1992年にフロント・マンのジェイ・ケイを軸にした6人組バンドとして活動を開始。メンバーの脱退、加入を経て同年のシングル『When You Gonna Learn』でデビュー。翌93年には初のフル・アルバム『Emergency on Planet Earth』をコロンビアから発表し、全英チャートの1位を獲得するなど、華々しいデビューを飾った英国発のファンク・バンド、ジャミロクワイ。

その後、2016年までに7枚のオリジナル・アルバムと、多くのシングルを発表。中でも97年に発表された『Travelling Without Moving』は日本だけで140万枚、全世界で700万枚を売り上げるなど、ポピュラー・ミュージックの歴史に残る大ヒットになった。

本作は、2010年の『Rock Dust Light Star』以来、実に7年ぶりとなるオリジナル・アルバム。今回の作品では、「AIなどの新しい科学技術が浸透した現代の世界で、私達が見失いつつあるもの」をテーマに掲げるなど、相変わらず社会派な態度を見せる一方、収録曲では、シンセサイザーなどの電子楽器をこれまでの作品以上に積極的に取り入れた、モダンなサウンドを聴かせてくれる。

アルバムの1曲目である"Shake It On"は、リズム・マシーンなどの電子楽器と、従来から続く生バンドの演奏を融合したスタイリッシュなダンス・ナンバー。ローファイなシンセサイザーを多用しながら、ストリングスの音色や、人力で演奏されるキーボードなど、アナログの要素も取り入れた楽曲で、ヴォーカルのキャラクターこそ異なるが、ダフトパンクの"Get Lucky"にも似た雰囲気の、2017年仕様にアレンジされたディスコ音楽だ。

これに対し、本作のタイトル・トラックであり、アルバムからの先行シングルでもある"Automaton"は、電子楽器(テクノロジー)を演奏の中核に据えた、本作のコンセプトを体現したような楽曲であり、彼らのキャリアの中では異色の作品。オープニングで使われるシンセサイザーなどのリフから、リズム機材、ベースまで、伴奏の大半を電子楽器で録音し、演奏内容も機械にプログラミングしたような緻密で正確なものになっている。ジェイ・ケイの声も途中でループさせるなど、細かいところまで手が込んでいる。電子音を多用した緻密な演奏とソウルフルな歌声はウィークエンドの"Starboy"を彷彿させる。

一方、もう一つのシングル曲である"Cloud 9"は、"Shake It On"に近い、電子楽器とバンド演奏を巧みに組み合わせた洗練されたアップ・ナンバー。図太いシンセサイザーの音色や、地味だが無駄のないメロディを取り入れている点が少し違うが、97年に発表された”Canned Heat”と雰囲気が似ている、疾走感が心地よい楽曲だ。

それ以外で気になるのは、シンセ・ベースの重厚な演奏と、色々な音色のキーボードを用いた華やかな伴奏が、ジェイ・ケイのクールな歌声を引き立てる"Something About You"や、シュガーヒルズ・ギャングのような80年代のヒップホップ・ミュージシャンを思い起こさせる複雑でコミカルなベース・ラインと、一度聴いたら耳から離れないフレーズを次々と放つジェイ・ケイの存在感が光るファンク・ナンバー”Nights Out In The Jungle”、エムトゥーメイの"Juicy Fruits"を連想させる、リズム・マシンやシンセサイザーの正確な演奏と、人間にしか生み出せない絶妙な匙加減のパフォーマンスを同居させた”Dr Buzz”などの楽曲。これらの曲では、今まで以上に多くの新しい技術や機材を取り入れる一方、それを既存のバンド・サウンドで差し替えるのではなく、バンドの音楽に新しい一面を引き立てるツールとして活用しているのが面白い。

今回のアルバムの中核となるコンセプトは、おそらく「テクノロジーに支配されず、それを利用してやろうぜ!」というメッセージだと思う。だが、収録曲をじっくり聴くと、それ以上に、作品の背後にある前作から7年の間に起きた音楽業界の変化、具体的に言えば、ドレイクやウィークエンド、ダフトパンクやカニエ・ウエストなどが、新しいツールと既存の音楽スタイルを絶妙なバランスで同居させた作品でで成功を収めてきた現状に対する、彼らなりの意思表示にも聴こえる。

電子音楽の要素を取り入れた黒人音楽や、生演奏を含むディスコ・ミュージックのエッセンスを取り入れたクラブ・ミュージックなど、ジャンルの枠を超えた音楽性の楽曲が流行している2010年代。その思想を、90年代から新しい機材や前衛的なプロモーション・ビデオで先取りしてきた彼らによる、同時代への批評まで飲み込んだ傑作だ。

Producer
Jay Kay, Matt Johnson

Track List
1. Shake It On
2. Automaton
3. Cloud 9
4. Superfresh
5. Hot Property
6. Something About You
7. Summer Girl
8. Nights Out In The Jungle
9. Dr Buzz
10. We Can Do It
11. Vitamin
12. Carla
13. Nice And Spicy (Bonus Track)




オートマトン
ジャミロクワイ
ユニバーサル ミュージック
2017-03-31