90年代の終わりごろからソングライターとして活動し、ジョニー・ギルの2010年作『Still Winning』に収録されている”2nd Place”や、SWVが2012年に発表した『I Missed You』に収録の”Time to Go”や”Use Me”などを提供したことでも知られる、ワシントンD.C.の出身のシンガー・ソングライター、ケヴィン・ロス。

そんな彼は、自身の名義でも2014年にモータウンからEP『Dialogue In the Grey』をリリース。配信限定のアルバムながら、ラッパーのT.I.やシンガー・ソングライターのニーヨなどをフィーチャーした、本格的なR&Bを聴かせてくれた。

本作は、2016年に発表した2枚目のEP『Long Song Away』以来となる新作。2003年にインディー・レーベルからアルバム『Pick Me』をリリースしているものの、メジャー・レーベルから発売されたオリジナル・アルバムは今回が初めてとなる。

今回のLPは『Long Song Away』に収録されている”Be Great (Intro) ”、”Long Song Away”、”Don't Go”、”Be Great (Remix) ”の4曲に新曲を加えたもの。もちろん、既発の4曲を含め、全ての曲で彼自身が制作にかかわっている。また、本作で追加された新曲は、前年に公開された4曲同様、シンプルで洗練されたトラックと、滑らかな歌声を活かした美しいメロディが魅力的な、大人向けのR&Bになっている。

アルバムのオープニングを飾る”Be Great (Intro) ”は同郷のラッパー、チャズ・フレンチをフィーチャーしたスロー・ナンバー。哀愁を帯びたケヴィンの歌声とピアノとドラムを核にしたシックなトラックの組み合わせがロマンティックな雰囲気を盛り上げる。絶妙な力加減で、楽曲を引き締めるチャズのラップも格好良い。

これ以外の曲ではEPにも収められている”Long Song Away”が独特の存在感を発揮している。心臓の鼓動のように正確なリズムを刻むバス・ドラムの上で、物悲しい音色のギターやハンド・クラップなどが鳴り響くシンプルなトラックに乗せて、レイド・バックしたメロディをじっくりと歌い上げるミディアム・ナンバー。この曲も含め、収録曲の大半でドラムのプログラミングを担当しているトロイ・テイラーの手腕が発揮された良質なミディアム・ナンバーだ。

一方、本作が初出の楽曲に目を向けると、トレイ・ソングスやケリー・ローランドなどの有名シンガーに、数多くの楽曲を提供してきたクリストファー・ウマナが参加した”Don't Go”のクオリティが素晴らしい。ドラムを主体にしたシンプルなトラックに載せて、流れるようにフレーズを口ずさむ。2000年代以降のR&Bのトレンドがベースになった曲だ。だが、この曲に対してもメロディを丁寧になぞった歌唱を披露し、流麗なメロディの中にある種の緊迫感と緻密さを埋め込んでいる。

そして、今回のアルバムの隠れた目玉が、ケネス・エドモンズ(=ベイビーフェイス)がソングライターと演奏で参加した”In The Name Of Your Love “だ。ゴムボールのように跳ねるドラムと、Aメロ、Bメロ、サビと展開していくメロディは、”For The Cool in You”等のヒット曲を生み出していた90年代のベイビーフェイスの作風に通じるものがある。2015年にベイビーフェイスが発表したアルバム『Return of the Tender Lover』や、彼が制作に参加したブルーノ・マーズの2016年作『24K Magic』に収録されている”Too Good to Say Goodbye”などを意識しながら、当時の音楽よりも滑らかなメロディを取り入れることで、2017年のトレンドに適応した現代の90年代風のR&Bといってもいいだろう。

今回のアルバムは、豊富な裏方仕事の経験と、彼の丁寧な歌唱が組み合わさったことで、ボビー・ヴァレンティノやトレイ・ソングスの録音のような、美しいメロディとヴォーカルの技術を同時に楽しめる、本格的なR&B作品になっている。一方、近年のメジャー・レーベル発のR&Bに目を向けると、パーティネクストドアのようにヒップホップに接近したものや、ソランジュのようにロックなどを取り入れたもの、ウィークエンドのように電子音楽との融合を図ったものなど、他のジャンルの要素を取り入れて、リスナーに新鮮な楽曲を聴かせようとする試みが目立つことに気づかされる。そんな状況で、トラック、メロディ、歌の三要素を徹底的に磨き上げることで、奇抜な演出を盛り込まなくても、魅力的な音楽が作れることを証明している。

レーベルのトップ、ニーヨの意向もあるのかもしれないが、近年のメジャー・レーベルの新作には珍しい、「歌」を前面に押し出したR&Bアルバム。変化を続けるR&Bの世界に疲れを感じた人は、ぜひ一度、本作の収録曲を聴いてほしい。彼の音楽を聴けば、黒人音楽に出会ったときの感動が蘇ってくると思う。

Producer
Kevin Ross, Antonio Dixon, Kenneth Edmonds, Jonathan Graves, Jeff Gitelman etc

Track List
1. Be Great (Intro) feat. Chaz French
2. Don't Forget About Me
3. O.I.L.
4. Long Song Away
5. Dream (Remix) feat. Chaz French
6. Genesis (Pt. 1)
7. Don't Go
8. Look Up feat. Lecrae
9. Pick You Up
10. Be Great (Remix) feat. BJ The Chicago Kid
11. Easier
12. Her Hymn
13. Genesis (Pt. 2)
14. In The Name Of Your Love
15. New Man





Awakening
Kevin Ross
Motown
2017-03-24