりとなる通算2枚目のEP。前作同様、配信限定の作品だが、本作はラバーバンドOCなどの作品を取り扱っている、アトランタの大手インディー・レーベル、シンク・イッツ・ア・ゲームが配給を担当。前作からの再録曲を含め、収録曲の大半を彼自身がプロデュースした力作になっている。

本作の1曲目に入っている”Ritenow”は、前作に収められている”Crazy”の共同制作者でもあるビッグ・フルーツがプロデューサーとして参加したスロー・ナンバー。R.ケリーやドゥー・ヒルのような、90年代に一世を風靡したバラードの名手を彷彿させるエロティックなメロディが印象的な曲だ。だが、今までの作品と大きく違うのが、甘い歌声を聴かせるサビの間を繋ぐメロディの部分。ファット・ジョーを思い起こさせるがなり声でラップをするという、今までの曲にはなかったスタイルに挑戦している。甘く優しい声質の彼が空気を引き裂くような声でラップをするのは少し違和感があるが、これはこれで面白い。

続く”Club Again”は、”Down in the DM”などのヒット曲を残しているメンフィス出身のラッパー、ヨー・ガッティをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。デイマーの作風に、クランクやトラップの要素を混ぜ合わせた、陰欝なシンセサイザーの音色と跳ねるようなビートを使ったトラックは彼の作品では異色だ。淡々と言葉を繋ぐヨー・ガッティのラップと、艶っぽいデイマーの歌声のコンビネーションにも注目してほしい。90年代のR&Bから多くの影響を受けた彼が、現代のヒップホップやR&Bに当時の音楽のエッセンスを注ぎ込んだ佳作。

また、これに続く”Changed”は、アッシャーの”You Make Me Wanna”やアリーヤの”One In A Million”を思い起こさせるチキチキ・ビートを取り入れたミディアム・ナンバー。通常の二倍のテンポで刻まれるシンバルの音色がトラックにスピード感を与える、チキチキ・ビートを取り入れた楽曲だが、この曲の面白いところは、メロディとサビでリズムの取り方を大きく変えているところ。メロディの部分ではハットを基準にした早いテンポのメロディを取り入れているのに対し、サビの部分ではドラムの音でリズムを取って、じっくりと歌い込でいる。一人の歌手がテンポを大きく変えて歌うことで、シンガーとラッパーがコラボレーションしているように聴かせる演出が光っている。

そして、本作の隠れた目玉と呼んでも良いのが、第二の”Crazy”といっても過言ではないスロー・バラード”Everything”だ。ビッグ・フルーツがプロデュースしたこの曲は、フィンガー・スナップやポロポロと鳴り響くキーボードの伴奏が切ない雰囲気を醸し出している。しっとりとしたメロディを丁寧歌う姿は、”I Wanna Know”がジャンルの壁を越えて多くの人を魅了していたジョーに少し似ている。”Crazy”で彼のことを知った人が一番望んでいたのは、この曲のような王道のバラードだろう。

今回のアルバムでは、従来のヴォーカルにフォーカスしたバラードに加え、トラップなどの新しいサウンドやラップなどの新しい表現を取り入れて、彼の音楽を聴いたことのない人にもアピールした楽曲が目立っている。しかし、ただ新しいものを取り入れるのではなく、サビの部分は音数を絞ってじっくりと歌い込むなど、スロー・ナンバーが得意な彼の持ち味を活かしたアレンジになっているのが心憎い。

一つ一つのフレーズに丁寧に向き合い、じっくりと言葉やメロディを聴かせることに重きを置いた、真摯な姿勢が魅力のヴォーカル作品。ソウル・バラードが苦戦を強いられる時代に、トレイ・ソングスブライソン・ティラーなどのメジャー・レーベルに所属する歌手とは違うアプローチで、「歌」の魅力を教えてくれる良作だと思う。

Producer
Damar Jackson, Big Fruit

Track List
1. Ritenow
2. Club Again feat. Yo Gotti
3. Changed
4. FN Everything
5. Calling Me
6. Everything
7. No Protection
8. Crazy






Eamon - Golden Rail Motel [2017 Huey Ave Music]

2003年に発表した、放送禁止用語を繰り返す強烈なサビが話題になったデビュー曲”F**k It (I Don't Want You Back)”が各国のヒット・チャートを制覇。同曲を下敷きにしたアンサーソングも作られるなど、2000年代を代表するヒット曲として歴史にその名を刻んだ、ニューヨークのスタテン・アイランド出身のシンガー・ソングライター、イーモンこと、イーモン・ジョナサン・ドイル。

イタリア人やアイルランド系アフリカ人の血を引く彼は、ドゥー・ワップ・グループのメンバーだった父の影響もあり、9歳のころから父のグループのステージで歌うようになり、15歳になるとソングライターとしてもメアリーJブライジなどと仕事をするようになったという早熟の天才でもある。

デビュー・シングルに続き、2004年にジャイヴから発売した初のアルバム『I Don't Want You Back』も全米総合チャートの3位を獲得する大ヒットとなった彼は、その後もゴーストフェイスの『More Fish』などに客演。2006年には2枚目のアルバム『Love and Pain』をリリースするが、こちらは商業的には不本意な結果に終わる。

その後、ジャイヴを離れた彼は、ロス・アンジェルスに移住し、SMCエンターテイメントと契約。ラッパーのラグド・マンやヒップホップ・グループのジェディ・マインド・トリックスなど、色々なスタイルのミュージシャンとコラボレーションを重ねながら、次のリリースに向けて着々と準備を進めてきた。

そして、2017年に自身名義の楽曲を複数発表した後、満を持して発表したのがこのアルバム。ジェディ・マインド・トリックスのストゥープや、コニー・プライス&キーストーンズのダン・ユービックなどがプロデューサーとして参加した本作は、彼の持ち味である、ドゥー・ワップや往年のソウル・ミュージックから強い影響を受けた泥臭いメロディやグラマラスなヴォーカルに、ヒップホップなどの要素を取り入れた現代的なサウンドが合わさった、懐かしさと新鮮さが入り混じった作品になっている。

本作のオープニングを飾る”Before I Die”は、ジョン・レジェンドの”Get Lifted”を思い起こさせる、泥臭いバック・トラックが印象的なスロー・ナンバー。ギターなどの音色とヒップホップのビートを組み合わせた荒々しいサウンドが新鮮だ。ラップを織り交ぜつつ、サビでは激しい雄叫びを上げるイーモンのヴォーカルも格好良いが、声質が軽いのが玉に瑕。

続く”Be My Girl”は、今年四月に本作に先駆けてリリースされたシングル曲。ピアノの伴奏で幕をロマンティックなサウンドをバックに、力強い歌声を響かせるミディアム・ナンバーだ。ピアノとドラムが中心のシンプルな伴奏に、ゴスペルのコール&レスポンスを織り込んだアレンジが彼のダイナミックなヴォーカルの良さを引き出している。60年代以前の音楽のエッセンスをふんだんに取り入れつつ、楽器の音色やメロディを工夫して現代の音楽に仕立て上げている点が面白い。

この路線を踏襲したのが、4曲目の”I Got Soul”。温かい音色のオルガンを使った伴奏がシャロン・ジョーンズやメイヤー・ホーソンの作品ような現代のヴィンテージ・ミュージックを連想させるスロー・ナンバー。泥臭い伴奏の上で荒々しいヴォーカルを聴かせつつ、可愛らしい女性コーラスを使って聴きやすい印象を持たせる手法は、オーティス・レディングやドン・ブライアントなどが活躍していた60年代、70年代のアメリカ南部のソウル・ミュージックを思い起こさせる。

そして、見逃せないのが本作の収録曲では珍しいアップ・ナンバーの”Run”だ。シュープリームスの”You Can't Hurry Love”を連想させる軽快な演奏をバックに、軽やかな歌を披露するポップス寄りの曲。古くはビートルズ、最近ではエイミー・ワインハウスやアデルなど、往年のソウル・ミュージックを取り入れたロックやポップスはいつの時代も人気だが、この曲ではソウル・ミュージックのヴォーカル・スタイルでこのようなポップスのスタイルを吸収、再解釈。力強い歌唱を活かしたポップなソウル・ナンバーに仕上げている

自身名義では12年ぶりの新作となった今回のアルバムは、ドゥー・ワップからヒップホップまで、色々な音楽に携わってきた彼の経験と持ち味がいかんなく発揮された良作だ。ディアンジェロからブルーノ・マーズまで、往年のソウル・ミュージックと現代の黒人音楽の融合にチャレンジしてきたミュージシャンは枚挙に暇がない。その中でも、彼の場合、幼いころからドゥー・ワップという黒人音楽の中でも歴史の長いジャンルと、ヒップホップという新しいジャンルの両方に触れてきたからか、ヴォーカルの表現やアレンジの引き出しが多く、それらを違和感なく組み合わせて独自性を発揮しているように映る。

古今東西のブラック・ミュージックに精通し、それらを組み合わせて往年のソウル・ミュージックに新しい解釈を加えた、シンプルだけど飽きの来ないスルメのような作品。”F**k It (I Don't Want You Back)”で成功した一発屋だと思っている人にこそ、ぜひ聴いて欲しい。

Producer
Eamon, Stoupe, Snipe Young, Dan Ubick

Track List
1. Before I Die
2. Be My Girl
3. Lock Me Down
4. I Got Soul
5. Burn It Up
6. Mama Don't Cry
7. You and Only You
8. Hands Make You Dance
9. Run
10. Requiem





Golden Rail Motel
Eamon
Huey Ave Music
2017-09-15

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