ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Childish Gambino - Awaken, My Love! [2016 Glassnote Records]

俳優としても、映画『オデッセイ』や『マジック・マイクXXL』などに出演し、テレビ・ドラマ『Atlanta』でゴールデン・グローブ賞を獲得するなど、マルチな才能を発揮しているドナルド・グローヴァー。彼のステージ・ネーム、チャイルディッシュ・ガンビーノ名義による通算3枚目となるオリジナル・アルバムが、ユニバーサル傘下のグラスノートから発表された。

これまでの作品では、フライング・ロータスの諸作品や、カニエ・ウエストの『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』以降の流れを汲む、電子音を巧みに組み合わせた抽象的なビートが特徴的な『Camp』や、電子楽器の音色を多用しつつ、ヒップホップのビートにロックやR&Bなどの要素を加えて、フランク・オーシャンやウィークエンドのブレイク以降、一気にブラック・ミュージックの主流となったクロスオーバー路線を意識した『Because the Internet』など、シンセサイザーやDAWソフトを駆使しながら、複数のジャンルを股にかけた、独自の音楽を聴かせてくれた。

そんな彼のオリジナル・アルバムとしては、2013年の『Because the Internet』以来、2年ぶりとなる本作。その特徴は、なんといっても制作体制の変化だ。前作では多くのクリエイターを共同作業者に招いていたが、本作では『Camp』を一緒に作った、ルドヴィグ・ゴランソンとの二人三脚で作った楽曲が大多数を占めている。一方、これまでの作品は、コンピューターやシンセサイザーを多用した少人数による録音だったが、本作ではオルガンやコーラスを含む多人数のバンドでレコーディングをするなど、作曲と演奏の両方でスタイルを大きく変えている。

アルバム発売に先駆けて公開された”Me and Your Mama”では、オルゴールっぽいシンセサイザーのフレーズにはじまり、マネキン人形のような冷たい肌触りのヴォーカルによるコーラスや、エフェクターで音を歪ませたギターが続き、その後をドナルド・グローヴァーの叫ぶようなヴォーカルが追いかける、ロックとヒップホップが入り混じった、幻想的なミディアム・ナンバー。楽曲の後半で流れる、アナログ・シンセの淡白な演奏が、幻想的な雰囲気にさらなる拍車をかけている。また、もう一つのシングル曲”Redbone”は、80年代の音楽を彷彿させる冷たいアナログ・シンセの音色で、70年代のソウル・ミュージックを彷彿させる、ロマンティックで温かいフレーズを鳴らした、R&B色の強いミディアム・ナンバー。艶々とした音色の伴奏がドナルドのかすれた歌声を引き立てている、スタイリッシュなのにどこか泥臭い楽曲だ。その他にも、アナログ・シンセやドラムを軸にした演奏隊の上で、パーラメントを思い起こさせる不協和音を含むコーラスと、色々な場所から採取したノイズをアクセントに使ったファンク・ナンバー”Have Some Love”、ジミ・ヘンドリックスの影響が感じられる、激しく歪んだ音色を使ったギター演奏と重々しいドラムを使ったビートが、バーケイズっぽく聴こえる伴奏をバックに、泣きじゃくるようなヴォーカルを聴かせるミディアム”Zombie”など、色々なスタイルの音楽を詰め込んだ、玉手箱のような音楽を聴かせてくれる。

彼の作品を聴いたとき、真っ先に思い浮かんだのは、ファンカデリックにはじまり、プリンスを経由してディアンジェロやエイドリアン・ヤングへと続く、ソウルやファンク、サイケデリック・ロックやヒップホップのエッセンスを混ぜ合わせた、闇鍋のようなソウル・ミュージックだ。ファンカデリックの”Good to Your Earhole”をサンプリングして、嵐のように混沌としたビートに組み替えた”Riot”は極端な例だが、本作の収録曲では、サイケデリック・ロックやジャズ、アンビエント・ミュージックなどで使われるフレーズが楽曲の随所で顔を覗かせている。もっとも、それは彼の趣味が変わったわけでも、彼がジョージ・クリントンのフォロワーであることを示すわけでもないと思う。というのも、これまでの作品でも、彼は電子音楽やロックなどを取り入れたR&Bやヒップホップを作ってきた。そして、今回のアルバムでは、使う楽器や声の種類が増えたことで、結果的に先人のサウンドを踏襲したのであり、意図的にフォローした作品とは一線を画していると思う。

マイルス・デイヴィスやジョージ・クリントン、プリンスやディアンジェロなど、色々なジャンルの音楽の要素を取り入れて、自分のスタイルを作り上げた先人達。彼らのように、一つの路線に固執せず、様々なスタイルを取り込んで自身の音楽性を固めた結果、偉大な先人の音楽性に近づいてしまったのは、偶然と必然の両面があるとはいえ、非常に面白いことだ。クリック一つで世界中の音楽が聴け、1台のコンピューターで無数の音を生み出せる時代だが、皆が彼のようなミュージシャンになれたわけではない。この作品を聴くと、知識や技術を具体的な作品に昇華させるのは、ほかでもない人間の感性なのだと再認識させられる。

Producer
Donald Glover, Ludwig Göransson

Track List
1. Me and Your Mama
2. Have Some Love
3. Boogieman
4. Zombies
5. Riot
6. Redbone
7. California
8. Terrified
9. Baby Boy
10. The Night Me and Your Mama Met
11. Stand Tall





Awaken, My Love!
Childish Gambino
Glassnote
2016-12-02


Emanon – Dystopia [2016 Dirty Science Records]

ストーンズ・スロウから発表したアルバム『Good Things』のほか、”I Need A Dolla”や”The Man”など、多くのヒット作を世に送り出しているシンガー・ソングライターのアロー・ブラックと、同郷のラッパー、ブルーとのユニット、ブルー&エグザイル名義での作品のほか、ジュラシック・ファイブやスヌープ・ドッグへの楽曲提供でも知られているDJ兼トラック・メーカーのDJエグザイルこと、アレクサンダー・マンフレディ。ロス・アンジェルスで一緒に下積み時代を過ごし、それぞれの道で成功を収めた二人によるユニット、エマノンが、10年ぶりの新作を録音した。

渋い歌声を活かしたミディアム・ナンバーに定評のあるアロー・ブラック。だが、このアルバムでは原点に返ってラッパーに専念。DJエグザイルの作る、様々なレコードのフレーズを組み合わせた奇想天外なビートの上で、いぶし銀の声を軽やかに操った、クールなラップを披露している。

アルバムのオープニングを飾る”Make It Over”は、ジャズのレコードからウッドベースのフレーズを抜き出して作った、ソウルフルなグルーヴの上で、歌うようにラップするミディアム・ナンバー。続く”Aloe Be Thy Name”はチェンバロの演奏をサンプリングした、嵐のように音の塊が飛び交うトラックの上で、伴奏に負けじと言葉を畳み掛けるアロー・ブラックの姿が印象的な楽曲だ。この後には、声ネタを効果的に使ったトラックが、ディレイテッド・ピープルズの作品を彷彿させる”Shine Your Light”(一部の盤では”This Little Light”と表記)や、崩れ落ちるようなピアノの演奏をループさせたビートの上で、アロー・ブラックとブルーがラップ・バトルを繰り広げる”Yesterday”、ドラムの響きをエフェクターで強化した高揚感たっぷりのビートの上で、猛々しいラップを聴かせる”Death Is Fair”や、幽霊の声にも妖精の声にも聴こえる、幻想的な女性シンガーの歌声を使ったトラックの上を踊る、LLクールJのように軽妙なライムが格好良い”Night Salkers”や”The E.N.D.”など、サンプリングを軸にしたビートとリズミカルなラップによる、90年代前半のヒップホップを思い起こさせるキャッチーな楽曲が続く。

二人の作品を聴いた瞬間に思い出したのは、ディレイテッド・ピープルズやアルカホリックスなどの、ロス・アンジェルスのローカル・シーンから世界に羽ばたいたラップ・グループの音楽だ。多くのヒップホップ・ミュージシャンは目もくれないマイナーなレコードや、有名なレコードのマイナーなフレーズを組み合わせ、他のミュージシャンとは一味違うトラックを作るDJエグザイルと、奇抜なトラックを前にしても物怖じせず、ジャズ・ミュージシャンがアドリブを演奏するように、言葉を紡ぎ出すアロー・ブラック。両者の姿は個性的なトラックを軽やかに乗りこなす、往年のラップ・グループの姿がダブって見える。

アロー・ブラックの歌手としての経験と、DJエグザイルの独創的な作曲センスが生み出した、ヒップホップの基本に忠実だが極めて独創的な作品。ラップと歌は別物と考えている人にこそ聞いてほしいな。

Producer
Aloe Blacc, Aleksander Manfredi

Track List
1. Make It Over
2. Aloe Be Thy Name
3. Come One Come All feat. Cashus King A.K.A. Co$$
4. Shine Your Light
5. Forgive Us
6. Yesterday feat. Blu
7. In Bruges
8. Death Is Fair
9. Night Salkers
10. The E.N.D.





Dystopia [Explicit]
Dirty Science Records
2016-11-25


NxWorries - Yes Lawd! [2016 Stones Throw]

2010年のデビューながら、既に60枚以上のアルバムをリリースしてる、フィラデルフィア出身のビート・メイカーKnxwledge(ノレッジ)と、2012年のデビュー以降、アンダーグラウンドの音楽シーンで着実に知名度を高め、2015年にリリースされたDr.ドレのアルバム『Compton』では、16曲中6曲にヴォーカルやソングライティングで参加。2016年にリリースされた『Malibu』がグラミー賞を含む各種アワードにノミネートしている、カリフォルニア州はヴェンチュラ出身のシンガー・ソングライター、Anderson Paak(アンダーソン・パーク)。両者によるユニット、NxWorries(ノー・ウォーリーズ)にとって初のフル・アルバムが、ノレッジも所属するストーンズ・スロウからリリースされた。

2015年に発表された『Link & Suede EP』では、ブラジルのソウル・シンガー、カシアーノの”Onda”をサンプリングした”Link Up”や、ギル・スコット・ヘロンの”The Bottle”を使った”Suede”など、70年代のジャズやソウル、それらの音楽を引用したヒップホップやR&Bが好きな人にはお馴染みのフレーズを、彼らの若い感性で斬新なビートに組み替えながら、アンダーソンのいぶし銀のような歌声と組み合わせて、新鮮だがどこか懐かしいR&B作品に纏め上げていた。

今回のアルバムでは、トラックを見ると、ファンク・バンド、カルマの”Tributo Ao Sorriso”を使って、強烈なインパクトのトラックを作った”Livvin”にはじまり、ジャズ・ピアニスト、アーマッド・ジャマルの”Ghetto Child”(スピナーズの同名曲のカヴァー)から、メロウなキーボードの演奏を引用した”Wngs”や、シカゴのヴォーカル・グループ、ノーテイションズの同名曲から、流麗なストリングスをサンプリングした”What More Can I Say”、元エボニーズのメンバーによる男女混成グループ、クリーム・ド・ココアの”Mr. Me, Mrs. You”のフレーズをぶつ切りにして繰り返した”Lyk Dis”、ウェブスター・ルイスやロニー・マクネイア、R.ケリーまで色々なミュージシャンの曲をサンプリングした”Get Bigger / Do U Luv”に、B. B. & Q. バンドの”(I Could Never Say) It's Over”のイントロを、そのままの形で引用した”Scared Money”など、90年代以降のヒップホップで多用された、70年代から80年代のソウル・ミュージックやジャズのフレーズを巧みに取り込んだ曲が並んでいる。

一方、アンダーソン・パークのヴォーカルに目を向けると、ディアンジェロの声質を少し軽くしたような、繊細だけど少し曇った歌声こそソロ作品と同じ。だが、バック・トラックが厚く、抽象的なものになった影響もあるのか、一つ一つのフレーズを丁寧に歌いつつも、彼のソロ作品のような、起承転結が明確になったメロディは控えられ、不安定なトラックに合わせた揺れるようなメロディを巧みに乗りこなしつつ、リスナーの心に残るフレーズを次々と繰り出している。

彼らの音楽を聴くと、一つ一つのパーツは、過去に90年代以降、何度となく登場した手法のように映る。昔のソウル・ミュージックをサンプリングしたR&Bは、ショーン・コムズやRZA、カニエ・ウエストやジャスト・ブレイズなど、多くのプロデューサーによって作られてきたし、ヒップホップをベースにしたトラックと、それに合わせた抽象的なメロディという曲構成は、エイドリアン・ヤングやディアンジェロなど、多くのミュージシャンが何度も行ってきた手法だ。また、有名な楽曲のフレーズを独自の感覚で分解、再構築して、自身の作品にしてしまう手法は、マッドリブやノレッジに代表される、ストーンズ・スロウのミュージシャンの十八番といっても過言ではない。もちろん、アンダーソンのヴォーカルにしても、曇りガラスの向こうから流れてきそうな、少し靄がかかった歌声は、既に幾人もの先人がいる、手垢のついたスタイルだ。

そんな彼らが、独創性を発揮することができた理由を端的に言えば、既に存在するノウハウを徹底的に研究して、自分達の感性を実現する道具のレベルに高めているからだと思う。料理人に例えるなら、煮る、焼く、蒸すといった、同業者なら誰もが熟練している手法を徹底的に磨き上げたうえで、自分達の感性で組み合わせて、創作料理という作品に落とし込む。そういう感性と技術の共存が、彼らの音楽を斬新だけど、どこか懐かしい音楽に仕上げているのだと思う。

誰かが生み出した技は、後進に引き継がれる中で少しずつ変化し、新しい技術を生み出す。二人の演奏は、そんな職人技の歴史を踏まえた、前衛的だが伝統芸能のような重みを感じさせるものだ。彼らの今後の展開と、それを追いかける後進達の存在がとても気になる、2016年最大の問題作だ。

Producer
NxWorries

Track List
1. Intro
2. Livvin
3. Wngs
4. Best One
5. What More Can I Say
6. Kutless
7. Lyk Dis
8. Can’t Stop
9. Get Bigger / Do U Luv
10. Khadijah
11. H.A.N.
12. Scared Money
13. Suede
14. Starlite
15. Sidepiece
16. Jodi
17. Link Up
18. Another Time
19. Fkku





Yes Lawd!
Nxworries
Stones Throw
2016-10-21


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