ジョン・レジェンドやジャスティン・ビーバーへの楽曲提供で名を上げ、ジェイZの”Oceans”やビヨンセの”Superpower”などにフィーチャーされたことで一気に注目を集めた、ロング・ビーチ生まれ、ニューオーリンズ育ちのシンガー・ソングライター、フランク・オーシャン。彼にとって、2012年の『channel Orange』以来となる、通算2枚目のオリジナル・アルバム、『Blonde』が配信限定でリリースされた。(後にCDやアナログ盤も発売)

ジ・インターネットやタイラー・ザ・クリエイターを輩出しているロス・アンジェルスのヒップホップ・クルー、オッド・フューチャで鍛えられた鋭い音楽センスと、セリーヌ・ディオンから地元のジャズ・バンドまで、あらゆる音楽を吸収してきた豊かな感受性で、独創的な音楽を作ってきた彼。デフ・ジャムから発売された『channel Orange』では、オーティス・レディングをスマートにしたような、泥臭いソウル・ミュージックをベースに、フライング・ロータスの前衛的なトラックや、ジェイムズ・ブレイクのシンプルで抽象的なアレンジ、レディオ・ヘッドの繊細で退廃的なサウンドを一つにしたような、ジャンルの枠に囚われない音楽を聴かせてくれた。

4年ぶりとなる新作は、彼が立ち上げた自主レーベル、ボーイズ・ドント・クライからのリリース。フォーマット毎にアレンジなどが微妙に異なるなど、彼の音楽同様、奇抜なアイディアが光る作品だが、今回は最も入手しやすい、配信バージョンの内容に基づいて説明しよう。

アルバムに先駆けて公開された”Nikes”は、シンセサイザーの幻想的なハーモニーと、ヘリウムを吸ったような声に加工した、アンバー・カフマンのコーラスが不思議な雰囲気を醸し出すミディアム・バラード。曲の中盤から登場する、フランク・オーシャンの軽やかなヴォーカルが、先鋭的なトラックを古典的なソウル・ミュージックの伴奏のように聴かせているのが面白い。

それ以外の曲に目を向けると、元ヴァンパイア・ウィークエンドのキーボーディスト、ロスタム・バトマングリがアレンジ等を担当した”Ivy”では、アメリカのインディー・ロック・バンドが演奏しそうな、荒っぽいギターのリフをバックに、訥々と言葉を紡ぎ出すミディアム。薄っすらと流れるシンセサイザーの音色と、リバーブを使って響きを強化した演奏が、楽曲にふわふわとした雰囲気をもたらしている。

また、ファレル・ウィリアムズがトラックを作り、ビヨンセがヴォーカルで参加した”Pink + White”は、ファレルの近作でも披露されている三拍子のトラックの上で悠々と歌い上げている姿が印象的。

この他にも、ジェイムズ・ブレイクが制作で、ジャズミン・サリヴァンがバックコーラスで参加した”Solo”では、エフェクター等の使用は最小限に留め、ジェイムズ・ブレイクのキーボードとフランク・オーシャンのヴォーカルだけで勝負した弾き語りを聴かせ、ロス・アンジェルスを拠点に活動するジョン・ブライオンとスロウ・ホロウズのオースティン・フェインスタインが参加した”Self Control”では、レディオ・ヘッドの退廃的な演奏と、ジョン・レジェンドのキャッチーなソウル・ヴォーカルが融合したような、先鋭的だがキャッチーなバラードを聴かせている。”Ivy”や”Solo”、”Self Control”はドラムの音を使っていない曲だが、ソウル・ミュージックのグルーヴをきちんと残しつつ、それぞれを異なる作風に落とし込んでいる点は流石としか言いようがない。

それ以外にも、バート・バカラック作の有名曲を、シンセ・ドラムの乱れ打ちと、強力なエフェクターをかけたヴォーカルで、前衛的なポップスに組み替えた”Close to You”や、ビートルズの”Here, There and Everywhere”をサンプリングした弾き語り風のミディアム”White Ferrari”。ジェイズム・ブレイクとキム・バレルが参加した、ヨーロッパの教会音楽を連想させる荘厳なバラード”Godspeed”など、尖っているようで聴きやすい、キャッチーな音楽の中にアヴァンギャルドな要素を忍ばせた、懐かしさと新しさが同居した楽曲が揃っている。

アルバム全体を通して感じるのは、大きな成功を収めてもブレることのない、音楽へのまっすぐな姿勢と、鋭い嗅覚だ。ジェイムズ・ブレイクやファレル、ロスタム・バドマングリなど、実績豊富な個性派ミュージシャンを数多く招きながら、彼らのスタイルをそのまま取り入れるのではなく、彼らの音楽のエッセンスを自分の音楽の一部に組み込み、作風を広げている点は彼の大きな特徴だ。

万人の心をつかむキャッチーなメロディと、色々な音楽を吸収し、その要素を取り入れた新鮮なトラックで、「歌」というソウル・ミュージックやR&Bにとって一番大事な要素を強調した稀有な作品。斬新さと大衆性は両立できることが、この作品で証明された。

Producer
Frank Ocean etc

Track List
1. Nikes
2. Ivy
3. Pink + White
4. Be Yourself
5. Solo
6. Skyline To
7. Self Control
8. Good Guy
9. Nights
10. Solo (Reprise)
11. Pretty Sweet
12. Facebook Story
13. Close to You
14. White Ferrari
15. Seigfried
16. Godspeed
17. Futura Free