2010年のデビューながら、既に60枚以上のアルバムをリリースしてる、フィラデルフィア出身のビート・メイカーKnxwledge(ノレッジ)と、2012年のデビュー以降、アンダーグラウンドの音楽シーンで着実に知名度を高め、2015年にリリースされたDr.ドレのアルバム『Compton』では、16曲中6曲にヴォーカルやソングライティングで参加。2016年にリリースされた『Malibu』がグラミー賞を含む各種アワードにノミネートしている、カリフォルニア州はヴェンチュラ出身のシンガー・ソングライター、Anderson Paak(アンダーソン・パーク)。両者によるユニット、NxWorries(ノー・ウォーリーズ)にとって初のフル・アルバムが、ノレッジも所属するストーンズ・スロウからリリースされた。

2015年に発表された『Link & Suede EP』では、ブラジルのソウル・シンガー、カシアーノの”Onda”をサンプリングした”Link Up”や、ギル・スコット・ヘロンの”The Bottle”を使った”Suede”など、70年代のジャズやソウル、それらの音楽を引用したヒップホップやR&Bが好きな人にはお馴染みのフレーズを、彼らの若い感性で斬新なビートに組み替えながら、アンダーソンのいぶし銀のような歌声と組み合わせて、新鮮だがどこか懐かしいR&B作品に纏め上げていた。

今回のアルバムでは、トラックを見ると、ファンク・バンド、カルマの”Tributo Ao Sorriso”を使って、強烈なインパクトのトラックを作った”Livvin”にはじまり、ジャズ・ピアニスト、アーマッド・ジャマルの”Ghetto Child”(スピナーズの同名曲のカヴァー)から、メロウなキーボードの演奏を引用した”Wngs”や、シカゴのヴォーカル・グループ、ノーテイションズの同名曲から、流麗なストリングスをサンプリングした”What More Can I Say”、元エボニーズのメンバーによる男女混成グループ、クリーム・ド・ココアの”Mr. Me, Mrs. You”のフレーズをぶつ切りにして繰り返した”Lyk Dis”、ウェブスター・ルイスやロニー・マクネイア、R.ケリーまで色々なミュージシャンの曲をサンプリングした”Get Bigger / Do U Luv”に、B. B. & Q. バンドの”(I Could Never Say) It's Over”のイントロを、そのままの形で引用した”Scared Money”など、90年代以降のヒップホップで多用された、70年代から80年代のソウル・ミュージックやジャズのフレーズを巧みに取り込んだ曲が並んでいる。

一方、アンダーソン・パークのヴォーカルに目を向けると、ディアンジェロの声質を少し軽くしたような、繊細だけど少し曇った歌声こそソロ作品と同じ。だが、バック・トラックが厚く、抽象的なものになった影響もあるのか、一つ一つのフレーズを丁寧に歌いつつも、彼のソロ作品のような、起承転結が明確になったメロディは控えられ、不安定なトラックに合わせた揺れるようなメロディを巧みに乗りこなしつつ、リスナーの心に残るフレーズを次々と繰り出している。

彼らの音楽を聴くと、一つ一つのパーツは、過去に90年代以降、何度となく登場した手法のように映る。昔のソウル・ミュージックをサンプリングしたR&Bは、ショーン・コムズやRZA、カニエ・ウエストやジャスト・ブレイズなど、多くのプロデューサーによって作られてきたし、ヒップホップをベースにしたトラックと、それに合わせた抽象的なメロディという曲構成は、エイドリアン・ヤングやディアンジェロなど、多くのミュージシャンが何度も行ってきた手法だ。また、有名な楽曲のフレーズを独自の感覚で分解、再構築して、自身の作品にしてしまう手法は、マッドリブやノレッジに代表される、ストーンズ・スロウのミュージシャンの十八番といっても過言ではない。もちろん、アンダーソンのヴォーカルにしても、曇りガラスの向こうから流れてきそうな、少し靄がかかった歌声は、既に幾人もの先人がいる、手垢のついたスタイルだ。

そんな彼らが、独創性を発揮することができた理由を端的に言えば、既に存在するノウハウを徹底的に研究して、自分達の感性を実現する道具のレベルに高めているからだと思う。料理人に例えるなら、煮る、焼く、蒸すといった、同業者なら誰もが熟練している手法を徹底的に磨き上げたうえで、自分達の感性で組み合わせて、創作料理という作品に落とし込む。そういう感性と技術の共存が、彼らの音楽を斬新だけど、どこか懐かしい音楽に仕上げているのだと思う。

誰かが生み出した技は、後進に引き継がれる中で少しずつ変化し、新しい技術を生み出す。二人の演奏は、そんな職人技の歴史を踏まえた、前衛的だが伝統芸能のような重みを感じさせるものだ。彼らの今後の展開と、それを追いかける後進達の存在がとても気になる、2016年最大の問題作だ。

Producer
NxWorries

Track List
1. Intro
2. Livvin
3. Wngs
4. Best One
5. What More Can I Say
6. Kutless
7. Lyk Dis
8. Can’t Stop
9. Get Bigger / Do U Luv
10. Khadijah
11. H.A.N.
12. Scared Money
13. Suede
14. Starlite
15. Sidepiece
16. Jodi
17. Link Up
18. Another Time
19. Fkku





Yes Lawd!
Nxworries
Stones Throw
2016-10-21