ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

El Michels Affair ‎– Return To The 37th Chamber [2017 Big Crown Records]

リー・フィールズやダップトーン一派の周辺で活動していたレオ・ミッシェルが、2000年代初頭に結成したファンク・バンド、エル・ミシェル・アフェア。

2003年にデビュー・シングル『Easy Access』を発表すると、太く柔らかい音色と、重心を低く抑えた粘っこい演奏が、好事家の間で注目を集めた。そして、2005年にはウータン・クランのレイクウォンとコラボレーションしたシングル『The PJ's... From Afar』をリリース。その後、2009年にウータン・クランの楽曲をカヴァーしたアルバム『Enter The 37th Chamber』を発売。ヒップホップのサンプリング・ソースを通してソウルやファンクに慣れ親しんできた若い世代に、人間が演奏するファンク・ミュージックの面白さを知らしめた。その後もアイザック・ヘイズの楽曲をインストゥルメンタルでカヴァーしたEP『Walk On By (A Tribute To Isaac Hayes)』等をリリース。ヒップホップを経由して昔のブラック・ミュージックを知った若者から、往年の名アーティストをリアルタイムで聴いてきた年配の人まで、幅広い層から高い評価を受けてきた。

今回のアルバムは『Enter The 37th Chamber』以来、約8年ぶりとなる、彼らにとって通算3枚目のフル・アルバム。『Return To The 37th Chamber』というタイトルが示す通り、前作に引き続きウータン・クランの楽曲に加え、メンバーのソロ作品を演奏した、カヴァー・アルバムになっている。

本作の1曲目、2016年にシングル盤でリリースされた”4th Chamber”はGZAの95年作『Liquid Swords』に収録された曲のリメイク。ヘヴィーなビートとズンズンと鳴り響くベース、おどろおどろしいギターやホーンの音色が印象的なオリジナル・ヴァージョンを、原曲よりもギターやキーボードの音を強調した、キャッチーなファンクに仕立て直している。音のバランスや楽器の音色以外、原曲とほとんど変わらないあたりに、彼らの演奏技術の高さと、ウータン一派のブラック・ミュージックへの愛着が感じられる。

これに続く”Iron Man”はゴーストフェイス・キラーが2000年に発表したアルバム『Supreme Clientele』に入っている”Iron's Theme”が原曲。1分半のインターミッションを3分半の楽曲に再構成するアレンジ技術も凄いが、ゴーストフェイス・キラーの楽曲の醍醐味ともいえる、人間が歌っているかのような、豊かな感情表現を忠実に再現した演奏も本作の醍醐味。個人的な願望だが、彼らの演奏をバックに、ゴーストフェイスがラップするステージを見てみたい。

それ以外の曲で気になるのは、前作にはなかったゲスト・ヴォーカルをフィーチャーした楽曲群。その中でも、2002年のアルバム『Problems』以降、ほぼ全ての作品でレオン・ミッシェルを起用するなど、彼らと縁の深いリー・フィールズが参加した、93年のアルバム『Enter the Wu-Tang (36 Chambers)』の収録曲”Tearz”のリメイクでは、原曲にサンプリングされた楽曲のフレーズを取り入れて、ヒップホップのビートとソウル・ミュージックの歌を融合させた面白い楽曲。元ネタが女性シンガーの曲であるサビの部分は、きちんと女性ヴォーカル(シャノン・ワイスという人らしい)が担当しているなど、芸が細かい点にも注目してほしい。

また、歌ものという意味では、彼らのレーベル・メイトでもあるレディ・レイが参加した”All I Need”も見逃せない。メソッドマンが94年にリリースしたグラミー受賞曲をリメイクしたこの曲は、マーヴィン・ゲイとタミー・テレルのデュエット曲“You're All I Need to Get By”のフレーズを取り入れたオリジナル・ヴァージョンを意識したのか、メアリーJブライジが担当したパートをレディ・レイが担当している。メアリーJに比べるとレイの歌声は線の細いが、元ネタで歌ってるタミー・テレルも可愛らしい声がウリのシンガーだったので、特に違和感はない。むしろ、可愛らしさを保ちつつ、演奏に負けないパワフルな歌が印象的なくらいだ。個人的には、マーヴィンのパートを男性シンガーに吹き込んでもらって、本格的なソウル・ミュージックとして作り直してほしいなと思った。

本作では、メンバーのソロ作品にまで視野を広げる一方、ヴォーカル・パートを含む曲やシングル・カットされなかった比較的地味な曲も丁寧に取り上げている。おそらく、実績を積んで色々な音楽に挑戦する機会を得られたことや、メンバー以外の様々なアーティストを作品に起用できるようになったのだと思う。

ヒップホップのカヴァーと銘打ちつつ、そのサンプリング・ソースであるソウル・ミュージックやファンクの醍醐味にまで手を伸ばした意欲作。収録曲や原曲はもちろん、その曲のサンプリング・ネタも聴きたくなる。ブラック・ミュージックの入り口には最適なアルバムだと思う。

Producer
Leon Michel

Track List
1. 4th Chamber
2. Iron Man
3. Shaolin Brew
4. Pork Chop Express
5. Snakes feat.Lee Fields
6. Drums For Sale
7. Shadow Boxing
8. Sipped Up
9. Tearz feat.Lee Fields and The Shacks
10. Verbal Intercourse 11. Wu-Tang Clan Ain’t Nuthing Ta F’ Wit
12. All I Need feat.Lady Wray
13. The End (Eat My Vocals)





リターン・トゥ・ザ 37th チェンバー
エル・ミシェルズ・アフェアー
Pヴァイン・レコード
2017-04-19

 

Wayne Snow ‎– Freedom TV [2017 Tartelet Records]

ナイジェリア出身、現在はベルリンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、ウェイン・スノー。

ベルリン移住後は、マックス・グリーフやニュー・ギニアといった電子音楽、ヒップホップ畑のクリエイターの作品でマイクを握る一方、自身の名義でも、2014年にシングル『Red Runner』を、翌年には『Rosie』を発表。それ以外にも、ベルリンをはじめ、ニューヨークやロンドン、シドニーなど、世界各地のステージでパフォーマンスを披露。精力的に活動してきた。

本作は、彼にとって初めてのフル・アルバム。プロデューサーにはマックス・グリーフやニュー・ギニア、ニュー・グラフィックといった、これまでにコラボレーションをしたことのあるクリエイターが集結。彼自身もヴォーカルだけでなく、ソングライティングやプロデュースなどで腕を振るった力作になっている。

アルバムの1曲目”Cooler”は、彼が他のミュージシャンとは一線を画していることをリスナーに感じさせる、このアルバムの作風を象徴するような楽曲。フライング・ロータスやトキモンスタのようなエレクトロ・ミュージック畑のクリエイターが多用するような電子音を使った、マックス・グリーフ作のトラックと、マックスウェルのような繊細さと、ディアンジェロのように絶妙な力加減を兼ね備えたウェインのヴォーカルが光る、神秘的な雰囲気のミディアム・ナンバー。音と音の隙間を長めに取り、「響き」を聴かせるトラックは、電子音楽畑の人間の持ち味が発揮されていると思う。

これに対し、2014年にシングル化された”Red Runner”は、ギターっぽい音色の伴奏や、ハウス・ミュージックのビートを取り入れたアップ・ナンバー。フランキー・ナックルズやジョーイ・ネグロのようなハウス・ミュージックの要素を取り入れつつ、テンポを変化させたり、色々な音色を挟んだりすることで、起伏に富んだ楽曲に仕上げている。

これに対し、もう一つのシングル曲である”Fall”は、電子音楽とソウル・ミュージックを融合させたR&B寄りの作品。甘い音色を響かせるギターや、ビヨビヨという電子音、R&Bではあまり耳にしない、変則的なビートなど、多くの要素を詰め込みながら、音数は少なく、シンプルなトラックをバックに、幻想的な歌声を響かせる楽曲。楽曲の中盤で、ビートが四つ打ちに変化するなど、ヒップホップのクリエイターとは一味違う曲作りに、電子音楽のクリエイターの矜持を感じる。余談だが、この曲のほか、”Red Runner”を含む序盤の4曲など、10曲中6曲がマックス・グリーフのプロデュース。一人のクリエイターがこれほどのバラエティ豊かな楽曲を作ったあたりに、エレクトロ・ミュージックの表現の幅広さと奥深さを再認識させられる。

だが、本作の隠れた目玉は”Rosie”だと思う。昔のレコードからサンプリングしたような温かい音色のドラムに、アナログ・シンセシンセサイザーの音とデジタル機材を使い分けた癖のある伴奏を組み合わせたトラックと、抽象的なメロディやファルセットを多用したヴォーカルのコンビネーションが素晴らしい、ディアンジェロの”Brown Sugar”を彷彿させるミディアム・ナンバー。本作の中では最も電子音楽の影響が薄い曲だが、楽器の音の並べ方や、ヴォーカルの使い方は、他の曲と同じスタイル。彼らの表現の幅の広さにも驚かされるが、それ以上に、ディアンジェロの先見性を再認識させられる魅力的なミディアム・ナンバーだ。

今回のアルバムは、電子音楽のバラエティ豊かなビートを用いて、アメリカのR&B作品とは一味違う、独創的な作品に仕上がっている。もっとも、サンファの『Process』FKJの『French Kiwi Juice』ケイトラナダの『‎99.9%』を聴いたときにも感じたのだが、電子音楽のクリエイターが作るR&Bは、メロディ、歌声、トラックの三つのバランスをとるのが凄く難しいように映る。だが、このアルバムで、上述の三者同様、主役の歌声や楽曲のメロディを大切にしつつ、多彩な楽曲を「R&Bに聴こえる範囲で」作り上げた彼らの技術と、ウェインの作曲、歌唱能力には目を見張るものがある。

本作は、R&Bには生演奏やサンプリング音源、美しいメロディが欠かせないと思っていた人には異色に映るだろう、だが、抽象的なトラックや、様々な電子音を駆使したトラック、繊細なメロディやヴォーカルを用いても、きちんと「R&B」に聴こえるのがこの作品の面白いところ。カンやクラフトワークといった、音楽業界に革命を起こしたアーティスト達を輩出した、ドイツのポピュラー・ミュージック・シーンの奥深さを感じさせる魅力的な作品だ。

Producer
Max Graef, Neue Grafik, Nu Guinea, Wayne Snow

Track List
1. Cooler
2. Still In The Shell
3. Drunk
4. Red Runner
5. The Rhythm
6. Rosie
7. Fall
8. Nothing Wrong
9. Freedom RIP
10. Nothing But The Best
11. Rosie (Hubert Daviz Remix) [Japan Bonus Track]
12. Red Runner (Glenn Astro & IMYRMIND Remix) [Japan Bonus Track]





Freedom TV
Wayne Snow
SWEET SOUL RECORDS
2017-04-12


 

Kamasi Washington - Truth [2017 Young Turk]

スヌープ・ドッグやロビン・シックといった有名なヒップホップ、R&Bアクトの作品をはじめ、ケニー・バレルやジョージ・デュークなどの大物ジャズ・ミュージシャンの録音、はたまた、ケンドリック・ラマーやフライング・ロータス等の気鋭のミュージシャンの楽曲まで、様々な音源に携わってきた、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のテナー・サックス奏者、カマシ・ワシントン。

色々なミュージシャンの楽曲に参加する一方で、自身の名義でも、2005年にザ・ネクスト・ステップとのコラボレーション作品『Live At 5th Street Dick's 』でレコード・デビュー。その後、2015年までに自主制作で発表した3作品を含む5枚のアルバムを発表してきた。

そんな彼が、多くの人から注目を集めるようになったのは、2014年から2015年にかけて参加した3枚のアルバムによる部分が大きい。フライング・ロータスの『You're Dead! 』、ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly 』、サンダーキャットの『The Beyond / Where The Giants Roam』という、傑作と称される録音で印象的な演奏を聴かせた彼は、いち演奏家でありながら、多くの人から知られる存在になった。

そして、2015年には、フライング・ロータス達の作品を配給しているブレインフィーダーからCD3枚(LP盤も同じ)、約3時間という大作『Epic』を発表。ヒップホップやソウル・ミュージック、アフリカ音楽などの要素を楽曲の隅々にまで盛り込んだ作風で、昔からのジャズ愛好家からヒップホップのサンプリング・ソースを通してジャズの古典に触れた若者まで、幅広い世代から注目を集めた。

今回のEPは、自身の名義では『Epic』以来、約1年半ぶりの新作で、TheXX等の作品を配給している、ヤング・タークスからリリースされた、彼にとって初のEPでもある。

EPといっても、収録されているのは13分にも及ぶタイトル曲”The Truth”のみ。だが、この曲には、彼の豊かな経験と実績が生み出した、壮大な音の絵巻物が盛り込まれている。

参加ミュージシャンの一覧を見て驚いたのは、その人数。過去の作品でも2~30人規模での録音は残しているが、本作ではサックスが2名(もちろん、テナーサックスの担当はカマシ自身だ)に、ベースが2名、ドラムが2名(うち1名はパーカッションと兼任)に、チェロやバイオリン、キーボードやコーラスなど総勢17パート約30名のミュージシャンが、たった1曲のために終結ている。

しかも、この中には、エレキ・ベース担当のサンダーキャットことステファン・バーナーや、ダブル・ベース担当のマイルズ・モーズリー、ドラム担当のロナルド・バーナー・ジュニアなど、2017年に入って新作を発表した、人気と実力を兼ね備えたプレイヤー達も名を連ね、カマシの新作に華を添えている。

さて、肝心の内容だが、この曲では、キャメロン・グレイブスの滑らかなピアノ演奏から幕を開ける。その後は、ダブル・ベースやギターの艶めかしいフレーズが続くと、ヴィブラフォンやキーボード、ホーン・セクションなど、次々と色々な楽器が加わっていき、中盤からは、ストリングスやコーラスなども入り、まるでクラシック音楽の交響曲のような、雄大でロマンティックな演奏が展開される。

しかし、後半に入るとサックス、ドラム、ベースを軸にした、所謂ステレオタイプの「モダン・ジャズ」に近いスタイルの演奏を挟み、再び壮大なオーケストラへ。その後も、ベースやストリングスのソロ(ストリングスは複数なので厳密には「ソロ」ではないが)へと続き、エレキ・ギターVSストリングスの演奏バトルや、彼らの演奏に絡みつくコーラスなど、音と音が混ざり合ったバロック絵画のように鮮やかで躍動感たっぷりの演奏で幕を閉じる。

彼の新作を聴いた後に、真っ先に思い出したのはアリス・コルトレーンの『World Galaxy』やファラオ・サンダースの『Karma』のような、70年代前後にリリースされたジャズのレコードだ。ストリングスやコーラスといった、ジャズの世界ではあまり使われない楽器を加え、大人数で録音。レコード盤の片面をフルに使った、ジョン・コルトレーンの『Om』や、ファラオ・サンダースの『Black Unity』のように、収録曲を絞り、1曲でアルバム1枚分の起承転結を表現する。カマシの演奏からは、彼らの影響を強く感じた。

おそらく、本作の背景には、サンプリング文化や、レアグルーヴ・ムーヴメント、彼を取り巻く環境(『The Epic』を配給したブレインフィーダーの主催者、フライング・ロータスはジョンとアリスの甥だ)など、色々な要素があると思う。だが、一番大きいのは、物心がついたころからヒップホップやR&B、エレクトロ・ミュージックが身近にある現代のミュージシャンにとって、ソウル・ミュージックやアフリカ音楽を包括した彼らの音楽は、親しみやすく、刺激的だったのだと思う。

ヒップホップなどを聴いて育った新しい世代が、フリー・ジャズやソウル・ジャズを自分の時代に合わせてアップトゥデイトした演奏が繰り広げた、壮大かつ刺激的な作品。この録音が気に入った人は、ぜひ往年のジャズのレコード(できれば『Impulse!』のロゴが入ったもの)を手に取って欲しい。今から40年近く前に、ソウルやファンク、アフリカ音楽などが入り混じった複雑なのにキャッチー、緻密なのにダイナミックな音楽を作り上げた人々がいたことに驚かされると思う。

Producer
Kamasi Washington

Track List
1. The Truth



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