ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Mike Will Made-It - Ransom 2 [2017 Eardrummers, Interscope]

IBMの幹部として働きながらクラブDJとしても活動していた父と、銀行員をしながらゴスペル・クワイアに所属していた母を持ち、叔父はプロミュージシャンとして演奏していたという、音楽一家に生まれ育ったジョージア州のベッドタウン、マリエッタ出身のプロデューサー、マイク・ウィル・メイド・イットことマイケル・レン・ウィリアムス2世。

少年時代はスポーツに打ち込んでいたという彼は、次第にヒップホップにもハマるようになり、一時期はフリースタイルにも挑戦していたらしい。そんな彼は、14歳の時に父親からサンプラーをプレゼントされると、ビートメイキングの世界にのめり込むようになり、16歳になると地元のミュージシャンに作品を売り込んでいたという。

その後、父親の勧めで大学に進学したものの、音楽への思いは捨てられず、リック・ロスをフィーチャーしたシングル”Tupac Back”をヒットチャートに送り込むと大学を中退。プロ・ミュージシャンへの道を歩み始める。

大学を中退した彼は、アトランタを拠点に本格的な活動を始める。当初は、グッチ・メインとのコラボレーションを機に広がった人脈を活かし、フューチャーや2チェインズといった人気ラッパーを起用したミックス・テープの発表が主だったが、人気ラッパーを起用したヒットメイカーの作品ということもあり、すぐにメディアなどで取り上げられるようになる。

そして、カニエ・ウエストの”Cruel Summer”やリアーナの”Pour It Up”、リル・ウェインの”Love Me”といったヒット曲を次々と生み出しながら、マイリー・サイラスの”We Can’t Stop”といったポップス作品も手掛けるなど、ジャンルの枠を超えた活躍を見せるようになる。

今回のアルバムは、彼にとって初のフル・アルバム。インタースコープが配給したメジャー・レーベル作でもあるが、レイ・シュリマーの”Black Beatles”を全米総合チャートの1位に送り込むなど、飛ぶ鳥を落とす勢いの彼だけあって、ヒットのツボを的確に押さえた、完成度の高い作品を聴かせてくれる。

アルバムを聴いて最初に気になったのは、21サヴェージやミーゴスといったアトランタ出身の人気ラッパーに加え、コンプトン出身のYGという彼の作品に何度も客演している面々が集結した”Gucci On My”だ。彼が設立したイヤードラマーズ所属のプロデューサー、リソースが制作に携わった曲。チキチキという音色が印象的な王道のトラップ・ビートをバックに三者三様のラップを披露している。各人がヒット曲を残している人気ミュージシャンだが、このアルバムでは三者が互いを引き立て合う、他では聴けないパフォーマンスを披露している。

しかし、本作の目玉は何といっても”Perfect Pint”だろう。彼が初めて作品を提供したメジャー・レーベル所属のアーティストであるグッチ・メインに、彼にとって初のナンバー・ワン・ヒット作となった”Black Beatles”でお馴染みのレイ・シュリマー、そして本作の発売直後にリリースされた、マイクがプロデュースしたシングル”Humble”が、全米総合チャートで1位を獲得しているケンドリック・ラマーという豪華な面々を揃えた曲は、イヤードラマーズ所属のプロデューサー、DJフーとの共同プロデュース。水滴が滴り落ちるような音色のシンセサイザーを駆使した、みずみずしさとロマンチックな空気を漂わせるトラックが印象的。淡々と言葉を繋ぎつつ、切ない雰囲気を醸し出すラップも魅力的。攻撃的で荒々しいラップでファンを魅了してきたラッパーを招きながら、彼らの作品では聴けない意外な一面を引き出した面白い作品だ。

また、ファレル・ウィリアムスがゲスト・ヴォーカルで参加した”Aries (YuGo) ”も見逃せない曲だ。ファレルがヴォーカルを担当している曲では珍しい、自身がプロダクションに関与していないこの曲。制作を担当したマイクは、トラップのビートを基調にしつつ、色鮮やかな音色を盛り込んだ普段の彼とは一味違うトラックで、ファレルの音楽ともマイクの音楽とも違う、二人のコラボレーション作品に仕上げている。ファレルのヴォーカルも飄々としたいつものスタイルではなく、甲高いテナーを使ってじっくりと歌うものだ。また、メジャー・レーベルでの初録音となるラッパーのステーション・ワゴンPも二人の大物の間で、しっかりと自分の存在感をアピールしている。

そして、R&B好きには見逃せないのが、本作からの先行シングルで、収録曲では唯一のヴォーカル作品である”Nothing Is Promised”だ。”Pour It Up”を提供したリアーナをゲストに招いた作品はミディアム・ナンバー。リアーナの作品を数多く手掛けているカク・ハレルなどが制作に参加したこの曲は、マイクが得意とするシンセサイザーを多用した近未来的な雰囲気のトラップ・ビート、録音時点で20代だということが信じられない、円熟した表現と粘っこいリアーナの歌声が組み合わさった、コラボレーションのお手本のような作品だ。両者のスキルもさることながら、脇を固めるカク・ハレルやプラスといった、各人にとって縁の深い作家達の緻密で繊細な仕事が光っている。

今回のアルバムでは、強烈な個性と高い実績がウリの面々を集め、ここでしか聴けないバラエティ豊かな楽曲を聴かせている。プロデューサーが制作を主導し、豪華なゲストがパフォーマンスを披露する作品といえば、古くはファンクマスター・フレックスやトニー・タッチ、最近ではDJキャリッドカルヴィン・ハリスなどの名前が挙がるが、プロデューサーがホスト役となって参加アーティストの個性を組み合わせて楽曲を生み出す彼らに対し、トラック・メイカーとしての経験を活かして、アーティストの持ち味を活かしつつ、プロデューサーの個性を強く押し出した作品に落とし込んでいる。

豪華なゲストの魅力を活かしつつ、アーティストとしてのマイクの個性を打ち出した、捨て曲のない佳作。このアルバムを聴くと、現代のヒップホップやR&Bがアーティストとプロデューサーの共同作業の成果だということを再認識させられる。彼が今後、どんな化学反応を生み出してくれるか、今から楽しみだ。

Producer
Mike WiLL Made-It, Steve "The Sauce" Hybicki, 30 Roc, Ducko, Marz etc

Track List
1. On the Come Up feat. Big Sean
2. W Y O (What You On) feat. Young Thug
3. Hasselhoff feat. Lil Yachty
4. Gucci On My feat. 21 Savage, YG and Migos
5. Oh Hi Hater (Hiatus) feat. Fortune
6. Perfect Pint feat. Kendrick Lamar, Gucci Mane and Rae Sremmurd
7. Razzle Dazzle feat. Future
8. Bars of Soap feat. Swae Lee
9. Burnin' feat. Andrea
10. Y’all Ain’t Ready feat. 2 Chainz
11. Aries (YuGo) feat. Pharrell and Station Wagon P
12. Emotion On Lock feat. Eearz
13. Big God feat. Trouble and Problem
14. Faith feat. Lil Wayne and Hoodybaby
15. Come Down feat. Chief Keef and Rae Sremmurd
16. Outro
17. Nothing Is Promised feat. Rihanna





Mike Will Made-It
Eardruma
2017-09-29

Tawiah - Recreate [2017 Lina Limo]

2000年代の中頃から、コリーヌ・ベリー・レイやギルモッツなどのバック・コーラスで経験を積み、マーク・ロンソンのツアーにバンド・メンバーとして帯同するなどして実力をアピールしてきた、サウス・ロンドン出身のシンガー・ソングライター、タビアンこと、ビバーリー・タビアン。

演劇や舞踏を扱うブリット・スクールでパフォーミング・アートを学んだ彼女は、学校を卒業したあと、ジョディ・ミリナーとの共作で初の録音作品となるEP『In Jodi's Bedroom』を発表。ソウル・ミュージックに電子音楽やヒップホップを癒合した作品が評価され、ジャイルズ・ピーターソンが主催する音楽賞で新人賞を獲得している。

その後も、自身名義の作品をリリースしながら、エリック・ロウやブラッド・オレンジ、ポール・オークンフォードやティエストなどの作品に客演。BBCのドキュメンタリー番組にも取り上げられるなど、ジャンルの枠にとらわれない活躍で、着実に知名度を上げていった。

このアルバムは、自身名義の作品としては2011年のシングル『Sweet Me』以来、約6年ぶりとなる新曲。彼女の作品では初めて、インディー・レーベルが配給を担当している。また、プロデューサーにはロックバンド、ヘジラのメンバーで、エイミー・ワインハウスやマシュー・ハーバートなどの作品にも携わっているサム・ベスタを起用。彼女自身も積極的にペンを執り、密度の濃い音楽を聴かせている。

イントロの後に収められた本作の実質的な1曲目”Queens”は、コンピュータを多用した抽象的なサウンドと抑揚を抑えた淡白な歌唱が印象的なミディアム・ナンバー。ピアノやギターの演奏を混ぜ込んで、アコースティックな音楽のように聴かせつつ、人間の演奏ではあまり用いない変則的なビートで楽曲に斬新な印象を与えている。

続く”Don't Hold Your Breath”は、ヘジラのアレックス・リーヴやパーソナル・ライフのネイザン・アレンなどを招き、バンド演奏によるバック・トラックを採用したミディアム・ナンバー。ドラム・ロールを多用した重々しいビートをバックに、繊細な声質を活かした慎重な歌唱を聴かせている。生演奏を取り入れつつ、電子音楽のようなシンプルで先鋭的な音楽に聴かせるスキルは圧巻のものだ。

また、これに続く”Falling Short”は、本作の収録曲で唯一、楽曲制作の全てを彼女一人で行ったもの。 電子音を組み合わせたトラックは、デビュー作の収録曲を彷彿させる。テンポや調を随所で変える奇抜なバック・トラックを器用に乗りこなしつつ、ビートにはヒップホップの、上物にはエレクトロ・ミュージックの、ヴォーカルにはソウル・ミュージックのエッセンスを取り入れ、独特の作品に落とし込んでいる。

そして、本作の最後を飾る”Move With Me”は、彼女の作品では珍しい、シンプルなアレンジでメロディをじっくりと聴かせるタイプの曲。シャーデー・アデューを思い起こさせる透き通った歌声を、流麗なメロディに乗せて丁寧に届ける姿が光る曲だ。

今回の作品では、実質4曲というEPの形態を取りながら、彼女の先鋭的な音楽センスや、ヒップホップやエレクトロ・ミュージックといった、様々な音楽への深い造形、そして、しなやかな歌声を活かした繊細な表現が高いレベルで融合している。その作風は、サンファホセ・ジェイムスといったジャズや電子音楽とソウル・ミュージックを組み合わせたスタイルで、黒人音楽に新しい解釈を加えたアーティストの系譜を継いだものだといっても過言ではない。その中でも、彼女の場合、ヒップホップやソウル・ミュージックではあまり用いない奇抜なアレンジも積極的に取り入れつつ、メロディをしっかりと聴かせている点が大きな特徴だと思う。

色々なスタイルのミュージシャンが混在し、融合し、互いに刺激を与えあいながら新しいスタイルを生み続けているイギリスのブラック・ミュージック界隈を象徴する斬新な作品。R&Bやヒップホップに野蛮とか古臭いというイメージを持っている人にこそ聴いてほしい。

Producer
Sam Beste, Tawiah

Track List
1. Recreate Intro
2. Queens
3. Don't Hold Your Breath
4. Falling Short
5. Move With Me




Recreate
Tawiah
Imports
2017-08-18

Mila J - Dopamine [2017 Silent Partner]

後にイマチュアを成功に導く、同郷の音楽プロデューサー、クリス・ストークスが率いるダンス・グループで音楽業界入りのチャンスを掴み、幼いころからプリンスの”Diamonds & Pearls”などのミュージック・ビデオに出演。その一方で、姉妹と結成した女性版イマチュアのガールズ・グループGyrl(ギャル)の一員としても活動してきた、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身の日系アメリカ人のシンガー・ソングライター、ミラJことジャミーラ・アキコ・キロンボ。

ギャルの一員としては、イマチュアのツアーに帯同したほか、グループの名義でもシングル”Play Another Slow Jam”や”Get Your Groove On”などをヒットさせている。その後、彼女はデイム・フォーという別のグループに移籍。こちらでもシングル”How We Roll”などを残している。

そんな彼女は、2000年代初頭にソロへと転向。オマリオンなどの作品に客演しながら、マーカス・ヒューストンなどが参加した初のソロ作品『Split Personality』を制作するも、諸々の事情でお蔵入りとなる。しかし、2012年にジャパロニアの名義でミックス・テープを発表。その後、自身の名義でも作品を公開し70万ダウンロードを達成するヒット作となる。

その後、彼女はモータウンと契約、2014年にメジャー・レーベル作となるEP『M.I.L.A.』をリリースする。このアルバムは、DJマスタードやK.E.オン・ザ・トラックなどが制作を担当し、B.O.B.やタイ・ダラ・サインなどがゲストとして参加し、配信限定のデビュー作とは思えない豪華なもので、全米R&B/ヒップホップ・チャートの22位に入った。また、2016年には2作目のEP『213』を発表。クリス・ストークスやマーカス・ヒューストンとともに、彼女自身もプロデュースに携わり、R&Bが好きな人の間で高い評価を受けた。

このアルバムは、前作から約1年ぶりとなる、彼女にとって3枚目のEP。インディー・レーベルのサイレント・パートナーから発売された作品だが、収録曲のほぼすべてを、彼女の楽曲に携わってきたアイリッチことイマニュエル・ジョーダン・リッチがプロデュース。ソングライティングを彼女自らが手掛けた、アーティストとしてのミラJにスポットを当てたものになっている。

アルバムのオープニングを飾る”No Fux”はピアノの演奏をバックにしっとりと歌う姿が魅力的なスロー・ナンバー。低音を強調した艶めかしい歌声が、大人の色気を醸し出している。ピアノとヴォーカルを組み合わせた本格的なバラードを最初に持っていくスタイルは、バラードの表現力で名を上げたマーカス・ヒューストンを連想させる。

これに対し、”New Crib”はシンセサイザーを多用したヒップホップ寄りのトラックと、ゆったりとしたミラJのヴォーカルが心地よいミディアム・ナンバー。バラードにヒップホップの要素を取り入れたスタイルは、トレイ・ソングスやオマリオンの音楽によく似ている。大人の色気と表現力が発揮された佳作だ。

また、ヒップホップ色の強い作品としては”Move”が面白い。トラップやクランクを取り入れた高揚感のあるトラックに、ラガマフィンを取り入れた荒々しいヴォーカルが格好良いミディアム・ナンバーだ。地声を織り交ぜたワイルドな歌唱はリル・キムやフォクシー・ブラウン、ニッキー・ミナージュといった人気女性ラッパーの手法を踏襲したものだ。ハードなヒップホップとセクシーなR&Bを混ぜ合わせるスキルが光っている。

そして、本作の収録曲でも異彩を放っているのが”Fuckboy”だ。一度発表された曲をリミックスして再リリースした、彼女の思い入れの強さを感じさせる曲。90年代のヒップホップを連想させる。古いレコードからサンプリングしたような太く温かい音色を使ったビートをバックに、軽妙なヴォーカルを聴かせるミディアム・ナンバーだ。ヒップホップの要素を取り入れたミディアム・テンポのトラックと、グラマラスなヴォーカルの組み合わせはメアリーJ.ブライジの『My Life』の収録曲を思い起こさせる。

今回のアルバムは、モータウンを離れ、気心の知れたプロデューサーと二人三脚で制作した、彼女の個性が強く反映されたアルバムだ。しかし、その作風は流行の音を適度に取り入れつつ、歌とラップを上手に使い分けた、バランスの取れたものになっている。自らが制作の主導権を握り、持ち味を存分に発揮しつつも、流行の音をしっかりと取り入れて、リスナーの心を掴むスタイルは、若いころから流行のサウンドに触れてきた彼女の本領が発揮されたものといっても過言ではないだろう。

妹、ジェーン・アイコがガラントの作品に起用されるなど、注目を集める中、経験も実績も豊富な姉の存在感をアピールした面白いアルバムだと思う。本作をきっかけに彼女が再び注目を集め、表舞台に返り咲いてくれたらいいなと思わせる、高いクオリティの作品だ。

Producer
iRich

Track List
1. No Fux
2. La La Land
3. Transform U
4. I Do Love You feat. IRich
5. New Crib
6. Lit
7. Doomed
8. Longway
9. Move
10. Fuckboy
11. Drippin
12. Body
13. Bonfire





Dopamine
SILENT PARTNER ENTERTAINMENT/NOVEMBER REIGN
2017-04-07

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