アルバータ州エドモントン出身、当時のボーイフレンドとの別れを契機にオンタリオ州トロントへと移住。プロのミュージシャンとして新たな一歩をスタートした、シンガー・ソングライターのタニカ・チャールズ。当初は、ベドウイン・サウンドクラッシュやサンダーヘイストといった、地元を拠点に活躍するアーティストのバック・コーラスが主な活動の舞台だったが、後にミス・チャールズ(Ms. Chawlz)の名義で、自身のステージにも立つようになる。

その後、2010年にはデビュー作となるEP『What! What? What!?』を自主制作で発表。60年代以前のソウル・ミュージックやリズム&ブルースを取り入れた音楽性と、マーサ・リーヴスやグラディス・ナイトを彷彿させる力強いヴォーカルが、熱心なソウル・ミュージックの愛好家や、ヴィンテージ・ミュージックに熱い視線を送っている若い人々の間で注目を集めた。その後も、2015年に本作からの先行シングル『Soul Run / Endless Chain』を配信限定で発表。2016年には上の2曲を含むフル・アルバム『Soul Run』を自主制作で発表(CD盤やアナログ盤の存在は未確認)。カナダのグラミー賞とも呼ばれているジュノ・アワードで、R&B/ソウル・レコーディング・オブ・ザ・イヤーの最終候補作に選ばれている。

この新人離れした偉業に目を付けたのが、イタリアのミラノを拠点に置くインディー・レーベル、レコード・キックス。英国のベイカー・ブラザーズやニュー・マスターサウンズ、アメリカのサード・コースト・キングスといった、往年のファンクやソウル、リズム&ブルースから強い影響を受けたミュージシャン達の作品を数多く配給してきた企業。同社の配給の元、フィジカル・リリースという形で世界デビューを果たした。

さて、アルバムの中身に目を向けると、本作からの先行シングルでアルバムの実質的な1曲目でもある”Soul Run”は、畳みかけるようなドラムやベースが心を掻き立てるアップ・ナンバー。脇を固めるギターやコーラスの艶めかしい演奏や緻密なパフォーマンスが、演奏に一体感を与えている点も見逃せない。少し毛色が異なるが、ジーン・チャンドラーやマーサ・リーヴスのような、60年代にデトロイトやシカゴから多くのヒット曲を送り出したシンガー達に通じるところがあるキャッチーで高揚感のある楽曲だ。

これに対し、同曲に続く”Two Steps”は、ギターのカッティングや可愛らしいコーラス、アドリブを盛り込んだオルガンの伴奏などが、重厚なグルーヴにポップな雰囲気を吹き込んでいるアップナンバー。コブシを効かせたタニカの歌声が、シャロン・ジョーンズにちょっと似ている点は面白いが、全般的な印象は彼女をもっとポップにした感じだ。

そういう意味では、シャロン・ジョーンズのような音楽が好きな人には”Sweet Memories”の方が好みに合うかもしれない。ホーン・セクションを贅沢に使った伴奏とパーカッションを効果的に使ったリズム隊、色っぽい歌声と力強い歌唱を巧みに織り交ぜたタニカのヴォーカルは、シャロン・ジョーンズが終生貫いてきた、生演奏と豊かな歌唱力で勝負したスタイルの延長線上にあるような楽曲だ。

一方、それ以外の収録曲で見逃せないのは、軽妙なリズムを刻むベースが印象的なミディアム・ナンバー”Money”だ。バレット・ストロングなどが、同名のヒット曲を数多く発表しているが、こちらはオリジナル曲。軽快なベースの演奏にスポットを当てたポップなトラックと、高音を中心に伸び伸びと歌うヴォーカルの組み合わせが、フォンテラ・バスの”Rescue Me”を思い起こさせる陽気なソウル・ナンバー。この曲のようにポップなソウル・ナンバーが好きな人には”Endless Chain”と”Waiting”の2曲もオススメ。特に、シングル盤のB面にも収録されてる”Endless Chain”は、肩の力を抜いた伴奏やコーラスを

アルバム全体を通して感じた印象は、シャロン・ジョーンリー・フィールズの作品のように、60年代以降のソウルやファンクの要素をふんだんに取り入れている一方、ヴォーカルのスタイルはフォンテラ・バスやローラ・リーのような大衆性と華やかさ、可憐さを兼ね備えたポピュラー・ミュージック寄りのソウル・シンガーを意識しているように感じた。ポップ・スターに求められる華やかさを兼ね備えたソウル・シンガーといえば、ジャスミン・カラやジョス・ストーン、ジェニファー・ハドソンなどがいるが、彼女らに比べるとロックやヒップホップの影響が薄く、往年のソウル・ミュージックで用いられる手法を現代向けにアップデートすることで、独自性を打ち出している点で、大きく異なっていると思う。

ドレイクパーティネクストドアウィークエンドなど多くのライバルがひしめき合うカナダの黒人音楽シーンから飛び出してきた魅力的な新星。BADBADNOTGOODなどとコラボレーションしたら面白いことになりそうだけど、次はどんな一手を打ってくるのかな?

Producer
Michael Warrenn, Slakah the Beatchild, Christopher Sandes etc

Track List
1. Intro
2. Soul Run
3. Two Steps
4. Sweet Memories
5. More Than A Man
6. Money
7. Love Fool
8. Heavy
9. Endless Chain
10. Waiting
11. Darkness And The Dawn





Soul Run
Tanika Charles
Record Kicks
2017-05-05