92年にキース・スウェットがプロデュースしたシングル”Happy Days”でデビュー。翌年には、彼が手掛けた”Freak Me”と、アルバム『Lose Control』が全米R&Bチャートで1位を獲得(前者はHot100も制覇)するなど、90年代を代表する男性ヴォーカル・グループの一つとして、華々しい実績を残してきたアトランタ出身の5人組、シルク(通称90年代のシルク)。その後のキャリアは、度重なるメンバー交替やレーベル移籍、制作に時間とお金がかかるヴォーカル・グループへの厳しい風当たりなど、決して順風満帆なものではなかったが、キース譲りの個性的な声質を活かした粘り強い歌唱と、緻密なコーラス・ワークで常にR&Bファンの注目を集めていた。

2006年のアルバム『Always And Forever』から10年ぶりとなる新作は、前作に引き続き、ニュージャージー州のニュートンに拠点を置く、シャナチーからのリリース。彼らの作品のほかにも、シャンテ・ムーアやミント・コンディション、シリーナ・ジョンソンといった、歌唱力をウリにしているR&Bシンガーやグループの作品を数多く手掛けている同レーベルだけあって、本作も往年のファンの期待を裏切らない、じっくりと歌を聴かせる作品に仕上がっている。

アルバムのタイトル・トラック”Quiet Storm”は、70年代後半から80年代に流行した、甘く洗練されたスタイルのソウル・バラードの総称を曲名に使ったスロー・バラード。インディー・レーベルを中心に、多くのソウル・シンガに楽曲を提供しているダレル・デライト・アランビーがペンを執ったこの曲は、90年代の作品を再現したようなシンセサイザーが主体の洗練されたトラックと、豊かな歌声を丁寧に重ね合う5人のチーム・ワークが光る良曲。個人的にはこの曲だけでもお腹いっぱいだ。

続く”Love 4 U To Like Me”は、本作からシングル・カットされた曲。ジョニー・ギルやシスコの作品にも携わっているウィーリー・モリスが携わった楽曲は、”Quiet Storm”とは打って変わって、しっとりとしたトラックとメロディを取り入れたバラード。ブライアン・マックナイトが作りそうな、切ない雰囲気のメロディのトラックの上で、肩の力を抜いたスマートな歌唱を聴かせるロマンティックな佳曲だ。路線が全く異なる2曲を乗りこなしつつ、きちんと自分達の色に染め上げる姿は、流石としか言いようがない。

それ以外にも、同じくウィリー・モリスが手掛ける”Billionaire”や、ケヴィン・マッカチョンが参加した”Baby Maker”なども絶対に聴き逃せない曲だ。前者は、ハイ・ファイブの代表曲”I Like the Way (The Kissing Game)”の2016年版といった趣の、軽快なビートと甘酸っぱいメロディが心を刺激するアップ・ナンバー。跳ねるようなビートなど、そのままの形では採用しづらい部分は、現代の機材に合わせてアレンジを変えつつ、90年代初頭に流行した明るくキャッチーなR&Bの面影はしっかり残した、懐かしさと新鮮さを感じる曲だ。一方、後者は、ファルセットを多用した、色っぽいコーラス・ワークが光るバラード。ファルセットの使い方やメロディの崩し方は、ディアンジェロの作風にも似ているけど、この曲ではそれをアクセントのレベルに留めることで、同じような方向に向かいがちなバラード曲に個性を吹き込んでいる。

もっとも、このアルバムのクライマックスは、”Only Takes One”だろう。ウィリー・モリス作の同曲は、ボーイズIIメンやジョーが歌いそうな、洗練されたメロディを、重心の低いシックなトラックが引き立てるバラード。他の曲では色々な表現を見せる彼らだが、この曲では自分達の本来の声(?)と無駄のないアレンジを使って、シンプルに纏め上げている。前作の録音時のアウトテイクといわれたら納得してしまいそうな、時代を越えて残る普遍性を感じさせる名曲だ。

本作の面白いところは、比較的若い(といっても10年選手が少なくないが)ソングライターやトラックメイカーを起用したことだろう。彼らのフィルターを通して80年代から90年代にかけて流行したR&Bを、現代のアーティストやリスナーに合わせて再構築したことで、ロマンティックなメロディや甘いコーラス、洗練された演奏を聴かせつつ、2016年の新録作品として、当時を知らない人にも楽しめるものに仕上げたことには、ただただ敬服するしかない。

実力と実績を兼ね備えたベテランならではの安定したパフォーマンスと、若いプロデューサーによって2016年の音楽に再解釈された80年代、90年代のR&B風の楽曲が揃ったことで生まれた。味わい深い佳作。当時の音楽が好きな人はもちろん、本格的なソウル・ミュージックに興味を持った初心者にもおすすめしたい。わかりやすさと聴きごたえを両立した名作だ。

Producer
Marcus Daheatmizer Devine, Wirlie Morris etc

Track List
1. Quiet Storm
2. Love 4 U To Like Me
3. Slow Grind
4. Baby Suit
5. She's The One
6. Billionaire
7. On My Mind
8. Baby Maker
9. I Love You
10. Only Takes One



Silk
Shanachie
2016-03-18