ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Kevin Ross - Awakeing [2017 Motown, Verve]

90年代の終わりごろからソングライターとして活動し、ジョニー・ギルの2010年作『Still Winning』に収録されている”2nd Place”や、SWVが2012年に発表した『I Missed You』に収録の”Time to Go”や”Use Me”などを提供したことでも知られる、ワシントンD.C.の出身のシンガー・ソングライター、ケヴィン・ロス。

そんな彼は、自身の名義でも2014年にモータウンからEP『Dialogue In the Grey』をリリース。配信限定のアルバムながら、ラッパーのT.I.やシンガー・ソングライターのニーヨなどをフィーチャーした、本格的なR&Bを聴かせてくれた。

本作は、2016年に発表した2枚目のEP『Long Song Away』以来となる新作。2003年にインディー・レーベルからアルバム『Pick Me』をリリースしているものの、メジャー・レーベルから発売されたオリジナル・アルバムは今回が初めてとなる。

今回のLPは『Long Song Away』に収録されている”Be Great (Intro) ”、”Long Song Away”、”Don't Go”、”Be Great (Remix) ”の4曲に新曲を加えたもの。もちろん、既発の4曲を含め、全ての曲で彼自身が制作にかかわっている。また、本作で追加された新曲は、前年に公開された4曲同様、シンプルで洗練されたトラックと、滑らかな歌声を活かした美しいメロディが魅力的な、大人向けのR&Bになっている。

アルバムのオープニングを飾る”Be Great (Intro) ”は同郷のラッパー、チャズ・フレンチをフィーチャーしたスロー・ナンバー。哀愁を帯びたケヴィンの歌声とピアノとドラムを核にしたシックなトラックの組み合わせがロマンティックな雰囲気を盛り上げる。絶妙な力加減で、楽曲を引き締めるチャズのラップも格好良い。

これ以外の曲ではEPにも収められている”Long Song Away”が独特の存在感を発揮している。心臓の鼓動のように正確なリズムを刻むバス・ドラムの上で、物悲しい音色のギターやハンド・クラップなどが鳴り響くシンプルなトラックに乗せて、レイド・バックしたメロディをじっくりと歌い上げるミディアム・ナンバー。この曲も含め、収録曲の大半でドラムのプログラミングを担当しているトロイ・テイラーの手腕が発揮された良質なミディアム・ナンバーだ。

一方、本作が初出の楽曲に目を向けると、トレイ・ソングスやケリー・ローランドなどの有名シンガーに、数多くの楽曲を提供してきたクリストファー・ウマナが参加した”Don't Go”のクオリティが素晴らしい。ドラムを主体にしたシンプルなトラックに載せて、流れるようにフレーズを口ずさむ。2000年代以降のR&Bのトレンドがベースになった曲だ。だが、この曲に対してもメロディを丁寧になぞった歌唱を披露し、流麗なメロディの中にある種の緊迫感と緻密さを埋め込んでいる。

そして、今回のアルバムの隠れた目玉が、ケネス・エドモンズ(=ベイビーフェイス)がソングライターと演奏で参加した”In The Name Of Your Love “だ。ゴムボールのように跳ねるドラムと、Aメロ、Bメロ、サビと展開していくメロディは、”For The Cool in You”等のヒット曲を生み出していた90年代のベイビーフェイスの作風に通じるものがある。2015年にベイビーフェイスが発表したアルバム『Return of the Tender Lover』や、彼が制作に参加したブルーノ・マーズの2016年作『24K Magic』に収録されている”Too Good to Say Goodbye”などを意識しながら、当時の音楽よりも滑らかなメロディを取り入れることで、2017年のトレンドに適応した現代の90年代風のR&Bといってもいいだろう。

今回のアルバムは、豊富な裏方仕事の経験と、彼の丁寧な歌唱が組み合わさったことで、ボビー・ヴァレンティノやトレイ・ソングスの録音のような、美しいメロディとヴォーカルの技術を同時に楽しめる、本格的なR&B作品になっている。一方、近年のメジャー・レーベル発のR&Bに目を向けると、パーティネクストドアのようにヒップホップに接近したものや、ソランジュのようにロックなどを取り入れたもの、ウィークエンドのように電子音楽との融合を図ったものなど、他のジャンルの要素を取り入れて、リスナーに新鮮な楽曲を聴かせようとする試みが目立つことに気づかされる。そんな状況で、トラック、メロディ、歌の三要素を徹底的に磨き上げることで、奇抜な演出を盛り込まなくても、魅力的な音楽が作れることを証明している。

レーベルのトップ、ニーヨの意向もあるのかもしれないが、近年のメジャー・レーベルの新作には珍しい、「歌」を前面に押し出したR&Bアルバム。変化を続けるR&Bの世界に疲れを感じた人は、ぜひ一度、本作の収録曲を聴いてほしい。彼の音楽を聴けば、黒人音楽に出会ったときの感動が蘇ってくると思う。

Producer
Kevin Ross, Antonio Dixon, Kenneth Edmonds, Jonathan Graves, Jeff Gitelman etc

Track List
1. Be Great (Intro) feat. Chaz French
2. Don't Forget About Me
3. O.I.L.
4. Long Song Away
5. Dream (Remix) feat. Chaz French
6. Genesis (Pt. 1)
7. Don't Go
8. Look Up feat. Lecrae
9. Pick You Up
10. Be Great (Remix) feat. BJ The Chicago Kid
11. Easier
12. Her Hymn
13. Genesis (Pt. 2)
14. In The Name Of Your Love
15. New Man





Awakening
Kevin Ross
Motown
2017-03-24

 

Ycee - First Wave Ep [2017 Tinny Entertainment, Sony Music]

ナイジェリアのラゴス州にあるフェスタック・タウン出身。2015年に発表した、パトランキングをフィーチャーした配信限定のシングル『Condo』がヒット。ナイジェリア・エンターテイメント・アワードにもノミネートしたことで一気に知名度を高めた、ラッパーでソングライターの、ワイシーことオルデミラド・マーティン・アレージョ。

そんな彼が現在も所属する、ナイジェリアのタイニー・エンターテイメントと契約したのは2012年。だが、その頃は大学生だった彼は、音楽活動と学業(海洋生物学を専攻していた)を両立するため、積極的な活動は控えていた。しかし、大学を卒業すると、音楽活動を本格的に開始。2015年には『Condo』や『Jagaban』などが立て続けにヒットさせると、アフロ・ビートとトラップ・ミュージックの要素を融合した独特の音楽性で、人気ミュージシャンの仲間入りを果たした。

今回のアルバムは、2016年に契約したソニー・ミュージック・エンターテイメント(厳密には南アフリカに拠点を置くソニー・ミュージック・エンターテイメント・アフリカ)から発売された、彼にとって初のEP。本作では、彼とのコラボレーション経験もある、ナイジェリアの総合音楽レーベル、マーヴィン・レコード所属のプロデューサーやミュージシャンが多数参加した、本格的なナイジェリアの国産ヒップホップ作品になっている。

肝心のアルバムの中身はというと、まず、このアルバムを手にした人に、最初に聴いてほしいのがカリブリを起用した”Kill Nobody”だ。色々な音色の打楽器が絡み合う複雑で陽気なビートと、アフリカの民族音楽を思い起こさせる、伸び伸びとしたヴォーカルが印象的なアップ・ナンバー。アフリカ音楽や中南米音楽とアメリカのブラック・ミュージックを融合させたミュージシャンには、エイコンやワイクリフ・ジョンなど、多くの成功者がいるので、このアルバムもアメリカのヒップホップに馴染んだ人々に受け入れられると思う。

これに対し、同郷のシンガー・ソングライター、リーカド・バンクスをフィーチャーした”Link Up”は、パーカッションを多用した陽気なビートにファーサイドの”Passin' Me By”から引用したと思われる、シンセサイザーの伴奏を取り込んだ、ナイジェリア風のヒップホップ。軽快なビートに乗せて言葉を放った結果、歌なのかラップなのか判別不能な独特の音楽になっている点は面白い。

だが、今回のアルバムの核になる曲といえば、マリーク・ベリーをフィーチャーした”Juice”だろう。アデイがプロデュースしたこの曲は、シンプルなバスドラムの上に、パーカッションやハンドクラップをちりばめたソカっぽいトラックを採用。その上で、地声で歌うワイシーとオートチューンを使った個性的な声のマリークが絡み合うパフォーマンスが聴きどころだ。

そして、本作でも異色の楽曲だと思われるのが、女性シンガーのセイ・シャイをフィーチャーしたミディアム・バラード”Need To Know ”だ。R.ケリーの”Trapped in the Closet ”を彷彿させる、ミュージカル向けのシンプルなビートに乗せて、寸劇のような掛け合いを聴かせる面白い曲だ。セイ・シャイの歌声がブランディやタミアのような90年代から活躍するR&Bシンガーのスタイルにちょっと似ている点は見逃せない。

彼自身がインタビューで述べている通り、彼の音楽はリル・ウェインやケンドリック・ラマー、ビッグ・ショーンといった、メロディのついたフロウがウリのラッパーのスタイルを取り入れつつ、イギリスで流行しているグライムやアメリカ南部のクリエイターが得意とするトラップのような、電子楽器を使った変則ビートとアフロ・ビートを融合した、軽妙だが一癖も二癖もあるトラックのコンビネーションが大きな特徴だ。その中でも、アフロ・ビートの要素が本作の胆で、ビートに独特のうねりと起伏を与えて、歌うようにラップする彼のスタイルを際立たせている。

ナイジェリア発の実力派ラッパーに留まらず、ヴォーカル曲とラップ作品を同時にこなす、ポスト・ドレイクの有力候補になりそうな逸材。Okayプレイヤーのホームページでも大々的に紹介されているので、近い将来、世界的なヒット曲を生み出すことも夢ではないと思う。

Producer
Adey etc

Tracklist
1. Wavy
2. Kill Nobody feat. Calibri
3. Link Up feat. Reekado Banks
4. Juice feat. Maleek Berry
5. Bubbly feat. Falz
6. Don’t Need Bae
7. Need To Know feat. Seyi Shay
8. N.O.U.N feat. KLY




※各種配信サービスへのリンクは、レコード会社の特設サイトを参照
https://sonymusicafrica.lnk.to/YceeFirstWaveEP

Enois Scroggins & The Touch Funk ‎– Real-E [2017 Diggy Down Recordz]

オクラホマ州マスコギーの出身、49歳の時にフランスのディスコ・ミュージック専門レーベル、ブーギー・タイムズからアルバム『One For Funk And Funk For All 』でデビューした、異色の経歴のシンガー・ソングライター、エノイス・スクロギンス。その後も、オクラホマ州のタルサに拠点を構えながら、ウィンフリーやワズ・ザ・ファンクファザーといった、アメリカやフランスで活躍する、80年代のディスコ・ミュージックや、90年代前半にアメリカの西海岸で流行したヒップホップのような、アナログ・シンセサイザーとリズム・マシーンの音色を活用したモダンな作風を得意とするミュージシャン達とコラボレーションするなど、精力的に活動。多くの録音をファンキーサイズやディギー・ダウンといったファンク・ミュージックに力を入れているフランスのレーベルから発表してきた。

本作は、2015年の『On A Roll』以来、約2年ぶりとなる通算8枚目のオリジナル・アルバム。同時に、今回のアルバムは、これまでにも複数の楽曲で制作に参加してきたフランスのプロデューサー・ユニット、ザ・タッチ・ファンクとの初のコラボレーション作品でもある。

アルバムの1曲目に収められている、本作からのリード・シングル”I Just Wanna Sing”は、ロス・アンジェルスを拠点に活動する女性シンガー、Jマリーをフィーチャーしたアップ・ナンバー。プリンスやミント・コンディションに触発され、エレクトリック・サウンドを取り入れたR&B作品を録音してきたマリーの、クールな歌声が聴きどころ。彼女の歌声に呼応するかのように、グラマラスで流麗な歌を聴かせるエノイスや、シンプルで洗練されたトラックも見逃せない。

一方、ティスミジーが参加した”You Got To Boogie”は、乾いたギターの音色や様々なリズム・マシーンの音色を組み合わせた華やかなトラックが印象的な、ディスコ・ナンバー。アナログ・シンセサイザーの柔らかい音色と鋭い音色のシンセ・ベースが、スレイヴやワンウェイなどのディスコ・バンドを思い起こさせるキャッチーなダンス・ナンバーだ。

また、2015年にシングル盤で発表された”Steppin’ Out”は、ハウス・ミュージックに近い、テンポの速いビートに乗せて、流れるような歌声を披露する、力強い演奏の中にも優雅さを感じさせるダンス・ナンバー。疾走感は魅力的だが、個人的には同作のB面に収められている”What Can I Do ”の方がお勧めだ。こちらは、ゴリゴリとしたシンセ・ベースと、他の曲よりも控えめに鳴るシンセサイザーの伴奏が特徴的な、ファンク色の強い曲。パーカッションの使い方はエムトゥーメイに、ベースの使い方はリック・ジェイムズに少し似ている、先鋭的なサウンドが特徴的だ。80年代後半のソウル・ミュージックが好きな人なら、思わずニヤリとしてしまう演出が盛り沢山な点も心憎い。

だが、本作で一番の聴きどころといえば、やはりブラック・ロスを起用したミディアム・ナンバー“Let's Fall In Love Again Tonight”だろう。勇壮なホーンで幕を開けるこの曲は、メアリー・ジェーン・ガールズの”All Night Long”を思い起こさせる、重厚で落ち着いた雰囲気とポップさを兼ね備えたグルーヴに乗せて、エノイスが年季を重ねた声でしみじみと歌い上げる、ロマンティックな楽曲。電子楽器の音色を取り入れた楽曲も、甘い歌声が魅力の歌手も決して珍しくないが、酸いも甘いも嚙み分けてきたベテラン歌手が、生楽器とシンセサイザーを組み合わせたモダンで華やかなサウンドをバックにその実力を遺憾なく発揮する姿は、やはり格別のものがある。

本作はコラボレーション・アルバムと銘打っているものの、今までのエノイスの作品と基本路線は変わっていない。アナログ・シンセサイザーやリズム・マシンを使ったモダンだけど温かみのあるトラックの上で、ボコーダーやトークボックスを織り交ぜながら、バリー・ホワイトを彷彿させるふくよかで柔らかい歌声を響かせるスタイルは、本作でも健在だ。あえて違いを強調するなら、今回のアルバムでは、ヒップホップ畑のクリエイターと共同作業をすることで、ディスコ・ミュージック寄りの楽曲が増えた点だ。

メイヤー・ホーソンもメンバーに名を連ねるタキシードや、ディム・ファンクも一因であるナイト・ファンクなど、80年代のディスコ・ミュージックから多くの刺激を受け、現代の音楽として再構成しようとする試みが各所で見られる中、2000年代から一貫してディスコ・ミュージックに取り組んできたシンガーが、経験の差を見せつけた本格的なソウル作品。彼らやブルーノ・マーズなどの音楽が好きな人は、ぜひ一度耳を傾けてほしい。

Producer
The Touch Funk

Track List
1. I Just Wanna Sing feat. J Marie (Radio Edit)
2. Coody Funk feat. Lonnie Barker Jr.
3. You Got To Boogie feat. Tysmizzy
4. This is What I Do
5. Miracle Potion feat. Hic Box, Shawn Biel
6. You Whisper Another Man's Name
7. What Can I Do (Main Version)
8. Get Down (Interlude)
9. This is For The B-Boys
10. Rewind Time feat. MNMsta
11. Let's Fall In Love Again Tonight feat. Black Los
12. Steppin' Out (Main Version)





Real-E
Diggy Down Recordz
2017-03-15

 
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