2014年に配信限定でリリースしたEP『Zebra EP』が、大手ストリーミング・サイトのバイラル・チャートの上位に掲載され、ワーナー傘下のインディペンデント・レーベル、マインド・オブ・ジニアスからリリースした初のフル・アルバム『Ology』が、グラミー賞のベスト・オブ・アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にノミネートするなど、デビューからわずか数年の間に、急速な勢いで評価を上げているワシントンD.C.出身のシンガー・ソングライター、ガラント。彼の2017年に入って最初の作品が、この『Cave Me In』だ。

今回のシングルは、DJホンダやケロ・ワンの作品にも参加している、韓国のヒップホップ・グループ、エピック・ハイのフロントマンであるタブロや、アメリカを拠点に活動する韓国系アメリカ人のシンガーでタレントのエリック・ナムと一緒に録音したコラボレーション作品。プロデューサーは、ガラントと同じくロス・アンジェルスを拠点に活動するタイ・アコードと、彼の作品には珍しい、ちょっと異色の組み合わせによる楽曲だ。

タイ・アコードの手掛けるトラックは、アッシャーの『Looking 4 Myself』やトレイ・ソングス『Trigga』などの流れを汲む、コンピューターを駆使して作られた洗練されたもの。サンダーキャットの『Apocalypse』のように、幾重にも重ねられたシンセサイザーの伴奏や、ウィークエンドの”Starboy”を連想させる隙間の多いビートを、スタイリッシュなトラックに纏め上げた技術は、ロス・アンジェルスのアンダーグラウンド・シーンで活躍してきた彼の本領が発揮されたといっても過言ではない。そんなトラックの上で、マックスウェルのバラードを思い起こさせる繊細なメロディを、芯の太いバリトン・ヴォイスでじっくりと歌い上げるガラントと、スマートで甘いテナー・ヴォイスで歌い上げるエリックという、対称的なスタイルのヴォーカルが、裏声を織り交ぜながら色っぽく歌い上げている。

もっとも、個人的な感想だが、本作で一番面白いのはラップ担当のタブロだ。スヌープ・ドッグを彷彿させる、掴みどころのない飄々としたフロウで、ガラントの心がほっこりと温まる優しいバリトンと、エリック・ナムの甘くて繊細なテナーを繋ぐ、優れたバイ・プレイヤーになっている。

自分自身は、この曲はとても面白いと思う。ロス・アンジェルスを拠点に活動し、熱心な音楽ファンの厳しい目線に育てられてきたガラントが、ビルボードのHOT100に登場するようなヒット曲を意識しつつ、自分の経験や感性で、それを再解釈した。そういう視点で見ると、この曲はインディーズ作品の尖った雰囲気と、メジャー作品の聴きやすさが同居した、バランスの良い佳曲だと思う。だが、各アーティストの過去の作品と比較すると、ガラントの作品としては保守的だし、エリックやタブロの作品にしては斬新すぎるように映った。

もしかしたら、彼らはお互いに自分のパブリック・イメージを打ち破るために、あえて音楽性の異なる海外(まあ、エリックの活動拠点は半分がアメリカだけど)のミュージシャンと組んだのかな?と考えてしまう。だとすれば、彼らの目論見は見事に成功したと思う。ガラントにとって、メジャーの大衆性とアンダーグラウンドの先鋭性は両立できることを証明した曲であり、エリックとタブロにとっては、非英語圏のアジア人は、アメリカでR&Bやヒップホップをやっても成功しない、という固定観念を打ち破るきっかけになった。2017年のR&Bを語る上で外せない楽曲だと思う。

Producer
Ty Acord (Lophiile)

1.Cave Me In

 
Cave Me In
Mind of a Genius/Warner Bros.
2017-01-26