その先進的な音楽性が評価され、グラミー賞の候補にも選ばれるなど、2016年を代表するアルバムの一つになった、ガラントの『Ology』。同作を配給している、ロス・アンジェルスのインディー・レーベル、マインド・オブ・ジニアスから、第2のガラントと呼んでも過言ではない、先鋭的な作風が魅力のデュオ、ゼイ.の初めてのフル・アルバムが配信限定でリリースされた。

このグループは、コロラド州デンバー出身のダンテ・ジョーンズと、テキサス州サンアントニオ生まれ、ワシントンD.C.育ちのドリュー・ラヴが、2015年にロス・アンジェルスで結成。同年には、本作にも収録されている”Motley Crew”、”Bad Habits”、”Back It Up”の3曲からなるEP『Nü Religion』をマインド・オブ・ジニアスからリリースして、新しい音に敏感なリスナーや批評家の間で注目を集めた。また、同じ年には、レーベル・メイトでもある音楽プロデューサーのズと、ロス・アンジェルスを拠点に活動する電子音楽家のスクリレックスの二人とコラボレーションしたシングル『Working for It』を発表。エレクトロ・ミュージックとR&Bを融合させた奇抜なサウンドで、イギリスやオーストラリアのヒットチャートにもその名を刻んだ。その後も、2017年までに4枚のシングルを発表。そのうち、”Working for It”を除く既発曲と新録曲を1枚のアルバムに纏めたのが、今回紹介する『Nü Religion: HYENA』だ。

彼らの音楽の特徴は、ジャンルに囚われず様々な音楽の要素を摂取する中で培われた視野の広さと柔軟性。2人へのインタビューによると、ジェイムズ・ブラウンやニュー・エディションの影響を受けている一方で、ニルヴァーナのカート・コヴァーンやシンガー・ソングライターのエド・シーランなどからも多くのインスピレーションをもらっているらしい。そして、そんな彼らの楽曲だが、大半が2人+外部のクリエイターという体制で作られている。

アルバムの実質的な1曲目、2人による書き下ろし曲である”Africa”は、カニエ・ウエストの近作を連想させる、色鮮やかな電子音を配したエレクトロ・トラックが面白いヒップホップ。歌うというよりも、言葉を投げると形容したほうが正確な、ラップとも歌とも異なる独特の言葉遣いが印象的だ。

一方、それに続く”Deep End”は2016年に発表された楽曲。変則ビートとマイク・エリゾンドのパワフルなギターを組み合わせたトラックと、喉がちぎれそうな勢いで切々と歌うヴォーカルが印象的な曲。ロックの世界では定番の組み合わせであるパワー・コードを使って、新鮮なトラックを作るセンスは、色々な音楽に慣れ親しんできた彼ららしさが発揮されたものだ。

そして、2015年のEPにも収録された”Motley Crew”は、ガラントの音楽にも似た、前衛的なトラックと、哀愁を帯びた歌声が切ない雰囲気を醸し出すミディアム・ナンバー。シンセサイザーとギター、そしてエフェクターを上手に組み合わせた、幻想的なトラックの上で、カート・コヴァーンやエド・シーランのような繊細さがウリのロック・シンガーを彷彿させる、ある種の暴力性すら感じさせる荒々しい歌声が物悲しいメロディを際立たせるミディアム・バラードだ。

それ以外にも、見逃せない曲はたくさんあるが、その中でも特に注目して欲しいのは、90年代から活躍する女性シンガー・ソングライター、ポーラ・コールが作曲で参加した”Dante's Creek”だ。ギターやエフェクターをアクセントに使ったサイケデリックなトラックは他の曲と同じだが、ポーラが参加することで流麗になったメロディに合わせて、その傾向は大幅に弱まっている。むしろ、チキチキ風のビートを取り入れつつも、最小限の加工を加えたギターの音色をじっくりと聴かせる伴奏をバックに、それに合わせてヴォーカルが切々と歌う、フォーク・ソングの弾き語りっぽいスタイルの曲で、ロックやポップスの要素とヒップホップやR&Bのエッセンスが高い次元で融合している。ヒップホップのミュージシャンによる、フォークソングの再解釈ともいえる名曲だ。

今回のアルバムを含め、彼らの残した録音を聴いていて感じるのは、近年流行しているオルタナティブR&Bをベースにしつつも、ストーンズ・スロウのミュージシャン、マッドリヴやメイヤー・ホーソンといったアーティストのように、ヒップホップやR&Bの要素を強く反映されているということだ。”Motley Crew”にしろ、”Dante's Creek”にしろ、ギターの演奏やガレージ・ロックのメロディを盛り込んでいるが、楽曲の土台となるビートは、一つのフレーズを繰り返すヒップホップの手法がベースになっているし、ビートに合わせて歌うときの節回しは、R&Bのマナーに従っている。その上で、ガレージ・ロックなどのメロディやアレンジを取り入れたり、シンセサイザーやエフェクターで各楽曲、およびアルバム全体に統一感を与えているのは大きい。

フランク・オーシャンやガラントにも言えることだが、彼らは音楽の趣味と人種や家庭環境が必ずしも一致しなくなった、21世紀のアメリカを象徴するアーティストだと思う。今回のアルバムは、アンダー・グラウンドのヒップホップが好きな人には魅力的な作品だと思うが、今後の方向性によっては、オッド・フューチャー一派やOVO勢を脅かす、コアなファンにも大衆にも愛されるミュージシャンに化ける可能性があると思う。そんな可能性を感じさせる斬新なR&B作品だ。

Producer
They., Mike Elizondo

Track List
1. Nü Religion: Hyena (Intro)
2. Africa
3. Deep End
4. Motley Crew
5. Truth Be Told
6. What You Want
7. Silence
8. Back Around
9. Bad Habits
10. Say When
11. All
12. Dante's Creek
13. Back It Up
14. U-RITE





Nü Religion: Hyena [Explicit]
Mind of a Genius/Warner Bros.
2017-02-24