melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Black Milk - Fever [2018 Mass Appeal]

今や、トラックメイカーとラッパーの分業が当たり前になっている、アメリカのヒップホップ界。その中で、プロダクションとラップの両方をこなし、良質な作品を生み続けているのが、ブラック・ミルクことカーティス・クロスだ。

かつてはモータウン・レコードが拠点を置き、ジェイ・ディラやエミネム、デリック・メイやジェフ・ミルズを輩出したことでも知られるデトロイト出身の彼は、2000年代中頃から、スラム・ヴィレッジやウータン・クランのRZA、ファラオ・モンチなどの作品に、プロデューサーやラッパーとして参加。2016年には、ロバート・グラスパーがマイルス・デイヴィスの作品をリメイクした『Everything's Beautiful』に携わるなど、様々なジャンルの音楽で腕を振るってきた。

また、2004年にラップ・グループ、B.R. Gunnaの名義で初のスタジオ・アルバム『Dirty District Vol. 2』をリリースすると、以後は1年に1作以上のペースでアルバムを発表。多作でありながら、高いクオリティを維持し続けるミュージシャンとして、ヒップホップ好きの間では知られる存在となった。

本作は、彼自身の作品としては、2016年に発表したR&Bバンド、ナット・ターナーとのコラボレーション・アルバム『The Rebellion Sessions』以来となる新作。全ての曲を彼がプロデュースする一方で、ゲストとしてドゥウェレなどを招聘。ラップ主体でありながら、ソウル・ミュージックのような温かさと優しい雰囲気を感じさせる作品に仕上げている。

アルバムの1曲目は、スーディーをフィーチャーした”unVEil”。シンセサイザーを多用し、その音をエフェクターで加工した幻想的なサウンドが、ファンカデリックにも少し似ているミディアムだ。神秘的な雰囲気のトラックをバックに、次々と言葉を繰り出すブラック・ミルクのラップと、R&Bシンガーらしからぬ、淡白なスーディーのヴォーカルの組み合わせが新鮮だ。

これに対し、ドゥウェレを招いた”2 Would Try”は、DJプレミアやピート・ロックが90年代に作っていた複雑なビートと、ロバート・グラスパーの作品を思い起こさせる、ジャズのエッセンスを盛り込んだキーボード伴奏を組み合わせたトラックの上に、軽妙なラップと泥臭いヴォーカルが乗ったアップ・ナンバー。ジャズとヒップホップを混ぜ合わせるスタイルは、ギャングスターのグールーによるプロジェクト『Jazzmatazz』にも近しいが、こちらの方がヒップホップ色が強い。

また、6曲目の”True Lies”は、テンポを落として粘り強いベースと色っぽいギターの音色を際立たせたトラックが面白い、ミディアム・テンポの楽曲。ファンカデリックやバーケイズのような、ロックの要素を取り込んだソウル・ミュージックやファンク・ミュージックのスタイルを取り入れつつ、ヒップホップに落とし込む技術が光っている。ヒップホップとロックの融合は、ザ・ルーツなどが既に取り組んでいるが、彼らとは異なるアプローチがあることを再認識させられる良曲だ。

そして、本作の最後を締める”You Like To Risk It All / Things Will Never Be”は、アナログ・シンセサイザーと、昔のレコードから抜き出したような、温かい音色のドラムを組み合わせたビートの上で、畳み掛けるようにラップをする姿が心に残る曲。変則的なビートと早口なラップの組み合わせは、トウィスタを思い出させるが、彼の音楽に比べると派手なギミックは抑え気味で、丁寧にラップを聴かせる作風が印象的だ。

彼の音楽の面白いところは、サンプリングとシンセサイザーを組み合わせたトラック・メイクのような、90年代には既に確立された手法が中心でありながら、新しい音楽のように聴こえるところだ。既に普及した方法を使いながら、その組み合わせを変えることで、表現の幅を広げている点は興味深い。恐らく、ラップも含め、楽曲を構成する全ての要素に気を配り、バラエティ豊かな曲に落とし込める点が大きいのだろう。

ヒップホップを構成する複数の要素に精通することで、自身の作品の可能性を広げた好事例。既に広まった手法であっても、楽曲を構成する他の要素と組み合わせて使うことで、表現の幅は広げられることを教えてくれる良盤だ。

Producer
Black Milk

Track List
1. unVEil feat. Sudie
2. But I Can Be feat. Ab
3. Could It Be
4. 2 Would Try feat. Dwele
5. Laugh Now Cry Later
6. True Lies
7. eVE
8. Drown
9. DiVE
10. Foe Friend
11. Will Remain
12. You Like To Risk It All / Things Will Never Be





Fever
Black Milk
Mass Appeal Records
2018-03-23

Seun Kuti & Egypt 80 - Black Times [2018 Strut]

母国ナイジェリアのダンス・ミュージックと、アメリカやヨーロッパの黒人音楽を組み合わせた独特のサウンドや、強烈なメッセージを含む歌詞で世界にその名を轟かせ、アフロ・ビートというジャンルを確立した、イギリス出身のナイジェリア人ミュージシャン、フェラ・クティ。彼自身は97年にHIVの合併症でこの世を去ったものの、残されたバンド・メンバーや彼の子供達の手によって、その音楽は継承されてきた。

ショーン・クティは、フェラが遺した子供の一人。末っ子でありながら、幼いころから父のバンドでステージに立ち、彼の死後は父のバンドを受け継いで、現在も世界各地のステージに立っている。

本作は、2014年の『A Long Way To The Beginning』以来となる、通算4枚目のスタジオ・アルバム。前作ではロバート・グラスパーを招いていたが、本作ではサンタナを起用。父が遺したバンドと一緒に、アフロ・ミュージックを2018年仕様にアップデートした作品を録音している。

アルバムの1曲目は、バンドの面々による”Last Revolutionary”。複数のパーカッションと管楽器を組み合わせて、中毒性のある演奏を聴かせるバンドと、マルコムXやキング牧師のような、力強い言葉を投げかける、ショーンのヴォーカルが光る曲。フェラ・クティの魅力を丁寧に継承したパフォーマンスが楽しめる。

続く”Black Times”は、アイズレー・ブラザーズとのコラボレーション・アルバムも記憶に新しい、カルロス・サンタナを招いた作品。前曲より少しテンポを落とした伴奏に絡みつく、カルロス・サンタナの艶めかしいギターが格好良いミディアム・ナンバーだ。一つのフレーズを少しずつ変えて、曲に起伏を与えるエジプト80の演奏と、時に荒々しく、時に艶めかしく演奏するカルロスのギターのコンビネーションが聴きどころ。

また、”Kuku Kee Me”は、躍動感あふれるビートと、陽気な鍵盤楽器、勇壮なホーン・セクションを組み合わせたループが格好良いアップ・ナンバー。ホーン隊の演奏は、ジェイムス・ブラウンなどのファンク・ミュージックのエッセンスも垣間見える。ナイジェリアの音楽と、欧米の黒人音楽を融合した、フェラのスタイルを丁寧に踏襲した良曲だ。

そして、本作の収録曲では珍しい、ゆったりとしたテンポの”African Dreams”は、リズム・セクションとベースが生み出す粘り強いグルーヴが魅力の作品。テンポを落とすことで、起伏のある伴奏を丁寧に聴かせる技術が素晴らしい。一つのフレーズを繰り返すことで、中毒性のある楽曲を作る手法は、ハウス・ミュージックやヒップホップでもしばし見かけるが、人間が楽器を演奏することで、細かく曲調を変えられるのは、バンドならではの技だろう。

60年代から活動し、フェラの死後はショーンに引き継がれた、バンドの持ち味とアフロ・ビートの魅力は、このアルバムでも変わることなく引き継がれている。ナイジェリアの伝統音楽をベースに、ジャズやファンクの要素を加え、近年はハウス・ミュージックやヒップホップ、ラテン音楽のエッセンスを盛り込むようになった彼らの音楽は、アメリカの黒人音楽と一線を画しながら、アフリカの音楽を聴く機会の少ない人にも、聴きやすいものに仕立て上げられている。

メンバーが変わっても、色々な音楽を飲み込みながら、進化を続けることで、フェラ・クティの思想を体現しているバンドの魅力を思う存分堪能できる魅力的な作品。流行のポップスとは一味違う、唯一無二のグルーヴが心に残る良盤だ。

Producer
Seun Kuti, Arnaud Granet

Track List
1. Last Revolutionary
2. Black Times feat. Carlos Santana
3. Corporate Public Control Department
4. Kuku Kee Me
5. Bad Man Lighter (B.M.L.)
6. African Dreams
7. Struggle Sounds
8. Theory Of Goat And Yam






J-Hope - Hope World [2018 Big Hit Entertainment‎]

2013年のメジャー・デビュー以降、着実に成果を積み上げ、2016年の『Wings』と2017年の『Love Yourself : Her』で、その名を世界に知らしめた、韓国発の7人組男性ヴォーカル・グループ、BTS(漢字圏では「防弾少年団」表記)。

2017年の終わりには、『Love Yourself : Her』に収録されている”Mic Drop”を、日系アメリカ人のDJ、スティーヴ・アオキがリミックスして再リリース。ビルボードのシングル・チャートで28位に入り、アジア地域発のヴォーカル・グループとしては、史上初となるゴールド・ディスクの認定を受けた。

本作は、同グループのラップ担当、J-Hopeの初のソロ作品。BIGBANGのV.I.やKARAのKoo Haraと同じ光州出身。彼らと同じ指導者の元でダンスの腕を磨いてきたという、ラッパーとしては異色の経歴の持ち主だ。デビュー前には、ストリート・ダンスの大会で何度も優勝しており、ラップ担当でありながら、ダンスの練習では、コーチの代わりにメンバーを牽引することもあるなど、BTSの特徴である、歌やラップと複雑なダンスを組み合わせる、独特のスタイルを確立するのに一役買ってきた。

今回のアルバムでは、楽曲の大半を彼自身がプロデュース。脇を固めるクリエイターには、ビッグヒットの看板プロデューサー、Pドッグや、BTSの数多く手掛けているシュープリーム・ボーイの他、エピック・ハイなどの作品に参加しているドックスキンなどを起用。ラップとダンスの両方でグループを支えてきた彼にとって初となる、本格的なヒップホップ作品になっている。

アルバムの1曲目は、ドックスキンがプロデュースを担当した”Hope World”。四つ打ちっぽいビートと、ギターやシンセサイザーを組み合わせた爽やかなトラックの上で、表情豊かなラップを聴かせる彼の姿が心に残るアップ・ナンバーだ。グループの曲では滅多に聴けない荒々しいラップから、軽やかなヴォーカルへと繋ぐ技術と、ワイルドなラップをポップに聴かせる演出が光っている。子供のころからヒップホップに傾倒する一方で、世界屈指の人気ポップ・グループの一員として経験を積んできた、彼の持ち味が発揮された良作だ。

続く”P.O.P (Piece Of Peace) pt.1”は、ソカを連想させる明るい音色と、ダディー・ヤンキーやピットブルの作品にも似た、陽気なビートが心地よいミディアム・ナンバー。ラテン音楽の要素を取り入れて、ポップにまとめつつ、地声を使った鋭いラップで楽曲を引き締める演出が心憎い。

また、本作に先駆けて発表された”Daydream”は、BTSのヒット曲でも辣腕を振るってきたPドッグのプロデュース作。ニュー・ジャック・スウィングを彷彿させる軽快なビートで幕を開けたと思いきや、カルヴィン・ハリスの『Funk Wav Bounces Vol. 1』を思い起こさせる、ディスコ音楽の要素を盛り込んだトラックに繋いでいく演出が面白い。ポップで軽快なビートに合わせて、緩急をつけたラップを聴かせるJ-Hopeの技術が光る佳曲だ。

そして、シュープリーム・ボーイをフィーチャーした”항상 (HANGSANG)”は、ミーゴスグッチ・メインのスタイルを取り入れた、電子楽器による跳ねるようなビートが格好良い曲。アメリカ南部のヒップホップを意識したトラックに合わせ、ドスの効いた声で攻撃的なラップを畳み掛ける姿が印象的。アメリカで流行しているスタイルをそのまま取り入れながら、人気ポップ・グループの一員らしい、大衆性を感じさせるパフォーマンスを聴かせてくれる良曲だ。

このアルバムを初めて聴いたとき、真っ先に思い浮かんだのはSKY-HIのアルバム『Marble』のことだ。AAAで様々な年代、趣向のファンと向き合いながら、様々な価値観を持つ人々の心を惹きつける表現を磨き上げ、自らの音楽の糧にしたSKY-HIと、BTSの一員として、ポップス市場の一線で活躍しながら、グループで積んだ経験を自分の音楽に還元したJ-Hope。ルーツも経歴も環境も違う二人だが、ポップスの世界で得た経験を盛り込んで、自身のヒップホップを確立した点はよく似ている。

ポップス畑での成功という稀有な経験を活かして、ほかの人には作れないヒップホップを作り上げた野心的なアルバム。欧米のアーティストの背中を追いかけてきたアジアのヒップホップ・ミュージシャンが、彼らにはない独自性を見出し、具体的な作品に落とし込んだ一つの成功例だと思う。

Producers
J-Hope, Pdogg, Adora, DOCSKIM, Hiss Noise, Supreme Boi

Track List
1. Hope World
2. P.O.P (Piece Of Peace) pt.1
3. Daydream (백일몽)
4. Base Line
5. 항상 (HANGSANG) feat. Supreme Boi
6. Airplane
7. Blue Side (Outro)



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