ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Adrian Younge ‎– The Electronique Void (Black Noise) [2016 Liner Labs]

2000年にカレッジ・レコードからリリースしたアルバム『Venice Down』でデビュー。その後は、自身のレーベルから複数の作品を発表する一方で、ワックス・ポエティックス・レーベルから発売された映画『Black Dynamite』のサウンド・トラックの制作や、"La La Means I Love You"などのヒット曲で知られるフィラデルフィアのベテラン・ヴォーカル・グループ、デルフォニックスとコラボレーションした『Adrian Younge Presents The Delfonics』や、ニューヨーク出身のラップ・グループ、ウータン・クランの一員で、ソウル・ミュージックに傾倒したトラックが多いことで有名なゴーストフェイス・キラーとの共作『Twelve Reasons To Die』(続編もあり)などを発表してきたロス・アンジェルス出身のプロデューサー、エイドリアン・ヤング。彼にとって、『Venice Down』以来となる、純粋な自身名義による作品。

いわゆるビート・メイカーやプロデューサーにカテゴライズされることの多い彼だが、ベースやキーボードの演奏から音楽の世界に入り、ガラントの『Ology』やビラルの『In Another Life』にもプロデューサーとして携わるなど、R&B、特にバンドの演奏を効果的に使ったオルタナティブR&Bの分野に強いクリエイター。今回のアルバムでもソウルに対する深い造詣を活かした泥臭いトラックを聴かせてくれる。

アルバムの実質的な1曲目"The Night"は一定のリズムを刻み続けるビートと、おどろおどろしい電子音を多用した上物の対称性が印象的なトラック。そこから、チェンバロっぽい音色のシンセサイザーを使った軽妙なメロディの"Fly Away"へと展開していくセンスが面白い。

一方、これに続く"Systems"は金属を叩いたようなキンキンとした音が特徴的なビートと、ギラギラとした音色のシンセサイザーを組み合わせた、妖艶で煌びやかなインストゥメンタル・ナンバー。電子楽器だけで音楽を作るミュージシャンは珍しくないが、ここまで多彩な音色を組み合わせるミュージシャンは非常に少ない。複数の楽器を使いこなしてきた彼ならではの作品だ。

また、映写機の回転音やカメラのフラッシュを思い起こさせる、規則的なリズムが印象的な"Voltage Controlled Orgasms"も気になる曲だ。こちらは、クラフトワークを連想させる、規則的な電子音と唸るようなシンセサイザーのリフが心地よい曲だ。

そして、何よりも見逃せないのは、終盤の"Black Noise"から"Patterns"、そして"Suicidal Love"へと繋がる展開だ。レッド・ツェッペリンのようなハード・ロックのバンドを想起させるワイルドなドラムを使ったビートの上で、ビヨビヨとなる歪んだ音色のシンセサイザーが複雑に絡み合う"Black Noise"に始まり、規則正しく刻まれる重低音が徐々にテンポをあげ、声ネタや色々な種類の電子音と絡み合う"Patterns"へと続き、シンセサイザーの音色を重ね合わせた不気味なハーモニーが印象的な"Suicidal Love"で締めている。その流れは、一流のDJが作るミックスCDのように自然だが、それぞれの楽曲は飛び抜けて強い個性を放っている。

このアルバムを聴いた時、真っ先に思い浮かんだのは、『Bitches Brew』や『On The Corner』などのマイルス・デイヴィスが70年代に録音した作品だ、エフェクターや電気楽器などを使って、新しい音色を取り入れた楽曲を作りつつ、それらを取りまとめて、一つのアルバムに落とし込む手法は、彼の音楽に通じるものがあると思う。また、豊富な音数の電子楽器から、奇想天外な音色の組み合わせを見出す姿は、クラフトワークやDAFのような黎明期の電子音楽家の手法を21世紀に蘇らせたもののように映る。

楽器と機材の両方を使いこなせるミュージシャンならではの、キャッチーなフレーズを生み出す才能と、リスナーの予想の裏をかく音色選びのセンスが光る佳作。インストゥメンタルだからって敬遠すると損するよ。

Producer
Adrian Younge

Track List
1. Black Noise (Interlude)
2. The Night
3. Fly Away
4. Systems
5. The Concept of Love
6. Voltage Controlled Orgasms
7. Linguistics
8. Black Noise
9. Patterns
10. Suicidal Love





 

Zion. T - OO [2017 BLACK LABEL, YG ENTERTAINMENT]

2011年にシングル『Click Me』でデビュー。その後、2013年にリリースしたアルバム『Red Light』が国内チャートで最高4位を獲得、2014年にはコリアン・ミュージック・アワードの最優秀R&B、ソウル・アルバム賞を獲得した韓国出身のシンガー・ソングライター、ザイオンTことキム・ヘソル。彼がデビュー以来契約していたアモエバ・ミュージック(アメリカにある同名のレコード・ストアとは無関係)からYG傘下のブラック・レーベルに移籍後、初めてのアルバムとなる8曲入り(うち1曲はインストゥルメンタル)のEPを、自身のプロデュースで発表した。

本作を配給しているYGエンターテイメントといえば、これまでにも”江南スタイル”を流行させたPSYや、アジア人初のウェンブリー・アリーナ公演を含む複数回の海外ツアーを行っているBIGBANG(余談だが、メンバーのG-Dragonもアジア人のソロ・アーティストでは同会場初となる公演を行っている)、2017年初頭に発表されたガラントとのコラボレーション・シングル『Cave Me In』が話題になったタブロの所属するエピック・ハイ(ただし、彼らは他社からの移籍組)など、海外、特にアメリカやヨーロッパの市場に強いレーベル。

また、彼が所属する同社傘下のブラック・レーベルを率いるプロデューサー、テディ・パクも、EDMの要素を取り入れたBIGBANGの”Fantastic Baby”や、グウェン・ステファニを彷彿させるポップスと電子音楽を融合させたサウンドが印象的な2NE1の”Lollipop”を手掛けるなど、欧米のポップスへの造詣が深いことで知られている。だが、今回のアルバムでは、YGが得意とするEDMやトラップの要素は抑えられ、ザイオンの歌唱力にスポットを当てた作品で勝負している。

アルバムの1曲目”Cinema”は、ボサノヴァの要素を取り入れた、繊細なギターの音色と物悲しいメロディが光るミディアム・ナンバー。アメリカのR&Bと比べると抑え気味、だがボサノバやジャズに比べると太く重いベースが生み出すダイナミックなグルーヴが心地よい楽曲。同様の路線は”The Bad Guy”でも垣間見えるが、こちらは、テイ・トウワの”甘い生活”を連想させる、ムード歌謡(韓国ではなんと分類されているのだろうか)っぽい、妖艶なメロディを混ぜ込んだミディアムだ。

続く”The Song”は、ピアノっぽい音色のキーボードの演奏をバックに、じっくりと歌い込むミディアム・バラード。流れるようなメロディは彼の爽やかな歌声と相性が良いと思う。個人的な印象だが、三浦大知が歌いそうな、スタイリッシュで洗練された雰囲気の佳曲だ。余談だが、G-Dragonが参加した”Complex”ではなく、この曲をシングル・カットしたあたりに、彼の本作に賭ける意気込みと自身を伺わせる。

それ以外の曲では、ラッパーが参加した2曲”Sorry”と”Complex”も捨てがたい良曲だ。

『Red Light』に収録されている”She”でも競演しているソウル出身のラッパー、ベンジーノとコラボレーションした前者は、乾いた音色のギターと、古いレコードからサンプリングしたような温かいドラム音を使ったヒップホップのビートが印象的なミディアム・ナンバー。ヒップホップのトラックを使った曲は過去にも録音しているが、生楽器やそれっぽい音色を多用したトラックは彼の曲では珍しい。間奏がジャネット・ジャクソンの”That’s The Way Love Goes”に少し似ているのは、作者の遊び心だろうか?

そして、本作の隠れた目玉ともいえる”Complex”は、BIGBANGのG-Dragonをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。両者のコラボレーションはG-Dragonのアルバム『Coup d'Etat』に収録されている”I Love It”以来だが、楽曲提供やコラボレーションの経験が豊富な二人だけあって、今回も両者の個性が上手く混ざり合った楽曲に落とし込まれている。キーボードの伴奏をバックにしんみりと歌うザイオンと、肩の力を抜いて語り掛けるように言葉を紡ぐDragonのラップは、これまでの2人の作品ではあまり見られなかったスタイルだが、しっかりと自分達の表現に取り込めているように映った。

今回のアルバムは、”Fantastic Baby”や”Lollipop”に代表される”Kポップらしい”楽曲や、ウィークエンドやドレイクといったアメリカの人気シンガーのスタイルをアジア人向けに翻訳した音楽を期待する人には、ちょっと期待外れの作品かもしれない。事実、この文章を書いてる時点では、ヒット・チャートなどを見る限り、本国や日本を含むアジア諸国よりも、アメリカなどの欧米地域での評価が高いようだ。だが、低音を絞り、楽器やヴォーカルの響きまで効果的に使った録音は、近年のR&Bやヒップホップに多大な影響を与えているオルタナティブ・ロックやフォーク・ソングの手法を意識しつつ、それを声が細く、繊細な表現が得意なアジア人歌手に合わせて咀嚼したもので、欧米の音楽を意識しながら発展してきたKポップの歴史をきちんと踏襲しているように見える。

日本人の自分の耳には、90年代の日本で流行し、海外でも一部の熱狂的なファンを生み出した、渋谷系のリメイクのように聴こえて面白いと思った一方、その価値や手法を海外のミュージシャンに発掘、活用されてしまったのがちょっと残念に思えてしまった。本作のようなスタイルが今後も続くとは思わないが、アジアから欧米のポップス市場に打って出る戦略の一つとして、非常に新鮮な作品だと思った。

Producer
Zion.T, Peejay

Track List
1. Cinema
2. The Song
3. Comedian
4. Sorry feat. Beenzino
5. The Bad Guys
6. Complex feat. G-Dragon
7. Wishess
8. Cinema (Instrumental)





Zion.T アルバム - OO
Zion.T
YG Entertainment
2017-02-17

 

The New Respects - Here Comes Trouble EP [2017 Credential Recordings, Universal ]

ソウルやR&B、ヒップホップといったブラック・ミュージックの歴史の中で、常に一定の影響力を発揮していたのがロックの存在だ。古くはアイズレー・ブラザーズやバーケイズ、その後もベティ・デイヴィスやザ・ルーツ、近年ではブラッドオレンジやソランジュなど、多くのミュージシャンがロックの要素を取り入れて、自分の作品に個性を付加していった。

今回、初のEP『Here Comes Trouble』 をリリースした男女混成の4人組、ニュー・リスペクツもその系譜に立つグループ。テネシー州ナッシュビル出身の彼らは、2016年にシングル『Hey!』でデビュー。ソランジュの"Dance In The Dark"のポップなメロディとザ・ルーツの"Game Theory"を彷彿させるロックとヒップホップを融合させたサウンドが印象的なポップ・ナンバーを聴かせてくれた。本作は、それに続く作品。

収録曲されているのは2017年にシングル化された2曲を含む5曲。"Hey!"は未収録だが、同曲に負けず劣らずの佳曲を揃えている。

アルバムのオープニングを飾る"Money"は本作のからの先行シングル。ジュラシック5を思い起こさせるコミカルなヒップホップのビートを生演奏で再現した伴奏をバックに、ティーナ・マリーを連想させる荒々しいヴォーカルを聴かせるミディアム・ナンバー。ニルヴァーナやレッド・ホット・チリ・ペッパーズにも通じる荒削りなサウンドとヒップホップを混ぜ合わせたセンスが面白い。

続く、"Frightening Lighting"は"Hey"のスタイルを踏襲した"Heat Wave"のような初期のモータウン作品を彷彿させるポップなメロディが魅力的なアップ・ナンバー。唸るようなギターの音色を含め、重く荒々しいサウンドの間にキュートなコーラスを混ぜ込むなど、ワイルドなロックのサウンドと、リズム&ブルースの軽妙な曲調を両立した曲に仕上がっている。

3曲目に納められている"Come as You Are"は乾いた音色の伴奏と、ダイナミックなヴォーカルの組み合わせが心地よい バラード。スケールは異なるが、オーティス・レディングの"Try a Little Tenderness"にも通じる壮大な楽曲だ。

そして、4曲目の"Shoes"はテイラー・スウィフトの"Shake It Off"にそっくりなアップ・ナンバー。軽快で親しみやすいメロディと、電子音やハンドクラップを盛り込んだ明るいサウンドが印象的な楽曲。シングル・カットされていないのが不思議なくらい陽気でキャッチーな曲だ。

そして、アルバムの最後を飾る"Trouble"は本作から2曲目のシングル曲。力強いドラムの音色と、全身を震わせるように歌うヴォーカルはクイーンの"We Will Rock You"の影響も垣間見えるが、こちらはもっと荒削りな印象。

全体的な印象だが、ロックのアルバムとしては80年代以前の作品の影響が強い、厳しくいえば「古臭い」録音だが、それをヒップホップやR&Bと融合することで、新しい音楽のように聴かせていると思う。この点については賛否が分かれそうだが、過去の作品を研究、引用して自分の作品の糧にすることが多いブラック・ミュージックの発想をロックに適用して作品に落とし込んだセンスとスキルは非常に面白いと思う。

何度も言うが、演奏技術と曲の完成度は高さは目を見張るものがある。現時点では気になる点もあるが、同時にR&B界のザ・ルーツになり得る可能性を感じさせる、将来有望な新人のデビュー作だと思う。

Track List
1. Money
2. Frightening Lighting 
3. Come as You Are
4. Shoes
5. Trouble





Here Comes Trouble
Universal Music LLC
2017-03-10

 
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