ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Lana Del Rey - Lust For Life [2017 Interscope, Polydor]

2008年にリジー・グラント名義のEP『Kill Kill』で鮮烈なレコード・デビューをした、ニューヨーク出身のシンガー・ソングライター、ラナ・デル・レイこと、エリザベス・ウールリッジ・グラント。

2012年にインタースコープと契約を結び、アルバム『Born To Die』を発表すると、全米アルバム・チャートで1位を獲得。全世界で700万枚を売り上げる大ヒット作となる。その後も2014年に『Ultraviolence』を、2015年には『Honeymoon』をリリース、両作品とも各国のヒット・チャートで上位に食い込み、ゴールド・ディスクを獲得するなど、華々しい成果を上げている。

また、2012年にはボビー・ウーマックの遺作となったアルバム『The Bravest Man in the Universe』に収録されている”Don't Let Me Be Misunderstood”に客演。2015年にはウィークエンドのアルバム『Beauty Behind the Madness』からシングル・カットされた”Prisoner”に参加、翌年にはアルバム『Starboy』からのシングル曲”Party Monster”にソングライターとして関わるなど、R&Bファンの間でも知名度を高めていった。

このアルバムは、彼女にとって2年ぶり4枚目のフル・アルバム。これまでの作品では、ポップス畑のクリエイターと一緒に作ることが多かった彼女だが、本作ではボーイ・ワン・ダやメトロ・ブーミンといったヒップホップやR&Bで実績のあるプロデューサーを多数起用。ゲスト・ミュージシャンにもウィークエンドやエイサップ・ロッキーなど、ヒップホップやR&Bが好きな人にはおなじみのアーティストが集まるなど、ブラック・ミュージックを積極的に取り入れた音楽に取り組んでいる。

本作の2曲目、ウィークエンドをフィーチャーした”Lust for Life”は、ブリトニー・スピアーズからウィークエンドまで、幅広いジャンルのミュージシャンと仕事をしてきたスウェーデン出身の名プロデューサー、マックス・マーティンが参加したミディアム・ナンバー。電子楽器を多用した幻想的なサウンドをバックに、繊細な歌声をじっくりと聴かせている。電子音を多用した伴奏と、高音を聴かせることに重きを置いたメロディ、ガラス細工のように繊細で透明な歌声活かしたヴォーカルの組み合わせはウィークエンドの”Starboy”を思い起こさせる。

これに対し、エイサップ・ロッキーとプレイボーイ・カルティの二人が参加し、ボーイ・ワン・ダがプロデュースを担当した”Summer Bummer”はピアノをバックに訥々と歌うという意外な幕開けが面白い曲。ここからパーティネクストドアドレイクを彷彿させる、シンセサイザーを多用したダークな雰囲気のヒップホップのトラックにつなぐ手法が新鮮だ。ゆったりとしたテンポのビートの上で、リズミカルに言葉を繋ぐ二人のラッパーと、あくまでも淡々と歌うラナ・デル・レイの対照的なパフォーマンスが光っている。

一方、エイサップ・ロッキーを招いたもう一つの楽曲” Groupie Love”はリック・ノウェルズら、ポップス畑のクリエイターが制作に携わっている楽曲。シンセサイザーの音色を重ね、ストリングスのように聴かせる伴奏に乗って、語り掛けるように歌う姿が印象的な曲。スロー・テンポのバラードに、あえてラップを組み込んで起伏をつけるセンスと、ポップスのバラードに溶け込むよう、抑揚を抑えたラップを披露するエイサップ・ロッキーの技術が聴きどころ。

そして、メトロ・ブーミンがプロデューサーに名を連ねる”God Bless America: And All the Beautiful Women in It”は、ヒップホップのビートを取り入れたミディアム・ナンバー。DJプレミアやピート・ロックが作っていたような、緻密でリズミカルなトラックを採用しつつ、じっくりとメロディを歌う姿が魅力的。パワフルなヴォーカルをウリにするソウル・ミュージックとは一味違うポップスのバラードだが、荘厳なメロディに軽妙な印象を持たせるアレンジが魅力の曲だ。

今回のアルバムでは、ヒップホップやR&Bのミュージシャンを起用して、新しいスタイルに挑戦しつつ、これまでの作品に慣れ親しんできたファンの期待を裏切らない絶妙なバランスの楽曲が目立っている。ウィークエンドやフランク・オーシャンなど、ヒップホップやR&Bとロックやポップスの要素を融合したスタイルのミュージシャンが流行る中で、彼らの手法をポップスの側から取り入れたように映る。

R&Bやソウル・ミュージックではないが、アメリカの音楽に黒人音楽が深く根差していることを感じさせる佳作。好き嫌いは別として、「時代の音」として触れてほしい。

Producer
Lana Del Rey, Rick Nowels, Benny Blanco, Boi-1da Emile Haynie etc

Track List
1. Love
2. Lust for Life feat. The Weeknd
3. 13 Beaches
4. Cherry
5. White Mustang
6. Summer Bummer feat. ASAP Rocky, Playboi Carti
7. Groupie Love feat. ASAP Rocky
8. In My Feelings
9. Coachella: Woodstock in My Mind
10. God Bless America: And All the Beautiful Women in It
11. When the World Was at War We Kept Dancing
12. Beautiful People Beautiful Problems feat. Stevie Nicks
13. Tomorrow Never Came feat. Sean Ono Lennon
14. Heroin
15. Change
16. Get Free





Lust For Life
Lana Del Rey
Interscope
2017-07-21

Syd - Always Never Home [2017 The Internet, Columbia]

フランク・オーシャンタイラー・ザ・クリエイターなどを擁するオッド・フューチャーの一員として活動し、同クルーのメンバーでもあるマット・マーシャンと結成したバンド、ジ・インターネットでグラミー賞にもノミネートしているロス・アンジェルス出身のシンガー・ソングライター、シドことシド・バレット。

2017年には、ソロ名義では初のフル・アルバムとなる『Fin』コロンビアからリリース。全ての曲で彼女自身がペンを執る一方、ジ・インターネットの中でも特に先進的な作風で注目を集めているスティーヴ・レイシーや、ヒットメイカーのアンソニー・キルホッファーやヒット・ボーイなど、バラエティ豊かなクリエイターを起用。新しい音楽に敏感なファンや批評家から高く評価された。

その後も、シカゴ出身のラッパー、ヴィック・メンサや韓国のR&Bシンガー、ディーンの作品に客演するなど、様々なミュージシャンとコラボレーションを重ねてきた彼女。本作は、そんな彼女にとって前作から7ヶ月ぶりの新作となる3曲入りのEPだ。

このEPでも、過去の作品同様、彼女自身が全ての曲の制作に関わっている。しかし、共作者の顔ぶれは大きく変わっており、アムステルダム在住のクリエイター、フル・クレイトやジ・インターネットの元メンバーで、サンダーキャットの兄弟としても知られているジャミール・ブルーナなどが参加、新しいサウンドを積極的に取り入れている。

本作の1曲目は、ニッキーミナージュの”Anaconda”や モニカの”Call My Name”などを手掛けているブルックリン出身のプロデューサー、アノニマスを起用した”Moving Mountains”。アノニマスが手掛けてきた、モニカやシアラの作品のような、キラキラとしたシンセサイザーの音色を使ったトラックと、シドの語り掛けるような歌唱のコンビネーションが魅力のミディアム・ナンバーだ。流行のサウンドを使ったトラックは彼女の作品ではそれほど多くなかったので、逆に新鮮に感じられる。

続く、”Bad Dream / No Looking Back”は、ジョデシーの”What About Us”をサンプリングしたミディアム・ナンバー(余談だが、同曲はザップの”Computer Love”をサンプリングしているため、この曲のソングライターにはロジャー・トラウトマン達の名前も入っている)。ゾなどの作品に携わっているグウェン・バンとケンドリック・ラマードレイクを手掛けているリッチ・リエラの二人がプロデュースしたこの曲は、これまでの彼女の楽曲以上に抽象的なメロディが印象的。彼女が透き通った声で囁きかけるように歌う摩訶不思議なメロディと、随所に小技を仕込んだ陰鬱なトラックが光る佳曲だ。

そして、本作の最後を飾る”On the Road”は、フル・クレイトとジャミール・ブルーナが制作にかかわっている曲。テルミンのようなフワフワとした音色のシンセサイザーを使った浮遊感のあるトラックに乗って、地声を多用した重々しいヴォーカルを聴かせるダークな雰囲気のミディアム・ナンバー。曲の途中でビートを変えることで楽曲に起伏を付けつつ、曲の雰囲気に一貫性を持たせるヴォーカルとアレンジのテクニックは流石としか言いようがない。

この作品では、今まで組んだことのないプロデューサー(といってもジャミールはジ・インターネットの同僚だが)を迎えて、自身のスタイルをベースにしつつ、新しい曲調に挑戦している。シアラやモニカのようなシンセサイザーを多用した現代的なR&Bのサウンドに、ケンドリック・ラマーやドレイクが採用するような電子楽器を駆使したヒップホップ色の強いトラック、ケイトラナダやサンダーキャットのようなエレクトロ・ミュージック色の強いビートなど、色々な音を積極的に取り入れながら、しっかりと自分の色に染め上げる技術は、強烈な個性でのし上がった彼女にしかできないものだと思う。

ビヨンセやメアリーJ.ブライジとは違うアプローチで、自身の個性を確立した彼女の持ち味を発揮しつつ、新しい一面をしっかりとみせてくれた魅力的なEP。これは次回作も期待できそうだ。

Producer
Anonxmous, Gwen Bunn, Ricci Riera, Full Crate, Jameel "Kintaro" Bruner

Track List
1. Moving Mountains
2. Bad Dream / No Looking Back
3. On the Road






Peejay - Walkin’ Vol 2 [2017 Black Label, YG Entertainment]

歌謡曲中心だった韓国の音楽界に、ヒップホップやR&Bを持ち込んで成功を収めたセオ・タジ&ザ・ボーイズのメンバー、ヤン・ヒョンソクが96年に立ち上げたYGエンターテイメント。設立当初は韓国で着実にヒット曲を生み出していたが、2012年にPSYの”GANGNAM STYLE”とビッグバンの”Fantastic Baby”という二つのヒット曲を送り出したことで、世界から注目を集める。

同社は現在、ウィナーやアイコン、ブラックピンクといったヴォーカル・グループを売り出す一方、リル・ヨッティの作品に客演し、2017年のサマー・ソニックではブラック・アイド・ピーズのステージで共演したことも話題になった、アメリカを拠点に活動する女性ラッパーのCLや、ガラントとのコラボレーションも記憶に新しいタブロを擁するエピック・ハイのようなラップ・グループなど、個性豊かなタレントを抱える総合企業として存在感を示している。

そんな同社が、現在力を入れているのが二つのサブ・レーベル。なかでも、”Fantastic Baby”を含む多くのヒット曲を手掛けてきたテディ・パクが運営するブラック・レーベルは、YGエンターテイメント所属のタレントに楽曲を提供したり、彼らとコラボレーションしたりするなど、コアな音楽ファンを意識した作風の会社ながら、メジャーの音楽シーンを意識した活動が目立っている。

このアルバムを制作したピージェイも、ブラック・レーベル所属のクリエイターの一人。既にインディー・レーベルで多くの実績を上げていた彼は、同社でも2016年に移籍したザイオンTの『OO』を共同プロデュースし、YGの看板グループ、ビッグバンのリード・ヴォーカル、テヤンのソロ・アルバム『White Night』では、アルバムの最後を飾る”Tonight”を制作するなど、主にR&B作品で優れた仕事を残してきた。

今回のアルバムは、2014年の『Walkin’』の続編。ゲストにはテヤンやザイオンT、カッシュといったYGや系列レーベルに所属するアーティストのほか、ベーンジーノやB-フリーといった他社所属の実力派ラッパー、サッチャル・ユーンやジョーン・ユー・ジョンといった演奏家を招き、生演奏と電子楽器を組み合わせた独自の音楽に取り組んでいる。

インストゥメンタル作品のオープニング曲”After Summer Day”から続く”Stranger”は、ザイオンTとのコラボレーション曲”Just”や、少女時代のテヨンをフィーチャーした”Don't Forget”などがヒットしている男性シンガー、クラッシュを招いたアップ・ナンバー。ドラムとベースにシンセサイザーを使った太いグルーヴと、しなやかなメロディが心地湯良いアップ・ナンバー。しなやかなメロディと洗練されたバック・トラックはドネル・ジョーンズの”U Know What’s Up”やカール・トーマスの”She Is”を連想させるが、こちらの曲はクラッシュの甘い歌声を強調した優しい雰囲気に仕上がっている。

これに対し、ザイオンTを起用した”Na B Ya”は、ハウス・ミュージックを連想させる四つ打ちを軸にしたビートと、ザイオンTの繊細なヴォーカルを活かした緻密でキャッチーなメロディが魅力のアップ・ナンバー。線が細く、声質が固いザイオンの声を際立たせるため、シンセサイザー中心のシンプルな伴奏に纏め上げたピージェイのセンスが光っている。生演奏を多用した曲が多いアルバムの中で、電子楽器を駆使したこの曲を違和感なく聴かせる技術は、クラブ・ミュージック畑の本領発揮といったところか。

だが、本作の目玉は、なんといってもYGの看板グループ、ビッグバンのテヤンと、ブラック・レーベルの共同経営者で、音楽プロデューサーとしても活動しているカッシュを招いた”Warigari”だろう。 90年代のヒップホップを連想させる、太く温かいビートとジョーンの色っぽい音色のギターを組み合わせた伴奏をバックに、テヤンのダイナミックなヴォーカルを聴かせるミディアム・ナンバーだ。レゲエ・グループ、ストーニー・スカンク出身のカッシュの高揚感溢れるラップが、上品な雰囲気の楽曲を適度に盛り上げている。楽曲はピージェイが手掛けたテヤンの”Tonight”にも少し似ているが、キャッチーで陽気な雰囲気のこちらの方がテヤンのファンにはウケそうだ。

また、ラップものではベーンジーノを起用した”I Drive Slow”が特徴的。機械で作ったビートを軸に、生演奏を加えるスタイル自体は、珍しいものではないが、アドリブを盛り込みつつ、それがレコードからサンプリングされた音ネタのように機能している点は面白い。韓国の人気ラッパーでは珍しい太く硬い声質のベンジーが、歌とラップを使い分けながら、巧みにトラックを乗りこなす姿にも着目してほしい。90年代のヒップホップを踏襲した楽曲に、新しい技術や表現を埋め込んで新鮮な音に聴かせる二人の遊び心が光る作品だ。

今回のアルバムは、彼がこれまでに発表してきた作品同様、生楽器と電子楽器の音を組み合わせたものになっている。韓国のポップスといえば、ビッグバンの”Fantastic Baby”やBTSの”Blood Sweat Tears”に代表される、トラップやEDMといった電子音楽の印象が強いが(もちろん、シンブルーやAKMUのような例外もいる)、このアルバムはそれとは異なる、ジャジー・ジェフやミツ・ザ・ビーツのような生音をヒップホップと融合したサウンドで、音楽シーンの真ん中に挑戦している。彼のスタイルはYGエンターテイメントや、同社のサウンドを支えるテディ・パク達プロデューサー陣とは大きく異なるが、彼らとは異なるスタイルでありながら、きちんとヒットに結び付く作品を作っている点は、流石としか言いようがない。

このアルバムを聴くと、R&Bやヒップホップの世界で流行しているサウンドを取り入れながら、急成長を遂げた韓国の音楽市場が成熟し、多彩な作品を送り出す段階に入ったことを改めて感じさせる。彼のようなミュージシャンがどこまで通用するのか、韓国だけでなく、アジアの音楽シーンの転換点になりそうだ。

Producer
Peejay

Track List
01. After Summer Day feat. Yun Seok Cheol & Jeong Yoo Jong
02. Stranger feat. Crush
03. Na B Ya feat. Zion.T
04. Warigari feat. Kush & Taeyang
05. I Drive Slow feat. Beenzino
06. Stay feat. Kumapark
07. Say No feat. Masta Wu
08. Thinking About You feat. B-Free
09. Moonstruck feat. Qim Isle & Oh Hyuk
10. Outro





PEEJAY/ WALKIN’ VOL.2 (CD) 韓国盤 ピージェイ
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