アイズレー・ブラザーズやザップなどを輩出したオハイオ州の出身。98年にリリースしたアルバム『Tomorrow 2 Yesterday』がインディー・レーベル発の作品ながら、ソウル・ファンの間で注目を集め、廃盤になったあとは高い値段で取引されている、3人組のヴォーカル・グループ、レイテッドR。同グループの中心人物で、メイン・ヴォーカルを担当しているJTことレジナルドJ.テイラーの5年ぶりとなる新作EPが、配信限定で発売された。
キース・スウェットの貫禄とR.ケリーの滑らかさが融合した歌声と、粘り強いヴォーカルと相性の良いシンプルで飾らないトラックが高く評価されたレイテッドR時代を経て、2012年に発表した初のソロ作『Release』は、2000年代のインディー・ソウルらしい、シンセサイザーを多用した華やかなトラックが印象的な作品だった。だが、今回のアルバムでは、『Tomorrow 2 Yesterday』を彷彿させる、どっしりと落ち着いたビートとシックな伴奏を使い、JTのヴォーカルを強調した作品を用意してきた。
アルバムの1曲目、ラッパーのジェイムズ・ティラーをフィーチャーした”Drop It Low”は、冷たい音色のシンセサイザーと荒々しいシンセ・ベースの音色が、ちょっと不気味なアップ・ナンバー。刺々しい音のシンセサイザーを使ったリフが前作の収録曲っぽい、クリス・ブラウンやオマリオン以降のR&Bのトレンドを取り入れた曲だ。
続く”Fall In Love”は、前年に発表された本作からのリード・シングル。ジャヒームやライフ・ジェニングスの作品を思い起こさせる、ヒップホップのエッセンスを取り入れたミディアム・テンポのビートをバックに、滑らかな歌声を使って余裕たっぷりに歌う、ゆったりとしたバラード。サビで流れるトークボックスを使ったコーラスが、切ないムードに拍車をかけている。
また、、オハイオ州出身のラッパー、チョコレイト・ソングバードが客演し、ミュージック・ビデオも制作されたもう一つのリード・シングル”Midwest Shuffle”は、R.ケリーの”Step in The Name of Love”がヒットして以来、多くのR&Bシンガーが採用しているシカゴ・ステッパーズを取り入れたダンス・ナンバー。ドラムやベースのグルーヴを強調した、重心が低いトラックの上で、豊かな歌声を惜しみなく聴かせる姿に痺れるのは私だけか?。これだけの声量をキープしながら、肩ひじ張らずに流麗な歌唱を披露する技術には、ただただ脱帽するしかない。
それ以外の曲では、2曲のスロー・バラード”Pain”と”What About”も捨てがたい。前者はホレス・ブラウンやサム・ソルターのような90年代中期にブレイクしたR&Bシンガーの楽曲を思い起こさせるシンプルなトラックと、洗練されたメロディが心地よいバラード。ドラムとフィンガー・スナップを使ったシンプルなビートに、ポロポロと鳴り響くシンセサイザーの音色が合わさったシンプルなトラックをバックに、力強い歌声を響かせる「熱い」曲だ。一方、後者はオマリオンの”Ice Box”を連想させる、派手なシンセサイザーのリフをバックに、シリーナ・ジョンソンっぽいセクシーな歌声の女性シンガー、ションタ・フォードとのデュエットを披露した楽曲。どちらかといえば2000年代のR&Bっぽい華やかで洗練されたトラックが、貫禄と色気を兼ね備えた二人の歌で、落ち着いた雰囲気のソウル・バラードになっているから面白い。
実は、今回のアルバムとほぼ同時期に『Tomorrow 2 Yesterday』が再発されている。そんなこともあって、私は本作に2017年版の『Tomorrow 2 Yesterday』みたいな作品という印象を抱いた。もちろん、このアルバムは彼のソロ作品だし、98年と2017年じゃR&B業界のトレンドも流通経路も全く異なる。だが、彼はそれを理解した上で、若いファンには”Sexy Slave”や”What About”のように、シンセサイザーを駆使した華やかなトラックのR&Bを、昔の彼を知るファンには”Fall in Love”や”Midwest Shuffle”のような、低音中心のシンプルなトラックを使ったR&Bを、それぞれ用意することで、幅広い層にアピールしつつ、彼らにJTの持ち味である豊かな歌声をじっくりと聴かせているように映った。
もちろん、本作で彼が選んだ戦略は、恵まれた歌声と高い技術力を兼ね備えた彼だからできるものだ。だがそれは、どんなに歌が上手くても、リスナーにとって魅力的な曲が用意できなければ、彼らに聴いてもらうことはできないという、多くの歌手が抱える悩みを反映したものだと思う。近年のR&Bのトレンドを取り込みつつ。彼のスタート地点である90年代のR&Bに根差した作風の本作は、90年代の音楽を知らない世代にも響くものがあると思う。
Track List
1. Drop It Low feat. James Tiller
2. Fall in Love
3. Midwest Shuffle feat. Choqlate Songbird
4. Pain
5. Sex Slave
6. What About feat. Shaunta Ford
キース・スウェットの貫禄とR.ケリーの滑らかさが融合した歌声と、粘り強いヴォーカルと相性の良いシンプルで飾らないトラックが高く評価されたレイテッドR時代を経て、2012年に発表した初のソロ作『Release』は、2000年代のインディー・ソウルらしい、シンセサイザーを多用した華やかなトラックが印象的な作品だった。だが、今回のアルバムでは、『Tomorrow 2 Yesterday』を彷彿させる、どっしりと落ち着いたビートとシックな伴奏を使い、JTのヴォーカルを強調した作品を用意してきた。
アルバムの1曲目、ラッパーのジェイムズ・ティラーをフィーチャーした”Drop It Low”は、冷たい音色のシンセサイザーと荒々しいシンセ・ベースの音色が、ちょっと不気味なアップ・ナンバー。刺々しい音のシンセサイザーを使ったリフが前作の収録曲っぽい、クリス・ブラウンやオマリオン以降のR&Bのトレンドを取り入れた曲だ。
続く”Fall In Love”は、前年に発表された本作からのリード・シングル。ジャヒームやライフ・ジェニングスの作品を思い起こさせる、ヒップホップのエッセンスを取り入れたミディアム・テンポのビートをバックに、滑らかな歌声を使って余裕たっぷりに歌う、ゆったりとしたバラード。サビで流れるトークボックスを使ったコーラスが、切ないムードに拍車をかけている。
また、、オハイオ州出身のラッパー、チョコレイト・ソングバードが客演し、ミュージック・ビデオも制作されたもう一つのリード・シングル”Midwest Shuffle”は、R.ケリーの”Step in The Name of Love”がヒットして以来、多くのR&Bシンガーが採用しているシカゴ・ステッパーズを取り入れたダンス・ナンバー。ドラムやベースのグルーヴを強調した、重心が低いトラックの上で、豊かな歌声を惜しみなく聴かせる姿に痺れるのは私だけか?。これだけの声量をキープしながら、肩ひじ張らずに流麗な歌唱を披露する技術には、ただただ脱帽するしかない。
それ以外の曲では、2曲のスロー・バラード”Pain”と”What About”も捨てがたい。前者はホレス・ブラウンやサム・ソルターのような90年代中期にブレイクしたR&Bシンガーの楽曲を思い起こさせるシンプルなトラックと、洗練されたメロディが心地よいバラード。ドラムとフィンガー・スナップを使ったシンプルなビートに、ポロポロと鳴り響くシンセサイザーの音色が合わさったシンプルなトラックをバックに、力強い歌声を響かせる「熱い」曲だ。一方、後者はオマリオンの”Ice Box”を連想させる、派手なシンセサイザーのリフをバックに、シリーナ・ジョンソンっぽいセクシーな歌声の女性シンガー、ションタ・フォードとのデュエットを披露した楽曲。どちらかといえば2000年代のR&Bっぽい華やかで洗練されたトラックが、貫禄と色気を兼ね備えた二人の歌で、落ち着いた雰囲気のソウル・バラードになっているから面白い。
実は、今回のアルバムとほぼ同時期に『Tomorrow 2 Yesterday』が再発されている。そんなこともあって、私は本作に2017年版の『Tomorrow 2 Yesterday』みたいな作品という印象を抱いた。もちろん、このアルバムは彼のソロ作品だし、98年と2017年じゃR&B業界のトレンドも流通経路も全く異なる。だが、彼はそれを理解した上で、若いファンには”Sexy Slave”や”What About”のように、シンセサイザーを駆使した華やかなトラックのR&Bを、昔の彼を知るファンには”Fall in Love”や”Midwest Shuffle”のような、低音中心のシンプルなトラックを使ったR&Bを、それぞれ用意することで、幅広い層にアピールしつつ、彼らにJTの持ち味である豊かな歌声をじっくりと聴かせているように映った。
もちろん、本作で彼が選んだ戦略は、恵まれた歌声と高い技術力を兼ね備えた彼だからできるものだ。だがそれは、どんなに歌が上手くても、リスナーにとって魅力的な曲が用意できなければ、彼らに聴いてもらうことはできないという、多くの歌手が抱える悩みを反映したものだと思う。近年のR&Bのトレンドを取り込みつつ。彼のスタート地点である90年代のR&Bに根差した作風の本作は、90年代の音楽を知らない世代にも響くものがあると思う。
Track List
1. Drop It Low feat. James Tiller
2. Fall in Love
3. Midwest Shuffle feat. Choqlate Songbird
4. Pain
5. Sex Slave
6. What About feat. Shaunta Ford