melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

VanJess - Silk Canvas [2018 VanJess]

ナイジェリア生まれ、カリフォルニア州育ちのジェシカとイヴァンナの姉妹によるヴォーカル・グループ、ヴァンジェス。

2009年頃から活動を開始。当初はレディ・ガガやアリアナ・グランデのヒット曲を、息の合った歌で本格的なR&B作品に生まれ変わらせていた。その後は、2012年あたりから「Louder than Words」や「Lights Camera Cure」などのプロジェクトに関わりながら、多くのステージを経験。2016年以降は2か月に1曲のペースで、オリジナルのシングルをリリースしてきた。

このアルバムは、彼女達にとって初のスタジオ・アルバム。2017年以降にリリースされた楽曲をほぼ全て収録した本作は、配信限定の自主制作アルバムながら、リトル・シムズやG-イージーなどの作品に携わっているアイアムノーバディーや、自身もミュージシャンとして活躍する一方、ヴァネッサ・ホワイトなどの作品にも参加しているクロエ・マルティーニといった、気鋭のクリエイターが集結。尖ったサウンドと落ち着いた歌声が織りなす、独特の世界を展開している。

本作の収録曲で最初に目を惹くのは、2曲目の”Control Me”。本作の発売と同時にシングル・カットされたこの曲は、ドイツのデュッセルドルフ出身、現在はロス・アンジェルスを拠点に活動するアイアムノーバディーが制作を担当。ずっしりと重い電子ドラムの音と、音量こそ小さいが輪郭のはっきりしたストリングスのような伴奏を組み合わせた神秘的なトラックの上で、歌というより、詩を読むような硬い声で言葉を紡ぐ二人の姿が心に残るミディアム・ナンバー。ニッキー・ジョヴァンニを彷彿させる鋭い声質のメロディから、エリカ・バドゥを思い起こさせる艶めかしい歌声のサビに繋がる展開が聴きどころ。

これに続く”Touch the Floor”は、クロアチア出身のクロエ・マルティーニなどがプロデュースし、キングストン出身のシンガー兼サックス奏者、マセーゴをフィーチャーした作品。ウェイン・マーシャルの”Check Yourself”などに使われたことでも知られるリディム、”Masterpiece”っぽいビートのダンス・ナンバーだ。癖の強いビートにも関わらず、ラップではなく、ジャネイを連想させる、高音中心の爽やかなメロディを丁寧に歌う二人の姿が光っている。難解なトラックを優雅に歌う二人の高い実力が心に残る良曲だ。サックスで参加したマセーゴもいい味を出している。

また、”Touch the Floor”のプロデューサーにも名を連ねている、ジェイ・オエバデージョとアイアムノーバディーが共同で制作した”Addicted”は、シンプルなトラックとゆったりとしたメロディが心地よいミディアム・ナンバー。音数を最小限に絞ったビートと洗練された歌声の組み合わせは、シーザシドといった、現代の人気R&Bシンガーの音楽に通じるものがある。似ているようで微妙に違う声質の二人の歌声が、ソロ・シンガーの曲にはない、複雑なメロディを生み出している。

そして、プラチナ・ディスクに認定されたヒット曲や、グラミー賞のノミネートも経験しているワシントンD.C.出身のラッパー、ゴールドリンクを招いた”Through Enough “は、電子楽器で90年代のヒップホップのビートを再現した刺激的なトラックが格好良い曲。スタイリッシュなヒップホップのビートに、流れるようなヴォーカルの組み合わせた手法は、ジャネイの”Hey Mr. D.J.”に凄く似ている。ケイトラナダとも組んだことがあるゴールドリンクが、電子音を多用した、洗練されたビートも違和感なく乗りこなしている点も面白い。BTSの”Paradice”を手掛けたことも話題になった、ローファイルことタイラー・アコードが作ったトラックも含め、全ての面で本作の目玉と言っても過言ではない曲だ。

このアルバムを聴いていると、洗練されたメロディと巧みな節回しで多くのリスナーを魅了したジャネイやフロエトリーといった女性デュオのことを思い出す。しかし、ヴァンジェスが偉大な先輩たちと違うのは、電子楽器の音色を強調した前衛的な作風でありながら、ヒップホップのリズミカルなビートと、R&Bの複雑でダイナミックなメロディを同居させているところだ。最先端のサウンドを積極的に取り入れながら、昔のR&Bを思い起こさせるスタイルが、彼女達の音楽の魅力だと思う。

斬新なトラックに対応するため、ラップのような起伏の少ないメロディにシフトする歌手が多い中、複雑なビートに美しいメロディを乗せる二人の高いヴォーカル・スキルは、もはや自主制作の枠を超えている。じっくりと歌を聴かせる90年代以前のR&Bのスタイルを踏襲しつつ、最先端のサウンドを取り入れた彼女達の音楽は、新しい音が好きな人も、昔のR&Bが好きな人も魅了しそうだ。

Producer
Chloe Martini, KAYTRANADA, Lophiile, Louie Lastic, Ogee Handz, Jay "Kurzweil" Oyebadejo etc

Track List
1. My Love
2. Control Me
3. Touch the Floor feat. Masego
4. Filters
5. Honeywheat
6. Addicted
7. Cool Off the Rain (Interlude)
8. Through Enough feat. GoldLink
9. Another Lover
10. 'Til Morning
11. Best Believe
12. The One
13. Easy feat. Berhana & Leikeli47
14. Rewind Time feat. Little Simz






88rising - Head in the Clouds [2018 88rising]

多くの日本人ダンサーが目標に掲げるブライアン・パスポスのような、アメリカの実力派アーティストを扱いつつも、ユーモアに富んだ独特のリリックで、中国国内のラップ禁止令のきっかけを作ったハイヤー・ブラザーズ、10代の若さでアジアを代表するラッパーの一人に上り詰めたインドネシアのリッチ・ブライアン、韓国のキース・エイプのような、アジア各国のヒップホップ・アーティストを世界に紹介してきたアメリカの音楽レーベル、88ライジング

音楽メディアとレコード・レーベルの機能を持ち、母国でも音楽好きの間でしか知られていなかった、隠れた名アーティストを紹介してきた同レーベルの、初のコンピレーション・アルバムが本作。リッチ・ブライアンやハイヤー・ブラザーズといった、同社と契約しているアーティストの新曲と既発曲のリミックスを収録。ゲストとしてゴールドリンクやプレイボーイ・カルディといったアメリカの人気ラッパーに加え、日本からもm-floのバーバルが参加するなど、国際色豊かな同レーベルらしい豪華なアルバムになっている。

アルバムのオープニングを飾るのは、大阪出身のジョージと、インドネシアのニキという、二人のシンガー・ソングライターが組んだ”La Cienega”。電子楽器を使った、もっさりとしたビートの上で気だるく歌うニキと、時に彼女に寄り添うように優しく、時にマックスウェルのように鋭いファルセットを聴かせるジョージの歌唱力が光るスロー・ナンバーだ。二人の繊細な歌声は、アメール・ラリューやレミー・シャンドのような、ネオ・クラシック・ソウルのシンガーに通じるものがあるが、この曲では、電子楽器を駆使した現代的なビートと組み合わせることで、彼らと差別化している。

これに対し、ハイヤー・ブラザーズと、ロス・アンジェルス近郊のワッツ出身の03グリードががコラボレーションした”Swimming Pool ”は、タイ・ダラ・サインなどの作品に関わっているフランス出身のキャッシュマネーAPと、ロイ・ウッズdvsnなどを手掛けているカナダ出身のアキール・ヘンリーがプロデュースを担当した国際色豊かな曲。ドレイクグッチ・メインのアルバムに収録されていそうな、電子楽器中心のシンプルなトラップ・ビートの上で、英語と中国語を使い分けながらラップする姿が印象的な曲。アメリカで流行しているサウンドを自分の音楽に染め上げるハイヤー・ブラザーズの強烈な個性が心に残る。

だが、本作の隠れた目玉はシカゴ出身の24歳のラッパー、フェイマス・デックスが2018年に発表して、アメリカの総合シングル・チャートの28位に入った”JAPAN ”のリミックス・ヴァージョンだろう。「日本でドラックを5万回もやったぜ」と歌った原曲を、韓国出身のキース・エイプと日本出身のバーバルが改変。バーバルは英語で「女の子からLINEが来たら楽しい時間の始まり」「朝までカラオケで歌うぜ」とラップし、キースは「みんなは俺を日本人か?と聞くけど、俺は韓国人だ」「腕にも拳にもNIGOのグッズがあるぜ」と、英語と韓国語を織り交ぜたパフォーマンスを繰り出している。余談だが、バーバルのパートには「P.K.C. on his boys」(EXILEの元メンバー、ヒロやマキダイ達と組んだラップ・グループPKCZのこと)というフレーズをさり気なく盛り込んでいるのが心憎い。

そして、本作の最後を締めるのが、ロス・アンジェルス出身のプロデューサー、バーニー・ボーンズとジョージが共作したタイトル曲”Head In The Clouds”。レゲエの緩いビートと、EDMのような高揚感があるシンセサイザーの伴奏を組み合わせたトラックの上で、甘い歌声を響かせるスロー・ナンバーだ。曲の後半ではストリングスのような音色を加え、最後までゆったりとしたバラードとして聴かせる演出が印象的。

今回のアルバムを通して感じるのは、アメリカのミュージシャンにも見劣りしないアジア勢の高いスキルと豊かな個性だ。各国の言語に慣れ親しんだ人でもなければ、誰がどの国のアーティストか判別するのは難しい。むしろ、同じ言語を使うアーティストでも、声質やキャラクターによって表現の方法が全然違う。この各人の際立った個性と、それを活かすレーベルの編集能力が本企画の面白さを生んでいると思う。

世界各地で腕を磨いてきた名手たちの素晴らしいパフォーマンスを、存分に楽しめる良作、アメリカで生まれ、世界に散らばったヒップホップが、各国の文化を飲み込んでで進化していることを僕らに教えてくれる貴重なアルバムだ。

Producer
NIKI, CashMoneyAP, Akeel Henry, J Gramm, Barney Bones, joji etc

Track List
1. La Cienega feat. ​joji & NIKI
2. Red Rubies feat. Don Krez, Higher Brothers, Rich Brian, Yung Bans & Yung Pinch
3. Swimming Pool feat. 03 Greedo & Higher Brothers
4. Peach Jam feat. BlocBoy JB & ​joji
5. Midsummer Madness feat. AUGUST 08, Higher Brothers, ​joji & Rich Brian
6. Plans feat. NIKI & Vory
7. History feat. Rich Brian
8. Lover Boy (88 Remix) by Phum Viphurit feat. Higher Brothers
9. Poolside Manor feat. AUGUST 08 & NIKI
10. Beam by Rich Brian feat. Playboi Carti
11. Let It Go feat. BlocBoy JB & Higher Brothers
12. Disrespectin feat. AUGUST 08, Higher Brothers & Rich Brian
13. Warpaint feat. NIKI
14. I Want In (feat. AUGUST 08 & NIKI
15. JAPAN (88 Remix) by Famous Dex feat. Keith Ape & Verbal
16. Nothing Wrong (Remix) by Higher Brothers & Harikiri feat. GoldLink
17. Head In The Clouds feat. ​joji





Head In The Clouds [Explicit]
88rising Music/12Tone Music, LLC
2018-07-20

The Internet - Hive Mind [2018 Columbia]

フランク・オーシャンタイラー・ザ・クリエイターといった、鋭いセンスと強烈な個性が魅力のアーティストを多数輩出し、アメリカのヒップホップ界に新しい風を吹き込んだ、カリフォルニア州のロス・アンジェエルス発のヒップホップ集団、オッド・フューチャー。

同クルーのサウンドを支えるプロデューサー、マット・マーシャンと、飛びぬけた個性が武器の女性シンガー、シド(2016年にクルーを脱退)、が中心になって2011年に結成した、ソウル・バンドが、ジ・インターネットだ。

シドとマットの音楽ユニットとして始まったこのグループは、後に彼らのツアーに帯同していたパトリック・ペイジなどのメンバーを加え、正式なバンドとして活動を開始。2011年にはフランク・オーシャンも制作に参加した『Purple Naked Ladies』を発表すると、スライ&ザ・ファミリー・ストーンを彷彿させる前衛的な音楽性と、ロータリー・コネクションのミニー・リパートンを彷彿させるシドの透き通った歌声が注目を集める。その後も、精力的にライブを行いながら2013年に『Feel Good』を、2015年には『Ego Death』を録音。後者はグラミー賞にノミネートするなど、高い評価を受けた。

本作は、彼らにとって3年ぶり4枚目となるスタジオ・アルバム。サンダーキャットの弟としても知られるジャミール・ブルーナがグループを離脱し、シドがクルーを離れる一方、シド、マット、スティーヴがソロ作品を発表するなど、前作よりもパワー・アップしたバンドの能力が遺憾なく発揮された作品になっている。

本作に先駆けて発表されたシングル曲”Roll (Burbank Funk)”は、リック・ジェイムスやスレイヴの作品を思い起こさせる、太いベースの音色とスタイリッシュなビートが心地よいアップ・ナンバー。洗練されたダンス・ナンバーと思いきや、随所でエフェクターを使用した幻想的なサウンドに意表を突かれる曲。朴訥としたスティーヴ・レイシーのヴォーカルが、スライ・ストーンっぽく聴こえるのも面白い。

続く”Come Over”はシドがリード・ヴォーカルを担当したミディアム・ナンバー。重いベースや乾いたギターの音色をバックに、透き通った歌声を響かせるシドの姿が光る良曲。繊細なメロディの楽曲だが、あえて荒っぽく演奏することで、ファンクやヒップホップにも通じるラフな雰囲気を醸し出している。

また、ブラジル音楽の要素を盛り込んだアップ・ナンバー”La Di Da”は、ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムがプロデュースしたセルジオ・メンデスの2006年作『Timeless』を彷彿させる軽妙なメロディとパンチの効いたビートが格好良い作品。エフェクトを効かせたギターや、荒っぽい演奏のホーンが、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの作品を思い起こさせる。

そして、彼らの個性が最も発揮された曲が、マット・マーシャンとスティーヴ・レイシーが制作を主導した”Beat Goes On”だ。60年代後半のサイケデリック・ロックを彷彿させる、エフェクターを駆使した幻想的な演奏とヴォーカルに70年代初頭のジェイムス・ブラウンを思い起こさせる躍動感のあるビートが格好良いアップ・ナンバー。2分半で曲が終わったと思いきや、ドラムン・ベースの上でゆったりと歌うR&B作品に切り替わる奇抜な演出と高い演奏技術に驚かされる。

今回のアルバムは、前作の路線を踏襲しつつ、表現の幅を広げたものだ。R&Bやヒップホップを軸に、ファンクやサイケデリック・ロック、ブラジル音楽やエレクトロ・ミュージックなど、様々な音楽を取り込み、一つの作品に融合するスタイルは前作と変わらないものの、引用の斬新さと楽曲の完成度はこれまでの作品を大きく上回っている。この変化は、各人がソロ活動を通して自身の持ち味を磨き上げ、音楽の幅を広げたことによるものが大きいと思う。

様々なジャンルのミュージシャンが刺激し合い、新しい音楽を生み出していた70年代のソウル・ミュージックが持つ、刺激的な雰囲気を現代に蘇らせた稀有な存在である彼ら。、音楽はジャンルで括るようなものではなく、自由で楽しいものであることを教えてくれる良作だ。

Producer
The Internet

Track List
1. Come Together
2. Roll (Burbank Funk)
3. Come Over
4. La Di Da
5. Stay the Night
6. Bravo
7. Mood
8. Next Time / Humble Pie
9. It Gets Better (With Time)
10. Look What U Started
11. Wanna Be
12. Beat Goes On
13. Hold On





ハイヴ・マインド
ジ・インターネット
SMJ
2018-07-25


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