コーンのフロントマン、ジョナサン・デイヴィス率いるSFAや、ドラマーのトニー・オースティンと結成したユニット、BFIなどで斬新なサウンドを披露する一方、演奏者としてもケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』やカマシ・ワシントンの『The Epic』などで、大胆かつ緻密なプレイを聴かせてくれた、カリフォルニア州ハリウッド出身のベーシスト、マイルス・モーズリー。彼にとって初のフル・アルバムとなる『Uprising』が、ジョセフ・ライムバーグのデビュー作『Astral Progressions』を配給したワールド・ギャラクシーからリリースされた。

ロス・アンジェルス・ダウンタウンのコルバーン音楽学校でジャズを学んでいた彼は、「楽器を家に持ち帰らなくていい」という、少々不純な動機からアップライト・ベースを始めたらしい。だが、使い始めると自分の性に合っていたらしく、エフェクト・ペダルを使って音を加工したり、歌いながら演奏したりと、色々な手法を試しながら、自分のスタイルを築き上げていった。その個性的な演奏スタイルから、周囲の人は彼をアップライト・ベース界のジミ・ヘンドリックスと例えていたらしい。

その後、学校を卒業した彼は、ベーシストやソングライターとして活動を開始。インディア・アリーやローリン・ヒルなどの録音やステージに携わる一方、カマシ・ワシントンのグループや、ジョナサン・デイヴィスの音楽プロジェクト、トニー・オースティンとの音楽ユニットなど、ジャンルや音楽性の壁を越えて、幅広く活動してきた。

今回のアルバムは、ケンドリック・ラマーやカマシ・ワシントンの作品で注目を集めた2015年を経て、レコーディングされた録音ということもあり、彼の持ち味である既存のジャズの枠に拘らない大胆な試みが目立つ作品。2016年に発表された本作の先行シングル『Abraham‎』を手掛けたバーバラー・シーリや、BFIでのパートナー、トニー・オースティン(ドラムでも参加)をプロデューサーに迎える一方、テナー・サックスのカマシ・ワシントンやトロンボーンのライアン・ポーター、キーボーディストのブランドン・コールマンなど、『To Pimp A Butterfly』や『The Epic』で一緒に腕を振るった面々を集め、ヒップホップやR&Bが好きな人の心にもアピールできる傑作を録音している。

アルバムの一曲目”Young Lion”は、自身が楽曲制作やヴォーカルを担当したアップ・ナンバー。マイルスが生み出すダイナミックなベース・ラインは、90年代に一世を風靡したブランニュー・ヘビーズの再来を思わせる、腰に響く音。その上で、ジェイムズ・ブラウンやジミー・スミスを彷彿させる激しいキーボードの演奏を聴かせるブランドンの存在が光るファンキーな楽曲だ。楽曲の途中で、エフェクターを使ってギターのように聴かせたベースの演奏が奇抜で面白い。

続く”Abraham”は、アース・ウィンド&ファイアの”Fantasy”を思い起こさせるミディアム・ナンバー。統制のとれたホーン・セクションや精密なバンド・サウンドはジャズというより70年代以前のソウル・ミュージックに近い。だが、緻密な伴奏の上で荒々しい声を張り上げるマイルスの存在が、当時の音楽にはなかった激しさを加えている。ヒップホップの仕事が多い彼ならではの、大胆な発想が光る佳曲だ。

一方、”Shadow Of Doubt”は、インコグニートの作品を連想させる、スタイリッシュな演奏とメロディが魅力的なアップ・ナンバー。ヴォーカル専業ではないマイルスの粗削りな歌が、楽曲のアクセントになっている。しなやかだけど強靭な楽曲だ。

それ以外にも、”L.A. Won't Bring You Down”では、ベースの音を控えつつ、ビオラやキーボードの演奏を大胆に強調して、起伏の激しいポップ・ナンバーを作り上げたり、”Sky High”では、レミー・シャンドの音楽を思い起こさせる、洗練されたメロディをじっくりと聴かせるミディアム・バラードを録音したりと、手を変え品を変えながら、ジャズをベースにソウルやR&Bの要素を取り込んだ新鮮だが聴きやすい、大人向けのポップスを聴かせてくれる。

「歌も作曲もこなせるジャズ・ベーシスト」というと、グラミーの新人賞を獲得したエスペランザ・スポルディングや、2017年のアルバム『Drunk』も好評のサンダーキャットなどを思い出してしまうが、彼のスタイルは、両者の良いところを吸収したものと言ってもいいかもしれない。マイルス・デイヴィスのように新しいサウンドを積極的に取り込もうとしているサンダーキャットと、高い演奏技術を活かして、難解な楽曲を親しみやすい音楽に還元しようとしているエスペランザ、マイルスの作風は、そんな両者の中間にいるように映った。二人に負けない演奏技術をベースに、ジャズからソウル、メタルまで取り込んだ豊かな発想や作曲術を駆使して、懐かしいようで新しい、流行の半歩先を狙ったように見える。

これまでに参加してきた作品が傑作ぞろいだった分、本作にかかった期待も大きかったのかもしれない。確かに、このアルバムからは『To Pimp A Butterfly』や『The Epic』を聴いたときに受けた強い衝撃みたいなものは感じられなかったし、率直に言えば期待外れの部分もあったと思う。だが、色々な音楽を咀嚼して、ジャズの可能性を押し広げたのは紛れもない事実だと思う。スキルは間違いなく高いので、次回に期待したい。

Producer
Miles Mosley, Barbara Sealy, Tony Austin

Track List
1. Young Lion
2. Abraham
3. L.A. Won't Bring You Down
4. More Than This
5. Heartbreaking Efforts Of Others
6. Shadow Of Doubt
7. Reap A Soul
8. Sky High
9. Your Only Cover
10. Tuning Out
11. Fire





Uprising
Miles Mosley(マイルス・モーズリー)
rings
2017-02-22