ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Illa J - Home [2017 JAKARTA]

ファーサイドの”Runnnin’”やデ・ラ・ソウルの”Stakes Is High”など、多くのヒップホップ・クラシックを手掛け、没後も多くの未発表トラックがリリース、活用されてきたされてきた稀代のビート・メイカー、ジェイ・ディラ。彼を兄に持つデトロイト出身のラッパーでプロデューサーが、イラJことジョン・ヤンシーだ。

彼が表舞台に登場したのは、ジェイ・ディラが亡くなった2年後の2008年。兄の未発表トラックに、彼がラップを吹き込んだ『Yancey Boys』を発表したときだ。90年代半ば、多くのヒット曲を送り出していた時代のJディラのトラックと、太く、温かく、ざらついた声で歌うようにラップをするイラJのコラボレーションは、90年代のヒップホップを懐かしむ人々を中心に、多くの支持を集めた。

その後は、兄が在籍していたヒップホップ・グループ、スラム・ヴィレッジの『Villa Manifesto』や、ロバート・グラスパーとマイルス・デイヴィスのコラボレーション・アルバム『Everything's Beautiful』などに客演。その一方で、ジェイ・ディラから多大な影響を受けたというプロダクション・チーム、ポテトヘッド・ピープルをトラック・メイカーに起用したアルバム『Illa J』を発売するなど、精力的に活動していた。

このアルバムは『Illa J』以来、約2年ぶりとなる通算3枚目のオリジナル・アルバム。ベルリンに拠点を置くジャカルタ・レーベルが配給した作品で、プロデュースはロス・アンジェルス出身のGフォースことカルヴィン・ヴァレンタインが担当。ジェイ・ディラを思い起こさせる泥臭いトラックに乗って、これまでの作品同様、太く柔らかいラップを聴かせてくれる。

アルバムの実質的な1曲目である”Sam Cook”は、往年の名シンガーに引っ掛けた声ネタが魅力のミディアム・ナンバー。ソウルフルな男性シンガーの歌声を使ったトラックをバックに、軽妙なラップを聴かせてくれる。60年代初頭のリズム&ブルースを連想させる。優雅なリズムが心地よい曲だ。

これに対し、”I Know”はストリングスなどのサウンドをループさせたトラックに、スクラッチなどを挟み込む手法が、ジャスト・ブレイズのプロデュース作品を連想させる曲。ざらついた声で歌うようなラップをする姿は、アンソニー・ハミルトンやライフ・ジェニングスのようなR&Bシンガーを思い起こさせる。イラJとソウル・ミュージックの親和性を再認識させてくれる曲だ。

また、”Photosynthesis”はジェイ・ディラのビートを連想させる、一つ一つの音色を微妙にずらしたビートが面白い曲。ディアンジェロにも似た声質のファルセットを多用したフックと、粗削りな地声のラップのコンビネーションが光っている。コモンとディアンジェロが客演したジェイ・ディラの ”So Far To Go”を彷彿させるソウルフルな曲だ。

そして、本作の最後を締める”Home”は、太いベースの音と複数のソウル・ミュージックのヴォーカルを組み合わせた泥臭いビートが格好良い曲。イラJはファルセットを多用したヴォーカルに徹している歌もの作品だ。ラッパーでありながらヴォーカルもこなすアーティストは、ドレイクパーティネクストドアなど何人かいるが、歌とラップで声質をがらりと変える人は珍しい。

今回のアルバムでは、生前のジェイ・ディラを思い起こさせる、太いベースや往年のソウル・ミュージックを引用したトラックを中心に揃え、その上で高音を多用したヴォーカルと、地声を駆使したラップを使い分けるスタイルで勝負している。デビュー以来、常に「ジェイ・ディラの弟」という肩書がついて回ってきた彼だが、本作では兄のスタイルを継承しつつ、ソウルフルな歌とラップを組み合わせることで、兄のスタイルを拡張、発展させていると思う。端的に言えば、「ジェイ・ディラの弟」から「ジェイ・ディラのスタイルを吸収、昇華したイラJ」へと、大きな飛躍を遂げたと思う。

兄弟であれ親子であれ、偉大なミュージシャンを親戚に持ったが故に、先駆者の影に苦しめられたアーティストは数知れない。そんな中で、彼は兄のスタイルを模倣することも否定することもなく、自分の音楽の糧にすることに成功していると思う。偉大な兄ジェイ・ディラの持つヒップホップとソウル・ミュージックを融合させた独自の音楽を、歌とラップの使い分けで継承したイラJの才能が光る名作だと思う。

Producer
Calvin Valentine

Track List
1. Intro (Turn It Up) feat. Dank
2. Sam Cook
3. I Know
4. Photosynthesis
5. 7 Mile
6. Snow Beach
7. Silencers feat. Moka Only
8. Detroit Bad Boys
9. Maureen
10. Home



ホーム
イラ・ジェイ
Pヴァイン・レコード
2017-06-30





Calvin Harris - Funk Wav Bounces Vol. 1 [2017 Columbia]

10代のころ、魚の加工場のアルバイトで貯めたお金を元手にDJ機材を購入。エレクトロ・ミュージックのDJとしてキャリアをスタートした、スコットランドのダムフリーズ出身のDJ兼プロデューサー、カルヴィン・ハリスこと、アダム・リチャード・ウィリス。

その後、ロンドンに移住し、プロとしてのキャリアをスタート。また、次第にDJと並行してインターネット上に自作曲やDJミックスを発表するようになり、気鋭のクリエイターとして注目を集めるようになる。そして、最終的にはEMI、ソニーBMG、スリー・シックス・ゼロの3社と契約を結ぶに至る。

2007年にアルバム『I Created Disco』でメジャー・デビューすると、同作はイギリスのアルバム・チャートで8位を獲得、ゴールド・ディスクに認定され、同国のトップDJの一人として知らぬものはいない存在になる。そんな彼は、2012年に発売した3枚目のアルバム『18 Months』が複数の国でゴールド・ディスクに認定(うちイギリスとオーストラリアはプラチナ・ディスクを獲得)される大ヒット。リアーナに提供して各国のヒットチャートで1位を獲得した”We Found Love” や、ニーヨを起用した”Let's Go”など、多くのヒット曲を送り出し、彼の名を世界に轟かせた。

今回のアルバムは、前作『Motion』から約3年ぶりとなる、通算5枚目のオリジナル・アルバム。フランク・オーシャンファレル・ウィリアムス、ニッキー・ミナージュやジョン・レジェンドなど、アメリカのヒップホップ、R&B界隈でトップをひた走るアーティストが集結。世界屈指の人気を誇るトップDJの新作にふさわしい、豪華なものになっている。

アルバムのオープニングを飾るのは、フランク・オーシャンとミーゴスが参加した”Slide feat”。エレクトリック・ピアノの伴奏で幕を開けるこの曲は、フランク・オーシャンの作風に近い、しなやかなメロディとサウンドが心地よいアップ・テンポのR&Bナンバー。アップ・テンポといっても、これまでの作品と比べるとBPMを10以上落としている、彼の録音の中ではゆったりとしたテンポの楽曲だ。シンセサイザーを駆使したモダンなサウンドはフランク・オーシャンの渋い歌声の良さを巧みに引き出しており、往年のソウル・ミュージックの泥臭さと、ニーヨなどの洗練されたサウンドを一つの作品に同居させている。

一方、ジョン・レジェンドとスヌープ・ドッグ、ヤング・サグの3人を招いた”Holiday”は、エレクトリック・ベースとゴムボールのように弾けるドラムの音色が印象的なミディアム・ナンバー。色々な音色を使った、鮮やかで爽やかなエレクトロ・サウンドは、山下達郎の”Sparkle”や、ネプチューンズの”Frontin’”などを連想させる。他の作品同様、変則ビートの上でもペースを崩すことなく飄々と言葉を繋ぐスヌープのラップ・スキルの高さも聴きどころだが、注目して欲しいはハジョン・レジェンドのヴォーカル。ファルセットを多用したヴォーカルは、マーヴィン・ゲイを連想、温かく色っぽいものだ。二人の巨頭に挟まれたヤング・サグもいい味を出している。

また、ニッキー・ミナージュを起用した ”Skrt”は、彼の作品では珍しいレゲトン・ナンバー。ファルセットを多用した可愛らしいヴォーカルと、地声を使った荒々しいラップを使い分けるニッキー・ミナージュの姿は、まるでデュエット曲のようだ。ラテン音楽を取り入れた作品といえば、直近でもDJキャレドの”Wild Thoughts”や、『ワイルド・スピード ICE BREAK』のサウンドトラックに収められているピットブルの”Hey Ma”など、色々なものがヒットしているが、彼女の曲はアメリカのR&Bに近いと思う。3曲を聴き比べしても面白そうだ。

そして、ファレル・ウィリアムスとケイティ・ペリー、ビッグ・ショーンをフィーチャーした”Holiday”は、乾いたギターの音色と、アナログ・シンセサイザーのコンビネーションが光るミディアム・ナンバー。シンセサイザーやギターの音だけ聞くと、ネプチューンズの新作と勘違いしそうな曲だが、レゲトンのビートを盛り込みつつ、スタイリッシュに纏めたアレンジはカルヴィン・ハリスの作風だ。ファレルのヴォーカルはもちろん、ケイティ・ペリーのキュートな歌声も眩しい。暑い季節に似合いそうな曲だ。

このアルバムでは、彼のトレード・マークともいえるEDMの要素は最小限に抑えられ、大部分の曲でヒップホップ、R&Bのアーティストとコラボレーションした作品になっている。21組のゲスト・ミュージシャンのうち、ケイティ・ペリーとジェシー・レイズ以外はヒップホップ、R&B作品をレコーディングしたことのある面々という点も、本作の方向性を端的に示していると思う。その一方で、R&Bやヒップホップのミュージシャンを招きながらも、近年のR&Bで多用される、トラップなどの変則ビートを取り入れず、しなやかで洗練されたフレーズや、ラテン音楽のエッセンス、エレクトリック・ベースやシンセサイザーを取り込んだ作風は、世界各地のステージに立ち、多くの聴衆を熱狂させてきた彼らしい、絶妙なバランス感覚が発揮されていると思う。端的に言えば、ダフト・パンクやマーク・ロンソンのような、リビングとクラブのフロア、そしてロック・フェスの全てに気を配った、全方位的な作品に聞こえるのだ。

エレクトロ・ミュージック界のトップ・クリエイターの独創的な解釈が光る。キャッチーで親しみやすいR&B,ヒップホップ作品。これからの季節に似合いそうな、陽気でポップな佳作だと思う。



Producer
Calvin Harris

Track List
1. Slide feat. Frank Ocean, Migos
2. Cash Out feat. D.R.A.M., PARTYNEXTDOOR, Schoolboy Q
3. Heatstroke feat. Ariana Grande, Pharrell Williams, Young Thug
4. Rollin feat. Future, khalid
5. Prayers Up feat. A-Trak, Travis Scott
6. Holiday feat. John Legend, Snoop Dogg, Takeoff
7. Skrt It feat. Nicki Minaj
8. Feels feat. Big Sean, Katy Perry, Pharrell Williams
9. Faking It feat.Kehlani, Lil Yachty
10. Hard To Love feat. Jessie Reyez






FUNK WAV BOUNCES VOL. 1 [CD]
CALVIN HARRIS
COLUMBIA
2017-06-30

TLC - TLC [2017 852 Musiq, Sony Music Red, Warner, Cooking Vinyl]

1992年、ニュー・ジャック・スウィングを取り込んだダイナミックなサウンドと、個性的な歌声を持つT-ボスとチリのヴォーカル、そして、レフト・アイのエネルギッシュなラップが一つの音楽の中で炸裂したダンス・ナンバー”Ain't 2 Proud 2 Beg”で、華々しいデビューを飾り、続く”Baby-Baby-Baby”では一転、ロマンティックなバラードを披露してR&Bチャートを制覇した、T-ボス、レフト・アイ、チリによるアトランタ発の3人組ガールズ・グループ、TLC。

上の2曲を含むデビュー・アルバム『Ooooooohhh... On the TLC Tip』が、アメリカ国内だけで400万枚以上のセールスを上げ、SWVやアン・ヴォーグと並ぶアメリカを代表するガールズ・グループの一つになった彼女らは、94年に2枚目のアルバム『CrazySexyCool』を発表。同郷のプロダクション・チーム、オーガナイズド・ノイズが制作した”Waterfalls”や、当時所属していたラ・フェイスの共同経営者で、アメリカを代表するヒット・メイカーの一人だったベイビーフェイス作のバラード”Diggin' on You”などを収めた同作は、アメリカ国内だけで1100万枚以上を売り上げ、女性ヴォーカル・グループ初のダイアモンド・ディスクを獲得。「史上最も売れた女性グループのアルバム」として、ポピュラー・ミュージックの歴史にその名を刻んだ。

紆余曲折を経て、99年には3枚目のアルバム『FanMail』を発表。アメリカ国内だけで600万枚、日本でも100万枚を売り上げるなど、健在っぷりをアピールしたが、2002年にレフト・アイが事故死。以後、ステージには何度か立っているものの、グループとしての活動は停滞する。

本作は、レフト・アイの没後に発表された2002年の『3D』から、実に15年ぶりとなる5枚目のアルバム。有名なプロデューサーを起用して、レフト・アイが生前に録音した音源を使った前作に対し、本作はT-ボスとチリの2人が中心になって制作している。

アルバムに先駆けてリリースされた“Way Back”は、今回が初共演となるスヌープ・ドッグをフィーチャー。アッシャーの”Mind Of Man”やラトーヤの”I'm Ready”などを手掛けてきたD’マイルがプロデュース。ミディアム・テンポのトラックに乗せて、甘くゆったりと歌う姿は”Diggin' on You”や”Baby-Baby-Baby”を彷彿させる。ミディアム・バラードの途中でラップを挟むスタイルは”Waterfalls”を思い起こさせるが、この曲でラップを披露しているのは、どんな曲でもアグレッシブなラップを聴かせるレフト・アイではなく、柳のように飄々と言葉を繋ぐスヌープ。TLCとスヌープの相性の良さに驚かされると同時に、レフト・アイの存在の大きさを再確認させられる。

また、今回のアルバムで異彩を放っているのがブラック・アイド・ピーズの”Where Is The Love”などに携わってきた、ロン・フェアのプロデュース作品。アース・ウィンド&ファイアの”September”やボビー・ヘブの”Sunny”のフレーズを引用したアップ・ナンバー。往年の名曲を引用したトラックは過去の作品でもあったが、メロディに取り込んだ楽曲はこれが初めて。新録曲を手掛けながら、再発ビジネスにも関わっているロンの持ち味が発揮されたキャッチーな曲だ。

また、本作の収録曲では一番最初に公開された”Hater”は、シャキーラやピンクに楽曲を提供しているマイケル・バスビーが手掛けた作品。彼女達が得意とするミディアム・テンポの楽曲だが、これまでのアルバムには少なかった明るい雰囲気に仕上げている。レフト・アイのかわりにラップ・パートも担当する二人の姿が印象的。二人の対称的な声質を活かしたポップでキャッチーなものだ。

そして、クリス・ブラウンなどの楽曲を手掛けているコリー・マークスが制作を担当したシングル”Joy Ride”は、彼女らの持ち味を活かした粘り強いメロディが魅力のミディアム。ヒップホップのビートをベースに、ギターやホーンの伴奏を盛り込んだトラックは『CrazySexyCool』の収録曲を連想させる。

今回のアルバムでは、彼女達の代表曲に多いミディアム・テンポの作品を中心に揃えつつ、時代の変化に合わせて新しい音色やフレーズを盛り込み、2017年のTLCの音楽として楽しめるものに纏めている。また、2人のヴォーカルも往時の雰囲気を残しつつ、経験を重ねてしなやかさを増していると思う。しかし、90年代の雰囲気を残している分、レフト・アイが欠けた穴の大きさが目立っており、素晴らしいパフォーマンスでありながら、どこか物足りなさを感じさせる。シュープリームスに始まり、ディスティニーズ・チャイルドやフィフス・ハーモニーまで、メンバーが入れ替わったり脱退したりしたグループは少なくないが、一人が欠けただけで大きく雰囲気が変わってしまうのは、三人全員がグループにとって欠かせない存在だった彼女達だけだと思う。

ポピュラー・ミュージックの歴史に残る名グループの集大成にふさわしい、充実した作品。ヴォーカル・グループの歴史上数少ない、全員が際立った個性を持っていた3人の偉大さを再確認させてくれる佳作だと思う。

Producer
Dunlap Exclusive, D'Mile etc

Track List
1. No Introduction
2. Way Back feat. Snoop Dogg
3. It’s Sunny
4. Haters
5. Perfect Girls
6. Interlude
7. Start a Fire
8. American Gold
9. Scandalous
10. Aye Muthafucka
11. Joy Ride
12. Way Back feat. Snoop Dogg (Extended Version)




TLC
TLC
ワーナーミュージック・ジャパン
2017-06-30

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