ジョデシィのデヴァンテが後見人を担当したガールズ・グループ、シスタの一員としてデビューしたものの、肝心の作品は彼のトラブルでお蔵入り。その後、フェイス・エヴァンスの口添えもあって、裏方として再デビュー、702やSWVなどの作品に携わってきたヴァージニア州ポーツマス出身のラッパーでシンガー・ソングライターのミッシー・エリオット。

その後の彼女は、デヴァンテ門下のティンバランドと知り合い、彼が手がけるアリーヤのセカンド・アルバム『One In A Million 』にソングライターとして参加。その個性的なサウンドとメロディで一気に知名度を上げた。一方、彼女自身も、ラッパー兼シンガーとして"The Rain (Supa Dupa Fly)"でソロ・デビュー。その後も、"Sock It 2 Me"や"Hot Boyz"、"Get Ur Freak On"や"Work It"、"Lose Control"など、多くのヒット曲を残してきた。

今回の新作は、2015年の『WTF』、2016年の『Pep Rally』以来となる、彼女のニュー・シングル。直近の2作ではファレル・ウィリアムスがプロデュースを担当し、重いドラムを軸に据えつつ、軽快なハンド・クラップやスネアを使って軽妙なトラックにまとめあげた、ポップで癖のある楽曲を聴かせてくれたが、今回の新曲では、フロリダ州マイアミ出身の音楽プロデューサー、ケイノン・ラムがプロデュースと客演で参加。彼といえば、ビヨンセの"Countdowm"やジャズミン・サリヴァンの"Holding You Down (Goin' in Circles)"など、多くのヒット曲や、SWVの『I Missed Us』や『Still』、モニカの『New Life』など、ベテラン・シンガーの良質なアルバムを手がけてきた名手だ。

彼が提供したトラックは、ゾンビ・ネイションやトーマス・シューマッハが使うような、テクノやエレクトロ・ミュージックで使われる電子楽器を使ったもの。ブリブリと鳴り響く重低音の上でピコピコという電子音が合わさったトラックは、ミッシーの楽曲にふさわしい変則ビートで、曲調は全く異なるが、90年代に流行したマイアミ・ベースや、ティンバランドの作品の影響が垣間見えるものだ。そんな奇抜なトラックを器用に乗りこなすミッシーと、お世辞でも器用とは言えないが、要所要所で盛り上げるラムのラップを組み合わせ、キャッチーで個性的な楽曲に仕上げている。

これまで、新曲をリリースする度に、斬新なトラックでファンを唖然とさせてきたことを考えると、今回の新曲はどちらかといえば流行のサウンドを取り込んだ保守的な音楽に映る。だが、エレクトロ・ミュージックのサウンドを取り入れつつ、凡百のラッパーでは手も足も出ない奇抜なトラックを調達し、それを軽々と乗りこなしているあたりは、彼女の卓越したセンスと技術がなければできないものだと思う。

ファンの期待を大きく上回る内容ではないが、それでも毎年無数にリリースされる新曲の中では、屈指のレベルのクオリティと新鮮さを備えていると思う。今後リリースされるという新作アルバムへの期待を膨らませてくれる、魅力的なシングルだ。てか、ニューアルバムはいつになったら出るのだろう…。


Producer
Lamb, Bigg D