ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Omar - Love In Beats [2017 Freestyle]

85年にシングル『Mr. Postman』でデビュー。その後は”There's Nothing Like This”や”Music”、”Say Nothin’”などのヒット曲を残しつつ、7枚のアルバムを録音してきた、ロンドン出身のシンガー・ソングライター、オマーことオマー・クリストファー・ライフォーク。2012年には大英帝国勲章を授与されるなど、イギリスを代表するソウル・シンガーに上り詰めた彼にとって、4年ぶりとなるフル・アルバムが本作だ。

過去のアルバムでは、ウータン・クランのオール・ダーティ・バスタードやエリカ・バドゥなど、アメリカの有名なミュージシャンが数多く参加していたが、2013年に発表した前作『The Man』は、キャロン・ウィーラーのようなイギリス出身のシンガーや、ピノ・パラディーノやヒドゥン・ジャズ・オーケストラといった演奏畑の面々を招いた、どちらかといえばオマーの歌にスポットを当てた作品だった。あれから4年ぶりの新作となるこのアルバムでは、彼より10歳以上も若いミュージシャンをゲストに呼んで、これまでの作品とは一味違う、新しいスタイルの楽曲に挑戦している。

アメリカのジャズ・ピアニスト、ロバート・グラスパーとイギリスのラッパー、タイをフィーチャーしたオープニング・ナンバー”Vicky's Tune”は、グライムのビートを取り入れたアップ・ナンバー。過去の作品でもガラージや2ステップなど、若者に人気の新しいビートを取り入れてきた彼だが、本作でもしっかりとトレンドを押さえている。だが、何より面白いのは、この曲が生演奏で作られていること。スタジオ録音では希少な(ジャズ・ピアニストなのに!!)、ロバート・グラスパーの激しいアドリブや、オマー自身がドラムを叩いた高速で正確無比なビートは絶対に聴き逃せない、彼の高いスキルが楽しめる名曲だ。

続く”Insatiable”はロンドン出身のソウル・シンガー、ナターシャ・ワッツが参加したミディアム・ナンバー。90年代に一世を風靡したブラン・ニュー・ヘヴィーズのサウンドを彷彿させる、ヒップホップっぽいリズミカルなビートと、生演奏であることを強調したようなラフで軽快なベースやキーボードなどの伴奏が格好良い佳曲。太く温かいオマーの歌声と、爽やかで洗練されたナターシャのヴォーカルの好対照な個性が光っている。

それ以外では、マーヴィン・ゲイの『I Want You』の作者としても有名な、デトロイト出身のソウル・ミュージック界の大御所、リオン・ウェアを招いたロマンティックなミディアム・ナンバー”Gave My Heart Its So Interlood”や、ロンドン出身の女性デュオ、フロエトリーの一員、フローシストことナタリー・スチュアートがラップで参加した、音ネタを効果的に使ったヒップホップのビートが格好良い”Feeds My Mind”、キューバ出身の女性シンガー、マイラ・アンドラーデが客演した、ラテン音楽風のギターの音色が格好良い、三拍子を使った色っぽいソウル・ナンバー”De Ja Vu”など、生バンドを使いつつ、一工夫を凝らした個性的な曲が存在感を発揮している。

もっとも、このアルバムでは斬新な曲だけでなく、デビュー当時から演奏している、生バンドの温かい音色と、人間にしか出せないゆらゆらと揺れるようなグルーヴを大事にしたソウル・ミュージックもちゃんと収めている。その一つが、前年にリリースされたミニ・アルバムのタイトル曲”I Want It To Be”で、彼の代表曲”There's Nothing Like This”を思い起こさせる、太いベース・ラインと、キーボードなどのリズミカルな伴奏、ふくよかで柔らかい彼の歌声を堪能できるミディアム・ナンバーだ。

彼の音楽の面白いところは、これだけバラエティ豊かな音楽を作っているにも関わらず、バック・トラックの大半を生バンドの演奏で録音していることだろう。特に、オマー自身が担当することも多いドラムは、ヒップホップからジャズ、変拍子やガラージまで、色々なスタイルを取り入れてきた。その衰えることのない探求心の強さと、難解なビートを実現する技術力の高さが、彼の音楽に時代のトレンドを取り込んだ柔軟さと、何年経っても色褪せない普遍性を与えているように映る。

デビューから30年以上の時が経ち、祖国から叙勲を受けるほどの成功を収めた彼だが、まだまだ進化は止まりそうにない。確かな実力と、新しい音楽を受け入れる好奇心が揃った彼にしか作れない、2017年のソウル・クラシックだと思う。

Track List
1. Vicky's Tune feat. Robert Glasper & Ty
2. Insatiable feat. Natasha Watts
3. Gave My Heart Its So Interlood feat. Leon Ware
4. Feeds My Mind feat. Floacist
5. De Ja Vu feat. Mayra Andrade
6. Girl Talk feat. The Moteane - Lyefooks
7. This Way That Way
8. Hold Me Closer
9. I Want It To Be
10. Doobie Doobie Doo
11. Grey Clouds
12. Destiny feat. Jean Michel Rotin





LOVE IN BEATS
OMAR
FREESTYLE RECORDS
2017-01-27


Syd - Fin [2017 The Internet, Columbia]

フランク・オーシャンやタイラー・ザ・クリエイターを擁するロス・アンジェルスのヒップホップ・クルー、オッド・フューチャーの一員として活動する一方、同じクルーのメンバーでもある、プロデューサーのマット・マーシャンズと結成したバンド、ジ・インターネットの名義で3枚のアルバムをリリース。うち2015年に発表した『Ego Death』はグラミー賞のベスト・アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にノミネートするなど、既に活発な動きを見せている、ロス・アンジェルス出身のシンガー・ソングライター、シド・ザ・キッド(Syd Tha Kyd)ことシドニー・バレット。彼女にとって、初のソロ作品となるアルバムが、この『Fin』だ。

ジ・インターネットのアルバムを配給したコロンビアから発表した本作。発売時期(2017年2月上旬)が時期だけに、どうしても本作の1週間前にリリースされたマットのアルバム『The Drum Chord Theory』と比べてしまうが、あちらは制作や演奏も彼自身が担当した、コアなファンが対象の配信限定の自主制作盤。一方こちらは、ヒット・ボーイやジ・インターネットのスティーヴ・レイシーなど、複数のプロデューサーを起用して、幅広い層にアピールすることを狙ったメジャー配給の作品と、しっかり差別化している。

ジ・インターネット名義の作品や彼女の客演曲でも感じたことだが、シドのヴォーカルはアリーヤやアメール・ラリューを彷彿させる透き通った歌声と繊細な表現が持ち味で、メアリーJ.ブライジやビヨンセのような感情をむき出しにした泥臭い歌唱とは対極的なもの。本作では、そのヴォーカルと、自身や外部のプロデューサーを起用した多彩なトラックを組み合わせ、アーシーなソウル・ミュージックとも、洗練されたR&Bとも異なる、独自の作品を聴かせてくれる。

アルバムのオープニングを飾る”Shake 'Em Off”は、ヘビーなドラムの上にクリック音などの電子音を重ねたビートに乗せて、気怠そうな歌を聴かせるミディアム・ナンバー。電子音楽ともヒップホップとも異なる、シンプルだが癖のあるトラックと、彼女のひんやりとした肌触りの歌声の相性の良さが光っている。

続く、”Know”は、シドの歌い方がアリーヤの”One In A Million”に良く似ている、ファルセット中心の爽やかなヴォーカルが印象的な曲。ジ・インターネットの『Ego Death』にも参加しているニック・グリーンが作るトラックは、90年代のティンバランドやジャーメイン・デュプリを思い起こさせる変則ビート。曲の背後でふんわりと響き渡るシンセサイザーの音が幻想的な雰囲気を醸し出し、彼女の神秘的な歌声を引き立てている。

これ以外の曲では、アルバムからシングル・カットされた”All About Me”も面白い。”Know”と同じ、90年代のティンバランドが作りそうな変則ビートを取り入れた曲だが、こちらではいわゆるチキチキ・ビートを使っている。スティーヴ・レイシーがプロデュースしたこの曲は、変則ビートにホラー映画が使いそうな不気味なシンセサイザーのリフを組み合わせたトラックと、シド自身のペンによるラップ風のメロディを組み合わせたドレイクっぽい曲調のミディアム。取り入れている要素は過去のヒット曲で使われているものなのに、組み合わせ方ひとつで、斬新に聴こえる好事例みたいな曲だ。

また、上の3曲以外で絶対に聞き逃せないのは”Smile More”と”Body”の2曲。前者は、彼女自身が手掛けたミディアムで、本作の収録曲では珍しい、リズム・マシンを使った90年代のヒップホップっぽいドラムとシンセサイザーの伴奏を組み合わせたムーディーなビートの上で、色っぽい歌声を聴かせている、シンプルだが味わい深い曲。シンプル過ぎて言葉で表すのが難しいが、ジャスティン・スカイの『8 Ounces』エイジアンの『Love Train』などに収められてそうな、メジャー向けの洗練されたトラックの上で、ネットリと歌うロマンティックな曲と思ってもらえればありがたい。一方、後者はビヨンセの2016年作『Lemonade』に収録された”Sorry”などを手掛けている、メロXがプロデュースしたミディアム・バラード。シンセサイザーを駆使した重いビートとひんやりとした伴奏は他の曲と似ているが、ヴォーカルやバック・トラックの響き具合を調整して、彼女の歌声をより神秘的なものに仕立て直したテクニックが素晴らしい、本作の目玉だ。

こうやってオッド・フューチャー関連の作品を聴き比べてみると、彼らの作品はヒップホップやR&Bだと自認しつつ、ヒップホップの形式には執着していないように思える、ロックや電子音楽のエッセンスを取り入れたフランク・オーシャンの『Blondie』にしろ、色々な音楽の要素を取り込んだマットのアルバムにしろ、ヒップホップの核となる歌やラップ、ビートには拘りを持っていても、使う音色の種類や演奏形態、目指す声質等は自分の個性を重要視し、制作現場では必要なものや似合うものを選別して、自分達の作品に落とし込んでいるように思える。そういう性質のクルーに所属している彼女だからこそ、奇抜なのに、不自然さがない、本当の意味で個性的な作品に仕上げられたんだと思う。

彼女がオッド・フューチャーを越えて、どこまでいけるのかは、このアルバムを聴く限り未知数だが、まだ見せてない伸びしろが沢山あるように感じられた、そんな将来への期待も含めて、凄く面白いアルバムだ。

Producer
Syd, Hit-Boy, Melo-X, Steve Lacy etc

Track List
1. Shake 'Em Off
2. Know
3. Nothin to Somethin
4. No Complaints
5. All About Me
6. Smile More
7. Got Her Own
8. Drown in It
9. Body
10. Dollar Bills
11. Over
12. Insecurities





Fin
Columbia
2017-02-24


Missy Elliott - I'm Better (feat. Lamb) [2017 Goldmind, Atlantic]

ジョデシィのデヴァンテが後見人を担当したガールズ・グループ、シスタの一員としてデビューしたものの、肝心の作品は彼のトラブルでお蔵入り。その後、フェイス・エヴァンスの口添えもあって、裏方として再デビュー、702やSWVなどの作品に携わってきたヴァージニア州ポーツマス出身のラッパーでシンガー・ソングライターのミッシー・エリオット。

その後の彼女は、デヴァンテ門下のティンバランドと知り合い、彼が手がけるアリーヤのセカンド・アルバム『One In A Million 』にソングライターとして参加。その個性的なサウンドとメロディで一気に知名度を上げた。一方、彼女自身も、ラッパー兼シンガーとして"The Rain (Supa Dupa Fly)"でソロ・デビュー。その後も、"Sock It 2 Me"や"Hot Boyz"、"Get Ur Freak On"や"Work It"、"Lose Control"など、多くのヒット曲を残してきた。

今回の新作は、2015年の『WTF』、2016年の『Pep Rally』以来となる、彼女のニュー・シングル。直近の2作ではファレル・ウィリアムスがプロデュースを担当し、重いドラムを軸に据えつつ、軽快なハンド・クラップやスネアを使って軽妙なトラックにまとめあげた、ポップで癖のある楽曲を聴かせてくれたが、今回の新曲では、フロリダ州マイアミ出身の音楽プロデューサー、ケイノン・ラムがプロデュースと客演で参加。彼といえば、ビヨンセの"Countdowm"やジャズミン・サリヴァンの"Holding You Down (Goin' in Circles)"など、多くのヒット曲や、SWVの『I Missed Us』や『Still』、モニカの『New Life』など、ベテラン・シンガーの良質なアルバムを手がけてきた名手だ。

彼が提供したトラックは、ゾンビ・ネイションやトーマス・シューマッハが使うような、テクノやエレクトロ・ミュージックで使われる電子楽器を使ったもの。ブリブリと鳴り響く重低音の上でピコピコという電子音が合わさったトラックは、ミッシーの楽曲にふさわしい変則ビートで、曲調は全く異なるが、90年代に流行したマイアミ・ベースや、ティンバランドの作品の影響が垣間見えるものだ。そんな奇抜なトラックを器用に乗りこなすミッシーと、お世辞でも器用とは言えないが、要所要所で盛り上げるラムのラップを組み合わせ、キャッチーで個性的な楽曲に仕上げている。

これまで、新曲をリリースする度に、斬新なトラックでファンを唖然とさせてきたことを考えると、今回の新曲はどちらかといえば流行のサウンドを取り込んだ保守的な音楽に映る。だが、エレクトロ・ミュージックのサウンドを取り入れつつ、凡百のラッパーでは手も足も出ない奇抜なトラックを調達し、それを軽々と乗りこなしているあたりは、彼女の卓越したセンスと技術がなければできないものだと思う。

ファンの期待を大きく上回る内容ではないが、それでも毎年無数にリリースされる新曲の中では、屈指のレベルのクオリティと新鮮さを備えていると思う。今後リリースされるという新作アルバムへの期待を膨らませてくれる、魅力的なシングルだ。てか、ニューアルバムはいつになったら出るのだろう…。


Producer
Lamb, Bigg D





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