ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Asiahn – Love Train [2017 Asia Bryant Music, Universal]

2000年代後半から、主に裏方として活躍しているシンガ-・ソングライターのエイジアンことエイジア・ブライアント。彼女にとって、正規リリースでは初の作品となるEP『Love Train』が、ユニバーサル傘下に設立した自身のレーベルから、配信限定で発売された。

彼女といえば、2015年にリリースされたドクター・ドレのアルバム『Compton』に収録されている”Just Another Day”で、ソングライターとフィーチャリング・ヴォーカルに起用され、クールな歌声を披露したことを覚えている人もいるかもしれない。だが、彼女の仕事はそれに留まらず、ザ・ゲームが2015年に発表した”Gang Related”や、ダラー・ボーイが2012年に公開した”Come With Me”など、複数のラッパーの作品で歌っているほか、ソングライターとしても、ジェニファー・ロペスの”Booty”やマイリー・サイラスの”Hands In Tthe Air”を手掛け、ドレイクやエイコンなどの楽曲にも携わるなど、マルチな才能を発揮してきた。

そんな彼女にとって、初めての自身の名義による作品は、ライナーノーツがなく、プロデューサー等の情報が手に入らないので断定はできないが、過去の提供曲と聴き比べる限り、おそらく大部分の曲で本人が制作に関与している。また、収録曲のほとんどは、コンピューターを使って作ったビートを採用しており、曲調は、ファンタジアやK.ミシェルのような、メジャー・レーベルが扱う有名なR&Bシンガーの作品に近いものになっている。そして、エイジアのヴォーカルは、アリーヤやマイアにも似た、透き通った歌声と流れるような歌唱が特徴的な聴きやすいもので、ビヨンセやリアーナのような力強い歌声が武器のディーヴァに聴き慣れた人には、きっと新鮮に映ると思う。

さて、収録曲に目を向けると、アルバムの1曲目を飾る”Faded”はドラムを中心に音数を絞ったシンプルなトラックの上で、ラップっぽいラフなメロディを聴かせるミディアム・ナンバー。伴奏に使うシンセサイザーの音色や声質は異なるが、ドレイクのアルバムに収録されていそうな曲といえばわかりやすいかもしれない。もっとも、癖のある声質が持ち味のドレイクに対し、彼女の曲は透き通った歌声とそれを活かす洗練されたトラックを武器にした、神秘的な雰囲気が魅力的だ。

続く”Role Play”は、鍵盤楽器とドラムが中心の伴奏の上で、爽やかな歌声を響かせるミディアム・バラード。無理に色っぽく歌おうとしない、健康的なヴォーカルが90年代のタミアやマイアを思い起こさせる、聴きやすさと緻密さを両立した歌唱が気持ち良い佳曲だ。

この他にも、”Faded”と同じ路線の、ラップっぽいメロディとシックなトラックが心地よいバラード”Waiting”や、シンセサイザーを駆使して幻想的な雰囲気に纏め上げたトラックの上で、しっとりとした声を響かせる”Time”。パーカッションの音色をアクセントに使いつつ、キュートな歌声を聴かせてくれるスロー・ナンバー”Lead”など、甲乙つけがたい良曲が並んでいる

だが、どの曲よりも気に入ったのはタイトル・トラックの”Love Train”だ。Ashantiの『Braveheart』や、マイアの『Smoove Jones』の作風に近い、90年代中期から2000年代前半のR&Bを現代風に作り直したような、流麗なメロディと丁寧な歌唱、それを引き立てる派手ではないが味わい深いトラックが組み合わさった、噛めば噛むほど味が出る、スルメのようなミディアム・バラード。裏方の経験が長いとはいえ、デビュー作でこんなに歌い込むバラードを聴かせてくれるあたりに、彼女のポテンシャルの高さを感じさせる。

曲単位で見ると、デビュー作にもかかわらず、奇抜な曲や斬新な曲は皆無だ。むしろ、K.ミシェルやクリセット・ミッシェルのような、2000年代にデビューした中堅シンガーの近作のような手堅ささえ感じさせる。だが、収録曲の多くは、非常に丁寧に作り込まれており、爽やかなヴォーカルとそれを引き立てる洗練されたトラックの組み合わせという路線で、作られた曲の完成度は、いずれも非常に高い。

シンプルなトラックの上で、清涼感たっぷりのヴォーカルを使って丁寧に歌い込むという、同じスタイルのベテラン・シンガーがひしめき合っている作風を選びながら、その路線を突き詰めることで、ベテランにも負けない、聴きごたえのある作品に仕上げている。「商業的に成功できるか?」と聞かれたら「難しい」としか答えられないが、「他の人にお勧めできるか?」と聞かれたら「強く勧めたい、内容は保証する」と断言できる、派手さはないが味わい深い佳作だと思う。

Track List
1. Faded
2. Role Play
3. To You
4. Time
5. Truth
6. Waiting
7. Love Train
8. Lead

 

Gallant & Tablo & Eric Nam – Cave Me In [2017 Mind Of Genius, Warner Bros. Records]

2014年に配信限定でリリースしたEP『Zebra EP』が、大手ストリーミング・サイトのバイラル・チャートの上位に掲載され、ワーナー傘下のインディペンデント・レーベル、マインド・オブ・ジニアスからリリースした初のフル・アルバム『Ology』が、グラミー賞のベスト・オブ・アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にノミネートするなど、デビューからわずか数年の間に、急速な勢いで評価を上げているワシントンD.C.出身のシンガー・ソングライター、ガラント。彼の2017年に入って最初の作品が、この『Cave Me In』だ。

今回のシングルは、DJホンダやケロ・ワンの作品にも参加している、韓国のヒップホップ・グループ、エピック・ハイのフロントマンであるタブロや、アメリカを拠点に活動する韓国系アメリカ人のシンガーでタレントのエリック・ナムと一緒に録音したコラボレーション作品。プロデューサーは、ガラントと同じくロス・アンジェルスを拠点に活動するタイ・アコードと、彼の作品には珍しい、ちょっと異色の組み合わせによる楽曲だ。

タイ・アコードの手掛けるトラックは、アッシャーの『Looking 4 Myself』やトレイ・ソングス『Trigga』などの流れを汲む、コンピューターを駆使して作られた洗練されたもの。サンダーキャットの『Apocalypse』のように、幾重にも重ねられたシンセサイザーの伴奏や、ウィークエンドの”Starboy”を連想させる隙間の多いビートを、スタイリッシュなトラックに纏め上げた技術は、ロス・アンジェルスのアンダーグラウンド・シーンで活躍してきた彼の本領が発揮されたといっても過言ではない。そんなトラックの上で、マックスウェルのバラードを思い起こさせる繊細なメロディを、芯の太いバリトン・ヴォイスでじっくりと歌い上げるガラントと、スマートで甘いテナー・ヴォイスで歌い上げるエリックという、対称的なスタイルのヴォーカルが、裏声を織り交ぜながら色っぽく歌い上げている。

もっとも、個人的な感想だが、本作で一番面白いのはラップ担当のタブロだ。スヌープ・ドッグを彷彿させる、掴みどころのない飄々としたフロウで、ガラントの心がほっこりと温まる優しいバリトンと、エリック・ナムの甘くて繊細なテナーを繋ぐ、優れたバイ・プレイヤーになっている。

自分自身は、この曲はとても面白いと思う。ロス・アンジェルスを拠点に活動し、熱心な音楽ファンの厳しい目線に育てられてきたガラントが、ビルボードのHOT100に登場するようなヒット曲を意識しつつ、自分の経験や感性で、それを再解釈した。そういう視点で見ると、この曲はインディーズ作品の尖った雰囲気と、メジャー作品の聴きやすさが同居した、バランスの良い佳曲だと思う。だが、各アーティストの過去の作品と比較すると、ガラントの作品としては保守的だし、エリックやタブロの作品にしては斬新すぎるように映った。

もしかしたら、彼らはお互いに自分のパブリック・イメージを打ち破るために、あえて音楽性の異なる海外(まあ、エリックの活動拠点は半分がアメリカだけど)のミュージシャンと組んだのかな?と考えてしまう。だとすれば、彼らの目論見は見事に成功したと思う。ガラントにとって、メジャーの大衆性とアンダーグラウンドの先鋭性は両立できることを証明した曲であり、エリックとタブロにとっては、非英語圏のアジア人は、アメリカでR&Bやヒップホップをやっても成功しない、という固定観念を打ち破るきっかけになった。2017年のR&Bを語る上で外せない楽曲だと思う。

Producer
Ty Acord (Lophiile)

1.Cave Me In

 
Cave Me In
Mind of a Genius/Warner Bros.
2017-01-26

 

Gabriel Garzón-Montano – Jardin [2017 Stones Throw]

コロンビア人の父とフランス人の母の間に生まれ、幼いころからバッハの作品やクンビア、ファンクなど、色々な音楽を吸収してきた、ブルックリン出身のシンガー・ソングライター、ガブリエル・ガルゾン・モンターノ。ギターやドラムからバイオリンまで、色々な楽器の演奏技術を習得しながら、独学で作曲を始めた彼は、レニー・クラビッツなどの作品を手掛けたプロデューサー、ヘンリー・ヒルシュと出会ったところで大きな転機を迎える。

彼の協力のもと、2014年にリリースしたEP『Bishouné: Alma del Huila EP』は、楽曲制作だけでなく、ハンドクラップを含む演奏のほとんどを、自身の手で行ったという、DIY感満載の作品だった。だが、このアルバムは、ジャイルズ・ピーターソンなどのDJやミュージシャン達の間で注目を集め、フル・アルバムを出す前にもかかわらず、メイヤー・ホーソンやレニー・クラビッツなどのツアーでオープニング・アクトに起用されるきっかけになるほど、好評を博していた。

そんな前作から3年ぶりとなる、彼にとって初のフル・アルバム『Jardin』は、ロス・アンジェルスのインディー・レーベル、ストーンズ・スロウからのリリース。

ストーンズ・スロウといえば、マッドリヴのようなサンプリングを多用したクリエイターから、ジェイムズ・パンツのような電子音楽にシフトしたもの。そして、メイヤー・ホーソンのように70年代のソウルを独自の解釈で現代の音楽に落とし込んだものなど、一癖も二癖もある、個性豊かなアーティストが揃っているレーベル。その中で、彼がどんな音楽を生み出すのか、とても楽しみだった。

曲の感想を言う前に、結論だけ言ってしまうと。このアルバムは前作の前衛的な音楽性を継承しつつ、それを磨き上げた魅力的な作品だった。

まず、アルバムに先駆けて発表された、”Sour Mango”に耳を傾けると、こちらはどっしりとした重いビートの上で、耳に刺さるようなシンセサイザーのリフとハンドクラップの音が、楽曲に彩を添えているミディアム・ナンバー。ジェイムズ・パンツの作品にも通じる耳に刺さるような電子音の隙間で、線の細いしゃがれた声を上手に操って切々とうたい上げる姿が、なんとも切ない雰囲気を醸し出している良曲だ。

この曲につづく”Fruitflies”は、彼のクラシック音楽の素養が発揮された、鍵盤楽器の弾き語りをベースにしたバラード。もっとも、彼の音楽が単純な弾き語りのバラードなわけもなく、この曲では、鈴から電子音まで、色々な音を曲の随所に埋め込んで、ガブリエルがしっとりと歌うバラードに神秘的な空気を吹き込んでいる。

また、もう一つの先行リリース曲”The Game”は、90年代のヒップホップで使われていそうな、ポップだけど重みのあるバス・ドラムと、シンセサイザーの柔らかい伴奏を軸にした、音数の少ないシンプルなトラックの上で、ディアンジェロやジョージ・アン・マルドロウを連想させる、ラップと歌の中間のような、少し崩したメロディが乗っかるミディアム・ナンバー。ビートの作りはストーンズ・スロウ時代のアロー・ブラックの作品に似ているし、ヴォーカルはディアンジェロと似ているところが散見される。だが、この曲が彼らの音楽と決定的に異なるのは、彼の音楽が洗練されていることだ。耳を爽やかに抜けていくビートと、粗削りだがスマートな歌唱が、「ヒップホップとソウルの融合」という、多くのミュージシャンが取り組んだ題材に、新しい可能性を提示したと思う。

だが、本作の収録曲の中で、最も聴き逃せないのは"Crawl"だと思う。デビュー当時のジョン・レジェンドが好きな人にはたまらない、太く温かい音を使ったビートに乗せて、少し荒々しい歌声で、丁寧にメロディを歌い込む、ミディアム・ナンバー。細い声を振り絞って出す、ファルセットを効果的に使ったこの曲は、彼の作品の中では珍しく、前衛的な音楽の要素が非常に少ないものだ。

このアルバムは、前作で見せた先鋭的な側面を丁寧に磨き上げることで、斬新さと作品としての完成度を両立した良作だと思う。しかし、それ以上に面白いのは、前衛音楽にあるような、奇抜さや難解さを抑え込み、R&Bの枠組みに収めつつ、その枠組みを拡張したところだと思う。使う音色は、ジェイムズ・パンツやジョンティなどの電子音楽に近いものだし、ビートの中には、ジェイ・ディラやマッドリヴのような癖のあるものも少なくない。しかし、それだけにとどまらず、これらの音を使いつつ、ソウル・ミュージックとしても違和感なく聴けるメロディを組み込むことで、斬新さと保守的な側面の両方が混ざり合った楽曲に落とし込まれている。このセンスの良さは、クラシックから民族音楽まで、色々な音楽に慣れ親しんできた彼の視野の広さのおかげじゃないかと思う。

ここ10年、R&B業界の一大潮流になりつつある、異分野の音楽を取り込んだいわゆるオルタナティブR&B。この手法は、成功すればR&Bの新たな魅力を引き出すことができるが、援用する要素の選別、編集に失敗して、「R&Bっぽい何か」になってしまう作品も少なくなかった。その点、本作は、電子音楽を中心に、ファンク、クラシックなど要素を取り入れながら、R&Bの枠組みを拡張することに成功した、先鋭的だが、保守的なファンにも納得させることができそうなアルバムだ。アンダーソン・パックに続く、西海岸発の名作と呼ばれる日は来るのか、今から期待してしまう傑作だ。

Track List
1. Trial
2. Sour Mango
3. Fruitflies
4. The Game
5. Long Ears
6. Crawl
7. Bombo Fabrika
8. Cantiga
9. My Balloon
10. Lullaby




Jardin
Gabriel Garzon-Montano
Stones Throw
2017-01-27


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