ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Ella Mai - Ready [2017 Interscope Records]

サウスウエスト・ロンドンに生まれ、12歳の時にニューヨークへ移住。高校卒業とともに再度渡英したという、異色の経歴を持つシンガー、エラ・マイ。高校卒業後は、3人組のヴォーカル・グループを結成。イギリスの人気オーディション番組「Xファクター」に挑戦するが、あえなく落選。その後は、グループを解散し、彼女はソロに転向。音楽配信サイトに自作曲を投稿するなど、地道な活動を続けていた。

そんな彼女の活動が、タイガの”Rack City”やジェレミーの”Don't Tell 'Em”などを手掛けてきた、ロス・アンジェルス出身のプロデューサー、DJマスタードの目に留まり、2016年に彼が経営する10サマーズと契約。同じ年に6曲入りのEP『10Times』を発表して、配信限定だがレコード・デビューを果たした。

今回のアルバムは、2016年に発表された2作目のEP『Change』から、僅か3か月という短い間隔でリリースされた、彼女にとって通算3枚目のEP。過去2作品同様、配信限定のリリースだが、ユニヴァーサル系列のインタースコープが配給し、プロデュースはDJマスタードが担当。ソングライターには、ブリトニー・スピアーズの作品にも携わっているタライ・ライリーや、ジル・スコットの曲も書いているジャミール・ロバーツが参加し、彼女も全ての曲でペンを執っているなど、有名アーティストのアルバムにも見劣りしない力作になっている。

アルバムのオープニングを飾る”Boo'd Up”は、80年代のベイビーフェイスの作品を思い起こさせる、煌びやかな音色のシンセサイザーを使ったトラックと、彼女の甘い歌声を活かしたロマンティックなメロディが印象的なミディアム・ナンバー。レコーディング時点で27歳だった彼女の若く溌剌とした歌声と、色っぽい歌唱が光っている。80年代、90年代っぽい音色を使いながら、現代風の爽やかなメロディを取り入れている点も面白い。

続く”Breakfast in Bed”は、リアーナやシャンテ・ムーア等の作品に携わってきた、ニック・アウディノが参加した作品。トラックに使っている音色は”Breakfast in Bed”と似ているが、伴奏の音数を絞って、ビートを強調した、ヒップホップに近い曲。DJマスタードのトラック制作技術と、ニック達の美しいメロディを生むスキルが合わさった、心地よいミディアム・ナンバーだ。

そして、”Nobody Else”は自身の声をサンプリングしたフレーズから始まるミディアム・ナンバー。地声を多用した落ち着いた雰囲気のヴォーカルが、メアリーJ.ブライジやリアーナを思い起こさせる。ゴードン・チェンバースの手による流麗なメロディも、彼女のしなやかな歌声の魅力を引き出している。

また、ロー・ジェイムズやマイリー・サイラスなどの作品にかかわってきた、サミュエル・ジーンがソングライターに名を連ねている”My Way”は、煌びやかなシンセサイザーの音色を使ったロマンティックなミディアム・ナンバー。一方、”Breakfast in Bed”でも作者に名を連ねている、ニック・アウディノがペンを執った”Makes Me Wonder”は甘酸っぱいメロディが印象的なミディアム・ナンバー。彼女の若々しい一面が堪能できる佳曲だ。

そして、本作のハイライトが、アッシャーやメアリーJブライジなどの作品にも参加してきた、ロナルド・コルソンが制作にかかわっている”Anymore”だ。ピアノの音色を効果的に使った切ない雰囲気のトラックと、激しい感情をむき出しにしたダイナミックなヴォーカルを組み合わせた、壮大なバラードだ。

今回のEPでも、過去の2作品同様、しなやかな歌声と、地声からファルセットまで、フルに使った表情豊かなヴォーカルが堪能できる。そのスタイルは、モニカやブランディのような、スマートな歌唱と、力強い歌声を売りにする女性シンガー達を連想させる。また、ソングライターにもゴードン・チェンバースのような、美しいメロディを生み出してきた作家を並べ、トラックもヴォーカルやメロディを引き立てることに気を配った、シンブルで洗練されたものになっている。この「しなやかな歌」を聴かせることに力を注いだことが、若手シンガーの作品でありながらロマンティックで落ち着いた雰囲気と、一本筋の通った軸のようなものを感じさせているのだと思う。

ビヨンセやリアーナとはスタイルが違うが、「歌の魅力」で勝負している稀有な作品。恵まれた容姿と強靭な歌声を兼ね備えた彼女。90年代のブランディやモニカ、2000年以降のジェニファー・ハドソンやクリセット・ミッシェルが好きな人はぜひ聞いて欲しい、クールなヴォーカルとビジュアルが魅力の女性シンガーだ。

Producer
DJ Mustard

Track List
1. Boo'd Up
2. Breakfast in Bed
3. Nobody Else
4. My Way
5. Makes Me Wonder
6. Anymore



Ready [Explicit]
Universal Music LLC
2017-02-26

‎Wale - Shine [2017 Maybach Music Group, Atlantic]

2009年にアルバム『Attention Deficit』でメジャー・デビューすると、ラップ・チャートで2位、R&Bチャート3位を獲得。一気に人気ミュージシャンの仲間入りを果たし、その後は2016年までに6枚のアルバム(うち3枚はコラボレーション作品)を発表。全ての作品を総合チャートの5位以内に送り込み、ラップ・チャートとR&Bチャートでは1位に入っている、ワシントンD.C.出身のラッパー、ワーレイこと、ワーレイ・ビクター・フォーラリン。

ナイジェリア出身の両親を持ち、ヨルバ人の血を引く彼は、ワシントン発のダンス・ミュージック、ゴー・ゴーから多大な影響を受け、ハック・ア・バックスの”Sexy Girl”をサンプリングした曲を発表するなど、ラップの技術だけでなく、往年の黒人音楽への造詣も深かった。そんな彼はマーク・ロンソンが手掛けた、リリー・アレンの”Smile”のリミックスに客演したことをきっかけに、彼のレーベルと契約。その後、リック・ロス率いるメイバッハに移籍し、多くの作品を発表している。また、自身名義の作品だけでなく、ウェイク・フロッカ・フレイムの”No Hands”や、ミゲルの”Coffee”などに参加。存在感を発揮してきた。

本作は、オリジナル・アルバムとしては2015年の『The Album About Nothing』以来2年ぶり、ミックス・テープも含めると、2016年の『Summer on Sunset』以来、約10か月となる新作。前作同様、多くのヒット・メイカーにトラック制作を依頼し、豪華なゲストを集めている。

さて、収録曲に目を向けると、アルバムの2曲目に収められている”Running Back”は、トロント出身のプロデューサー、スピンズ・ビーツがトラックを作り、ニュー・オーリンズ出身の人気ラッパー、リル・ウェインが客演している。トラップのような隙間の多いビートを作りつつ、柔らかい音色のシンセサイザーを組み合わせることで、トラップとは一味違う雰囲気と、ドレイクやウィークエンドの作品のように、ポップでキャッチーな作品に纏め上げている。トラックの雰囲気を活かしつつ、ほかの曲と変わらないラップを聴かせる二人の姿も印象的だ。

また、映画「The Fate Of The Furious」のサウンドトラックに収録されている”Good Life”も好評なオークランド出身のラッパー、G-イージーを招いた”Fashion Week”は、ラテン音楽の要素を取り入れた躍動感あふれるアップ・ナンバー。シカゴ出身のプロダクション・チーム、クリスチャン・リッチが手掛けたこの曲では、ハンド・クラップやパーカッションの音色を組み合わせた軽妙なトラックに乗って、歌とラップを織り交ぜた、器用なパフォーマンスを聴かせてくれる。人気ミュージシャンの貫禄と高い技術が光る佳曲だ。

そして、クリス・ブラウンをフィーチャーした”Heaven on Earth”は、テキサス州アーリントン出身のプロデューサー、スーパー・マイルズの作品。”Fashion Week”同様、パーカッションなどを使った軽妙なビートだが、一緒にピアノの音色を取り入れるなど、よりクールで洗練されたサウンドになっている。クリス・ブラウンのセクシーなヴォーカルも、ロマンティックなトラックと上手く噛み合っている。ジャンルは少し違うがウェイン・ワンダーの”No Letting Go”を思い起こさせる、メロウでダンサブルな曲だ。

だが、本作の目玉はなんといっても”My PYT”だろう。ドープ・ボーイズがプロデュースしたこの曲は、マイケル・ジャクソンの”PYT”とマーヴィン・ゲイの”Sexual Healing”をサンプリング。シンセサイザーを多用したモダンなビートに、2曲のフレーズをうまく埋め込んで、モダンで甘い雰囲気のトラックに纏め上げている。この上で、歌うように言葉を繋ぐワーレイのラップも見逃せない。

これまでに発表してきた作品がすべてヒットしてきた彼だけあり、今回のアルバムでもキャッチーなトラックやラップの曲が目立っている。ただ、彼の場合はゴー・ゴーなどのダンス・ミュージックから多くの影響を受けてきたこともあり、あくまでもブラック・ミュージックの手法をベースにしている点が特徴的だと思う。その象徴ともいえるのが”My PYT”で、ブラック・ミュージックの歴史に残る名曲のフレーズを引用し、往年のソウル・ミュージックの雰囲気を取り入れつつ、現代風に落とし込んだ、面白い発想の曲だと思う。

2010年代を代表するヒップホップ・アーティストらしい、過去の音楽の手法を踏襲しつつ、現代の音楽に還元した、親しみやすさと奥深さを感じる佳作。

Producer
Rick Ross, Wale Folarin etc

Track List
1. Thank God
2. Running Back feat. Lil Wayne
3. Scarface Rozay Gotti
4. My Love feat. Major Lazer, WizKid & Dua Lipa
5. Fashion Week feat. G-Eazy
6. Colombia Heights (Te Llamo) feat. J Balvin
7. CC White
8. Mathematics
9. Fish n Grits feat. Travis Scott
10. Fine Girl feat. Davido & Olamide
11. Heaven on Earth feat. Chris Brown
12. My PYT
13. DNA
14. Smile feat. Phil Adé & Zyla Moon





Shine
Wale
Atlantic
2017-05-12

Bastien Keb - 22.02.85 [2017 First Word Records]

2012年ごろに音楽活動を開始。自作曲をインターネット上で発表する一方、ライブも精力的にこなしてきた、イギリスのロイヤル・レミントン・スパ出身のクリエイター、バスティン・ケブことセブ・ジョーンズ。

2015年には、初のアルバム『Dinking In The Shadows Of Zizou』を発表。電子音楽とヒップホップやファンクを混ぜた独特の作風が、新しい音楽に敏感な人々の間で注目を集めた。

その後も、フランスのプロデューサー、クワイエット・ドーンや、イギリスのファンク・バンド、ペーパータイガー等の作品で、楽曲制作やリミックスを担当。特に、ペーパー・タイガーの”Weight In Space ‎”をリミックスしたものは、同作の発売元であるイギリスのレーベルワー・ワー・45sのコンピレーションにも収められるなど、好評を博した。

今回のアルバムは、2年ぶりの新作となる2枚目のオリジナル・アルバム。影響を受けたミュージシャンとして、トム・ウェイツやサン・ラ、アリス・コルトレーンを上げ、多くの映像作品に親しんできたという、芸術への造形と鋭い嗅覚と、電子楽器だけでなく、ギターやフルートなど、色々な楽器を操る技術を兼ね備えた彼だけあって、本作でも電子楽器の先鋭的なサウンドと、生楽器の柔らかい音色を組み合わせた、ソウルフルな音楽を聴かせている。

アルバムの実質的な1曲目である”Pick Up”は、ジェイ・ディラを彷彿させる、微妙な揺らぎが心地よいビートと、サックスやキーボードの温かい音色が混ざり合ったトラックの上で、ファンカデリックを彷彿させる幻想的なヴォーカルを聴かせるミディアム・ナンバー。一つ一つの楽器の音を微妙にずらし、聴き手の感覚を揺さぶるテクニックが心憎い。

これに対し、アルバムに先駆けて公開されたもう1つの曲である”Cashmere”は、シンセ・ドラムの重い音色を使って、ダブを連想させるゆったりとしたビートを組んだミディアム・ナンバー。エフェクターを多用して、幻想的な雰囲気を演出しつつ、きらきらとしたシンセサイザーの音色を混ぜ込むことで、輪郭をはっきりさせている点が面白い。

また、”Night Hustle”はシンセ・ドラムやアナログ・シンセを使った、モダンなトラックで始まったと思いきや、急にヒップホップのビートに切り替わる奇想天外な曲。サーラ・クリエイティブ・パートナーズを彷彿させる、生音と電子楽器を組み合わせたソウルフルなトラックと、映画『死刑台のエレベーター』のような起伏のある展開が印象的な曲だ。

そして、本作の収録曲で唯一、ゲスト・ミュージシャンを起用した”Fit Rare”は華やかなシンセサイザーの音色と、荒っぽい管楽器の演奏のループが耳に残る、ヒップホップ色の強い曲。リズムに乗って言葉を繋ぐラップというよりも、音楽の上で強烈なメッセージを放つギル・スコット・ヘロンのような詩人に近い、カッポのラップもセブの先鋭的なビートと上手くかみ合って、独特の存在感を放っている。

彼の音楽の面白いところは、一つ一つの曲が起伏のある構成を持っている点と、ヴォーカルや各楽器が、異なるリズムやメロディを奏でながら、それらが組み合わさって一つの音楽を作り上げている点だと思う。それはまるで、映画監督がカメラを通して、役者の動きや背景を切り取り、一つの作品に落とし込む行為を音楽でやっているようだ。

映画監督のように作品全体を見渡し、一つの作品を組み立てる技術と、ジャズやロック、ソウルなど、多彩な音楽に触れてきた豊かな感性が生み出す、懐かしさと新鮮さが入り混じった作品。サン・ラが現在も生きていたら、こんなアルバムを作るんじゃないかな?と思わせる不思議な音楽だ。

Producer
Seb Jones

Track List
1. Intro
2. Pick Up
3. Cashmere
4. My Lovely Wool
5. The Lug
6. Night Hustle
7. Rare Fit
8. Fit Rare feat. Cappo
9. Glue (The End)
10. Nocturnal/Midnight Shift (Serious Thumb)
11. Town
12. Yela
13. The Cut
14. Glue (Daydream)
15. Younger
16. Crumbs




22.02.85 [12 inch Analog]
Bastien Keb
First Word
2017-03-03

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