ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Malik - Malik [2017 Silent Giant Entertainment ]

ベイビー・バッシュなどの作品を配給してきたカリフォルニア州ロス・アンジェルスのヒップホップ、R&Bレーベル、サイレント・ジャイアント。同社から気鋭の男性シンガー、マリクの初のフル・アルバムがリリースされた。

カリフォルニア州オックスナード生まれ、ベイカーズフィールド育ちの彼は、アフリカ系アメリカ人やチカーノなど、様々な人種の人々に囲まれて育つ中で、幅広い音楽にふれてきたという。そんな彼は、家族の都合で欧州に移住するが、彼自身は進学のため帰国。アメリカで学業の傍ら、音楽の腕を磨いてきた。

 アルバムの実質的な1曲目"Lady" は、ディアンジェロが95年に発表した1枚目のアルバム『Brown Sugar』の収録曲。ヒップホップのエッセンスを取り込んだ生演奏が印象的だったミディアム・バラードを、シンセサイザーを多用してモダンなR&Bに生まれ変わらせた発想が面白い。ディアンジェロの繊細な歌唱と、マリクのナヨっとしたヴォーカルの、似てるようで異なるアプローチも聴きどころ。

続く”Closer Than Friends”は、80年代に一世を風靡した3人組、サーフェスが88年に発表した2作目『2nd Wave』からのシングル曲。彼らの代表曲"Happy"のフレーズを盛り込んだ浮遊感たっぷりのトラックをバックに、しっとりと歌ったアップ・ナンバー。サーフェスという素材をフル活用して、原曲の大人っぽい雰囲気を丁寧に踏襲した良質なカヴァーだと思う。

一方、2015年の復活作も記憶に新しい、ジョデシの91年作『Forever My Lady』に収録されている”Come And Talk To Me”のカヴァーは、ドロドロとした歌唱が魅力的だったジョデシのバージョンを意識した、粘っこい歌唱が印象的。サンプリングを多用した原曲に対し、電子楽器を使ったスタイリッシュな伴奏のカヴァーだが、オリジナルの甘ったるい雰囲気をきちんと表現している点は面白い。

また、トニ!トニ!トニ!の93年作『Sons of Soul』からシングル・カットされた"Anniversary"のリメイクは、ラファエル・サディーク作の柔らかいメロディを大切に歌いつつ、デジタル機材のクールな音色と巧みに混ぜ合わせた美しいバラード。生楽器が生み出す複雑な感情表現が削ぎ落された分、主役の歌にスポットが当たっていると思う。

それ以外にも、電子楽器を活用したモダンなアレンジが印象的なアイズレー・ブラザーズの"Between The Sheets"や、プリンスの刺々しいサウンドやメロディを残しつつ、現代風のR&Bに落とし込んだ"Shhh"。スモーキーの滑らかなヴォーカルを忠実に再現した”The Agony And The Ecstasy”など、聴きどころは無数にある。

このアルバムを聴いて思い出したのは、2000年代初頭にソウル・クラシックをカヴァーしたアルバムで話題になったフランスのミュージシャン、フィンガズの存在だ。もっとも、彼の作品では80年代以前の作品を中心に取り上げているのに対し、マリクのアルバムは90年代のヒット曲が中心と、選曲の方針も大きく異なっている上、フィンガズの作品はトークボックスをフル活用した斬新な解釈がウリのウエストコースト・ヒップホップ寄りのアレンジ、一方、こちらのアルバムはマリクの繊細な歌声を活かしたシンプルなアレンジの、チカーノ・ヒップホップを意識した作風と、「昔のブラック・ミュージックのカヴァー・アルバム」という共通点はあるが、その仕上がりは全く異なっている。その差の理由は色々あると思うが、マリクの場合、チカーノや黒人の文化を意識しつつも、魅力的なメロディの原曲と真っすぐに向き合い、その良さを丁寧に引き出そうとしたのが功を奏したと思う。

90年代以前のR&Bが今も愛されている日本では盛り上がりそうなアルバムだが、アメリカやヨーロッパではどうなるのか、不安要素が残るが、実力の高さは折り紙付きの素敵なシンガー。次はオリジナル曲を聴きたいな。

Track List [カッコ内はオリジナル・アーティスト]
1. Intro
2. Lady [D'Angelo]
3. Closer Than Friends [Surface]
4. Come And Talk To Me [Jodeci]
5. Anniversary [Tony! Toni! Toné!]
6. Between The Sheets [The Isley Brothers]
7. Shhh (Break It Down) [Prince]
8. The Agony And The Ecstasy [Smokey Robinson]
9. Lady (Stripped Down)
10. Closer Than Friends (Stripped Down)
11. Come And Talk To Me (Stripped Down)
12. Anniversary (Stripped Down)
13. Between The Sheets (Stripped Down)
14. Shhh (Break It Down) (Stripped Down)
15. The Agony And The Ecstasy (Stripped Down)





マリク
マリク
Pヴァイン・レコード
2017-03-02

 

Khalid - American Teen [2017 RIGHT HAND MUSIC GROUP, RCA]

2016年に発表されたデビュー・シングル『Location』がR&Bチャート最高15位を含む、長期間に渡るヒットになったことで注目を集めた、ジョージア州フォート・スチュアート生まれ、テキサス州エル・パソ育ちのシンガー・ソングライター、カリードこと、カリード・ロビンソン。彼にとって、初のオリジナル・アルバムとなる『American Teen』が、RCA傘下のライト・ハンド・ミュージックからリリースされた。

軍の電源技術者だった母の元、全米各地を転々としていた彼は、ハイ・スクール生活の後半からエル・パソに定住。このころから、学業と並行して音楽活動を行うようになった彼は、2016年にデビュー曲”Location”を発表。この曲がリアリティ・ショーの司会者カイリー・ジェナーのスナップチャットで紹介されたことを切っ掛けに、局所的なヒットとなり、最終的に複数のネット・メディアで取り上げられるようになる。その後も、アリーナ・ベレズなどのシングルにフィーチャーされるなど、いくつかの作品に起用された彼は、2017年3月、満を持して初のフル・アルバムをリリースするに至った。

アルバムのオープニングを飾るタイトル・トラック”American Teen”は、シェリルやアレクサンダー・オニールといった80年代のソウル・シンガーの楽曲を思い出させる、電子ドラムやシンセサイザーの軽い音色が新鮮なミディアム・ナンバー。90年代までのR&Bでは幾度となく見られた、一つ一つの言葉を丁寧に吐き出すヴォーカルが、ラップのように言葉を畳みかけるシンガーが主流になった2017年には却って斬新に映る。

また、アルバムに先駆けて発売された”Location”はブライソン・テイラー”Ten Nine Fourteen”やケリー・ローランドの”Love Me Til I Die”などに携わってきた、シックセンスなどが参加したミディアム・ナンバー。ネプチューンズの”Frontin’”などを連想させる限界まで音数を絞ったビートと、ドレイクやT-ペイン以降のR&Bのトレンドを踏襲した、ラップと歌の中間のような、緩いメロディのヴォーカルが心地よい楽曲だ。

続く、”Another Sad Love Song”は、柔らかい音色のシンセ・ドラムが、リル・ルイスの”French Kiss”やフランキー・ナックルズ”Whitsle Song”が流行していた90年代初頭のハウス・ミュージックを彷彿させる四つ打ちのダンス・ナンバー。DJDSが手掛けるハウス・ミュージックより少しテンポを落としたトラックに、中国の民謡っぽいメロディを組み合わせて、YMOの”東風”のような、異国情緒を感じさせる楽曲に落とし込んだ発想が面白い曲だ。

一方、シックセンスがプロデュースした”Saved”はチキチキ・ビートをベースに、温かい音色のギターと、クールなシンセサイザーの音色を使い分けた伴奏が不思議な雰囲気を醸し出すスロー・ナンバー。カリードの朴訥とした歌と、アッシャーやクリス・ブラウンが歌っても違和感のないモダンなトラックの組み合わせが新鮮だ。

それ以外にも、シンセサイザーの音色をホーン・セクションのように使った高揚感たっぷりのトラックと、どこかのんびりとした雰囲気さえ感じさせるカリードの歌声の対比が面白いアップ・ナンバー”Winter”や、パーティネクストドアの作品を思い出させる、電子音を組み合わせて作られたヒップホップのビートと、哀愁を帯びたメロディが印象的な”Therapy”、ゴリラズの新曲と勘違いしそうなコンピュータを駆使して作られた近未来的なサウンドの上で、武骨な歌声を響かせる”Shot Down”など。シンセサイザーを多用したモダンなトラックと、器用ではないが、太い声を使って丁寧に歌い上げた、牧歌的なヴォーカルが光る楽曲が並んでいる。

インタビューによると、彼はチャンス・ザ・ラッパーやフランク・オーシャン、ケンドリック・ラマーといった、同世代の若者が聴くような2010年代にブレイクした、先鋭的な作風のミュージシャンから強い影響を受けたらしい。確かに、彼の音楽から、ロックや電子音楽の要素を巧みに引用した、彼らのスタイルの影が全く見えないと言ったら嘘になる。だが、彼の音楽が他の人と大きく異なるのは、自身の武骨なヴォーカルを活かす形で、色々なミュージシャンのスタイルを取り込んでいるところだと思う。カリードの音楽は、新しいサウンドを取り入れつつも、自身の朴訥としたヴォーカルと混ぜ合わせることで、幅広い年代、地域の人に親しみやすい作風に落とし込んでいる点が、他の作品と大きく異なっている。

新鮮さと大衆性を両立したという意味では、ウィークエンドやドレイクの次を狙えるアルバムだと思う。保守的なテキサスの空気と若い感性がうまく融合した、面白い作品だ。

Producer

Alfredo Gonzalez, Bryan Medina, Daniel Picciotto, Dave Sava6e, DJDS, Hiko etc

Track List
1. American Teen
2. Young, Dumb & Broke
3. Location
4. Another Sad Love Song
5. Saved
6. Coaster
7. 8TEEN
8. Let’s Go
9. Hopeless
10. Cold Blooded
11. Winter
12. Therapy
13. Keep Me
14. Shot Down
15. Angels





American Teen
Khalid
RCA
2017-03-03

a
 

Nao - For All We Know The Remixes EP [2017 Little Tokyo Recordings]

ノッティンガム生まれ、イースト・ロンドン育ち、ダイドやジョージ・マーティンも卒業したロンドンの名門校、ギルドホール音楽演劇学校を卒業している、シンガー・ソングライターで音楽プロデューサーのナオことネオ・ジェシカ・ジョシュア。

バック・コーラスやガールズ・グループ、ボクセッツとしての活動でキャリアを積みながら、2014年には初のEP『So Good』をリリース。透き通った歌声を活かしたしっとりとした美しいメロディに、電子音楽の影響が色濃い尖ったビートを組み合わせた独特のスタイルで、BBCのプレイリストに登録されるなど、注目を集めた。

その後も、ディスクロシュアやムラ・マサといった、イギリスのエレクトロ・ミュージックのミュージシャンとコラボレーションしながら複数のシングルやEPを発表。BBC主催の音楽賞、サウンズ・オブ2016の第3位に輝くなど、着実に評価を高めていった彼女は、2016年に初のフル・アルバム『For All We Know』をリリース。ダンス・チャートを中心に各国のヒット・チャートに名前を刻み、彼女をブリット・アワードのベスト・フィメール・ソロ・アーティストの候補に導いた。

今回のEPは、『For All We Know』に収録された楽曲を、外部のクリエイターが大胆に組み替えたリミックス・アルバム。彼女自身が制作を主導し、既に具体的なイメージが定着している原曲を、気鋭の若手を含む実力派のクリエイター達が、大胆な発想で再構築した点が聴きどころだ。

 重低音が鳴り響く荘厳なビートと、ナオの繊細な歌声の組み合わせが印象的だった"In The Morning"を担当したのは、彼のシングル曲"Firefly"でも共演しているイギリスのプロデューサー、ムラ・マサ。彼はこの曲をカラフルな音色のシンセサイザーと、跳ねるようなビートを組み合わせた、ダンスホール・レゲエに改変。シリアスな雰囲気のミディアム・バラードを、陽気なダンス・ミュージックに生まれ変わらせている。同じメロディを使っても、アレンジ一つでここまで違う曲に聴こえるのかと、びっくりしてしまった。余談だが、個人的にはオリジナルよりこっちのバージョンの方が、R&Bに慣れ親しんだ自分の耳には聴きやすい。

続く、"Feels Like[原曲はFeel Like (Perfume)]"を担当したのは、過去に彼女の作品を手がけているロクセ。オリジナル・ヴァージョンは、エリカ・バドゥやマックスウェルの作品を連想させる生楽器風の温かい音色を使ったシックなビートで、彼女のヴォーカルの魅力を引き出したミディアム・バラードだったが、本作では一転、リル・ジョンやT.I.の新曲と勘違いしそうなバウンズ・ビートを使ったヒップホップ・ナンバーに生まれ変わっている。新たに録ったと思われるラップ風のヴォーカルと一緒に、奇抜なビートを自然体で乗りこなすストームジイのラップも面白い、アメリカ南部のヒップホップと、エレクトロ・ミュージックの親和性を裏付けた名録音。

2016年に発表したアルバム『99.9%』の斬新さも記憶に新しいケイトラナダを起用した"Get To Know Ya"は、レゲトンのリズムを上物に使ったハウス・トラック。クリスティーナ・ミリアンやマイアの楽曲を連想させるダンス・ポップの要素を含んだR&Bナンバーを、分厚い重低音が心地よいDJ向けのダンス・ナンバーに変えたセンス自体は珍しくないが、原曲とは全く異なるタイプのビートとヴォーカルを一体化させた技術は見逃せない。

ギターの音色と電子音を組み合わせたトラックが印象的だった"DYMM"はサム・ギャライトリーがリミックス。電子音楽版ジェイ・ディラといった趣の、音と音の隙間を有効に使った、抽象的なヒップホップのビートが格好良い、アメリカのヒップホップと親和性が高いアレンジが記憶に残る楽曲だ。

そしてSBTRKTによる"Bad Blood"は、刺々しいシンセサイザーの音色と終始鳴り続ける重低音が印象的な、フライング・ロータスやサンダーキャットに代表されるビート・ミュージックのスタイルを踏襲したリミックス。オリジナル盤では散見されていたが、このアルバムではあまり採用されていない、アメリカの電子音楽シーンを意識したアレンジが楽しめる。

このアルバムのようなリミックス作品の難しさは、既に一定の評価を受けている楽曲を再編集して、原曲の隠れた魅力や、新しい解釈を引き出さなければいけないことだ。リミックス作品の中には、原曲のイメージに引きずられて、無難にまとめたり、斬新な解釈を求めて、原曲の持ち味を削ってしまうものも少なくない。だが、今回の作品では、それぞれのアーティストが、彼女の美しい歌声やスタイリッシュなメロディ、繊細なトラックを活かしつつ、彼女の作品では使われてこなかった音色やビートを組み合わせることで、ナオの音楽の意外な一面を引き出している。

たった5曲のEPだが、ナオの音楽の可能性とイギリスのエレクトロ・ミュージック・シーンの奥深さを痛感させられる貴重な作品だと思う。ヴォーカリストとクリエイター、両方の才能を兼ね備えたナオだが、外部のプロデューサーと組めば、今以上の実力を発揮できる、そんな期待を抱かせてくれる名企画だ。

Producer
Nao, Calvert, Royce Wood Junior, Jungle GRADES etc

Track List
1. In The Morning (Mura Masa Edit)
2. Feels Like (LOXE Remix) feat. Stormzy
3. Get To Know Ya (Kaytranada Flip)
4. Dywm (Sam Gellaitry Remix)
5. Bad Blood (SBTRKT Remix)





FOR ALL WE KNOW
NAO
RCA
2016-07-29

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