60年代のスライ・ストーンに始まり、70年代のプリンスや、90年代のディアンジェロ、マックスウェル、そして、2000年以降の音楽シーンをけん引するジョン・レジェンドやフランク・オーシャンなど、色々なジャンルの音楽を吸収、組み合わせて独自のスタイルを築き上げたシンガー・ソングライター達。その系譜を継ぐ新しいアーティスト、クリストファー・ガラントこと、ガラントが発表したキャリア初のフル・アルバム。

ワシントンD.C.に生まれ、コロンビア州のメリーランドで育った彼は、演劇や音楽を学んでいた高校時代に楽曲制作を始める。当時のことを語ったインタビューによると、この頃から現在のような、R&Bやオルタナティブ・ロックの要素を取り入れた音楽を作っていたらしい。その後、2014年に配信限定でリリースした自主制作アルバム『Zebra EP』が、大手ストリーミング・サイトのバイラル・チャートの上位に掲載されるほどの人気を博した彼は、本格的な音楽活動のため、ロス・アンジェルスに移住。2015年にロス・アンジェルスのインディペンデント・レーベル、マインド・オブ・ジーニアスと契約した。

このアルバムは、2015年にリリースされたデビュー作、『Weight In Gold EP』をベースに、新録曲を追加したフル・アルバム。デビュー作はファンと評論家の両方から高い評価を受け、大手ストリーミング・サイトでは「2016年に飛躍が期待されるアーティスト15組」の1人に取り上げられたほどだった。

同作を拡張した初のフル・アルバムでは、マックスウェルを思い起こさせる繊細なファルセットに、ディアンジェロを連想させるシンプルだが重厚なビート、そして、80年代のプリンスを彷彿させるシンセサイザーやギターの鋭い音色のリフが光る、前衛的だが聴きやすいR&Bを堪能できる。

アルバムに先駆けて発表された”Weight In Gold”は、出だしがマックスウェルの”Lifetime”に似ている繊細なタッチのバラード。サビに入ると、ギラギラとしたシンセサイザーの伴奏と重いバス・ドラムが入ったレディオヘッド風の尖ったロック・サウンドに切り替わるところに、彼の豊かな発想と、音を選ぶ嗅覚の鋭さが感じられる面白い曲だ。

また、エイドリアン・ヤングをプロデューサーに招き、ジェーン・アイコをフィーチャーした”Skipping Stones”は、90年代のヒップホップを思い出させる温かいドラムの音色に、生楽器とシンセサイザーを絡めた伴奏が心地よいスロー・ナンバー。ファルセットと地声を巧みに使い分けるガラントと、地声を中心にクールな歌を聴かせるジェーンのヴォーカルが心地よい。

このほかにも、キラキラとしたシンセサイザーの音色と重いビート、強力なエフェクターをかけた幻想的なヴォーカルが印象的な”Talking to Myself”や、トーキング・ヘッズやデュラン・デュランを連想させるデジタル楽器を使ったロックのビートを取り入れたアップ・ナンバー”Episode”。ジェイ・ディラやプラチナム・パイド・パイパーズを彷彿させるゆらゆらと揺れるようなビートと、ファルセットを多用した語り掛けるようなヴォーカル気持ち良いミディアム”Miyazaki”など、鋭利なサウンドと繊細なヴォーカルを駆使した楽曲が数多く収められている。

彼のように、様々な音楽のエッセンスを取り入れたアーティストの録音には、単に色々な要素を詰め込んだだけの折衷案に映る作品や、多趣味さが災いして散漫な印象を受けるものも珍しくない。だが、彼の場合は、ロックやソウル、ヒップホップの要素を取り入れるだけでなく、楽曲の方向性や展開に応じて、必要な要素を選択し、組み合わせることで、アルバムに一貫性を持たせつつ、楽曲に斬新さと、どこかで聴いたことがあるような懐かしさを与えている。

色々なジャンルの音楽をどん欲に取り入れ、自分の音楽の血肉に変える若い感性と、自分の直観をコントロールして一つの作品に落とし込む理性が生み出した、斬新だが完成度の高い作品。スライ・ストーンからプリンスやディアンジェロへと続く、雑食系ソウル・ミュージシャンの系譜を継ぐ、新しい才能の持ち味が遺憾無く発揮されている充実の内容だ。

Producer
STiNT, Patrizio Moi etc

Track List
1. First
2. Talking to Myself
3. Shotgun
4. Bourbon
5. Bone + Tissue
6. Oh, Universe
7. Weight in Gold
8. Episode
9. Miyazaki
10. Counting
11. Percogesic
12. Jupiter
13. Open Up
14. Skipping Stones (feat. Jhene Aiko)
15. Chandra
16. Last





Ology
Gallant
Warner Bros / Wea
2016-08-26