ソウルやR&B、ヒップホップといったブラック・ミュージックの歴史の中で、常に一定の影響力を発揮していたのがロックの存在だ。古くはアイズレー・ブラザーズやバーケイズ、その後もベティ・デイヴィスやザ・ルーツ、近年ではブラッドオレンジやソランジュなど、多くのミュージシャンがロックの要素を取り入れて、自分の作品に個性を付加していった。

今回、初のEP『Here Comes Trouble』 をリリースした男女混成の4人組、ニュー・リスペクツもその系譜に立つグループ。テネシー州ナッシュビル出身の彼らは、2016年にシングル『Hey!』でデビュー。ソランジュの"Dance In The Dark"のポップなメロディとザ・ルーツの"Game Theory"を彷彿させるロックとヒップホップを融合させたサウンドが印象的なポップ・ナンバーを聴かせてくれた。本作は、それに続く作品。

収録曲されているのは2017年にシングル化された2曲を含む5曲。"Hey!"は未収録だが、同曲に負けず劣らずの佳曲を揃えている。

アルバムのオープニングを飾る"Money"は本作のからの先行シングル。ジュラシック5を思い起こさせるコミカルなヒップホップのビートを生演奏で再現した伴奏をバックに、ティーナ・マリーを連想させる荒々しいヴォーカルを聴かせるミディアム・ナンバー。ニルヴァーナやレッド・ホット・チリ・ペッパーズにも通じる荒削りなサウンドとヒップホップを混ぜ合わせたセンスが面白い。

続く、"Frightening Lighting"は"Hey"のスタイルを踏襲した"Heat Wave"のような初期のモータウン作品を彷彿させるポップなメロディが魅力的なアップ・ナンバー。唸るようなギターの音色を含め、重く荒々しいサウンドの間にキュートなコーラスを混ぜ込むなど、ワイルドなロックのサウンドと、リズム&ブルースの軽妙な曲調を両立した曲に仕上がっている。

3曲目に納められている"Come as You Are"は乾いた音色の伴奏と、ダイナミックなヴォーカルの組み合わせが心地よい バラード。スケールは異なるが、オーティス・レディングの"Try a Little Tenderness"にも通じる壮大な楽曲だ。

そして、4曲目の"Shoes"はテイラー・スウィフトの"Shake It Off"にそっくりなアップ・ナンバー。軽快で親しみやすいメロディと、電子音やハンドクラップを盛り込んだ明るいサウンドが印象的な楽曲。シングル・カットされていないのが不思議なくらい陽気でキャッチーな曲だ。

そして、アルバムの最後を飾る"Trouble"は本作から2曲目のシングル曲。力強いドラムの音色と、全身を震わせるように歌うヴォーカルはクイーンの"We Will Rock You"の影響も垣間見えるが、こちらはもっと荒削りな印象。

全体的な印象だが、ロックのアルバムとしては80年代以前の作品の影響が強い、厳しくいえば「古臭い」録音だが、それをヒップホップやR&Bと融合することで、新しい音楽のように聴かせていると思う。この点については賛否が分かれそうだが、過去の作品を研究、引用して自分の作品の糧にすることが多いブラック・ミュージックの発想をロックに適用して作品に落とし込んだセンスとスキルは非常に面白いと思う。

何度も言うが、演奏技術と曲の完成度は高さは目を見張るものがある。現時点では気になる点もあるが、同時にR&B界のザ・ルーツになり得る可能性を感じさせる、将来有望な新人のデビュー作だと思う。

Track List
1. Money
2. Frightening Lighting 
3. Come as You Are
4. Shoes
5. Trouble





Here Comes Trouble
Universal Music LLC
2017-03-10