1996年のデビュー作、『Maxwell's Urban Hang Suite』が、幅広い層から好評価を受けて以来、ディアンジェロやエリカ・バドゥとともに、ネオ・ソウルの旗手としてシーンをけん引しているブルックリン出身のシンガー・ソングライター、マックスウェルの実に7年ぶりとなるオリジナル・アルバム。

2009年に発表された通算4枚目のオリジナル・アルバム、『BLACKsummers'night』の続編に位置付けられている本作は、マイペースで完璧主義者な彼の個性が反映された、緻密なパフォーマンスと大胆な発想が光る好作品だ。

まず、本作のクレジットを見て驚くのは、ロバート・グラスパーがキーボードで参加していることだろう。もっとも、ジャンルこそ違えど、ドラムのマーク・コーレンバーグやベースのデリック・ホッジのような、両者の作品にかかわってきたミュージシャンが本作でも演奏しているので、ロバートが参加しているのは、彼らの口添えもあったのだろう。また、このアルバムでは、彼のクリエイターとしての側面は控えられ、いち演奏家として、様々な音楽の間を行き来するマックスウェルの想像力を、具体的な作品に落とし込むサポート役に専念している。

収録曲に目を向けると、アルバムに先駆けて発表された”Lake By the Ocean”は、2001年にリリースされた”Lifetime”を思い出す、ロマンティックなバラード。しかし、シンプルなバンド演奏が繊細なファルセットを引き立てた”Lifetime”に対し、こちらはサンプラーかドラム・マシンの演奏と勘違いしそうな、ドラムの乱れ打ちが飛び交うビートに、流れるようなキーボードが絡む伴奏と、しなやかなヴォーカルが絡む、ヒップホップ色の強い楽曲。バンドを使いながらヒップホップのビートを打ち鳴らす楽曲は珍しくないが、昔のソウル・ミュージックのように、過度に低音を強調せず、バランス良くまとめた点は面白い。

一方、もう一つのシングル曲、”199x”はきらきらとしたシンセサイザーの音色をアクセントに使ったバラード。こちらは一聴した瞬間にバンド演奏とわかるアレンジだが、まるで機械が鳴らしているかのような、均質で正確な伴奏を聴かせることで、フランク・オーシャンやウィークエンドのような、コンピューターを使いつつ、生演奏のように聴かせる若いミュージシャンと対極のアプローチから、斬新なサウンドを作りあげている。

この他にも、四つ打ちのビートと、シンセサイザーの流麗なリフがハウス・ミュージックっぽい演奏をバックに、ひたすらファルセットで歌い続けるアップ・ナンバー”All the Ways Love Can Feel”や、彼のデビュー作を思い起こさせるオーソドックスなアレンジのアップ・ナンバー”Fingers Crossed”など、これまでの路線を踏襲した、バンド演奏による繊細なタッチのソウル・ミュージックから、ヒップホップやハウスの要素を取り入れた音楽まで、バラエティ豊かな楽曲が収められている。

本作を聴いたとき、真っ先に思い浮かんだのは、”I Heard It Through The Grapevine”や”How Sweet It Is (To Be Loved By You)”を歌っていた60年代のマーヴィン・ゲイや、『Innervisions』や『Songs In The Key of Life』を発表していた70年代のスティーヴィー・ワンダーの存在だ。ソウル・ミュージックをベースに、ジャズやリズム&ブルースのエッセンスを加えて自分の音楽の糧にした彼らの姿と、色々な音楽を取り込んでバラエティ豊かな楽曲を生み出す彼の姿は、どこか相通じるものがあると思う。

自分の「歌」と「音色」を大切にしつつ、様々な音楽をどん欲に吸収して自分の糧にするスタイルは、ソウル・ミュージックの原点だと思う。7年間のブランクも納得してしまう会心の出来だ。

Producer
Hod David, Musze(Maxwell)

Track List
1. All the Ways Love Can Feel
2. The Fall
3. III
4. Lake By the Ocean
5. Fingers Crossed
6. Hostage
7. 1990x
8. Gods
9. Lost
10. Of All Kind
11. Listen Hear
12. Night





BLACKSUMMERS'NIGHT
MAXWELL
COLUM
2016-07-01