2006年に自主制作のEP『The Way Of The Weeping Willow』でデビュー。2012年以降はジャズやソウルの実力派ミュージシャンの作品を数多く配給している、ビバリーヒルズのコンコード・レコードと契約しているテネシー州ジャクソン生まれ、メンフィス育ちのシンガー・ソングライター、ヴァレリー・ジューン。彼女にとって、2013年の『Pushin' Against a Stone』以来となる、通算4枚目のフル・アルバム。

前作では、ブラック・キーズのダン・オーバックとフェアファクス・レコードのケヴィン・オーグナスがプロデュースしていたこともあり、オルタナティブ・ロックやルーツ・ミュージックから強い影響を受けているように映ったが、元々は父の影響でゴスペルやソウル、R&Bなどに慣れ親しんできたらしい。そんな彼女は、ボビー・ウーマックやプリンスを担当したこともあるプロモーターと出会ったことを切っ掛けに、ミュージシャンとしてのキャリアを本格的に開始した。

これまでの作品では、ローカル・シーンのソウル・ミュージックやR&Bをベースに、フォーク・ソングやロック、ジャズなどのエッセンスを盛り込んだバンド・サウンドを聴かせてくれた彼女。本作でもその路線は変わっていない。むしろ、プロデューサーがアレンジや演奏の技術に定評のあるマット・マリネッリとリチャード・スフィフト(”Just In Time”のみ担当)に変わり、ソングライティングを彼女自身が主導するようになったことで、ヴァレリーの趣向や方向性がより明確になった。

アルバムに先駆けてシングル・カットされたのは”Astral Plane”と”Shakedown”の2曲。前者は、4人のホーン・セクションを含む、豪華なバンド・メンバーが生み出す重厚なサウンドと、ヴァレリーの繊細なヴォーカルが印象的なバラード。大人数のバンドを黒子のように使って、自分の歌声を引き立てる技術や、タジ・マハルを彷彿させる民族音楽のエッセンスを取り入れたメロディを盛り込む作曲センスが面白い佳曲だ。

一方、荒々しいギターの音色と彼女自身が奏でるハンド・クラップが心を掻き立てる後者は、ジャニス・ジョップリンの再来を思わせる、スピーカーを突き破りそうな勢いで弾け飛ぶ音の塊がここちよいアップ・ナンバー。ギターを含む各楽器の音色を加工せず、自然体な雰囲気を演出している点以外はエイミー・ワインハウスにもちょっと似ている、本作の中で最も気になる曲だ。

それ以外の曲では、アルバムのオープニングを飾る”Long Lonely Road”も見逃せない曲だ。ドラムやギターによるシンプルな編成のバンドをバックに、じっくりと丁寧に歌いこんだフォーク・ソング風のバラード。前作までの彼女を知る人には、こちらの曲の方が好みかもしれない。

また、アフリカ西部の民族音楽の要素も垣間見える個性的なメロディの”Man Done Wrong”も捨てがたい。パーカッションやバンジョーを取り入れた伴奏と、非西洋圏の要素を取り入れたメロディの組み合わせた楽曲は、ボブ・ディランがラジオ番組で紹介していた音楽を、現在の技術で再構築したもののようにも見える。

そして、絶対に聞いてほしいのはハモンド・オルガンを伴奏に取り入れた”The Front Door”。フォーク・ソングをベースに、ハモンド・オルガンと荘厳なメロディでゴスペルの要素を加えたスロー・ナンバー。白人と黒人のルーツ音楽を融合させた、ありそうでなかったタイプの楽曲だ。

彼女の曲は、シンセサイザーを使った華やかなビートが主流の2017年の音楽業界では、決して目立つタイプではないと思う。そもそも、パワフルな歌手が鎬を削るR&Bやソウルに慣れ親しんだ人々や、斬新なサウンドを次々と生み出しているロックの世界に馴染んだ人々が、20世紀中盤から、長い時間をかけて今の形になった、ソウルやR&B、ブルースやフォークの要素を取り込んだ彼女の音楽を聴いて、どんな反応を示すのか、かなり不安がある。だが、アメリカのルーツ音楽を丁寧に遡り、自分の音楽の土台にしているセンスと勤勉さは、決して見逃せないと思う。また、自分達の音楽が伝わらないことを時代のせいにするのではなく、自分達のルーツを丁寧に研究して、現代に生きる人々に伝わる形に還元して発信された本作は、アメリカの音楽を愛聴する人にとって決して無視できないものだと思う。

広い国土と様々な人種を抱え、色々な文化が混ざり合いながら、現在の形に発展してきたアメリカの、2017年時点の音楽の姿を感じさせる佳作。アメリカ音楽の原点を思い出したいとき、耳にしたいアルバムだ。

Producer
Matt Marinelli, Richard Swift

Track List
1. Long Lonely Road
2. Love You Once Made
3. Shakedown
4. If And
5. Man Done Wrong
6. The Front Door
7. Astral Plane
8. Just In Time
9. With You
10. Slip Slide On By
11. Two Hearts
12. Got Soul





The Order of Time
Valerie June
Concord Records
2017-03-10