2015年にリリースした3枚目のアルバム『Ego Death』が、グラミー賞のベスト・アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にノミネートしたことも記憶に新しい、オッド・フューチャー所属のシド・ザ・キッドやマット・マーシャンズが率いるR&Bバンド、ジ・インターネット。2017年に入ってからは、1月にはマットが『The Drum Chord Theory』を、2月にはシドが『Fin』を発表するなど、各メンバーが活発な動きを見せているが、彼らに続き、最年少ながら、ギターやベースの演奏から楽曲制作まで、幅広く担当しているスティーヴ・レイシーが、初のソロ作品をマットの作品も配給しているスリー・クォーターから配信限定で発表した。

2015年から正式加入した後発のメンバーながら、『Ego Death』ではシングル・カットされた"Special Affair"を含む6曲のソング・ライティングやプロデュースを担当。その後も、学業と並行して色々なアーティストのレコーディングに携わり、2017年には『The Drum Chord Theory』の収録曲のうちシングル化された”Diamond in Da Ruff”と”Dent Jusay”を含む3曲を、『Fin』ではシングル・カットされた”All About Me”を含む2曲を手掛けるなど、最年少メンバーとは思えない大活躍を見せている。

2人の後を追いかける形で発表されたスティーヴの作品は、スライ&ザ・ファミリー・ストーンやファンカデリック、カーティス・メイフィールドなどの影響を感じさせる、ギターの音色を効果的に使った幻想的なサウンドが印象的なアルバム。ドラマーらしい、温かい音色を使ったバラエティ豊かなビートが魅力の『The Drum Chord Theory』や、アリーヤを彷彿させる冷たく、透き通った歌声が魅力を活かした、スタイリッシュな作風が面白い『Fin』に続き、メンバーの個性が発揮された作品になっている。

本作では、収録されている6曲すべてが、彼自身の作詞作曲、プロデュースによる録音。1曲目に選ばれた”Looks”は、ホーン・セクションのないアース・ウィンド&ファイアといった趣の、カラっとしたギターのカッティングが心地よいアップ・ナンバー。デモ故か1分半で終わってしまうのが口惜しい。

続く”Ryd”は、エフェクターで歪められたギターと変則的なビートを刻むドラムの組み合わせが奇抜なミディアム・ナンバー。ロマンティックなメロディが奇想天外なトラックでおどろおどろしい音楽に聴こえてしまう演出は、一聴の価値があると思う。

一方、マットのアルバムに収録されても不思議ではない温かい音色を使ったトラックが心地よい”Dark Red”は、ヒップホップのビートの上で、ジョージ・クリントンを連想させる個性的な歌唱が幻想的な伴奏と合わさって不思議な雰囲気を醸し出すミディアム・ナンバー。『The Drum Chord Theory』を昔のソウル・ミュージックと融合させたような、懐かしさと新しさが入り混じった楽曲だ。

そして、”Thangs”はスティーヴが得意なベースを効果的に使った、ヒップホップともポップスとも形容しがたい不思議な楽曲。黒人音楽と同じくらい、ロックなどにも親しんできた、アウトキャストのアンドレ3000にも似た作風の佳曲だ。また、前曲同様、ベースを器用に操る姿が印象的な”Haterlovin”は、テンポの速いブレイク・ビーツに乗せて、複雑なグルーヴを正確に演奏しきる姿が格好良いジャズ・ファンク。18歳の若手とは思えない、老練な演奏に恐ろしささえ感じさせる本作の目玉だ。

最後に、アルバムのトリを飾るのが”Some”。ベースとギターを操りながら、ファレルを彷彿させるセクシーなファルセットを織り交ぜたヴォーカルを披露する、耳障りの良いアップ・ナンバーだ。彼のアルバムでは珍しく、ドネル・ジョーンズやカール・トーマスの音楽を連想させる流麗なメロディと、ザ・ルーツのように堅実で安定した演奏を聴かせているが、楽器の響きで曲に表情を付けたり、楽曲の終盤に新しいメロディを盛り込んだりするなど、聴き手を引き付ける小技もしっかりと盛り込んでいる。

実際に影響を受けたのかどうかはわからないが、彼の音楽には、スライ・ストーンやジョージ・クリントン、プリンスやデーモン・アルバーンといった、一つのジャンルに囚われない、柔軟な発想で新しい音楽を生み出したミュージシャン達の影が見え隠れする。今回のEPでは、ソウル・ミュージックやPファンク、ヒップホップなど色々な音楽の要素を含んだ曲を披露しているが、いずれの曲も、色々なスタイルの手法が混在した、特定のジャンルで形容することが難しいものばかりで、「スティーヴの音楽」になっていると思う。

デモ音源とはいえ、その発想の柔軟さ、楽曲の完成度は非常に高い。そして、これが18歳の青年の手による録音だというから二重に驚いた。彼はこれから、どんなミュージシャンに成長し、どんな作品を生み出してくれるのか、今後がとても楽しみな逸材の登場だと思う。

Producer
Steve Lacy

Track List
1. Looks
2. Ryd
3. Dark Red
4. Thangs
5. Haterlovin
6. Some