役者として活躍する一方、ミュージシャンとしても、ロス・アンジェルスを拠点に活動する女性トラックメイカー、トキモンスタとコラボレーションしたり、メイヤー・ホーソンとジェイク・ワンによる音楽ユニット、タキシードのアルバムや、2016年度のグラミー賞にノミネートしたことも記憶に新しい日本人プロデューサー、スターロの作品に参加したりと、マルチな才能を発揮しているロス・アンジェルス出身のシンガー・ソングライター、ゲヴィン・トゥレック。2015年には自身名義での楽曲も発表している彼女が、初のフィジカル・リリースとなる5曲入りのEPを、自身のレーベル、マダム・ゴールドからリリースした。

今回のアルバムでは、東海岸出身のエレクトロ・ポップ・バンド、リトル・ピットのサポート・ドラマーでもあるクリス・ハートを含む3人のミュージシャンがプロデュースで参加。楽曲制作では、彼らに加えて彼女自身も積極的に関わっているようだ。

本作の収録曲は、配信限定で発表された既発曲が3つと新曲が2つ。まず、既発の3曲に目を向けると、アルバムの1曲目に収められた”On The Line”は2016年にリリースされた、この中では最も古い曲。クリス・ハーツがプロデュースした、ワン・ウェイやレイ・グッドマン&ブラウンの洗練されたダンス・ミュージックを思い起こさせるトラックと、ゲヴィンのキュートな歌声が格好良いアップ・ナンバー。ディスコ・ブギー寄りのオリジナルも良いが、デジタル機材のクールな音色を活かしたリミックス・ヴァージョン(シングルに収録)も見逃せない。

続く”The Distance”は、太い音が魅力のアナログ・シンセサイザーを使った演奏と、ケリスやミリー・ジャクソンにも通じる、ちょっと棘のある声でじっくりと歌った、こちらもクリス・ハーツのプロデュースによるミディアム・バラード。シリータ・ライトやミニー・リパートンを彷彿させる清楚で透き通ったヴォーカルが魅力のシンガーだけに、この曲のように攻撃的な歌い方をするのはちょっと珍しい。

そして、本作のタイトル・トラックでもある”Good Look for You”は、タキシードの”Fux with the Tux”にもよく似た、アナログ・シンセサイザーとデジタル機材を上手に使い分けたモダンなトラックが格好良い、ティムKプロデュースのダンス・ナンバー。ゲヴィンの甘酸っぱいヴォーカルに胸がときめいてしまう、クールでポップな楽曲だ。

また、このアルバムが初出の2曲だが、一つはクリス・ハーツがプロデュースした”My Delight”。古いリズム・マシーンやシンセ・ベースの音色を取り入れたファンキーなトラックが気持ち良い、リック・ジェイムスやプリンスの影響も垣間見えるダンス・ナンバー。中盤で曲調が急に変わる展開がちょっと面白い、彼女らのユニークな感性が光る佳曲だ。

そして、アルバムの最後を飾る”It’s The Light”は、クレイ・シュミットのプロデュースによるミディアム・ナンバー。RAHバンドの”Clouds Across The Moon”を連想させる、シックだが心を掻き立てるベース・ラインを土台にしたトラックに乗せて、爽やかな歌声を響かせるエレクトロ・ポップ寄りの楽曲。パーカッションやアナログ・シンセサイザーの音色を織り交ぜながら、スタイリッシュに纏め上げた良質なポップスだ。

今回のアルバムも、過去のシングルに引き続き、シンセサイザーやリズム・マシンを多用したトラックと、流れるようなメロディが心地よい、80年代のソウル・ミュージックやポップスからの影響を色濃く反映した曲が並んでいる。だが、ドナ・サマーのようなダンス・ミュージックから触発されたと述べていた初期の録音に比べ、ミディアム・テンポの作品やポップス寄りの楽曲も増えるなど、収録曲のバラエティは豊かになっている。おそらく、キャリアを重ねる中で、多くの音楽に触れ、人脈を広げてきたことで、彼女自身の音楽にも深みと幅がついたのだと思う。

ディム・ファンクやタキシードの成功で、若い人々の間でも評価が高まっている、電子楽器を駆使したソウル・ミュージック、ディスコ・ブギーの魅力を凝縮しつつ、80年代のエレクトロ・ポップスやファンク・ミュージックにも視野を広げた、80年代テイストたっぷりの作品。これ、日本やヨーロッパでウケそうだけど、どうなんだろう。

Producer
Chris Hartz, Clay Schmitt, Tim K

Track List
1. On The Line
2. The Distance
3. Good Look for You
4. My Delight
5. It’s The Light