ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Matt Martians – The Drum Chord Theory [2017 Three Quarter]

フランク・オーシャンやタイラー・ザ・クリエイターなど、気鋭のミュージシャン達が名を連ねるロス・アンジェルスのヒップホップ・クルー、オッド・フューチャー。そんな彼らの先進的な楽曲をサウンド面から支え、自身も同じクルーのシド・ザ・キッドと結成したヒップホップ・グループ、ジ・インターネットの名義で3枚のアルバムをリリース。2015年に発売した『EGO DEATH』をグラミー賞ベスト・アーバン・コンテンポラリーアルバム部門にノミネートさせた(2017年1月31日時点)、アトランタ出身のプロデューサー、マット・マーシャンズことマシュー・マーティン。彼にとって、自身の名義では初となるオリジナル・アルバムが、この『The Drum Chord Theory』だ。

配信限定でリリースされた作品のため、演奏者等の細かい情報は手元にないが、アルバムを通して聴いた印象では、収録曲の大半で彼自身が制作、演奏、ヴォーカルを担当している模様。ゲストも、ジ・インターネットのシド・ザ・キッドやスティーヴ・レイシー(同名のジャズ・サックス奏者とは別人)、チャイルディッシュ・ガンビーノの2016年作『Awaken, My Love!』でも強烈なヴォーカルを聴かせてくれたカリ・ファウクスなど、彼に近しい面々や、アンダーグラウンド・シーンの実力者で固め、少数精鋭で臨んでいる。

今回のアルバムは、ナズの『Illumatic』やギャングスターの『Daily Operation』を彷彿させる、昔の黒人音楽の温かい音色を使ったビートと、最新のシンセサイザーが生み出す奇抜な電子音を組み合わせた、先鋭的だけどどこか懐かしいサウンドが特徴的。その上に、妖怪のようなおどろおどろしいヴォーカルが乗っかることで、奇抜なトラックに更なる個性を付け加えている。

まず、アルバムのオープニングを飾る”Spend the Night / If You Were My GF”は、90年代初頭のヒップホップを彷彿させるビートに、ポロポロと弾かれるエレクトリック・ピアノの伴奏とドロドロとしたヴォーカルが合わさった泥臭いミディアム・ナンバー。楽曲の後半で突然、エイドリアン・ヤングっぽい電子音がブリブリと鳴り響くトラックに替わり、メイシー・グレイ風のアクの強い女性ヴォーカルが歌い出す展開が唐突過ぎて面白い。

その後は、DJプレミアが作りそうなサンプリング音を使ったビートに、ピコピコという電子音やノイズを組み合わせたコミカルな上物が乗っかったトラックの上で、軽妙な歌を聴かせる”Where Are Yo Friends?”、タイプの異なる複数のシンセサイザーの音色を重ね合わせ、幻想的な雰囲気に纏め上げたトラックの上で、甘く語りかけるように歌うミディアム”Baby Girl”、レコードから抜き出したような温かい音色のドラムの上で、シンセ・ベースがブンブンと鳴り響き、刺々しい音色のシンセサイザーが、不協和音の一歩手前みたいな荒々しい伴奏を奏でる奇抜なトラックをバックに、スティーヴ・レイシーとコミカルなデュエットを披露する”Found Me Some Acid Tonight”など、一度聴いたら簡単には忘れられない、奇抜でキャッチーな曲が並んでいる。

だが、本作のハイライトといえば、なんといってもシングル・カットされた2曲、”Dent Jusay”と”Diamond in da Ruff”だろう。

シドとスティーヴ・レイシーが参加した前者は、ロックのビートと、ちょっと不気味な音色のシンセサイザーによる伴奏を組み合わせたトラックの上で、シドのクールな歌声とマットの甘いバリトン・ヴォイスが響き渡るアップ・ナンバー。ロックのビートを使ったR&Bということで、アウトキャストの”Hey Ya!”の影がチラつく部分もあるが、こちらの曲は滑らかなヴォーカルを聴かせる、R&B寄りの楽曲だ。

一方、”Diamond in da Ruff”は、カラっとしたギターの音色を強調したトラックの上で、軽やかな歌唱を楽しませてくれる爽やかなアップ・ナンバー。声質やトラックはかなり異なるが、2000年代初頭にブレイクした3人組、シティ・ハイのことを思い出させる曲だ。また楽曲の終盤では突然、着信音(しかも、某有名スマホの初期設定で使われているやつ!!)が鳴り響き、シンセサイザーを多用した、80年代のディスコ音楽風のトラックに切り替わるというサプライズも盛り込んでいる。

こうやって聴くと、彼のトラックはジ・インターネットのキャッチーで奇抜なヒップホップを意識しながら、メジャー・レーベルと契約しているグループ名義のアルバムでは作りにくい、より実験的な音楽に挑んでいるように見える。サンプリングと電子楽器の組み合わせ一つをとっても、既にほかの作品で披露しているものだが、今回のアルバムでは、ロックの要素やPファンクのエッセンスを付け加えることで、従来の曲とは違ったテイストに聴かせている。個人的な感想だが、このアルバムは歌ものとラップの違い以上に、「キャッチー」で「奇抜」なジ・インターネットの音楽のうち「奇抜」の要素を抜き出して、より強調したように感じられた。

実績豊富なミュージシャンが自由に創作する機会を与えられるとどんなことができるか、それを示したような、ダイナミックで奇想天外な展開を楽しめる名作。このアルバムを作ったときの経験が、今後の彼の作品にどのように反映されるか、今からワクワクしてしまう。

Track List
1. Spend the Night / If You Were My GF
2. What Love Is
3. Where Are Yo Friends?
4. Baby Girl
5. Southern Isolation
6. Found Me Some Acid Tonight (feat. Steve Lacy)
7. Alotta Women / Useless (feat. Kari Faux)
8. Down
9. Dent Jusay (feat. Syd & Steve Lacy)
10. Callin' on Me
11. Diamond in da Ruff
12. Elevators (Bonus)





 

Kehlani – SweetSexySavage [2017 Atlantic]

2014年に配信限定でリリースした、1作目のミックス・テープ『Cloud 19』が、アメリカの音楽情報サイトで「2014年を代表するアルバム・ランキング」の28位に選出され、翌2015年に発表した2作目のミックス・テープ『You Should Be Here』が、自主制作の作品ながら、ビルボードのR&B・ヒップホップ・アルバム・チャートで8位を獲得。ザ・ウィークエンドやミゲルと並んで、グラミー賞のベスト・アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にノミネートするなど、メジャー・レーベルと契約する前から華々しい活躍を見せている、カリフォルニア州オークランド出身のシンガー・ソングライター、ケラーニことケラーニ・アシュリー・パニッシュ。

『You Should Be Here』の発売直後にアトランティックと契約すると、ジャスティン・ビーバーや元ワン・ダイレクションのゼインの楽曲でフィーチャーされたり、映画『スーサイド・スクアッド』のサウンド・トラックに新曲を提供したりと、アルバム・リリース前の新人にもかかわらず多くの大舞台を経験してきた。

そして契約から約2年、2017年1月にアトランティックから発表された『SweetSexySavage』は、彼女にとってキャリア初のフル・アルバムであり、自身名義の録音では初めてCDで発売された作品だ(CDRも含めれば『You Should Be Here』などがフィジカル・リリースされている)。

『You Should Be Here』ではチャンス・ザ・ラッパーやBJザ・シカゴ・キッドなど、豪華なゲストが参加していたが、今作ではリル・スージーが”Piece Of Mind”にフィーチャーされた程度。ほとんどの曲は彼女一人で歌っている。しかし、プロデューサーにはアリシア・キーズやモニカなどを手掛けているポップ&オークや、トレイ・ソングスやウィズ・カリファなどの作品に関わっているフィーザーストーンズなど、R&Bやヒップホップ界隈の実力者を揃えている。

アルバムの収録曲に目を向けると、2016年にリリースされたシングル曲”Distraction”は、ポップ&オークがプロデュースしたミディアム・ナンバー。オール・セインツの新曲と勘違いしそうな、爽やかな歌声から始まるイントロにはちょっと驚くが、その後は、キュートな歌声を振り絞って粘り強く歌い込む、ポップなようでディープな曲。マイアにも似ている可愛らしい声と、K.ミシェルのようなタフな喉を兼ね備えた彼女のヴォーカルが思う存分味わえる。

それ以外の曲では、エイコンの”Don't Matter”(余談だが、この曲自体がボブ・マーレイの”Zimbabwe”をサンプリングしている)をサンプリングした”Undercover”も面白い。アフリカの広い大地を想像させるスケールの大きなバラードを解体、再構築して、跳ねるようなビートのミディアム・ナンバーに作り変えたチャーリー・ヒートの手腕には、ひたすら脱帽するしかない。エイコンの持ち味である、アフリカ音楽を連想させる華やかな音色のビートを上手に活用した佳曲だ。

また、この他にも、デニシア・アンドリューズとブリタニー・コネイのコンビが携わった”CRZY”は、シンセサイザーを多用したミディアム・バラード。リアーナの”Umbrella”が大ヒットしたあと、R&B界に一大ブームを巻き起こした、シンセサイザーを使った扇情的なトラックと、力強くアグレッシブなヴォーカルが合わさった、聴きごたえのある曲も収められている。

こうやって聴いてみると、彼女の音楽の特徴は大きく分けると二つあるように思える。一つは個性的な声、もう一つは新旧のR&Bと適度な距離を置いたトラックだ。

まず、彼女のヴォーカルだが、ケラーニの声はマイアやニベアの流れを汲む、可愛らしさをウリにしたシンガーだ。実際、そんな彼女の歌声を活かした、ポップな節回しが収録曲の随所で顔を覗かせている。しかし、それは彼女の一面に過ぎず、”Distraction”や”CRZY”のサビなど、じっくりと歌い込むことが求められる場所では、クリセット・ミッシェルやシリーナ・ジョンソンのような力強く、表情豊かな歌声も披露するなど、単なるポップ・スターとも、本格的なディーヴァとも違う、独自の立ち位置を発揮している。

一方、トラックはポップ&オークをはじめとする、プロデューサー陣の存在が大きい。”Distraction”や”CRZY”のような、 コンピューターが制作環境の中心になった現代らしい、電子楽器主体のトラックがある一方で、アリーヤの”More Than A Woman”を取り入れた”Too Much”や、ニュー・エディションの”If It Isn't Love”を使った”In My Feelings”など、80年代から2000年代前半にヒットしたR&Bも存在感を発揮している。中でも、後者の楽曲は、原曲の音を組み替えたり、元ネタとは全く異なるタイプのメロディと組み合わせたりすることで、往年のR&Bのエッセンスを取り込みつつ、2017年の新作らしい、新鮮な楽曲に仕立て上げている。

ウィークエンドやサム・スミス、ブルーノ・マーズなど、色々な国から実力派の男性シンガーがデビューする中、女性シンガーはビヨンセやリアーナなど、キャリアの長い中堅~ベテラン・シンガーの活躍が目立つばかりで、女性ヴォーカルが好きな人には、ちょっと寂しい時代が長い間続いていた。大衆性と実力を兼ね備えた彼女は、そんな流れを打ち破って、女性シンガーの時代を復活させてくれるかもしれない。そう思わせる内容だった。

Producer
Pop & Oak, Matt Campfield, Danny Klein etc

Track List
1. Intro
2. Keep On
3. Distraction
4. Piece Of Mind
5. Undercover
6. CRZY
7. Personal
8. Not Used To It
9. Everything Is Yours
10. Advice
11. Do U Dirty
12. Escape
13. Too Much
14. Get Like
15. In My Feelings
16. Hold Me By The Heart
17. Thank You
18. I Wanna Be
19. Gangsta (From “Suicide Squad The Album”)





Sweetsexysavage
Kehlani
Atlantic
2017-01-27


Silk - Quiet Storm [2016 Shanachie]

92年にキース・スウェットがプロデュースしたシングル”Happy Days”でデビュー。翌年には、彼が手掛けた”Freak Me”と、アルバム『Lose Control』が全米R&Bチャートで1位を獲得(前者はHot100も制覇)するなど、90年代を代表する男性ヴォーカル・グループの一つとして、華々しい実績を残してきたアトランタ出身の5人組、シルク(通称90年代のシルク)。その後のキャリアは、度重なるメンバー交替やレーベル移籍、制作に時間とお金がかかるヴォーカル・グループへの厳しい風当たりなど、決して順風満帆なものではなかったが、キース譲りの個性的な声質を活かした粘り強い歌唱と、緻密なコーラス・ワークで常にR&Bファンの注目を集めていた。

2006年のアルバム『Always And Forever』から10年ぶりとなる新作は、前作に引き続き、ニュージャージー州のニュートンに拠点を置く、シャナチーからのリリース。彼らの作品のほかにも、シャンテ・ムーアやミント・コンディション、シリーナ・ジョンソンといった、歌唱力をウリにしているR&Bシンガーやグループの作品を数多く手掛けている同レーベルだけあって、本作も往年のファンの期待を裏切らない、じっくりと歌を聴かせる作品に仕上がっている。

アルバムのタイトル・トラック”Quiet Storm”は、70年代後半から80年代に流行した、甘く洗練されたスタイルのソウル・バラードの総称を曲名に使ったスロー・バラード。インディー・レーベルを中心に、多くのソウル・シンガに楽曲を提供しているダレル・デライト・アランビーがペンを執ったこの曲は、90年代の作品を再現したようなシンセサイザーが主体の洗練されたトラックと、豊かな歌声を丁寧に重ね合う5人のチーム・ワークが光る良曲。個人的にはこの曲だけでもお腹いっぱいだ。

続く”Love 4 U To Like Me”は、本作からシングル・カットされた曲。ジョニー・ギルやシスコの作品にも携わっているウィーリー・モリスが携わった楽曲は、”Quiet Storm”とは打って変わって、しっとりとしたトラックとメロディを取り入れたバラード。ブライアン・マックナイトが作りそうな、切ない雰囲気のメロディのトラックの上で、肩の力を抜いたスマートな歌唱を聴かせるロマンティックな佳曲だ。路線が全く異なる2曲を乗りこなしつつ、きちんと自分達の色に染め上げる姿は、流石としか言いようがない。

それ以外にも、同じくウィリー・モリスが手掛ける”Billionaire”や、ケヴィン・マッカチョンが参加した”Baby Maker”なども絶対に聴き逃せない曲だ。前者は、ハイ・ファイブの代表曲”I Like the Way (The Kissing Game)”の2016年版といった趣の、軽快なビートと甘酸っぱいメロディが心を刺激するアップ・ナンバー。跳ねるようなビートなど、そのままの形では採用しづらい部分は、現代の機材に合わせてアレンジを変えつつ、90年代初頭に流行した明るくキャッチーなR&Bの面影はしっかり残した、懐かしさと新鮮さを感じる曲だ。一方、後者は、ファルセットを多用した、色っぽいコーラス・ワークが光るバラード。ファルセットの使い方やメロディの崩し方は、ディアンジェロの作風にも似ているけど、この曲ではそれをアクセントのレベルに留めることで、同じような方向に向かいがちなバラード曲に個性を吹き込んでいる。

もっとも、このアルバムのクライマックスは、”Only Takes One”だろう。ウィリー・モリス作の同曲は、ボーイズIIメンやジョーが歌いそうな、洗練されたメロディを、重心の低いシックなトラックが引き立てるバラード。他の曲では色々な表現を見せる彼らだが、この曲では自分達の本来の声(?)と無駄のないアレンジを使って、シンプルに纏め上げている。前作の録音時のアウトテイクといわれたら納得してしまいそうな、時代を越えて残る普遍性を感じさせる名曲だ。

本作の面白いところは、比較的若い(といっても10年選手が少なくないが)ソングライターやトラックメイカーを起用したことだろう。彼らのフィルターを通して80年代から90年代にかけて流行したR&Bを、現代のアーティストやリスナーに合わせて再構築したことで、ロマンティックなメロディや甘いコーラス、洗練された演奏を聴かせつつ、2016年の新録作品として、当時を知らない人にも楽しめるものに仕上げたことには、ただただ敬服するしかない。

実力と実績を兼ね備えたベテランならではの安定したパフォーマンスと、若いプロデューサーによって2016年の音楽に再解釈された80年代、90年代のR&B風の楽曲が揃ったことで生まれた。味わい深い佳作。当時の音楽が好きな人はもちろん、本格的なソウル・ミュージックに興味を持った初心者にもおすすめしたい。わかりやすさと聴きごたえを両立した名作だ。

Producer
Marcus Daheatmizer Devine, Wirlie Morris etc

Track List
1. Quiet Storm
2. Love 4 U To Like Me
3. Slow Grind
4. Baby Suit
5. She's The One
6. Billionaire
7. On My Mind
8. Baby Maker
9. I Love You
10. Only Takes One



Silk
Shanachie
2016-03-18

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