ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Solange ‎– A Seat At The Table [2016 Columbia]

ビヨンセの妹としても知られる、ヒューストン生まれ、ニューオーリンズ育ちのシンガー・ソングライター、ソランジュ・ノウルズ。彼女にとって、2008年の『Sol-Angel And The Hadley St. Dreams』以来、実に8年ぶりとなるオリジナル・アルバムが、この『A Seat At The Table』だ。

彼女がプロのミュージシャンになる前から、音楽業界のトップに君臨してきた姉、ビヨンセ。その存在は、彼女のキャリアに多くの恩恵をもたらすと同時に、足枷にもなってきたと思う。

まず、ソランジュのキャリア自体が、デスティニーズ・チャイルドや各メンバーの作品やステージに関する仕事からスタートしている。次に、彼女のデビュー・アルバム『Solo Star』は、デスティニーズ・チャイルドのマネージメントをしていた父、マシューのプロデュースの下、ティンバランドやネプチューンズといった、当時の音楽シーンを代表するクリエイターが集結した、デビュー作としては非常に豪華な布陣のアルバムだった。その後も、ビヨンセや他のメンバーのソロ作品に、ソングライターやヴォーカルとして参加するなど、彼女の音楽活動の背後には、ビヨンセを含む家族の存在があったことは否定できない事実だ。

その一方で、彼女のソングライティングの才能や、絹織物のように繊細な歌声と、ロックからミュージカル音楽まで歌いこなす技術は、長い間、過小評価されてきたと思う。彼女のパフォーマンスは、シャイ・ライツの曲を使ったファンキーなトラックを自然体で乗りこなし、エッタ・ジェイムスの”At Last”を本家顔負けの迫力ある歌声でカヴァーするほどの、豊かな声量と表現力を備えた姉を基準に、評価や比較をされ、時に、「物足りない」と形容されることもあったと記憶している。

端的に言えば、ソランジュは、「ビヨンセの妹」という出自のおかげで、他の歌手よりも多くのチャンスに恵まれたが、同時に、姉の才能やキャラクターを基準に評価されてきたように思う。

そんな彼女の転機になったのは、前作『Sol-Angel And The Hadley St. Dreams』だ。モータウン・サウンドをベースに、ロックなどの要素を加えた同作は、彼女と姉を明確に差別化し、一人のシンガーとしての評価を確立させた転換点だったと思う。

本作は、そんな前作の路線を踏襲しつつ、よりロック寄りにシフトした作品。

アルバムのクレジットを見て最初に気づくのは、父マシューが制作から離れ、代わりに多くのミュージシャンが参加していることだ。その中でも、特筆すべきは、本作が初参加となるラファエル・サディークの存在。往年のソウル・ミュージックと現代のR&Bを融合させる技術では、当代随一のミュージシャンだが、2011年のアルバム『Stone Rollin'』では、サイケデリック・ロックやブルースの要素も取り入れて見せるなど、黒人音楽への造詣の深さと、他のジャンルの音楽に向ける視野の広さでも、現役のミュージシャンの中では頭一つ抜けている。彼に加えて、ダーティー・プロジェクターズのデイヴィッド・ロングストレスや、メトロノミーのベンガ・アデレカンなどの、独創的な作風で知られるロック・ミュージシャン、リル・ウェインやQ-ティップなどの個性派ヒップホップ・アクト、ザ・ドリームやBJザ・シカゴ・キッドのような職人肌のR&Bシンガーが、本作のクレジットに名を連ねている。

この豪華な面々で録音された本作を聴いたとき、最初に感じた印象は、「非常に尖っている」ということだ。

アルバムのイントロ”Rise”から続く、実質的な1曲目、”Weary”に耳を傾けるとザ・ウィークエンドやガラントの作品を連想させる、前衛的なロック・バンドの抽象的な伴奏を使いながら、透き通った声で朗々と歌い上げる、神秘的な雰囲気のミディアム・ナンバー。そして、これに続く、本作からのシングル・カット曲”Cranes In The Sky”は、生ドラムっぽい音色を使ったビートと、シンセサイザーをストリングスのように使った伴奏が上品な雰囲気を醸し出すアップ・ナンバー。こちらは、ソランジュの繊細で爽やかな歌声が、ラファエルが作る流麗なメロディの良さを引き立てる美しい楽曲だ。

この他にも、ドレイクやSBTKTなどを手掛けているサンファやクウェスが作る、トキモンスタを彷彿させる抽象的なビートと、淡々と歌うソランジュのヴォーカルが心地よいアップ・ナンバー、”Don't You Wait”や、ドラム・シンセによる、冷たい手触りのビートと、耳元で優しくも語り掛けるような、柔らかさと明確な輪郭が心に残るミディアム”Don't Touch My Hair”など、往年のソウルから現代のロックやエレクトロ・ミュージックまで、色々な音楽の要素を出し入れして、彼女の透明で繊細だが芯の強いヴォーカルの持つ、多彩な表情を引き出している。

本作では様々なジャンルの実力に定評のあるミュージシャンを集め、従来のR&Bの枠に囚われない、バラエティ豊かな楽曲に取り組んでいる。その路線は、前作『Sol-Angel And The Hadley St. Dreams』や、フランク・オーシャン、ウィークエンドといった、2010年代の音楽シーンを牽引する、気鋭のR&Bシンガー達の作風の延長線上にあるものだと思う。だが、本作が大きく違うのは、ソランジュは自身の繊細で透き通った声をフルに活用していることだろう。自分の歌声を念頭に置いて、似合うスタイルを取捨選択しながら、色々な作風の楽曲に取り組むことで、斬新でありながら一貫性を感じさせる作品に纏め上げられたのだと思う。

個人的な憶測を言えば、彼女は、世間から「ビヨンセの妹」目で見られ続けたことで、誰よりも自身のスタイルを意識するようになり、結果として、姉や他のミュージシャンとは違う、独自の作風を確立することに成功したのだと思う。様々な音楽が混ざり合い、新しいサウンドが生まれていく2010年代を象徴する傑作だと思う。

Producer
Solange, Raphael Saadiq, Troy R8dio Johnson etc
Track List
1. Rise
2. Weary
3. Interlude: The Glory Is In You
4. Cranes In The Sky
5. Interlude: Dad Was Mad
6. Mad feat. Lil Wayne
7. Don't You Wait
8. Interlude: Tina Taught Me
9. Don't Touch My Hair feat. Sampha
10. Interlude: This Moment
11. Where Do We Go
12. Interlude: For Us By Us
13. F.U.B.U. feat. The Dream & BJ The Chicago Kid
14. Borderline (An Ode To Self Care) feat. Q - Tip
15. Interlude: I Got So Much Magic, You Can Have It feat. Kelly Rowland & Nia Andrews
16. Junie
17. Interlude: No Limits
18. Don't Wish Me Well
19. Interlude: Pedestals
20. Scales feat. Kelela
21. Closing: The Chosen Ones





A SEAT AT THE TABLE
SOLANGE
COLUMBIA
2016-11-18

 

Frank Ocean -Blonde [2016 Boys Don’t Cry]

ジョン・レジェンドやジャスティン・ビーバーへの楽曲提供で名を上げ、ジェイZの”Oceans”やビヨンセの”Superpower”などにフィーチャーされたことで一気に注目を集めた、ロング・ビーチ生まれ、ニューオーリンズ育ちのシンガー・ソングライター、フランク・オーシャン。彼にとって、2012年の『channel Orange』以来となる、通算2枚目のオリジナル・アルバム、『Blonde』が配信限定でリリースされた。(後にCDやアナログ盤も発売)

ジ・インターネットやタイラー・ザ・クリエイターを輩出しているロス・アンジェルスのヒップホップ・クルー、オッド・フューチャで鍛えられた鋭い音楽センスと、セリーヌ・ディオンから地元のジャズ・バンドまで、あらゆる音楽を吸収してきた豊かな感受性で、独創的な音楽を作ってきた彼。デフ・ジャムから発売された『channel Orange』では、オーティス・レディングをスマートにしたような、泥臭いソウル・ミュージックをベースに、フライング・ロータスの前衛的なトラックや、ジェイムズ・ブレイクのシンプルで抽象的なアレンジ、レディオ・ヘッドの繊細で退廃的なサウンドを一つにしたような、ジャンルの枠に囚われない音楽を聴かせてくれた。

4年ぶりとなる新作は、彼が立ち上げた自主レーベル、ボーイズ・ドント・クライからのリリース。フォーマット毎にアレンジなどが微妙に異なるなど、彼の音楽同様、奇抜なアイディアが光る作品だが、今回は最も入手しやすい、配信バージョンの内容に基づいて説明しよう。

アルバムに先駆けて公開された”Nikes”は、シンセサイザーの幻想的なハーモニーと、ヘリウムを吸ったような声に加工した、アンバー・カフマンのコーラスが不思議な雰囲気を醸し出すミディアム・バラード。曲の中盤から登場する、フランク・オーシャンの軽やかなヴォーカルが、先鋭的なトラックを古典的なソウル・ミュージックの伴奏のように聴かせているのが面白い。

それ以外の曲に目を向けると、元ヴァンパイア・ウィークエンドのキーボーディスト、ロスタム・バトマングリがアレンジ等を担当した”Ivy”では、アメリカのインディー・ロック・バンドが演奏しそうな、荒っぽいギターのリフをバックに、訥々と言葉を紡ぎ出すミディアム。薄っすらと流れるシンセサイザーの音色と、リバーブを使って響きを強化した演奏が、楽曲にふわふわとした雰囲気をもたらしている。

また、ファレル・ウィリアムズがトラックを作り、ビヨンセがヴォーカルで参加した”Pink + White”は、ファレルの近作でも披露されている三拍子のトラックの上で悠々と歌い上げている姿が印象的。

この他にも、ジェイムズ・ブレイクが制作で、ジャズミン・サリヴァンがバックコーラスで参加した”Solo”では、エフェクター等の使用は最小限に留め、ジェイムズ・ブレイクのキーボードとフランク・オーシャンのヴォーカルだけで勝負した弾き語りを聴かせ、ロス・アンジェルスを拠点に活動するジョン・ブライオンとスロウ・ホロウズのオースティン・フェインスタインが参加した”Self Control”では、レディオ・ヘッドの退廃的な演奏と、ジョン・レジェンドのキャッチーなソウル・ヴォーカルが融合したような、先鋭的だがキャッチーなバラードを聴かせている。”Ivy”や”Solo”、”Self Control”はドラムの音を使っていない曲だが、ソウル・ミュージックのグルーヴをきちんと残しつつ、それぞれを異なる作風に落とし込んでいる点は流石としか言いようがない。

それ以外にも、バート・バカラック作の有名曲を、シンセ・ドラムの乱れ打ちと、強力なエフェクターをかけたヴォーカルで、前衛的なポップスに組み替えた”Close to You”や、ビートルズの”Here, There and Everywhere”をサンプリングした弾き語り風のミディアム”White Ferrari”。ジェイズム・ブレイクとキム・バレルが参加した、ヨーロッパの教会音楽を連想させる荘厳なバラード”Godspeed”など、尖っているようで聴きやすい、キャッチーな音楽の中にアヴァンギャルドな要素を忍ばせた、懐かしさと新しさが同居した楽曲が揃っている。

アルバム全体を通して感じるのは、大きな成功を収めてもブレることのない、音楽へのまっすぐな姿勢と、鋭い嗅覚だ。ジェイムズ・ブレイクやファレル、ロスタム・バドマングリなど、実績豊富な個性派ミュージシャンを数多く招きながら、彼らのスタイルをそのまま取り入れるのではなく、彼らの音楽のエッセンスを自分の音楽の一部に組み込み、作風を広げている点は彼の大きな特徴だ。

万人の心をつかむキャッチーなメロディと、色々な音楽を吸収し、その要素を取り入れた新鮮なトラックで、「歌」というソウル・ミュージックやR&Bにとって一番大事な要素を強調した稀有な作品。斬新さと大衆性は両立できることが、この作品で証明された。

Producer
Frank Ocean etc

Track List
1. Nikes
2. Ivy
3. Pink + White
4. Be Yourself
5. Solo
6. Skyline To
7. Self Control
8. Good Guy
9. Nights
10. Solo (Reprise)
11. Pretty Sweet
12. Facebook Story
13. Close to You
14. White Ferrari
15. Seigfried
16. Godspeed
17. Futura Free

 

Childish Gambino - Awaken, My Love! [2016 Glassnote Records]

俳優としても、映画『オデッセイ』や『マジック・マイクXXL』などに出演し、テレビ・ドラマ『Atlanta』でゴールデン・グローブ賞を獲得するなど、マルチな才能を発揮しているドナルド・グローヴァー。彼のステージ・ネーム、チャイルディッシュ・ガンビーノ名義による通算3枚目となるオリジナル・アルバムが、ユニバーサル傘下のグラスノートから発表された。

これまでの作品では、フライング・ロータスの諸作品や、カニエ・ウエストの『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』以降の流れを汲む、電子音を巧みに組み合わせた抽象的なビートが特徴的な『Camp』や、電子楽器の音色を多用しつつ、ヒップホップのビートにロックやR&Bなどの要素を加えて、フランク・オーシャンやウィークエンドのブレイク以降、一気にブラック・ミュージックの主流となったクロスオーバー路線を意識した『Because the Internet』など、シンセサイザーやDAWソフトを駆使しながら、複数のジャンルを股にかけた、独自の音楽を聴かせてくれた。

そんな彼のオリジナル・アルバムとしては、2013年の『Because the Internet』以来、2年ぶりとなる本作。その特徴は、なんといっても制作体制の変化だ。前作では多くのクリエイターを共同作業者に招いていたが、本作では『Camp』を一緒に作った、ルドヴィグ・ゴランソンとの二人三脚で作った楽曲が大多数を占めている。一方、これまでの作品は、コンピューターやシンセサイザーを多用した少人数による録音だったが、本作ではオルガンやコーラスを含む多人数のバンドでレコーディングをするなど、作曲と演奏の両方でスタイルを大きく変えている。

アルバム発売に先駆けて公開された”Me and Your Mama”では、オルゴールっぽいシンセサイザーのフレーズにはじまり、マネキン人形のような冷たい肌触りのヴォーカルによるコーラスや、エフェクターで音を歪ませたギターが続き、その後をドナルド・グローヴァーの叫ぶようなヴォーカルが追いかける、ロックとヒップホップが入り混じった、幻想的なミディアム・ナンバー。楽曲の後半で流れる、アナログ・シンセの淡白な演奏が、幻想的な雰囲気にさらなる拍車をかけている。また、もう一つのシングル曲”Redbone”は、80年代の音楽を彷彿させる冷たいアナログ・シンセの音色で、70年代のソウル・ミュージックを彷彿させる、ロマンティックで温かいフレーズを鳴らした、R&B色の強いミディアム・ナンバー。艶々とした音色の伴奏がドナルドのかすれた歌声を引き立てている、スタイリッシュなのにどこか泥臭い楽曲だ。その他にも、アナログ・シンセやドラムを軸にした演奏隊の上で、パーラメントを思い起こさせる不協和音を含むコーラスと、色々な場所から採取したノイズをアクセントに使ったファンク・ナンバー”Have Some Love”、ジミ・ヘンドリックスの影響が感じられる、激しく歪んだ音色を使ったギター演奏と重々しいドラムを使ったビートが、バーケイズっぽく聴こえる伴奏をバックに、泣きじゃくるようなヴォーカルを聴かせるミディアム”Zombie”など、色々なスタイルの音楽を詰め込んだ、玉手箱のような音楽を聴かせてくれる。

彼の作品を聴いたとき、真っ先に思い浮かんだのは、ファンカデリックにはじまり、プリンスを経由してディアンジェロやエイドリアン・ヤングへと続く、ソウルやファンク、サイケデリック・ロックやヒップホップのエッセンスを混ぜ合わせた、闇鍋のようなソウル・ミュージックだ。ファンカデリックの”Good to Your Earhole”をサンプリングして、嵐のように混沌としたビートに組み替えた”Riot”は極端な例だが、本作の収録曲では、サイケデリック・ロックやジャズ、アンビエント・ミュージックなどで使われるフレーズが楽曲の随所で顔を覗かせている。もっとも、それは彼の趣味が変わったわけでも、彼がジョージ・クリントンのフォロワーであることを示すわけでもないと思う。というのも、これまでの作品でも、彼は電子音楽やロックなどを取り入れたR&Bやヒップホップを作ってきた。そして、今回のアルバムでは、使う楽器や声の種類が増えたことで、結果的に先人のサウンドを踏襲したのであり、意図的にフォローした作品とは一線を画していると思う。

マイルス・デイヴィスやジョージ・クリントン、プリンスやディアンジェロなど、色々なジャンルの音楽の要素を取り入れて、自分のスタイルを作り上げた先人達。彼らのように、一つの路線に固執せず、様々なスタイルを取り込んで自身の音楽性を固めた結果、偉大な先人の音楽性に近づいてしまったのは、偶然と必然の両面があるとはいえ、非常に面白いことだ。クリック一つで世界中の音楽が聴け、1台のコンピューターで無数の音を生み出せる時代だが、皆が彼のようなミュージシャンになれたわけではない。この作品を聴くと、知識や技術を具体的な作品に昇華させるのは、ほかでもない人間の感性なのだと再認識させられる。

Producer
Donald Glover, Ludwig Göransson

Track List
1. Me and Your Mama
2. Have Some Love
3. Boogieman
4. Zombies
5. Riot
6. Redbone
7. California
8. Terrified
9. Baby Boy
10. The Night Me and Your Mama Met
11. Stand Tall





Awaken, My Love!
Childish Gambino
Glassnote
2016-12-02


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