ヴィンテージ品のシンセサイザーを使いこなして、電子音が中心にもかかわらず、温かみのあるグルーブを生み出し続けている、ディム・ファンクことデイモンG.リディックと、電子楽器を多用した抽象的なトラックと、透き通った美しい歌声で多くの人を魅了するナイト・ジュエルこと、ラモーナ・ゴンザレス。独特の作風で定評のある両者によるユニット、ナイト・ファンクにとって初のEPが本作だ。

同じカリフォルニア州出身の二人によるコラボレーションは、本作の録音前にも何度か行われている。2011年にはデイモンがナイト・ジュエルの”It Goes Through Your Head”をリミックスしているし、2015年にはラモーナがディム・ファンクのアルバム『Invite The Light』の収録曲”Virtuous Progression”にフューチャーされるなど、互いに交流を深めてきた。

本作はこれまでの両者のコラボレーションを発展させたもので、デイモンのプロデュースのもと、演奏はデイモンが、歌と詞はラモーナが主に担当している。

アルバムのオープニングを飾る”Don’t Play Games”は、デイモンのブギー趣味が強く反映された、怪しげな雰囲気のアップナンバー。ブリブリとうなるようなベースは控えられているが、幻想的なシンセサイザーのハーモニーや、リズム・マシンを使ったスネアの乱れ打ちをスパイスに使ったトラックは、80年代のファンクとヒップホップやハウス・ミュージックの両方から影響を受けたデイモンらしく、クールで遊びごごろにあふれている。ラモーナの淡白なヴォーカルが、小技の詰まったトラックをクールに纏め上げているのも見逃せない。

2曲目の”Let Me Be Me”は、デイモンのルーツである、80年代のディスコ・ミュージックをストレートに再現したディスコ・ナンバー。クール・ノーツやプッシュを彷彿させる、跳ねるようなベースの演奏を強調したダイナミックなグルーヴの上で、ラモーナの透き通った歌声が響き渡る格好いいな楽曲だ。ソウル・シンガーではない彼女だから出せる。肩の力を入れすぎない歌唱が、曲全体に落ち着きと洗練された雰囲気とを与えている。

この他にも、ラモーナがメロディを丁寧に歌い込む、ナイト・ジュエル名義の作品ではあまり見かけないタイプのバラード”Love X2”や、四つ打ちのビートの上に、ハンド・クラップやキーボードの伴奏などを重ねたシンプルなトラックの上で、美しい高音を響かせるハウス・ナンバー”U Can Make Me”など、デイモンが得意なディスコ・サウンドをベースに、ラモーナの清涼感溢れるヴォーカルの魅力を巧みに弾き出した佳曲が続く。

このアルバムを聴いて感じることは、2人の音楽に対するセンスの良さだ。デイモンは、繊細で美しい声を持っているが、ソウル畑出身ではないラモーナの特徴を理解して、シャラマーやB.B.Q.バンドのような、繊細な声をウリにしているシンガーをフロントに据えたバンドの作風を積極的に取り入れている。一方、ラモーナは、デイモンが80年代のファンクやソウル・ミュージックに造詣が深いことを踏まえて、このアルバムでは当時のソウル・シンガーのように、キャッチーでわかりやすいメロディを丁寧に歌い上げている。その結果、アルバムの方向性はデイモンの楽曲のような80年代のブラック・ミュージックがベースになっているが、トラックは洗練され、ヴォーカルの声もメロディも爽やかな、従来の二人の作品とは一味違う。スタイリッシュなディスコ・ミュージックに仕上がったと思う。

ディム・ファンクのルーツである80年代ソウルの魅力を再確認できるだけでなく、ソウル・ミュージックとは縁遠い世界にも素晴らしいシンガーが沢山いることに気付かせてくれる。こういう作品を無視するのは視野が狭いと思うよ。

Producer
Damon G. Riddick

Track List
1. Don’t Play Games
2. Let Me Be Me
3. Love X2
4. U Can Make Me
5. Don’t Play Games (Instrumental)
6. Let Me Be Me (Instrumental)
7. Love X2 (Instrumental)
8. U Can Make Me (Instrumental)




Nite-Funk
Glydezone Recordings
2016-07-01