melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Tank - Savage [2017 Atlantic]

2000年に、ラッパーのドゥー・オア・ダイをフィーチャーしたシングル”Freaky”でレコード・デビュー。翌年に初のフル・アルバム『Force of Nature』を発表すると、70万枚以上のセールスを記録して人気ミュージシャンの仲間入りを果たした、シンガー・ソングライターのタンクことダレル・バブス。

ウィスコンシン州ミルウォーキー育ち、ワシントンD.C.育ちの彼は、ヒップホップの手法を取り入れた尖ったサウンドが流行していた2000年代に、歌詞と歌声を丁寧に聴かせる昔ながらのスタイルで台頭。2016年までに7枚のアルバムを発表し、ほぼすべての作品でR&Bチャートの1位を獲得している。また、2007年には彼同様、ヴォーカルにフォーカスを当てた音楽性で注目を集めていたジニュワインやタイリースと、ヴォーカル・グループTGTを結成。ツアーを行ったほか2013年にはアルバム『Three Kings』を発売している。

この作品は、2016年の『Sex Love & Pain II 』から約1年8か月という短い間隔で発表された、彼にとって8枚目のフル・アルバム。これまでの作品同様、収録曲のほぼ全てで彼自身がペンを執り、ミディアムからスロー・テンポの曲を中心に揃えた、歌い手としてのタンクにスポットを当てたアルバムになっている。

アルバムのオープニングを飾るタイトル・トラック”Savage”は、デイヴ・ホリスターやキキ・ワイアットなどの作品も手掛けているジェイヴォン・ヒル等が制作に携わっているミディアム・ナンバー。キラキラとしたシンセサイザーの伴奏と、トラップの要素を盛り込んだビートを使った現代的な作品だ。モダンなトラックを使った楽曲だが、その上に乗っかるメロディはしなやかで、ヴォーカルは納豆のように粘り強い。彼の持ち味を生かしつつ、現代のトレンドを巧みに取り込んだ佳曲だ。

これに続く”Everything”は、今年の3月に発売されたアルバム『Tremaine』も記憶に新しいトレイ・ソングスと、ラッパーのリュダクリスをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。前作にも関わっているリッキー・オーフォードが制作に参加し、チキチキという音色が印象的なビートを使ったスタイリッシュなトラックを用意。落ち着いた雰囲気のバリトン・ヴォイスが魅力的なタンクと艶めかしいテナー・ヴォイスがウリのトレイ・ソングスが、男の色気を見せつけ合うような、ヴォーカル・バトルを繰り広げている。リュダクリスが得意の高速ラップを挟むことで、甘くとろけるような歌声が続く曲を、絶妙なタイミングで引き締めてくれている点も見逃せない。二人の高い歌唱力と、それを引き立てるラップやアレンジの技術が合わさったことで生まれた、唯一無二の作品だ。

また、本作に先駆けて発売された”When We”は、タンク自身がプロデュース、カール・マッコーミックが制作にかかわっているスロー・ナンバー。シンセサイザーの音色を効果的に使ったしっとりとした雰囲気のトラックに乗って、みずみずしい歌声を響かせるバラード。色々なタイプの楽曲に取り組んできた彼だが、一番相性が良いのはこの曲のような、美しいメロディがウリのバラードだと思う。

そして、本作の最後を飾る”Stay Where You Are”は、タンクやTGTの作品のほか、ラトーヤやキーシャ・コール等のアルバムにソングライターとして携わってきたサン・フランシスコ出身のシンガー・ソングライター、J.ヴァレンティンとのコラボレーション曲。ビヨンセやメアリーJ.ブライジにも曲を提供しているヴィンセント・ベリーがペンを執ったこの曲では、バス・ドラムを軸にしたシンプルなビートをバックに優雅な歌を聴かせている。トラックの中に微妙な揺らぎを盛り込み、メロディに三連符を多く組み込むことで、2拍子がベースのR&Bにワルツのような優雅な雰囲気を与えている。制作者の斬新なアイディアと、それを具体化する二人のヴォーカル・スキルが光っている。

この作品は、これまでにリリースしてきたアルバムの路線をベースにしたヴォーカルを聴かせることに力点を置いたものだ。彼のようなスタイルのシンガーは、インディー・レーベルに所属する歌手を中心に多くいるが、彼は新しい音にも目を向けながら、それをヴォーカルの個性を引き出す素材として活用している点が大きく違う。このように新しい音を積極的に取り入れられるのは、彼自身がプロデューサーやソングライターとして、色々なアーティストの録音に関わってきたからだろう。

「歌」にスポットを当てた音楽を15年以上続け、磨き上げた彼だからこそ作れる珠玉の作品。新しい音楽が次々と生まれる時代に、安心してゆっくり向き合える、大人のための音楽だ。

Producer

Durrell Babbs, J. Valentine, Slikk Musik, Javon Hill etc

Track List
1. Savage
2. Everything feat. Trey Songz and Ludacris
3. Do For Me
4. Only One
5. You Belong To Me
6. Good Thing feat. Candice Boyd
7. Sexy
8. When We
9. F It Up
10. Nothing On
11. Stay Where You Are feat. J. Valentine





Savage
Tank
Atlantic
2017-09-29



PartyNextDoor - Seven Days [2017 OVO Sound, Warner Bros.]

2010年のデビュー・アルバム『Thank Me Later』がアメリカ国内だけで400万枚以上のセールスを記録し、その後に発売した3枚のアルバム全てがプラチナ・ディスクに認定されているドレイクを筆頭に、ロイ・ウッドやマジッド・ジョーダンといった個性豊かなシンガーや、ボイ・ワンダやノア・シェビブといったヒット・メイカーを擁するカナダのレーベル、OVOサウンド

同レーベルに所属するアーティストの中でも、ドレイクと並んで特に多くのヒット曲を残しているのが、ミンサガ生まれのシンガー・ソングライター、パーティーネクストドアことジャーロン・アンソニー・ウエストウェイトだ。

2013年に同レーベルの第1弾アーティストとして契約した彼は、同年のEP『PartyNextDoor』を皮切りに、2017年までに2枚のフル・アルバムと3枚のEPをリリース。うち、2枚のフル・アルバムが立て続けに全米R&Bチャートとヒップホップ・チャートを制覇し、2016年には彼が参加したドレイクの”Come & To See Me”がグラミー賞にノミネートするなど、カナダを代表するシンガーの一人に躍り出た。

この勢いは2017年に入ってからも変わらず、2月には3作目のEP『Colours』を発表。それ以外もDJキャリッドのアルバム『Grateful』にソングライターとして携わりながら、ドレイクの『More Life』やカルヴィン・ハリスの『Funk Wav Bounces Vol.1』にシンガーとして参加するなど、多くの作品を残している。

このアルバムは、『Colours』から僅か7か月という短い間隔でリリースされた4枚目のEP。プロデューサーには過去の作品にも携わっているフランク・デュークスや、レーベルメイトのT-マイナスのほか、ロック・ミュージシャンのアンドリュー・ワットのような、ちょっと意外な面々も参加。ゲストにはホールジーやリック・ロスが参加し、新しいスタイルに挑戦する彼を支えている。

本作の1曲目は、彼自身が作詞作曲とプロデュースを担当した”Bad Intentions”は、シンプルなトラックと柔らかい歌声が魅力のミディアム・ナンバー。ラップのように言葉数を増やしつつ、滑らかなメロディを聴かせる技術は流石としか言いようがない。歌手としてもソングライターとしても活躍している彼の持ち味が発揮された佳曲だ。

これに対し、ホールジーとコラボレーションした”Damage”は四つ打ちのビートを取り入れたアップ・ナンバー。フランク・デュークスとT-マイナスがプロデュースしたこの曲は、ヒップホップの太くて重い音色を使ったビートの上で、軽妙なメロディを聴かせるポップな曲だ。2017年に入ってからも、元ワン・ダイレクションのゼインやビッグバンのG-ドラゴンなど、世界各地のポップ・スターとヒット曲を作っているフランク・デュークスの経験が反映された、親しみさが光るダンス・ナンバーだ。

これに対し、リック・ロスをフィーチャーした”Better Man”は、デビュー作の頃から彼の作品に携わっているG.ライが制作に参加したミディアム・ナンバー。バス・ドラムの音を軸にしたシンプルなトラックをバックに、しっとりと歌うパーティーネクストドアの姿が印象的な作品だ。ラップの要素を排した流れるようなメロディを丁寧に歌う手法は、ジョーブライアン・マックナイトのような、90年代から活躍するベテラン・シンガーを彷彿させる。主役の歌を絶妙なタイミングで盛り立てるリック・ロスのラップもいい味を出している。

そして、本作の収録曲の中でも特に異彩を放っているのが、アンドリュー・ワットと共作した”The Right Way”だ。彼の作品では珍しい、ギターの演奏をバックに訥々と言葉を繋ぐフォーク・ソング寄りのミディアム・ナンバーは、テリー・キャリアーを彷彿させる温かく繊細な歌声が心地よい作品だ。シンセサイザーを駆使した現代的なトラックが多い彼だが、アコースティック・サウンドとの相性も素晴らしい。彼の意外な一面が垣間見える面白い曲だ。

今回のアルバムでは、四つ打ちを取り入れたポップな曲や、ギターの演奏をバックに歌った曲など、これまでの作品ではあまり見られなかったスタイルの曲にも取り組んでいる。しかし、本作を通して聴いた印象は、奇抜で斬新に聴こえる曲はむしろ少ないように思える。おそらく、彼が多くのレコーディングやステージを経験する中で、自身の軸となる音楽性を確立し、それを軸に作品を録音したからだと思う。

本作の発表時点で24歳にもかかわらず、色々な音楽を取り込んでもブレることのない確固とした音楽性と、新しい音楽を取り入れる柔軟さが発揮された味わい深い作品。鋭意制作中という3枚目のフル・アルバム『Club Atlantis』ではどんな音楽を聴かせてくれるのか、今から楽しみだ。

Producer
PartyNextDoor, Frank Dukes, Andrew Watt, T-Minus, G.Ry etc

Track List
1. Bad Intentions
2. Never Played Me
3. Damage with Halsey
4. Better Man feat. Rick Ross
5. Best Friends
6. The Right Way
7. Love Me Again





Seven Days [Explicit]
OVO Sound/Warner Bros.
2017-09-30

Tamar - Bluebird Of Happiness [2017 Logan Land, eOne]

テイマー・ブラクストンこと、テイマー・エスティーヌ・ブラクストンはメリーランド州セヴァーン出身のシンガーソングライター。

彼女は自身の姉妹と結成した5人組ヴォーカル・グループ、ブラクストンズとして5歳の頃から活動。多くのステージを経験していく中で実力を認められ、アリスタ・レコードと契約。90年にシングル”Good Life”をリリースする。その後、長女のトニはソロに転向、多くのヒット曲を残し90年代を代表する女性シンガーの一人となった。

その後、トニ以外の4人のうちトレイシーを除く3人は、96年にブラクストンズの名義でアルバム『So Many Ways』を発表。”Slow Flow”や”The Boss”(ダイアナ・ロスの同名曲のリメイク)などをヒットさせた。

また、彼女は1999年のEP『Tamar: Just Cuz』でソロ・デビューすると2016年までに4枚のフル・アルバムと8枚のシングルを録音。その中でも、2013年に発表した2枚目のアルバム『Love and War』と同作のタイトル・トラック”Love and War”は全米R&Bチャートを制覇する大ヒットとなった。

このアルバムは、自身の名義では2015年の『Calling All Lovers』以来となる通算5枚目のフル・アルバム。彼女が設立したレーベル、ローガン・ランドからの発売。しかし、ミュージックラトーヤなどの作品を扱っているeOneが配給を担当し、プロデューサーとして、ロドニー・ジャーキンスやヴォンセント・ハーバートといった有名ミュージシャンを数多く手掛けている面々が参加。可愛らしさと老練さを兼ね備えたヴォーカルを引き立てる、美しいメロディのR&B作品を揃えている。

本作のオープニングを飾る”My Forever”は、フェイス・エヴァンスの”I Love You”やジェニファー・ロペスの”All I Have”を連想させる、生演奏風の音色を使ったソウル・ミュージック色の強いトラックと、艶めかしいメロディが印象的なスロー・ナンバー。ボビー・ヴァレンチノやオマリオンなどに曲を提供しているコ・キャプテンズが制作に携わり、大人の色気を前面に押し出したスタイルは、姉のトニ・ブラクストンによく似ている。90年代にこの曲が発売されていたら、大ヒットしていたと思わせる、ロマンティックなバラードだ。

これに対し、トロイ・テイラーがプロデュースした”Run Run”は、彼女の作品では異色のレゲエ・ナンバーだ。ジェイZやカニエ・ウエストなどがサンプリングしたことでも知られているシスター・ナンシーの82年のヒット曲”Bam Bam”を引用した本作は、ミュージカル・ユースの”Pass The Dutchie”を思い起こさせるポップで躍動感あふれるトラックの上で、貫禄のある歌声を聴かせている。 丁寧な歌唱が持ち味のテイマーだが、この曲ではリディムの持つ陽気で軽快な雰囲気を上手く咀嚼した、軽妙なヴォーカルを披露している。

しかし、本作の目玉は何といっても彼女の歌唱力を前面に押し出したスロー・バラード”Blind”だろう。ロドニー・ジャーキンスが手掛けたこの曲は、映画「キャデラック・レコード」のクライマックスでビヨンセがカヴァーしたことも話題になった、エッタ・ジェイムスが68年に発表した名バラード”I'd Rather Go Blind”のフレーズを引用した作品。複雑なメロディを力強い歌声でねじ伏せたエッタやビヨンセに比べると、パワーでは見劣りする部分もあるが、ピアニッシモからフォルテッシモ、地声から裏声まで、途切れることなく繋ぐ技術は、彼女達に負けていない。ヴォーカリストとしてのテイマーの実力の高さを再確認できる良曲だ。

そして、本作に先駆けて後悔された”My Man”はTLCやボーイズIIメンなどの作品を手掛けているプロダクション・チーム、ティム&ボブのボブ・ロビンソンと制作したスロー・ナンバー。シンセサイザーを多用したスタイリッシュなトラックに乗って、艶やかなヴォーカルを披露する、ムーディーなバラード。彼女の代表曲”Love and War”や姉トニの”Un-Break My Heart”の路線を踏襲した作風からは、彼女達が20年以上の間貫いてきたスタイルが普遍的なものであることが伝わってくる。

このアルバムでは、90年代のブラクストンズやトニの作品を彷彿させる、主役の歌を引き立てるシンプルな伴奏と流麗なメロディ、美しい歌声を存分に聴かせるヴォーカルという組み合わせた曲が数多く収められている。安価で高性能な機材が流通し、斬新なサウンドが次々と生まれている中で、彼女のようにシンプルなアレンジと歌唱力で勝負する作品は珍しいが、このような録音が残せるのは、彼女が自身の歌唱力を武器に20年以上戦ったきた実績と実力があるからだろう。

スタイリッシュなサウンドとしなやかで美しいヴォーカルを思いっきり楽しめる希少なヴォーカル・アルバム。トニ・ブラクストンやメアリーJブライジの作品に心躍った90年代のR&Bシーンを経験した世代にはたまらない、本格的なR&Bを楽しみたい人にオススメ。

Producer
Tamar Braxtone, Rodney Jerkins, Vincent Herbert, Troy Taylor, Bob Robinson etc

Track List
1. My Forever
2. Wanna Love You Boy
3. Run Run
4. Hol' Up feat. Yo Gotti
5. The Makings Of You
6. Heart In My Hands
7. Blind
8. My Man
9. Pick My Up
10. How I Feel
11. Empty Boxes




Bluebird of Happiness
Tamar Braxton
Tamartianland
2017-09-29

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