ノッティンガム生まれ、イースト・ロンドン育ち、ダイドやジョージ・マーティンも卒業したロンドンの名門校、ギルドホール音楽演劇学校を卒業している、シンガー・ソングライターで音楽プロデューサーのナオことネオ・ジェシカ・ジョシュア。

バック・コーラスやガールズ・グループ、ボクセッツとしての活動でキャリアを積みながら、2014年には初のEP『So Good』をリリース。透き通った歌声を活かしたしっとりとした美しいメロディに、電子音楽の影響が色濃い尖ったビートを組み合わせた独特のスタイルで、BBCのプレイリストに登録されるなど、注目を集めた。

その後も、ディスクロシュアやムラ・マサといった、イギリスのエレクトロ・ミュージックのミュージシャンとコラボレーションしながら複数のシングルやEPを発表。BBC主催の音楽賞、サウンズ・オブ2016の第3位に輝くなど、着実に評価を高めていった彼女は、2016年に初のフル・アルバム『For All We Know』をリリース。ダンス・チャートを中心に各国のヒット・チャートに名前を刻み、彼女をブリット・アワードのベスト・フィメール・ソロ・アーティストの候補に導いた。

今回のEPは、『For All We Know』に収録された楽曲を、外部のクリエイターが大胆に組み替えたリミックス・アルバム。彼女自身が制作を主導し、既に具体的なイメージが定着している原曲を、気鋭の若手を含む実力派のクリエイター達が、大胆な発想で再構築した点が聴きどころだ。

 重低音が鳴り響く荘厳なビートと、ナオの繊細な歌声の組み合わせが印象的だった"In The Morning"を担当したのは、彼のシングル曲"Firefly"でも共演しているイギリスのプロデューサー、ムラ・マサ。彼はこの曲をカラフルな音色のシンセサイザーと、跳ねるようなビートを組み合わせた、ダンスホール・レゲエに改変。シリアスな雰囲気のミディアム・バラードを、陽気なダンス・ミュージックに生まれ変わらせている。同じメロディを使っても、アレンジ一つでここまで違う曲に聴こえるのかと、びっくりしてしまった。余談だが、個人的にはオリジナルよりこっちのバージョンの方が、R&Bに慣れ親しんだ自分の耳には聴きやすい。

続く、"Feels Like[原曲はFeel Like (Perfume)]"を担当したのは、過去に彼女の作品を手がけているロクセ。オリジナル・ヴァージョンは、エリカ・バドゥやマックスウェルの作品を連想させる生楽器風の温かい音色を使ったシックなビートで、彼女のヴォーカルの魅力を引き出したミディアム・バラードだったが、本作では一転、リル・ジョンやT.I.の新曲と勘違いしそうなバウンズ・ビートを使ったヒップホップ・ナンバーに生まれ変わっている。新たに録ったと思われるラップ風のヴォーカルと一緒に、奇抜なビートを自然体で乗りこなすストームジイのラップも面白い、アメリカ南部のヒップホップと、エレクトロ・ミュージックの親和性を裏付けた名録音。

2016年に発表したアルバム『99.9%』の斬新さも記憶に新しいケイトラナダを起用した"Get To Know Ya"は、レゲトンのリズムを上物に使ったハウス・トラック。クリスティーナ・ミリアンやマイアの楽曲を連想させるダンス・ポップの要素を含んだR&Bナンバーを、分厚い重低音が心地よいDJ向けのダンス・ナンバーに変えたセンス自体は珍しくないが、原曲とは全く異なるタイプのビートとヴォーカルを一体化させた技術は見逃せない。

ギターの音色と電子音を組み合わせたトラックが印象的だった"DYMM"はサム・ギャライトリーがリミックス。電子音楽版ジェイ・ディラといった趣の、音と音の隙間を有効に使った、抽象的なヒップホップのビートが格好良い、アメリカのヒップホップと親和性が高いアレンジが記憶に残る楽曲だ。

そしてSBTRKTによる"Bad Blood"は、刺々しいシンセサイザーの音色と終始鳴り続ける重低音が印象的な、フライング・ロータスやサンダーキャットに代表されるビート・ミュージックのスタイルを踏襲したリミックス。オリジナル盤では散見されていたが、このアルバムではあまり採用されていない、アメリカの電子音楽シーンを意識したアレンジが楽しめる。

このアルバムのようなリミックス作品の難しさは、既に一定の評価を受けている楽曲を再編集して、原曲の隠れた魅力や、新しい解釈を引き出さなければいけないことだ。リミックス作品の中には、原曲のイメージに引きずられて、無難にまとめたり、斬新な解釈を求めて、原曲の持ち味を削ってしまうものも少なくない。だが、今回の作品では、それぞれのアーティストが、彼女の美しい歌声やスタイリッシュなメロディ、繊細なトラックを活かしつつ、彼女の作品では使われてこなかった音色やビートを組み合わせることで、ナオの音楽の意外な一面を引き出している。

たった5曲のEPだが、ナオの音楽の可能性とイギリスのエレクトロ・ミュージック・シーンの奥深さを痛感させられる貴重な作品だと思う。ヴォーカリストとクリエイター、両方の才能を兼ね備えたナオだが、外部のプロデューサーと組めば、今以上の実力を発揮できる、そんな期待を抱かせてくれる名企画だ。

Producer
Nao, Calvert, Royce Wood Junior, Jungle GRADES etc

Track List
1. In The Morning (Mura Masa Edit)
2. Feels Like (LOXE Remix) feat. Stormzy
3. Get To Know Ya (Kaytranada Flip)
4. Dywm (Sam Gellaitry Remix)
5. Bad Blood (SBTRKT Remix)





FOR ALL WE KNOW
NAO
RCA
2016-07-29