melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Don Bryant - Don't Give Up on Love [2017 Fat Possum Record, Unive]

60年代から主に裏方として活躍し、クワイエット・エレガンスやウィリー・クレイトンなど、名だたるシンガー達に楽曲を提供してきた、テネシー州メンフィス出身のシンガー・ソングライター、ドン・ブライアント。中でも、後に夫婦となるアン・ピーブルスに提供した”I Can't Stand The Rain “は、リズム・マシンを使ったモダンでしっとりとしたトラックと、妖艶なヴォーカルを活かしたメロディで、90年代に入ってからも、ミッシー・エリオットやウータン・クランなどにサンプリングされる名曲となった。

一方、彼自身のキャリアに目を向けると、60年代から複数のレーベルでシングル盤を発表。そして、69年には初のソロ・アルバム『Precious Soul』を、アル・グリーンやアン・ピーブルスなどの作品を世に送り出してきた、メンフィスに拠点を置く黒人音楽の名門、ハイ・レコードからリリース。マーヴィン・ゲイの”(You're A) Wonderful One”や、サム&デイヴの”Soul Man”、ジェイムズ・ブラウンの”Try Me”といった、ソウル・ファンにはお馴染みの名曲を熱く歌い上げ、多くの人に鮮烈な印象を残していった。

その後は、来日公演を経験するなど、人気アーティストの一人として精力的に活動するものの、79年にハイ・レコードが終焉を迎えると、それも停滞。90年代以降は、ゴスペル・アルバムなどをコンスタントに発売しているが、その規模は絶頂期に比べると小さなものであった。

そんな彼は、2016年になると37年ぶりの来日公演を敢行。往年の力強いヴォーカルが健在であることを日本のファンにアピールした。また、ライブの熱気も冷めやらぬまま、スタジオでの制作活動も再開。あの『Precious Soul』から、実に48年ぶりとなる、本格的なソウル・アルバムを録音した。

プロデュースは、ウィリアム・ベルの2016年作『This Is Where I Live』などに携わっているボー・キーズのスコット・ボマーと、R.L.バーンサイドやウォーター・ライアーズなどの作品で、エンジニア等を務めているブルース・ワトソンが担当。配給はR.L.バーンサイドやブラック・キーズなどのアルバムを配給している、ミシシッピ州オックスフォードのファット・ポッサム・レコード。演奏者には、ウィリー・ミッチェルの『On Top』でドラムを叩いたハワード・グライムスや、アルグリーンの『Let's Stay Together』で鍵盤楽器を担当していたチャールズ・ホッジ、モータル・ミラーズのジョン・ポール・キースなど、60年代、70年代のハイ・レコーズを支えてきた名手と、彼らの音楽を聴いて育った若いミュージシャンが一堂に会した、彼の新作にふさわしい豪華な顔ぶれになっている。

アルバムの1曲目は、O.V.ライトの代表曲としても知られる”A NICKEL AND A NAIL”。原曲よりもテンポを落とし、低音を強調したドラムやベースを軸にした演奏の上で、粘っこく歌うドンの姿は、O.V.以上に熱く泥臭いものだ。O.V.が歌うオリジナルが発表された頃は、彼の持つ強烈な声の力に気圧された人が多いと聞くが、本作のパフォーマンスはそれ以上の迫力を持っていると思う。

一方、3曲目の”IT WAS JEALOUSY”は、74年に発売されたオーティス・クレイのシングル『You Did Something To Me』のカップリング曲のセルフ・カヴァー。原曲と比べると、ギターやストリングスなどの中音域を分厚くし、より優雅でロマンティックなものに仕立て直している。ドンの歌声も、他の曲に比べると少し甘く、優しいものだ。歌手としては全く異なるタイプだが、甘く色っぽい歌声は、ハイ・レコーズを代表する名シンガー、アル・グリーンを連想させる。

また、スコット・ボマーとドンの共作であるタイトル・トラック”DON’T GIVE UP ON LOVE”は、しっとりとした伴奏と、哀愁を帯びた歌声が魅力のバラード。ホーンやストリングスをふんだんに使ったロマンティックなバンドを背に、聴き手を包み込むような優しい歌声を響かせるスロー・ナンバー。絶妙な力加減で、主役の歌声を引き立てるバンド・メンバーの演奏技術が心憎い。

そして、本作のハイライトと呼んでも過言ではないのが、アルバムに先駆けて発表されたミディアム・ナンバー”HOW DO I GET THERE”だ。オルガンをバックに熱い歌声を張り上げるオープニングから一転、『Precious Soul』の時代を思い起こさせる重厚なベースと力強いドラムをバックに、感情を剥き出しにした激しい歌を繰り出している。ダイナミックで荒々しいヴォーカルにもかかわらず、メロディが崩れないのは、経験を重ねたベテランのなせる業だろう。

今回のアルバムは、ハイ・レコードで活躍したベテラン・ミュージシャンや、彼らから影響を受けた若手アーティスト達を集め、生演奏の持つ響きと、彼の歌声を強調した、過去の作品以上に『Precious Soul』を意識した録音だと思う。だが、”A NICKEL AND A NAIL”や”IT WAS JEALOUSY”のカヴァーが象徴するように、彼自身が往年の名シンガーより遥かに年を重ね、音楽の作られ方や聴かれ方も原曲とは異なる時代に作られた本作は、アデルやメイヤー・ホーソンなどの成功で再び脚光を浴びている、60年代、70年代のソウル・ミュージックを意識しつつ、彼らと同じように、ソウル・ミュージックに慣れ親しんできたロック・ミュージシャンの手法を取り入れた、ライブ感溢れるシンプルなアレンジになっている。

往年のソウル・シンガーが持つ、豊かな声を活かしつつ、年月の重ねて身につけた老練な技と、色々な舞台を経験している新旧の名演奏達の高度な演奏テクニックが融合した、シンプルで無駄のない、だけど味わい深い作品。「ネオ」とは一味も二味も違う、本物のヴィンテージ・ミュージック味わいたい人に是非オススメしたい。

Producer
Scott Bomar, Bruce Watson

Track List
1. A NICKEL AND A NAIL
2. SOMETHING ABOUT YOU
3. IT WAS JEALOUSY
4. FIRST YOU CRY
5. I GOT TO KNOW
6. DON’T GIVE UP ON LOVE
7. HOW DO I GET THERE
8. CAN’T HIDE THE HURT
9. ONE AIN’T ENOUGH
10. WHAT KIND OF LOVE





ドント・ギヴ・アップ・オン・ラヴ
ドン・ブライアント
Hostess Entertainment
2017-06-07

Niia - I [2017 Atlantic]

マサチューセッツ州のニードハム出身。幼いころからクラシック・ピアノと歌の教育を受け、13歳になると人前で歌うようになったという、シンガー・ソングライターでピアニストのニイアことニイア・ベルティーノ。イタリア出身で、オペラ歌手の娘という母の下で鍛えられた彼女は、ハイスクール時代からジュリアード音楽院やバークリー音楽大学のプログラムに参加し、腕を磨いていた。

高校卒業後は、ニューヨークのニュースクール大学に進学。同大学ではジャズ・ヴォーカルを専攻している。また、大学在学中には元フージーズのワイクリフ・ジョンと出会い、2007年には彼が発表したシングル『Sweetest Girl (Dollar Bill)』にフィーチャリング・ヴォーカルとして参加している。同曲は総合チャートで最高12位に登り詰め、プラチナ・ディスクに認定される大ヒットとなった。

同曲のヒットで知名度を上げた彼女は、MTVの企画で世界各地のステージを経験。帰国後は、ニューヨークでも大規模な公演を成功せさせている。

また、2013年には、自身の名義によるデビュー・シングル『Made For You』を発表。クールな歌声を活かした楽曲はもちろん、ヒストリーXなどの仕事で知られる、トニー・ケイトが制作したMVも注目を集めた。その翌年には、ロビン・ハンニバルのプロデュースで初のEP『Generation Blue』をリリース。洗練されたメロディと滑らかなヴォーカルで、若者の間だけに留まらず、幅広い年代の人々から高い評価を受けた。

そして、アトランティックと契約した彼女が、2017年に発表したのが本作。前作同様、Rhye(ライ)やケンドリック・ラマーなどを手掛けてきたロビン・ハンニバルが全曲をプロデュース。彼女の繊細な歌声と、流麗なメロディを生み出すセンスを活かした、スタイリッシュな作品に仕上げている。

イントロを挟んだアルバムの実質的な1曲目”Hurt You First”は、アイズレー・ブラザーズの”Between The Sheets”を思い起こさせる、シンセサイザーを使ったしっとりとした伴奏の上で、シャーデーのヴォーカリスト、シャーデー・アデュを彷彿させる透き通った歌声を響かせるミディアム・ナンバー。怪しげな雰囲気の演奏に乗って、爽やかなヴォーカルを聴かせる彼女の存在感が光る佳曲だ。

一方、キーボードやストリングスを使ったロマンティックな演奏が魅力のバラード”Sideline”は、丁寧な歌唱が心地よいスロー・ナンバー。生演奏っぽいドラムやキーボードの柔らかい音色と、優しく語り掛けるように歌うニイアの姿が心に残る名演だ。繊細な歌声を振り絞って力強く歌うサビの部分は、シェリル・クロウやジョニ・ミッチェルのような、女性フォーク・シンガーのパフォーマンスを思い起こさせる。

また、ジャズミン・サリヴァンが参加したリミックス・ヴァージョンでは、鋭い低音を強調したR&Bっぽいトラックに変更。曲の途中でジャズミンが地声のような低い声のラップを聴かせている。オリジナル・ヴァージョンと比べると、ヒップホップやR&Bに寄った作風が格好良い。

そして、見逃せないのは、スロー・ナンバーの”Last Night In Los Feliz”だ。シンセ・ドラムとピアノを核にしたシンプルな伴奏の上で、囁きかけるように歌う姿が美しいバラード。ピアノの演奏と、高音を軸にした繊細なヴォーカルの組み合わせは、アリシア・キーズの”Diary”にも少し似ている。

それ以外にもう一つ、是非きいてほしい曲が”Girl Like Me”だ。ギターとシンセサイザーを組み合わせた、シンプルなトラックに乗せて、しなやかな歌声を響かせるミディアム・ナンバー。こちらの曲も、”Sideline”のような、フォーク・ソングやジャズのエッセンスを取り入れたスタイリッシュな仕上がりが魅力的だ。

彼女の音楽性はライのそれを彷彿させる、洗練されたメロディと色っぽい歌声が光るものだ。だが、彼女の場合、そこにフォーク・ソングやジャズといった、色々な音楽の要素を取り込むことで、R&Bが好きな人だけに留まらない、色々な人の心に訴えかける大衆性も兼ね備えていると思う。

あらゆる音楽を飲み込み、スタイリッシュでセクシーなR&Bに還元するスタイルは、デビュー当時のシャーデーを彷彿させる。シャーデーやライのような、しなやかで美しいメロディのR&Bが好きな人にはぜひ聞いてほしい。洗練された作風が魅力のR&B作品だ。

Producer
Robin Hannibal

Track List
1. Prelude
2. Hurt You First
3. Sideline
4. Nobody
5. Last Night In Los Feliz
6. Girl Like Me
7. Day & Night
8. Constantly Dissatisfied
9. California
10. All I Need
11. Mulholland
12. Sideline feat. Jazmine Sullivan



a

I
Niia
Atlantic
2017-05-05

Nick Murphy - Missing Link EP [2017 Future Classic]

幼いころから、ジャズを中心に色々な音楽を聴いて育ち、成長すると次第に自分でも曲を作るようになったという、オーストラリアのメルボルン出身のシンガー・ソングライターでクリエイターの、ニック・マーフィーことニコラス・ジェイムス・マーフィー。

2011年には、チェット・フェイカーの名義で、ブラックストリートの96年のヒット曲をカヴァーした”No Diggity”を発表。90年代を代表するR&Bクラシックを、電子音楽とソウル・ミュージックの手法を用いてリメイクしたこの曲は、多くの音楽情報サイトで取り上げられ、2013年にはスーパーボールの中継で流されるCMソングにも採用された。

そして、2012年には同名義で初のEP『Thinking in Textures』をリリース。インディペンデント・レーベル発の作品ながら、世界各地でヒット。日本を含む複数の国でCDやアナログ・レコードが発売された。

その後も、アメリカ人シンガー、キロ・キッシュをフィーチャーしたシングル”Melt”や、自身がヴォーカルを執った”Talk Is Cheap”など、多くの曲を発表。オーストラリアのヒット・チャートに頻繁に登場する売れっ子ミュージシャンになった。また、2014年には初のフル・アルバム『Built on Glass』を発表。こちらはオーストラリアのヒット・チャートで1位を獲得、年間チャートでも12位に名を連ね、プラチナ・ディスクを取得した大ヒット作となった。

また、同作が成功した後は、オーストラリア国内を中心に、ツアーで多忙な日々を過ごす一方、精力的に新作を発表している。特に、2016年以降は、チェット・フェイカーの名義と並行して、ニック・マーフィーとしても、シングルを2枚リリースしている。

今回のアルバムは、ニック・マーフィーの名義で発売された初のEP。上述のシングルに収められている2曲は入っていない、新曲だけの作品となっている。

本作の目玉といえば、なんといっても、アルバムのオープニングを飾る”Your Time”だ。電子音楽にヒップホップやR&Bの要素を取り入れた、2016年のアルバム『99.9%』も記憶に新しい、カナダ出身のクリエイター、ケイトラナダとコラボレーションしたこの曲。電子音を重ね合わせ、エフェクトをかけた幻想的なトラックと、カート・コヴァーンを彷彿させるニックの殺伐としたヴォーカルが印象的なミディアム・ナンバー。ケイトラナダの温かい歌声が、楽曲のアクセントになっている。

これに対し、2曲目の”Bye”は、強烈なエフェクトをかけた荒々しいギターとシンセサイザーの音色が、ジミ・ヘンドリックスやファンカデリックなどのサイケデリック音楽を思い起こさせるミディアム・ナンバー。1分弱の短い曲だが、鮮烈な印象を残している。

一方、ポコポコというテクノ・ポップっぽい電子音を使ったアップ・ナンバー”I’m Ready”は、彼の退廃的なヴォーカル・スタイルを活かした曲。レディオヘッドなどを連想させる、物悲しい雰囲気のメロディと、耳に刺さるような鋭いシンセサイザーの音色の組み合わせが格好良い。ニックのグラマラスな声が、ロックで多用されるメロディ・ラインをソウル・ミュージックのように聴かせている。

また、4曲目の”Forget About Me”は、太いシンセ・ベースやリズム・マシンの音色を使ったトラックが、ニュー・オーダーやデュラン・デュランのような、80年代に活躍したロック・ミュージシャンを思い起こさせる、モダンなアップ・ナンバー。地声を織り交ぜたワイルドな歌声も魅力的だ。

そして、アルバムの最後を締める”Weak Education”は、サックスの音色と電子音を絡めた、モダンだけど温かいトラックが、ティミー・トーマスの”Why Can't We Live Together”を思い起こさせる曲。ロー・ファイな音色を使った四つ打ちのビートが、ドナ・サマーの”I Feel Love”のような、黎明期のテクノ・ミュージックを連想させる。懐かしさと新鮮さが織り交ざった曲だ。

新しい名義でのリリースになっても、色々な音楽を取り入れて、自分の作風に昇華させるスタイルは変わらない。今回のアルバムを聴く限り、ヒット曲を、新作への期待に押しつぶされたり、周囲の目を意識しすぎて萎縮したりすることなく、雑駁なようで緻密な、聴き慣れたようで斬新な、不思議な音楽を聴かせている。

エレクトロ・ミュージックをベースにしつつ、ロックやフォーク、ソウルやジャズのエッセンスを詰め込み、一つになるまで煮詰めた、濃密な音楽を揃えた魅力的なアルバム。広く浅く、色々な音楽を聴く人なら思わずニヤリとする、一つのジャンルを深く突き詰めて聴く人には新鮮な、面白い作品だと思う。

Producer
Nick Murphy

Track List
1. Your Time feat. Kaytranada
2. Bye
3. I’m Ready
4. Forget About Me
5. Weak Education






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