melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

K. Michelle - Kimberly: The People I Used to Know [2017 Atlantic]

ヒップホップやエレクトロ・ミュージックに歩み寄ったサウンドと、歌とラップを混ぜ合わせた歌唱スタイルが流行の中心になっている、2010年代のR&Bシーン。その中で、流行りの音と適度に距離を置き、自身のスタイルを貫くことで存在感を発揮しているのが、K.ミッチェルこと、キンバリー・ミッチェル・ペイトだ。

テネシー州のメンフィスで生まれ育った彼女は、幼いころからギターやピアノに慣れ親しみ、ジャスティン・ティンバーレイクやブリトニー・スピアーズも指導したというトレーナーの下で、ヴォーカルの腕を磨いてきた実力派。

その後、フロリダの大学に進み、子育て期間を経て卒業した彼女は、ロースクールに進学しながら音楽活動を開始。2009年にジャイヴと契約すると、ミッシー・エリオットを招いた”Fakin’ It”でメジャー・デビューを果たす。また、2011年にはミッシーのほか、R.ケリーやアッシャーが参加した初のフル・アルバム『Pain Medicine』を録音するが、諸事情によりお蔵入り。ジャイヴから離れることになる。

そんな彼女は、VH1のリアリティー・ショーに出演したことから注目を集め、アトランティックと契約。2013年に初のフル・アルバム『Rebellious Soul』を発表すると、総合アルバム・チャートの2位、年間アルバム・チャートの167位という新人としては異例のヒット。その後も、2014年の『Anybody Wanna Buy a Heart?』や2016年の『More Issues Than Vogue』が商業的な成功を収め、賞レースの常連に名を連ねるなど、スターダムを駆け上がっていった。

このアルバムは、そんな彼女にとって約1年ぶり、通算4枚目となる新作。ほぼすべての曲で彼女がペンを執る一方、リル・ロニーやチャック・ハーモニーといった、主役の声を引き立てる美しいヴォーカル作品に定評のあるクリエイターが多数参加。現代では希少なものになった、本格的なR&B作品に仕上がっている。

アルバムに先駆けて公開された”Make This Song Cry”は、ジェイZの”Song Cry”をサンプリングしたミディアム・バラード。今も多くの人に親しまれている、彼の代表曲のフレーズに乗って、切々と言葉を紡ぐ彼女の姿が印象的な曲だ。有名名曲をサンプリングした作品には、原曲のイメージに縛られたものや、原曲の持ち味を壊してしまうものも少なくないが、この曲では元ネタの持ち味を残しつつ、本格的なソウル・バラードに換骨奪胎している。

また、クリス・ブラウンをフィーチャーした”Either Way ”は、シャンテ・ムーアやリル・モーを手掛けているダニエル・ブライアントが制作に参加したミディアム・ナンバー。おどろおどろしいストリングスの音色と、キンバリーのパワフルなヴォーカルが光る佳曲だ。メロディの部分で聴ける彼女のラップにも注目してほしい。

そして、同曲に続く”Birthday”は、シカゴ出身のプロデューサー、ヒットメイクを起用したバラード。シンセサイザーの音色を組み合わせ、ヒップホップのエッセンスを盛り込んだバック・トラックは、R.ケリーやメアリーJ.ブライジを彷彿させる。そんなトラックの上で、緩急織り交ぜたダイナミックな歌唱を聴かせる姿は、往年のチャカ・カーンやミリー・ジャクソンを思い起こさせる。電子楽器を多用した現代的なサウンドを取り入れつつ、歌唱力で勝負した異色の作品だ。

それ以外の曲では、マイケル・ジャクソンやマライア・キャリーなどに楽曲を提供しているロドニー・ジャーキンスと作った”Woman of My Word”の存在が光っている。ゴスペルのコール&レスポンスを思い起こさせる、ダイナミックなグルーヴに乗せて、パワフルな歌声を披露した雄大なバラード。現代的なヒップホップやR&Bの仕事が多いロドニーだが、この曲のようなヴォーカルで勝負するタイプの作品でも実力を発揮している。

本作の聴きどころは、随所で現代のR&Bの要素を取り入れつつ、あくまでも歌で勝負したところだろう。メアリーJ.ブライジやビヨンセなど、実力と人気を兼ね備えたシンガーは少なくないが、歌を強調したある意味保守的な作風で、高いクオリティの作品を残せる歌手はとても貴重だ。この、豊かな歌声と、それをコントロールする技術、歌の才能を活かす楽曲作りの才能は、アレサ・フランクリンのような、歴代の名歌手の流れを踏襲したものだが、尖った音が求められる現代では異色ではかえって新鮮に聴こえる。

現代では希少な、「歌」を存分に味わえる名シンガー。新しい音に抵抗感のある人にこそ聴いてほしい、大胆な表現と安定したパフォーマンスが光る名盤だ。

Producer
DJ Camper, Lil' Ronnie, Hitmaka, Louis Biancaniello, Darkchild etc

Track List
1. Welcome to the people I used to know
2. Alert
3. God, Love, Sex, and Drugs
4. Make This Song Cry
5. Crazy Like You
6. Kim K
7. Takes Two feat. Jeremih
8. Rounds
9. Either Way feat. Chris Brown
10. Birthday
11. Fuck Your Man (Interlude)
12. No Not You
13. Giving Up On Love
14. Help Me Grow (Interlude)
15. Heaven
16. Run Don't Walk
17. Industry Suicide (Interlude)
18. Talk To God
19. Brain On Love
20. Woman of My Word
21. Outro





Kimberly: People I Used to Know
K. Michelle
Atlantic
2017-12-15

Lalah Hathaway - Honestly [2017 Hathaway Entertainment]

90年に自身の名前を冠したアルバム『Lalah Hathaway』で表舞台に登場。それ以来、絹のように滑らかで繊細な歌声と、丁寧で緻密な歌唱を武器にファンを増やしてきた、イリノイ州シカゴ出身のシンガー・ソングライター、レイラ・ハザウェイ。

“A Song For You”や”The Ghetto”などのソウル・クラシックを残し、カーティス・メイフィールドやジーン・チャンドラーと並んで、シカゴを代表するシンガー・ソングライターとして今も愛されているダニー・ハザウェイを父に持つ彼女は、シカゴの芸術学校を卒業するとヴァージン・レコードと契約。バークリー音楽院で学びながら、プロとしてのキャリアをスタートする。

デビュー作である『Lalah Hathaway』で見せた、20代前半(当時)とは思えない落ち着いた歌唱と、洗練された演奏で音楽通を唸らせた彼女は、R&Bチャートの18位に入るなど一気にブレイク。その後は、2016年までに7枚のアルバムを録音する一方、メアリーJ.ブライジやチャカ・カーンなど、多くの有名ミュージシャンの作品に参加。中でも、2015年に発売されたケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』や、2012年にリリースされたロバートグラスパーの『Black Radio』は、ヒット・チャートと音楽賞、両方で高い成果を上げる傑作となった。また、彼女自身も2015年のアルバム『Lalah Hathaway Live』と同作に収められている”Angel”や”Little Ghetto Boy”でグラミー賞など、複数の音楽賞を獲得。着実に成果を残してきた。

このアルバムは、彼女にとって『Lalah Hathaway Live』以来、約2年ぶりとなるフル・アルバム。スタジオ録音の作品としては『Where It All Begins』以来、実に7年ぶりのアルバムとなる本作は、ソランジュやジル・スコット、SiRなどを手掛けている、カリフォルニア州イングルウッド出身のシンガー・ソングライター、ティファニー・ガッシュがプロデューサーとして参加。ゲストの人数は最小限に抑え、彼女の歌にスポットを当てた、本格的なR&B作品を披露している。

アルバムのオープニングを飾る”Honestly”は、レイラとティファニーによる共作曲。重い低音とビヨビヨというシンセサイザーの音色を使ったトラックが、モダンな印象を与える曲だ。この曲の上で、繊細だがふくよかな歌声を駆使して、メロディを丁寧に歌う姿が光っている。起承転結のはっきりしたメロディは、父、ダニーや彼女が残してきた作品にも似た雰囲気を持っているが、電子楽器を多用することで、現代のR&Bとして聴かせている。

続く、”Don't Give Up”は、今年発売されたデビュー・アルバム『All Things Work Together』も記憶に新しい、ヒューストン出身のクリスチャン・ラッパー、レクレーがゲストとして参加した作品。 シンセサイザーの音を重ね合わせて、荘厳な雰囲気を醸し出したトラックの上で、低い声域を強調したヴォーカルを聴かせるレイラのパフォーマンスが光る曲だ。厳かな雰囲気のトラックに乗って、軽やかに言葉を繰り出すレクレーの姿も格好良い。厳粛な雰囲気とダイナミックなグルーヴが一体化した良曲だ。

また、ティファニー・ガッシュとのデュエット曲”What U Need”は、メアリーJ.ブライジの作品を彷彿させる、ヒップホップの要素を取り込んだ重厚なトラックが魅力的な楽曲。シンセサイザーを使った重いビートに乗って、艶めかしい歌声を響かせるミディアム・ナンバーだ。サビで聴かせる硬い声による荒っぽい歌唱が、メアリーJ.ブライジにそっくりなところも面白い。脇を固めるティファニーの歌唱が、彼女のパフォーマンスを引き立てている点も見逃せない。

そして、本作の収録曲では少し異色なのが”Won't Let It Go”だ。アコースティック・ギターの演奏を軸に据えたバック・トラックに乗せて、淡々と歌う彼女の姿が魅力のミディアム・バラード。しなやかなメロディはダニーの作品を思い起こさせるが、サビのところでヒップホップのライブのようなコール&レスポンスを盛り込んで見せるなど、ほかの曲とは一味違う演出が加わっていて面白い。21世紀を生きる彼女の感性と、往年のジャズやソウル・ミュージックのエッセンスがうまく混ざり合った佳曲だ。

今回のアルバムは、流麗なメロディに繊細さと強靭さを兼ね備えた歌声、きめ細やかな歌の表現が合わさった、シンプルで味わい深い楽曲が揃っている。そこに、シンセサイザーを駆使した現代的なサウンドを得意とするティファニー・ガッシュのプロダクション技術が加わり、70年代のソウル・ミュージックを彷彿させる美しいメロディと、2017年のR&B作品らしいモダンなサウンドが同居した、懐かしさと新しさが同居した作品に仕上がっているのが面白いところだ。この、往年のソウル・ミュージックをベースにしながら、新しい音を積極的に取り入れる姿勢が、彼女の魅力なのだろう。

リスナーに新鮮な印象を与えつつ、繰り返し聴きたいと思わせる普遍性も兼ね備えた面白い作品。ヒップホップに慣れ親しんだ若い人から、新しい音楽に抵抗のある年配の人まで、あらゆる世代の人に触れてほしい、2017年のクラシックだと思う。

Producer
Lalah Hathaway, Tiffany Gouche

Track List
1. Honestly
2. Don't Give Up feat. Lecrae
3. Change Ya Life
4. What U Need feat. Tiffany Gouche
5. Call On Me
6. Won't Let It Go
7. Storm
8. y o y
9. I Can't Wait



Honestly
Lalah Hathaway
8th Floor Production
2017-11-03

Miguel - War & Leisure [2017 ByStorm, RCA]

メキシコ系アメリカ人の父と、アフリカ系アメリカ人の母の間に生まれた、ロス・アンジェルス出身のシンガー・ソングライター、ミゲルことミゲル・ジョンテル・ピメンテル。

13歳のときに音楽活動を始めた彼は、友人の紹介で地元のプロダクション・チーム、ドロップ・スクアッドに加入。多くの経験を積んできた。そんな彼は、2004年にインディー・レーベル、ブラック・アイスと契約。アルバムを録音するがお蔵入りとなる。

その後、同レーベルを離れた彼は、ジャイヴに移籍。2010年にデビュー・アルバム『All I Want Is You』を発表すると、40万枚以上売れるヒット作になる。そして、2012年には2枚目のLP『Kaleidoscope Dream』をリリース。同作は50万枚を超える大ヒットとなり、収録曲の”Adorn”はR&Bチャートを制覇。彼にグラミー賞をもたらした。また、自身の活動以外に、ソングライターとしても才能を発揮。ビヨンセやアッシャーミュージック・ソウルチャイルドなどに楽曲を提供するヒット・メイカーとしても知られるようになった。

このアルバムは、2015年の『Wildheart』以来となる、通算4枚目のフル・アルバム。前作にも携わっているマーク・ピッツのほか、ラファエル・サディークやサラーム・レミといった大ベテランを中心に、多くのプロデューサーが参加。往年のソウル・ミュージックを咀嚼して、現代のヒップホップと融合させた、懐かしさと新しさが入り混じった音楽を聴かせている。

本作に先駆けてリリースされたのは、トラヴィス・スコットをフィーチャーした”Sky Walker”。ベイビー・バッシュの”Suga Suga”や、元フィフス・ハーモニーのカミラ・カベロの”Crying in the Club”などを手掛け、ミゲルともマライア・キャリーの”#Beautiful”を含む、多くの曲を一緒に作ってきたテキサス出身のハッピー・ペレスがプロデュースを担当。ゆったりとしたテンポと哀愁を帯びたメロディは”Suga Suga”にも似ているし、歌とラップを切れ目なく繋ぐ手法はドレイクの音楽っぽくもある。メロディや歌唱法はソウル・ミュージックと異なるにも拘わらず、往年の黒人音楽のような、聴き手を優しく包み込むような雰囲気を感じさせる、不思議な曲だ。

これに対し、ラファエル・サディークが制作に携わっている”Wolf ”は、個性的なヴィジュアルとパフォーマンスで注目を集めている女性シンガー、クインを招いたバラード。近年は、70年代のソウル・ミュージックやサイケデリック・ロックの要素を取り入れた作品が多いラファエルらしい、荒々しいギターの演奏と、ロックのバラードを連想させる崩したグルーヴが面白い作品だ。ミゲルの熱いヴォーカルは、ボビー・ウーマックやジョニー・テイラーを彷彿させる。脇役に徹するクインもいい味を出している。

また、ハッピー・ペレスに加え、ジェフ・バスカーが制作に参加した”Told You So”は、子供向けの電子楽器のような、軽妙でポップな音色のシンセサイザーと、乾いたギターのサウンドが心地よいアップ・ナンバー。奇抜な音色を使ったトラックは、80年代のディスコ音楽にも似ている。ポップで軽やかな伴奏に合わせて、爽やかな歌声を響かせるミゲルの姿が印象的だ。

そして、本作の最後を締めるのは、80年代に活躍したロック・バンド、ピクシーズの ”Where Is My Mind?”を引用したバラード。ポロポロとつま弾かれるエレキ・ギターの音が切ない雰囲気を醸し出す伴奏をバックに、繊細な歌声をじっくりと聴かせている。どちらかといえばポップス寄りのアレンジだが、きちんとR&Bとして聴かせる、ミゲルの歌唱力が光る作品だ。

今回のアルバムでも、前作同様、ロックやソウル・ミュージックといった、ヒップホップやR&B以外のジャンルの要素を消化し、取り込んだ作品が目立つ。色々なジャンルの音楽に目を配るミュージシャンの作品には、手を広げすぎて散漫な印象を持たせるものや、中庸なものに終わっているものも少なくないが、彼の音楽は各ジャンルのエッセンスを残しつつ、きちんと一つの作品に落とし込んでいる。この視野の広さとバランス感覚が、彼の音楽に深みと大衆性を与えているのだと思う。

「ポップスのいちジャンルとしてのR&B」が存分に堪能できる、魅力的な作品。R&Bが大好きな人にはもちろん、普段R&Bを聴かない人にもとっつきやすい、キャッチーだけど奥深いアルバムだと思う。

Producer
Miguel, Mark Pitts, Wayne Barrow, Happy Perez, Salaam Remi, Raphael Saadiq etc

Track List
1. Criminal feat. Rick Ross
2. Pineapple Skies
3. Sky Walker feat. Travis Scott
4. Banana Clip
5. Wolf feat. Quin
6. Harem
7. Told You So
8. City Of Angels
9. Caramelo Duro feat. Kali Uchis
10. Come Through And Chill feat. J. Cole, Salaam Remi
11. Anointed
12. Now





War & Leisure
RCA
2017-12-08


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