ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Anderson .Paak – Malib [2016 OBE, EMPIRE]

サーラ(旧名:サーラ・クリエイティブ・パートナーズ)の後ろ盾で音楽業界に入り、自身の作品を録音しながら、トキモンスタやMED&マッドリヴといった、西海岸出身の人気アーティストの作品に数多く参加してきた、カリフォルニア州ヴェンチュラ出身のシンガー・ソングライター、アンダーソン・パック。彼にとって、2014年の『Venice』以来となる2枚目のフル・アルバムがこの『Malib』だ。

前作が発売されてからの2年間は、彼にとって大きな飛躍の時期だった。一つ目のきっかけは、2015年にドクター・ドレの16年ぶりのオリジナル・アルバム『 Compton』にソングライター兼ヴォーカリストとして参加したこと。若手のシンガーとしては異例の16曲中9曲に関わる大抜擢で、20歳以上も年の離れた西海岸を代表する大物プロデューサーの作品に、若い感性を注ぎ込んだことで話題になった。また、このことは彼の知名度を一気に高めただけでなく、その後のメジャー・レーベルでの仕事や、有名プロデューサーとの共作のきっかけになったことも見逃せない。もう一つのきっかけは、同じ年にフィラデルフィア出身のDJ兼プロデューサーのノウレッジと結成したユニット、ノーウォーリーズの名義でEP『Link Up & Suede』を発表したこと。これまで、セルフ・プロデュースの楽曲や電子音楽が得意なミュージシャンと組むことが多かった彼が、レコードからサンプリングしたフレーズを多用した、東海岸風のヒップホップのトラックを乗りこなした同作は、新しい音が好きな人々だけでなく、90年代のようなスタイルのヒップホップを好む層にもに彼の存在を知らしめた。

今回のアルバムは、DJノーバディやトキモンスタなどの西海岸のアンダーグラウンド・シーンを拠点に活躍するミュージシャンと制作した前作から一転、9thワンダーやDJカリルなどの人気ミュージシャンをプロデュースしているトラック・メーカーが集結し、ザ・ゲームやタリブ・クウェリなどの売れっ子ミュージシャンが客演するなど、大物ミュージシャン顔負けの豪華な布陣で録音している。

アルバムからの先行リリースである”The Season | Carry Me”は、9thワンダーがプロデュースしたミディアム・ナンバー。冨田勲の”Peer Gynt: Solvejg's Song”やクラウンズ・オブ・グローリーの”Ain't No Sunshine”などをサンプリングしたトラックの上で、しゃがれ声を張り上げる泥臭い楽曲。9thワンダーが関わった曲の中では珍しい、音数を絞って、音と音の隙間を意識させる、シンプルだが味わい深いトラックが強く印象に残る。

この他には、マッドリヴが手掛ける、サーラっぽい抽象的なトラックの上で、モータウンに所属するシカゴ出身のシンガー・ソングライターBJザ・シカゴ・キッドとのデュエットを聴かせるミディアム “The Waters”も面白い。爽やかな歌声のBJと、渋い声のパックという好対照な二人が、マッドリヴの手掛ける前衛的なビートの上で一つに纏まる光景は見逃せない。

それ以外の曲では、ケンドリック・ラマーなどの作品を手掛けている、ライクことガブリエル・スティーブンソンがプロデュースを担当、ザ・ゲームがラップで参加した”Room In Here”や、ハイ・テックがプロデュースした”Come Down”などが存在感を発揮している。前者は、メロウなピアノのフレーズとソンヤ・エリスのみずみずしい歌声を効果的に使った、切ない雰囲気のトラックの上で、むせび泣くような物悲しい歌を聴かせるミディアム・ナンバー。淡々と言葉を放つザ・ゲームのラップが感傷的な楽曲を適度に引き締めている点は面白い。また、後者はモス・デフの”Oh No”を彷彿させる生楽器の音色を活かしたジャズっぽいトラックの上で、ほとんどラップと過言ではない、荒っぽいメロディを聴かせるファンキーな楽曲。パック自身はカリフォルニアの出身だが、古いレコードをサンプリングしたニューヨークのヒップホップとも相性がよいことに気づかせてくれる。後にア・トライヴ・コールド・クエストの作品に招聘されることを予見したような1曲だ。

個人的な感想を言うと、このアルバムではR&Bの世界に流れる二つの潮流が上手く混ざり合っているように映った。一つの流れは、ディアンジェロやエリカ・バドゥのような、トラックなどにヒップホップの要素を盛り込みつつ、曲全体で昔のソウル・ミュージックの面影も感じさせるミュージシャン達。もう一つは、フランク・オーシャンやソランジュのような、R&B以外の色々な音楽の要素を取り入れて、ポピュラー・ミュージックとしての新鮮さも両立するミュージシャン達だ。9thワンダーやハイ・テックが作る泥臭いビートは前者の要素が強く反映されたものだし、淡白な歌声のソンヤ・エリスを起用した曲やマッドリヴ作のリズム・マシンを使った抽象性が高いビートは後者の作風だ。しかし、いずれの曲も片方に寄ったものではなく、前者の曲ではパックの声の細さを、後者の曲では彼のしゃがれた声を強調して、耳障りのよさとドロドロとした雰囲気をきちんと両立している。

フランク・オーシャンの登場以降、色々なジャンルのミュージシャンと組んで斬新な曲を生み出すことが、R&Bの世界ではある種の流行になっている。だが、このアルバムは、その流行に逆らうかのように、ヒップホップのプロデューサーを起用しながら、他のミュージシャンにも負けない新鮮な楽曲を作り上げている。鋭敏な感性で、実績豊かなクリエイターの隠れた一面を巧みに引き出した才能は今後も目が離せない。人工知能や機械学習など、コンピューターの可能性が各所で言及された2016年に、人間同士の共同作業が持つ可能性を再認識させてくれた傑作だと思う。

Producer
Adrian L. Miller, Ketrina "Taz" Askew, Kevin Morrow

Track List
1. The Bird
2. Heart Don't Stand A Chance
3. The Waters feat. BJ The Chicago Kid
4. The Season | Carry Me
5. Put Me Thru
6. Am I Wrong feat. ScHoolBoy Q
7. Without You feat. Rapsody
8. Parking Lot
9. Lite Weight feat. The Free Nationals United Fellowship Choir
10. Room In Here feat. The Game & Sonyae Elise
11. Water Fall interluuube
12. Your Prime
13. Come Down
14. Silicon Valley
15. Celebrate
16. The Dreamer feat. Talib Kweli & Timan Family Choir




Malibu
Anderson Paak
Imports
2016-01-22

 

Shy Girls – Salt [2017 Hit City USA]

2013年に配信限定でリリースした、自主制作のEP『Timeshare』が、音楽情報サイトなどから高い評価を受け、レコード会社と未契約ながら、マックスウェルやリトル・ドラゴンなどのツアーでオープニング・アクトを務めてきた、ペンシルベニア州のステイト・カレッジ出身、現在はオレゴン州のポートランドを拠点に活動するシンガー・ソングライター、シャイ・ガールズことダン・ヴィドマー。彼にとって2015年のミックステープ『4WZ』以来となる新作が、ロス・アンジェルスに拠点を置くインディペンデント・レーベル、ヒット・シティUSAから発売された。

これまでの作品では、ブラッド・オレンジやウィークエンドなどの作品を彷彿させる、コンピューターを多用した重厚で抽象的なトラックと、サム・スミスやロビン・シックを思い起こさせる、甘く爽やかなヴォーカルを組み合わせた、前衛的だが親しみやすいR&Bを聴かせてくれた彼。初のフル・アルバムとなる本作では、これまでの電子音中心の作品から一転、多くの楽器を使用したロック色の強い曲など、新しいスタイルにも挑戦している。

アルバムの実質的な1曲目”You Like The Pain Too”は、ジョージ・ヘルジングのピアノをフィーチャーした伴奏をバックに、サム・スミスのように爽やかな歌声で朗々と歌い上げるスロー・ナンバー。物悲しいメロディが光る楽曲を、電子楽器を使って幻想的な雰囲気にまとめているのが面白い。

他の曲に目を向けると、アルバムに先駆けて公開された”Why I Love”は、ブラッド・オレンジが作りそうな、強烈なエフェクターをかけた電子音を使ったトラックの上で、若き日のテヴィン・キャンベルのように、甘酸っぱい歌声を響かせるスロー・ナンバー。地鳴りのような重低音とストリングスのように使われるシンセサイザーのおかげで、電子音楽が持つ斬新さと、往年のソウル・ミュージックが持つ聴き慣れた感覚の両方を同時に味わえる。

また、もう一つの先行リリース曲”I Am Only A Man”は、オルガンっぽい音色のキーボードをバックに、語り掛けるように歌う序盤から一転、エアロ・スミスなどのロック・バラードのように、力強い音が響くバック・トラックと喉が張り裂けるような荒々しいヴォーカルを聴かせるバラード。90年代のロックにありそうな耳馴染みのあるメロディを、アレンジや音響処理の技術で新しい音楽に聴かせてくれる技術力の高さが聴きどころだ。

この他にも、ニュー・オーダーやクラフトワークのアルバムで使われていそうな、電子ドラムやシンセ・ベースの音色を土台に使いつつ、キラキラとした電子音をちりばめたビートに、レミー・シャンドやビラルの楽曲を連想させる、繊細なメロディを丁寧に歌い込むミディアム・ナンバー”Trivial Motion”のような、前作までの路線をベースに、よりロックやR&Bに寄せた親しみやすい曲も収めている。このように、アルバム全体をとおして、電子楽器と生楽器を上手に使い分けながら、先鋭的なサウンドと親しみやすいメロディが同居した作品に纏め上げているのが本作の特徴だ。

ところで、ロックや電子音楽を取り入れた白人のR&Bシンガーと聞くと、どうしても比較してしまうのが、メイヤー・ホーソンやロビン・シックのような白人のソウル・シンガーや、ブラッド・オレンジやウィークエンドなどの前衛的なサウンドをウリにするR&Bシンガー達だ。確かに、彼らの音楽とダンの作品を聴き比べて、全く別の音楽と断定するのは難しい。だが、本作に限って言えば、メイヤー・ホーソンやロビン・シックのように、意識的に往年のソウル・ミュージックを取り入れたりするところや、ブラッド・オレンジやウィークエンドのように、斬新な演奏を聴かせようという気負うところがなかったように映る。端的に言えば、彼の作風は色々なルートを通して自分が聴いてきた音楽、ロックや電子音楽、R&Bなどをベースにしつつ、それらの要素を必要に応じて使い分けているだけように見えるのだ。もちろん、今でも、人種や地域、社会的階層によって触れられる音楽は大きく異なると思う。だが、それを織り込んでも、彼の中では、音楽同士の壁は極めて希薄で、彼の中ではすべてのジャンルが対等な関係で並んでいるように見えて仕方ないのだ。

彼の音楽性は、チャンス・ザ・ラッパーやドレイクのように、学校に通い、刑務所暮らしの経験もない、「大多数の人々」の感性の延長上にあると思う。多くの人が、特定のジャンルに拘らず、色々な音楽を耳にするように、R&Bやロック、電子音楽が一つの音楽の中に混ざり合うことが当たり前になる時代は、それほど遠くないと思う。そんな時代の先鞭をつけたのが、このシャイ・ガールズの作品だと思う。

Producer
Dan Vidmar

Track List
01. Intro
02. You Like The Pain Too
03. Watercolor Dreams
04. Trivial Motion
05. Why I Love
06. Say You Will
07. What If I Can
08. Time
09. I Am Only A Man
10. Collecting
11. I Am Only A Man (Dylan Stark Remix)






Nite-Funk – Nite Funk EP [2016 Glydezone Recordings]

ヴィンテージ品のシンセサイザーを使いこなして、電子音が中心にもかかわらず、温かみのあるグルーブを生み出し続けている、ディム・ファンクことデイモンG.リディックと、電子楽器を多用した抽象的なトラックと、透き通った美しい歌声で多くの人を魅了するナイト・ジュエルこと、ラモーナ・ゴンザレス。独特の作風で定評のある両者によるユニット、ナイト・ファンクにとって初のEPが本作だ。

同じカリフォルニア州出身の二人によるコラボレーションは、本作の録音前にも何度か行われている。2011年にはデイモンがナイト・ジュエルの”It Goes Through Your Head”をリミックスしているし、2015年にはラモーナがディム・ファンクのアルバム『Invite The Light』の収録曲”Virtuous Progression”にフューチャーされるなど、互いに交流を深めてきた。

本作はこれまでの両者のコラボレーションを発展させたもので、デイモンのプロデュースのもと、演奏はデイモンが、歌と詞はラモーナが主に担当している。

アルバムのオープニングを飾る”Don’t Play Games”は、デイモンのブギー趣味が強く反映された、怪しげな雰囲気のアップナンバー。ブリブリとうなるようなベースは控えられているが、幻想的なシンセサイザーのハーモニーや、リズム・マシンを使ったスネアの乱れ打ちをスパイスに使ったトラックは、80年代のファンクとヒップホップやハウス・ミュージックの両方から影響を受けたデイモンらしく、クールで遊びごごろにあふれている。ラモーナの淡白なヴォーカルが、小技の詰まったトラックをクールに纏め上げているのも見逃せない。

2曲目の”Let Me Be Me”は、デイモンのルーツである、80年代のディスコ・ミュージックをストレートに再現したディスコ・ナンバー。クール・ノーツやプッシュを彷彿させる、跳ねるようなベースの演奏を強調したダイナミックなグルーヴの上で、ラモーナの透き通った歌声が響き渡る格好いいな楽曲だ。ソウル・シンガーではない彼女だから出せる。肩の力を入れすぎない歌唱が、曲全体に落ち着きと洗練された雰囲気とを与えている。

この他にも、ラモーナがメロディを丁寧に歌い込む、ナイト・ジュエル名義の作品ではあまり見かけないタイプのバラード”Love X2”や、四つ打ちのビートの上に、ハンド・クラップやキーボードの伴奏などを重ねたシンプルなトラックの上で、美しい高音を響かせるハウス・ナンバー”U Can Make Me”など、デイモンが得意なディスコ・サウンドをベースに、ラモーナの清涼感溢れるヴォーカルの魅力を巧みに弾き出した佳曲が続く。

このアルバムを聴いて感じることは、2人の音楽に対するセンスの良さだ。デイモンは、繊細で美しい声を持っているが、ソウル畑出身ではないラモーナの特徴を理解して、シャラマーやB.B.Q.バンドのような、繊細な声をウリにしているシンガーをフロントに据えたバンドの作風を積極的に取り入れている。一方、ラモーナは、デイモンが80年代のファンクやソウル・ミュージックに造詣が深いことを踏まえて、このアルバムでは当時のソウル・シンガーのように、キャッチーでわかりやすいメロディを丁寧に歌い上げている。その結果、アルバムの方向性はデイモンの楽曲のような80年代のブラック・ミュージックがベースになっているが、トラックは洗練され、ヴォーカルの声もメロディも爽やかな、従来の二人の作品とは一味違う。スタイリッシュなディスコ・ミュージックに仕上がったと思う。

ディム・ファンクのルーツである80年代ソウルの魅力を再確認できるだけでなく、ソウル・ミュージックとは縁遠い世界にも素晴らしいシンガーが沢山いることに気付かせてくれる。こういう作品を無視するのは視野が狭いと思うよ。

Producer
Damon G. Riddick

Track List
1. Don’t Play Games
2. Let Me Be Me
3. Love X2
4. U Can Make Me
5. Don’t Play Games (Instrumental)
6. Let Me Be Me (Instrumental)
7. Love X2 (Instrumental)
8. U Can Make Me (Instrumental)




Nite-Funk
Glydezone Recordings
2016-07-01


 
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