俳優としても、映画『オデッセイ』や『マジック・マイクXXL』などに出演し、テレビ・ドラマ『Atlanta』でゴールデン・グローブ賞を獲得するなど、マルチな才能を発揮しているドナルド・グローヴァー。彼のステージ・ネーム、チャイルディッシュ・ガンビーノ名義による通算3枚目となるオリジナル・アルバムが、ユニバーサル傘下のグラスノートから発表された。

これまでの作品では、フライング・ロータスの諸作品や、カニエ・ウエストの『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』以降の流れを汲む、電子音を巧みに組み合わせた抽象的なビートが特徴的な『Camp』や、電子楽器の音色を多用しつつ、ヒップホップのビートにロックやR&Bなどの要素を加えて、フランク・オーシャンやウィークエンドのブレイク以降、一気にブラック・ミュージックの主流となったクロスオーバー路線を意識した『Because the Internet』など、シンセサイザーやDAWソフトを駆使しながら、複数のジャンルを股にかけた、独自の音楽を聴かせてくれた。

そんな彼のオリジナル・アルバムとしては、2013年の『Because the Internet』以来、2年ぶりとなる本作。その特徴は、なんといっても制作体制の変化だ。前作では多くのクリエイターを共同作業者に招いていたが、本作では『Camp』を一緒に作った、ルドヴィグ・ゴランソンとの二人三脚で作った楽曲が大多数を占めている。一方、これまでの作品は、コンピューターやシンセサイザーを多用した少人数による録音だったが、本作ではオルガンやコーラスを含む多人数のバンドでレコーディングをするなど、作曲と演奏の両方でスタイルを大きく変えている。

アルバム発売に先駆けて公開された”Me and Your Mama”では、オルゴールっぽいシンセサイザーのフレーズにはじまり、マネキン人形のような冷たい肌触りのヴォーカルによるコーラスや、エフェクターで音を歪ませたギターが続き、その後をドナルド・グローヴァーの叫ぶようなヴォーカルが追いかける、ロックとヒップホップが入り混じった、幻想的なミディアム・ナンバー。楽曲の後半で流れる、アナログ・シンセの淡白な演奏が、幻想的な雰囲気にさらなる拍車をかけている。また、もう一つのシングル曲”Redbone”は、80年代の音楽を彷彿させる冷たいアナログ・シンセの音色で、70年代のソウル・ミュージックを彷彿させる、ロマンティックで温かいフレーズを鳴らした、R&B色の強いミディアム・ナンバー。艶々とした音色の伴奏がドナルドのかすれた歌声を引き立てている、スタイリッシュなのにどこか泥臭い楽曲だ。その他にも、アナログ・シンセやドラムを軸にした演奏隊の上で、パーラメントを思い起こさせる不協和音を含むコーラスと、色々な場所から採取したノイズをアクセントに使ったファンク・ナンバー”Have Some Love”、ジミ・ヘンドリックスの影響が感じられる、激しく歪んだ音色を使ったギター演奏と重々しいドラムを使ったビートが、バーケイズっぽく聴こえる伴奏をバックに、泣きじゃくるようなヴォーカルを聴かせるミディアム”Zombie”など、色々なスタイルの音楽を詰め込んだ、玉手箱のような音楽を聴かせてくれる。

彼の作品を聴いたとき、真っ先に思い浮かんだのは、ファンカデリックにはじまり、プリンスを経由してディアンジェロやエイドリアン・ヤングへと続く、ソウルやファンク、サイケデリック・ロックやヒップホップのエッセンスを混ぜ合わせた、闇鍋のようなソウル・ミュージックだ。ファンカデリックの”Good to Your Earhole”をサンプリングして、嵐のように混沌としたビートに組み替えた”Riot”は極端な例だが、本作の収録曲では、サイケデリック・ロックやジャズ、アンビエント・ミュージックなどで使われるフレーズが楽曲の随所で顔を覗かせている。もっとも、それは彼の趣味が変わったわけでも、彼がジョージ・クリントンのフォロワーであることを示すわけでもないと思う。というのも、これまでの作品でも、彼は電子音楽やロックなどを取り入れたR&Bやヒップホップを作ってきた。そして、今回のアルバムでは、使う楽器や声の種類が増えたことで、結果的に先人のサウンドを踏襲したのであり、意図的にフォローした作品とは一線を画していると思う。

マイルス・デイヴィスやジョージ・クリントン、プリンスやディアンジェロなど、色々なジャンルの音楽の要素を取り入れて、自分のスタイルを作り上げた先人達。彼らのように、一つの路線に固執せず、様々なスタイルを取り込んで自身の音楽性を固めた結果、偉大な先人の音楽性に近づいてしまったのは、偶然と必然の両面があるとはいえ、非常に面白いことだ。クリック一つで世界中の音楽が聴け、1台のコンピューターで無数の音を生み出せる時代だが、皆が彼のようなミュージシャンになれたわけではない。この作品を聴くと、知識や技術を具体的な作品に昇華させるのは、ほかでもない人間の感性なのだと再認識させられる。

Producer
Donald Glover, Ludwig Göransson

Track List
1. Me and Your Mama
2. Have Some Love
3. Boogieman
4. Zombies
5. Riot
6. Redbone
7. California
8. Terrified
9. Baby Boy
10. The Night Me and Your Mama Met
11. Stand Tall





Awaken, My Love!
Childish Gambino
Glassnote
2016-12-02