ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Gucci Mane - Mr. Davis [2017 Guwop Entertainment, Atlantic]

T.I.やヤング・ジージーといったアトランタ出身のラッパーの作品によって、アメリカのブラック・ミュージック界に一大ブームを巻き起こしたトラップ。このスタイルを早くから取り入れ、多くのヒット作を残しているのが、アラバマ州バーミンガム出身のラッパー、グッチ・メインことラドリック・デランティック・デイヴィスだ。

14歳から音楽活動を始めた彼は、2005年には初のフル・アルバムとなる『Trap House』をリリース。インディー・レーベル発の新人の作品ながら、10万枚を超えるセールスを上げるヒット作となった。その後も立て続けにアルバムを発表した彼は、2007年にアトランティックと契約すると、ミックス・テープを含む多くの作品を世に送り出し、全ての作品で商業的な成功を収める。また、それと同時に、作品やライブを通して、色々なミュージシャンと舌戦を繰り広げたことも話題になった。

本作は、メトロ・ブーミンとのコラボレーション・アルバム『Droptopwop』から5か月ぶり、単独名義の作品としては昨年12月の『The Return of East Atlanta Santa』以来、約10か月ぶりの新作となる通算11枚目のオリジナル・アルバム。これまでの作品同様、プロデューサーに多くのヒット・メイカーを起用し、ゲスト・ミュージシャンにはミーゴスやウィークエンド、タイ・ダラ・サインといった人気ミュージシャンを多数招いた、ワイルドでキャッチーなヒップホップを披露している。

本作に先駆けて発表されたシングル曲”I Get the Bag”は、アトランタ出身のサウス・サイドとメトロ・ブーミンがプロデュースを担当し、トラップのビートを使ったヒット曲を数多く残しているラップ・グループ、ミーゴスがゲストとして参加。重低音を強調した陰鬱なトラックに乗って、リズミカルに言葉を繋ぐラップが魅力の作品。チキチキというハットの音がキモになるトラップだが、この曲では高音を抑え気味にして重厚でダークな雰囲気を演出している。重々しいビートを軽妙なラップで聴きやすくする4人のスキルが発揮された良曲だ。

これに対し、カナダ出身のシンガー・ソングライター、ウィークエンドを招いた”Curve”は、ウィークエンドと同じカナダ出身のプロデューサー、ナーヴが制作を担当。ゴムボールのように弾む電子音がウィークエンドの作品っぽくも聴こえるビートに乗って、次々と言葉を繰り出すウィークエンドと、一つ一つの言葉を丁寧に紡ぐグッチ・メインの対照的なパフォーマンスが光る曲だ。メロディ部分では言葉数が多いにも関わらず、サビでは甘酸っぱい歌声をじっくり聴かせるウィークエンドの器用さも魅力だ。

また、クリス・ブラウンが参加した”Tone It Down”は、カルディアックとヒットメイカーがプロデュースした作品。ジェイZの”Big Pimpin”にも少し似ている、変則的なビートを取り入れたトラップ・ナンバー。トラップを取り入れた作品が多い両者のコラボレーションだけあって、奇抜なビートの上でも流れるようなメロディとラップを聴かせてくれる。この分野で多くのヒット曲を残してきた二人の経験が発揮された、安定感が光る佳曲だ。

そして、本作の目玉と言っても過言ではないのが、アメリカを代表する人気女性ラッパー、ニッキー・ミナージュをフィーチャーした”Make Love”だ。サウス・サイドに加え、デトロイト出身のディテイルがプロデューサーとして参加したこの曲は、音数を絞ったビートとマリンバのような音色の上物が不思議な雰囲気を醸し出す作品。シンセサイザーの音色を強調しないポップなトラックはニッキー・ミナージュに近い印象、畳み掛けるようなグッチ・メインのラップも彼女の作品を連想させるものだ。

彼の音楽は、シンセサイザーを駆使して流行の音を自分のスタイルに合わせて咀嚼したトラックと、50セントやウータン・クランの面々のような硬く重い声質を活かしつつ、絶妙な力加減で聴きやすいラップに還元するスキルが合わさった、コアな音楽ファンからそうでない人まで、万人受けするスタイルが特徴的。彼の持ち味は本作でも健在で、新しい音を積極的に取り入れながら、それに色々な解釈を加えて自分の作風と融合している。

10代のころからラップ・ゲームの一線で戦い続けてきた早熟の天才らしい、安定感と柔軟な感性が光る佳作。現代のアメリカで流行っているヒップホップに興味がある人はぜひ聴いてほしい。

Producer
Gucci Mane, Southside, Metro Boomin, Cardiak, Hitmaka, Southside, Detail etc

Track List
1. Work in Progress (Intro)
2. Back On
3. I Get the Bag feat. Migos
4. Stunting Ain't Nuthin feat. Slim Jxmmi & Young Dolph
5. Curve feat. The Weeknd
6. Enormous feat. Ty Dolla $ign
7. Members Only
8. Money Make Ya Handsome
9. Changed feat. Big Sean
10. We Ride feat. Monica
11. Lil Story feat. ScHoolboy Q
12. Tone It Down feat. Chris Brown
13. Make Love feat. Nicki Minaj
14. Money Piling
15. Jumping Out the Whip feat. A$AP Rocky





Mr.Davis
Gucci Mane
Atlantic
2017-10-13

Wu-Tang Clan - The Saga Continues [2017 eOne]

往年のブラック・ミュージックをサンプリングしているにもかかわらず、他のミュージシャンとは一味違う不気味な雰囲気を醸し出すトラックと、ドスの効いた声で紡がれる攻撃的なラップが印象的だった93年のデビュー・アルバム『Enter the Wu-Tang (36 Chambers)』で、多くの音楽ファンの度肝を抜いた、ニューヨークのスタッテン・アイランド出身のヒップホップ・グループ、ウータン・クラン。

91年にプリンス・ラキームの名義でトミー・ボーイからアルバムをリリースしているRZAを中心に、彼の従兄弟であるGZAやオール・ダーティー・バスタード(2004年に死去)、既にラッパーとして活動していたゴーストフェイス・キラーやU-ゴッドといった個性豊かな面々からなる彼らは、RZA達が生み出すおどろおどろしいのに中毒性の高いビートと、全身全霊で自分のキャラをアピールする各メンバーのラップを武器に、多くのヒット作を残してきた。

また、メアリーJ.ブライジとのコラボレーション曲でグラミー賞を獲得したメソッド・マンや、マライア・キャリーの”Fantasy”のリミックス版で、主役を押しのける強烈なパフォーマンスを披露したオール・ダーティー・バスタードをはじめ、映画「キル・ビル」の映画音楽を手掛けたRZAや、様々なコラボレーション作品を含む多くのアルバムを残しているゴーストフェイス・キラーなど、各メンバーがソロ・アーティストとしても成功を収めてきた。

このアルバムは、2014年の『A Better Tomorrow』 以来、約3年ぶりとなる新作。すべての楽曲をリーダーのRZAと、彼らのライブをDJとして支えているマスマティックスが制作し、各曲ではメンバーに加え、キラー・プリーストやストリート・ライフのような準メンバー、レッドマンやショーン・プライスなどの人気ミュージシャンが集結、地道な活動で鍛え上げた逞しさとしなやかさを兼ね備えたヒップホップを聴かせている。

アルバムの実質的な1曲目”Lesson Learn'd”は、インスペクター・デックとメソッド・マンのコラボレーション作品。デビュー当時の彼らを思い起こさせる、微妙な揺らぎが不安を掻き立てるビートの上で渋いラップを聴かせるインスペクター・デックと、軽い声質でがなり立てるようなラップを披露するレッドマンのコンビネーションが光る曲だ。どことなくだが、90年代に鮮烈なデビューを飾ったときのことを思い起こさせる。

これに対し、ゴーストフェイス・キラー、メソッド・マン、RZAというソロでも実績豊富な面々に加え、ブロンクス出身のベテラン・ラッパー、ショーン・プライスが参加した”Pearl Harbor”は、ドロドロとしたビートの上で繰り広げられるマイク・リレーが魅力の作品。楽器の演奏とサンプリングを混ぜ合わせたビートの上で、個性豊かな4人のラップが次々と繰り出されるスリリングな曲だ。タイトルからも予想できるように、日本人には少し引っ掛かる内容のリリックだが、それを割り引いても捨てがたい魅力がある。

また、本作に先駆けて公開された”People”は、本作の収録曲では唯一ウータン・クランのメンバー全員が集結した曲。ディプロマッツの”I've Got the Kind of Love”をサンプリングしたソウルフルなトラックの上で、各人が強烈な個性を発揮している佳作。ゲストとして招かれたレッドマンを含めると8人の大人数によるマイク・リレーだが、各人のキャラがきちんと立っているから恐ろしい。

そして、アルバムの収録曲では珍しい、ヴォーカル・パートが入っている”G'd Up”はメソッド・マンに加えてムジー・ジョーンズとR-ミーンが参加した作品。ウータンの面々に比べると、知名度では大幅に劣る面々だが、メソッド・マンに負けない存在感を発揮している。ほかの曲に比べると、ドラムの音を強調したシンプルなトラックだが、サビを担当する泥臭いヴォーカルと合わさるとちょうどいい感じに聴こえる。

尖ったビートとラップで華々しいデビューを飾った彼らだが、今回のアルバムでは2000年以降の彼らの作品で頻繁に見られるような、強烈な印象を与えつつ、聴き手を疲れさせないポップな楽曲が増えていると思う。音楽界のトップ・スターから気鋭のビート・メーカーまで、様々なタイプのアーティストとコラボレーションしながら、映画音楽にも携わるなど、様々な仕事で結果を残してきた経験が、先鋭的だけど大衆的という、独特な作風を育んだのだと思う。

強い個性と、それを支える確かな実力を備えた彼らにしか作れない唯一無二の作品。色々なラッパーが試行錯誤しながら新しい音楽を生み出していた、90年代のヒップホップ・シーンの熱気と、ベテランらしい高い完成度が同居した、懐かしさと新鮮さが同居した面白い音楽だ。

Producer
RZA, Mathematics

Track List
1. Wu-Tang the Saga Continues Intro feat. Rza
2. Lesson Learn'd feat. Inspektah Deck and Redman
3. Fast and Furious feat. Huehef and Raekwon
4. Famous Fighters (Skit)
5. If Time Is Money (Fly Navigation) feat. Method Man
6. Frozen feat. Method Man, Killa Priest and Chris Rivers
7. Berto and the Fiend (Skit) feat. Ghostface Killah
8. Pearl Harbor feat. Ghostface Killah, Method Man, RZA, and Sean Price
9. People Say Wu-Tang Clan feat. Redman
10. Family (Skit)
11. Why Why Why feat. RZA and Swinkah
12. G'd Up feat. Method Man, R-Mean and Mzee Jones
13. If What You Say Is True Wu-Tang Clan feat. Streetlife
14. Saga (Skit) feat. RZA
15. Hood Go Bang feat. Redman and Method Man
16. My Only One feat. Ghostface Killah, RZA, Cappadonna and Steven Latorre
17. Message D5. The Saga Continues Outro feat. RZA



WU-TANG: THE SAGA CONTINUES [CD]
WU-TANG CLAN
36 CHAMBERS ALC/EONE
2017-10-13

Kamasi Washington - Harmony Of Difference [2017 Young Turks]

カリフォルニア州ロス・アンジェルス生まれ、イングルウッド育ちのサックス奏者、カマシ・ワシントン。

高校時代から音楽を学んでいた彼は、大学に進むと音楽民族学を専攻しながら、ジャズ・ミュージシャンとしても活動を開始。ケニー・バレルやビリー・ヒギンスといった大物とも共演してきた。その後、ハービー・ハンコック等のジャズ・ミュージシャン達と仕事をしながら、ローリン・ヒルやスヌープ・ドッグといった、ヒップホップやR&Bのミュージシャンともレコーディングをするようになった彼は、名うての演奏者として同業者の間では知られた存在となった。

その一方で、2000年代中頃から、自身の名義でも2000年代中頃から継続的に作品を録音するなど、精力的に活動していた彼。そんな彼は2014年から2015年にかけて、フライング・ロータスの『You're Dead! 』、ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly 』、サンダーキャットの『The Beyond / Where The Giants Roam』という3枚の傑作に携わったことで注目を集める。これらの作品で印象的な演奏を残した彼は、2015年にフライング・ロータス等の作品を配給しているブレインフィーダーからアルバム『The Epic』をリリース。CD3枚組という大作ながら、壮大なスケールと先鋭的なアレンジ、緻密な構成で高く評価された。

このアルバムは、今年の4月に配信限定で発売した13分にも及ぶ大作シングル”The Truth”から約5か月という、短い間隔でリリースされたEP。同曲に5作の新録曲を加えた本作では、ベーシストのマイルズ・モズリーや、サンダーキャットの実兄としてもお馴染みのドラマー、ロナルド・ブルーナー、アルバム『Planetary Prince』も好評なキャメロン・グレイブスなど、彼と縁の深い人気ミュージシャン達が集結。高い演奏技術と豊かな表現力を惜しみなく聴かせている。

本作の1曲目は、艶めかしいサックスの音色が印象的な”Desire”。マイルス・モズリーのグラマラスなベースと、目立たないが安定した演奏で主役を引き立てるロナルド・ブルーナーのドラム。そして、各人が絶妙なタイミングで流麗なフレーズを挟み込む構成が魅力の作品だ。ミディアム・テンポで滑らかなメロディの楽曲ということもあり、過去の録音にはないくらい、ロマンティックな印象を受ける。

また、これに続く”Humility”は、前曲とほぼ同じ編成でダンス・サウンドに取り組んだ作品。カマシ・ワシントンを含む3人のホーン・セクションが奏でるダイナミックなメロディと、荒々しいアドリブ、脇を固めるリズム・セクションと鍵盤楽器のコンビネーションが光っている。60年代初頭、ハンク・モブレーやリー・モーガンが残したような、力強く躍動感に溢れるパフォーマンスが堪能できる佳作だ。

それ以外の曲では、サックスが奏でる滑らかなメロディが魅力の”Perspective”が目立っている。ヒップホップやファンクのビートを取り入れたミディアム・ナンバーは、スライ&ザ・ファミリーストーンの”Family Affair”を連想させるしなやかなグルーヴが格好良い曲だ。

そして、本作の収録曲では異彩を放っているのが、5曲目の”Integrity”だ。この曲で取り入れたのは、なんとボサノバのリズム。軽妙で洗練されたボサノバのグルーヴに乗って、艶っぽい演奏を披露している。キャノンボール・アダレイやスタン・ゲッツなど、ブラジル音楽のエッセンスを取り入れたジャズ・ミュージシャンは沢山いるが、彼のような極端にセクシーなパフォーマンスを披露した例はあまりないかもしれない。

今回のアルバムでは、前作の路線を踏襲しつつ、60年代のジャズに歩み寄った作品といえるかもしれない。ファンクやブラジル音楽など、ジャズ以外の音楽エッセンスを取り入れた音楽は、60年代から70年代にかけて流行したが、彼はそこにヒップホップやエレクトロ・ミュージックのミュージシャンとコラボレーションする中で培った、DJやトラックメイカーの編集技術を盛り込むことで、異なる音楽を混ぜることで生まれる違和感をコントロールし、楽曲に起伏を付けている。

DJやトラック・メイカーの柔軟な発想と、求める音を確実に具体化する演奏者としての高い技術が同居した魅力的な作品。昔のジャズに慣れ親しんだ人にも、ジャズをあまり聞かない人にも、親しみやすく新鮮な面白いアルバムだと思う。


Track List
1. Desire
2. Humility
3. Knowledge
4. Perspective
5. Integrity
6. Truth




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