19歳の時にミュージシャンを目指してロス・アンジェルスに移住。その後は、スティーヴィー・ワンダーやメアリーJ.ブライジ、ドクター・ドレやチャンス・ザ・ラッパーなどの作品に参加しながら、3枚のミックス・テープと1枚のEPをリリース。新しい音に敏感なリスナーや、次世代のヒット・メイカーを探すミュージシャンの間で注目を集め、2012年にモータウンと契約した、シカゴ出身のシンガー・ソングライター、BJザ・シカゴ・キッドことブライアン・ジェイムズ・カレッジ。レーベルとの契約から4年、2014年に発表したミックス・テープ『The M.A.F.E. Project』から2年ぶりとなる新作で、彼にとって初のオリジナル・アルバムとなるのが、この『In My Mind』だ。

メジャー・デビューの前に発表したミックス・テープでは、昔の曲からサンプリングしたフレーズを効果的に使った、ヒップホップ色の強い曲を披露する一方、裏方としては、多くの人に受け入れられる作品が求められる有名ミュージシャンの曲に携わるなど、求められる音楽が異なるメジャーとアンダーグラウンドの両方のシーンを経験している彼。この作品では、その時の経験を活かした、先鋭的なのに大衆的なR&Bを聴かせてくれる。

まず、収録曲の中で特に気になるのは、同じシカゴ出身のチャンス・ザ・ラッパーをフィーチャーした”Church”だ。50セントやルーペ・フィアスコなどを手掛けてきた、フューチャリスティックス改めマイク&キーズがプロデュースしたこの曲は、 コンピューターを使って作った隙間の多いビートの上で、切々と歌い上げるミディアム・ナンバー。チャンス・ザ・ラッパーの曲にも通じる前衛的なトラックを使いながら、耳障りの良いメロディを埋め込むセンスはなかなかのものだ。

また、ミシシッピ州メリディアン出身のラッパー、ビッグ・クリットがゲストで参加した”The Resume”は、ドクター・ストレンジの名義の活動でも知られている、アイルランドのダブリン出身のプロデューサー、ショーン・クーパーが手掛けるバラード。トークボックスを使ったバック・コーラスとフィンガー・スナップを軸にしたトラックは、ドゥー・ワップとザップの音楽が混ざり合ったような、懐かしさと斬新さが入り混じった不思議なもの。その個性的なトラックの上で、落ち着いた雰囲気のバリトン・ヴォイスをじっくりと聴かせる姿は、聴けば聴くほど好きになる不思議な魅力を備えている。

この他にも、ウィークエンドやドレイクにも通じる、シンセサイザーの音色を駆使したモダンなトラックをバックに、ジェイミー・フォックスを彷彿させるセクシーなヴォーカルを披露する”Love Inside”や、ピアノっぽい音色のキーボードをバックに、ファルセットを多用した丁寧で色っぽい歌唱が光る”Shine”。ジーン・ナイトの”Mr. Big Staff”のフレーズと、90年代のヒップホップを思い起こさせるローファイなドラムを組み合わせたビートの上で、ディアンジェロを爽やかにしたようなヒップホップ色豊かなソウル・ミュージックを聴かせる”Turnin' Me Up”など、90年代のR&Bを連想させる曲から、近年のトレンドを押さえた曲まで、ファンの琴線を巧みに刺激するバラエティ豊かな楽曲が揃っている。

だが、なんといっても、この作品のハイライトは、ケンドリック・ラマーが参加した”The New Cupid”だろう。ラファエル・サディークの”Oh Girl”をサンプリングしたロマンティックな雰囲気のトラックの上で、ほかの曲では見られない、甘い歌声を響かせるミディアム・バラード。ケンドリック・ラマーも普段より柔らかい口調のラップを披露して、スウィートな楽曲に彩を添えている。自分だけかもしれないが、シカゴ出身のヴォーカル・グループ、シャイ・ライツの”Oh Girl”(ラファエル・サディークのものとは同名異曲)に通じる、優しい雰囲気が印象的だ。

このアルバムの面白いところは、90年代以降のヒット・チャートを賑わせた、色々なR&Bシンガーのスタイルを取り入れつつ、インターネットの普及で多くの人の耳に届くようになった、アンダーグラウンドのヒップホップやR&Bのエッセンスを随所に取り入れているところだろう。斬新なビートを耳馴染みのあるメロディと絡めたり、懐かしさを感じるトラックの上で、近年流行しているラップ風の歌唱を披露したりと、様々なタイプのR&Bの要素を組み合わせて、新鮮さと聴きやすさを両立しているところが面白い。おそらく、裏方仕事とアンダーグラウンド・シーンでの活動を両立していたことが、彼の音楽に絶妙なバランス感覚を与えたのだと思う。

スモーキー・ロビンソンやスティーヴィー・ワンダーにはじまり、リック・ジェイムスやエリカ・バドゥ、ベン・ロンクル・ソウルなど、大衆に受け入れられる名作を残しながら独創性を発揮してきたモータウンのミュージシャン達。彼らが作り上げてきたレーベルのカラーを、10年代のトレンドを踏まえつつ継承したのがBJザ・シカゴ・キッドだと思う。昔のモータウン・サウンドとは明らかに異なるが、往年のミュージシャンのように、新しいサウンドと商業的な成果を両立した、モータウンの歴史を継承する次世代のヒットメイカーの更なる飛躍に期待したい。

Producer
Ethiopia Habtemariam etc

Track List
1. Intro (Inside My Mind)
2. Man Down
3. Church
4. Love Inside
5. The Resume
6. Shine
7. Wait Til The Morning
8. Heart Crush
9. Jeremiah/World Needs More Love
10. The New Cupid
11. Woman's World
12. Crazy
13. Home
14. Falling On My Face
15. Turnin' Me Up




In My Mind
Bj the Chicago Kid
Motown
2016-02-19