ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Sinkane ‎– Life & Livin' It [2017 City Slang]

サイケデリック・ロックやフリー・ジャズ、ソウル・ミュージックなどを融合した独特の音楽で頭角を現し、2014年にビースティーボーイズのサポートとしても知られるマニー・マークや、LCDサウンド・システムのジェイミー・リデル、ファラオ・サンダースやチャールズ・ロイドといったジャズ界の大御所らと結成したスーパー・グループ、アトミック・ボム・バンドでは、イギリスの前衛的なロック・サウンドやアフリカのファンク・ミュージックが混ざり合った、個性的な音楽を聴かせてくれた、スーダン系イギリス人のシンガー・ソングライター、シンケインことアーメッド・アブローラ・ギャラッブ(余談だが、ムスリムっぽい名前なのは、スーダンを含む北アフリカ地域にイスラム教徒が多いため)。

一口にイギリスの黒人ミュージシャンと言っても、そのルーツは人によって様々で、シャーデー・アデューやシールのようなナイジェリア系の人もいれば、ガイアナにルーツを持つデズ・リーのような南米系の人、祖先はアンティグア島の人々というソウルIIソウルのジャジーBのようなカリブ系の人など、その系譜は多岐に渡っている。彼らの多くは、自身のルーツと、これまでに触れてきた西欧の文化の両方を取り込みながら、アメリカのミュージシャンとは一味違う、独自の音楽を育んできた。アーメッドの場合も、英国生まれでありながら、スーダンやアメリカなど、色々な国で暮らしてきた経験の中で磨き上げた、西欧のポピュラー・ミュージックの技術と、スーダンの音楽のリズムやメロディを織り交ぜ、他とは違う特徴的な音楽を生み出してきた。

今回のアルバムも、これまでの作品のスタイルを踏襲したもので、ブラッド・オレンジやツイン・デンジャーのようなロックとブラック・ミュージックを融合させたサウンドをベースに、スーダン音楽のビートやメロディを混ぜた個性的な演奏と、男性版シャーデー・アデューと言った趣の、ファルセットを多用したスタイリッシュなヴォーカルを組み合わせた、個性的な音楽を披露している。

まず、このアルバムで印象に残るのは、スーダン音楽の個性的なビートとホーン・アレンジを取り入れたアップ・ナンバー”U’Huh”だ。アフリカ音楽を取り入れたロックといえば、ナウ・アゲインから再発されたザンビアのロック・バンド、ウィッチやザンビアのロック・バンド、ウェルス・ファーゴなどの録音を通して、ヨーロッパや日本でも人気を集めているが、彼の音楽は、よりアフリカ音楽に寄ったもの。メロディはほとんどスーダンのポップスで、リズム楽器やホーン・セクションも現地の音楽に近づけたものだが、西洋の音階や曲の構成を取り入れることで、「アフリカ風ロック」に落とし込んだ、大胆な試みが光る作品。

続く”Favorite Song”も、スーダン音楽のメロディを取り入れた、日本の歌謡曲っぽい、イナたいヴォーカルが格好良い曲。欧米のポップスには珍しいメロディを取り入れながら、アナログ・シンセっぽいチープな音色のキーボードやエフェクターを適度にかけたギターなどを使ったアレンジで、高価な楽器が使えなかったアフリカのバンド・サウンドを再現したような音になっている。

一方、”Telephone”はトーキング・ヘッズやニュー・オーダーを彷彿させる、電子音をアクセントに使った刺々しいサウンドが目立つアップ・ナンバー。空気を切り裂くようなアーメッドのファルセットが80年代のパンク・シンガーを連想させる、刺戟的な演奏だ。

それ以外にも、70年代中期のジェイムズ・ブラウンを思い起こさせる、リズミカルなギターと、フェラ・クティの音楽をマイルドにしたようなアフロ・ビートを組み合わせた”Theme from Life & Livin’ It”では、黒人のファンクと白人のポピュラー音楽を融合した、ポップなアフロ・ビートを聴かせてくれたり、キーボードをバンドの核に据えた素朴な伴奏の上で、滑らかなファルセットを惜しげもなく聴かせてくれるミディアム・ナンバー”Won’t Follow”、パーカッションと重いエレキ・ギターの音色効果的に使ったR&Bナンバー”The Way”など、スーダン音楽をルーツに持ちつつ、西洋音楽に触れて育った彼のセンスとバランス感覚が発揮された、一癖も二癖もある楽曲が並んでいる。

彼の音楽は、ユッスン・ドゥールやフェラ・クティが登場したときに盛り上がったアフリカ音楽とは少し違うと思う。これまでのアフリカ音楽は、アフリカと西洋を対立軸に捉えて、アフリカのアイデンティティを強調しすぎたり、自分達の音楽性を正当化するために「アフリカ」を持ち出しただけで、具体的なアフリカ音楽の要素は不透明という作品も少なくなかった。だが、彼の場合は、スーダン、アメリカ、イギリスという3つのルーツを対立項にすることなく自分の人生の一部分として受け入れたところが大きいのだと思う。

アフリカと西欧という、制度も文化も異なる世界に育ったことで、どちらの音楽とも一味違う、彼は独自の音楽を作り上げた。人種や国境に囚われることも、反発することもなく、受け入れ、乗り越えた本作のような音楽こそ「地球人の音楽」と呼ぶのにふさわしいのかもしれない。

Track List
1. Deadweight
2. U’Huh
3. Favorite Song
4. Fire
5. Telephone
6. Passenger
7. Theme from Life & Livin’ It
8. Won’t Follow
9. The Way




Life & Livin' It
Sinkane
City Slang
2017-02-10

Case - Love Jones EP [2017 Playbook]

96年にアルバム『Case』とフォクシー・ブラウンをフィーチャーしたシングル『Touch Me Tease Me』でデビュー。2015年までに7枚のフル・アルバムと"Happily Ever After"や"Missing You"などのヒット曲をを残してきた、ニューヨーク出身のシンガー・ソングライター、ケイスことケイス・ウッドワード。彼にとって2015年のアルバム『Heaven's Door』以来となる新曲が本作だ。

実は、2016年にも8曲入り(うち4曲は収録曲のインストゥメンタル・バージョン)のEP『Case: Relocked, Reloaded,Revisited』をリリースしているが、こちらは過去のヒット曲(上述の3曲+"Faded Pictures")の再録だったので、純粋な新曲としては今回が久しぶりのリリース。ナヨっとした色っぽい歌声を武器に、サンプリングを多用したヒップホップのビートが流行した90年代と、シンセサイザーを駆使したスタイリッシュなトラックがR&Bの主流になった21世紀の両時代で活躍してきた彼だけあって、今回の新作でもコンピュータを使って作った洗練されたトラックをバックに、セクシーな歌声を聴かせている。

本作の1曲目"Strawberry"は、ジョージ・ベンソンを思い起こさせるエロティックなギターの伴奏を取り入れたアップ・ナンバー。喉から血を出しそうな勢いで、ファルセットを連発するケイスの姿が印象的な、色々な意味で切ない雰囲気の楽曲だ。

続く"True Religion"は、アリシア・キーズの"A Woman's Worth"を彷彿させる、ヴォーカルのダイナミックな感情表現と、ジミー・スミスを連想させる、キーボードの激しい演奏が目立つスロー・ナンバー。ケイスの場合、他のシンガーと比べて声量がそれほど豊かではないので、この手の強弱を極端につける曲では無理矢理声を絞り出すことも少なくなかったが、この曲では声量以外の要素も駆使して、無理なく起伏をつけている。個人的には、前半の二曲が本作のハイライトだと思う。

一方、ロマンティックなギターの音色がケイスのセクシーな歌声を引き立てるミディアム・バラード"Heaven"は、過去の作品にありそうでなかった曲。シンセサイザーのビートとギターの演奏を際立たせた弾き語りっぽいシンプルなトラックは、彼の繊細なヴォーカルと相性が良い思う。今後はこっちの方面にも挑戦するのだろうか。ちょっと気になる曲だ。

そして、アルバムの最後を飾る"Too Many Night In L.A."は、2人の女性シンガー、アレクシス・レネーとタマラ・レイをフィーチャーした、ロマンティックなミディアム・バラード。シンセサイザーを使ったスマートなビートと、ケイスの耳元で囁きかけるようなヴォーカルが繊細な印象を与える。細い歌声を精一杯振り絞って歌う2人とベテランの余裕を感じさせるケイスの対照的なパフォーマンスが、楽曲にメリハリをつけている。

今回のEPは、前作の路線を引き継ぎつつ、生楽器を取り入れるといった風に、新しいスタイルにも挑戦した、ベテランらしい漸進的な発展を遂げた作品だと思う。実績のあるベテランの作品の中には、往年のヒット作の再来を期待される余り、過去の作品の焼き直しになってしまったり、最新のトレンドに無理して追いつこうとして、本人のキャラクターとは異なる作風に走ってしまうケースが散見されるものも多い中、流行と適度な距離を置きながら、自分のスタイルを貫き続ける彼の姿には、経験と実績を積み重ねたベテランの理想像さえ感じさせる。

キース・スウェットエリック・ベネイといった、90年代から活躍するベテラン・シンガー達が、円熟味を増した歌声を聴かせている中、それに負けじと進化し続ける姿を見せてくれた、魅力的な作品。eOneを離れている点がちょっと気になるが、新作への期待を膨らませてくれる佳作だ。

Track List
1. Strawberry
2. True Religion
3. Heaven
4. Too Many Night In L.A. feat. Alexis Renee' & Tamara Ray




 

SiR – Her Too [2017 Top Dawg Entertainment]

インターネット上で発表した自作曲が注目を集め、ジル・スコットの『Woman』やタイリースの『Black Rose』にソングライターとして抜擢。2014年にはアンダーソン・パックのアルバム『Venice』に収録されている”Already”にフィーチャーされるなど、音に拘りのあるミュージシャンやファンから高く評価されている、カリフォルニア州イングルウッド出身のシンガー・ソングライター、サーことダリル・ファリス。彼の、2016年作『Her』の続編となる新作EPがこのアルバムだ。

自主制作だった過去の作品から一転、ケンドリック・ラマーやスクールボーイQなどの作品を扱っているトップ・ドーグからリリースされた本作。だが、エフェクターを効果的に使った、繊細で色っぽいヴォーカルと、Qティップやディアンジェロの作品を彷彿させる、古いレコードから取り出したような温かい音色を使った抽象的なビートという作風は変わっていない。本作には収録されていないが、今年の頭にインターネット上で公開した、ドネル・ジョーンズの”Where I Wanna Be”のカヴァーが象徴するような、柳腰の歌声と洗練されたメロディを90年代のイースト・コースト・ヒップホップと融合した、しなやかなヒップホップ・ソウルを聴かせてくれる。

本作のトラック・リストを見て、最初に気になったのは、アルバムの1曲目を飾る”New LA”だ。アンダーソン・パックとキング・メズという、ドクター・ドレの『Compton』でも辣腕を振るっている2人をフィーチャーしたこの曲は、 ハウス・ミュージックっぽい四つ打ちのビートとYMOの”東風”を思い起こさせるアジアン・テイスト溢れる伴奏が不思議な雰囲気を醸し出すダンス・ナンバー。トラックの上をふわふわと揺蕩うコーラスが心地よい曲だ。

それ以外の曲では、ジョージ・アン・マルドロウっぽいしゃがれ声と、ポロポロとつま弾かれるキーボードの伴奏が格好良いヒップホップ・ソウル”Don’t Call My Phone”も面白い。過去にジェイ・ディラのビートを使ったR&B作品をインターネット上で公開していたが、その路線の延長にあるような、抽象的なビートをリズミカルに乗りこなした、軽妙で味わい深いヴォーカルが印象的だ。

また、本作に先駆けてリリースされたマセーゴが客演しているミディアム”Ooh Nah Nah”も捨てがたい、ジャーメイン・デュプリがバウンズ・ビートを使ってリミックスを施した、マックスウェルの”Lifetime”を思い起こさせる、現代的な変則ビートと柔らかい歌声の組み合わせに心が温まる佳曲だ。

この他にも、美しい音色のキーボードを使った伴奏と、ピート・ロックが使いそうな重く、温かいビートを使ったトラックの上で、しゃがれた声を振り絞って語り掛けるように歌うミディアム”The Canvas”や、ヘヴィーなビートと繊細なギターの対照的な個性が光るトラック乗せて、ディアンジェロの”Brown Sugar”のように、リズミカルに言葉を紡ぎ出すヴォーカルが光る”SUGAR”、シンセサイザーを駆使したスペーシーなトラックにエフェクトをかけたヴォーカルの組み合わせが、昔のSF映画のように近未来的な雰囲気を演出する”W$ Boi”など、収録されたどの曲も魅力的で捨て難い、素敵なものばかりだ。

彼の音楽を端的に語るなら、フランク・オーシャンの『Blondie』アンダーソン・パックの『Malib』で取り組んだ、2020年のR&Bを先取りした先進的なサウンドと、ディアンジェロの『Black Messiah』やマット・マーシャンズの『The Drum Chord Theory』が披露した60年代、70年代のソウル・ミュージックの現代的な解釈を両立したものと言っていいと思う。新しいサウンドに挑戦しつつ、昔のブラック・ミュージックの要素を随所に盛り込むことで、奇抜なだけに留まらない、何度も繰り返し聴きたくなる味わい深さを備えているんだと思う。

演奏スタイルもフォーマットも、レーベルの規模も全て違うが、そのクオリティはシドの『Fin』に匹敵する2017年のR&B界にとって重要な作品の一つだと思う。フル・アルバムの発売が今から待ち遠しくなる、充実した内容のEPだ。

Track List
1. New LA feat. Anderson. Paak & King Mez
2. The Canvas
3. Don’t Call My Phone
4. Ooh Nah Nah feat. Masego
5. SUGAR
6. W$ Boi




Her Too [Explicit]
Top Dawg Entertainment
2017-02-10


 
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