スヌープ・ドッグやロビン・シックといった有名なヒップホップ、R&Bアクトの作品をはじめ、ケニー・バレルやジョージ・デュークなどの大物ジャズ・ミュージシャンの録音、はたまた、ケンドリック・ラマーやフライング・ロータス等の気鋭のミュージシャンの楽曲まで、様々な音源に携わってきた、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のテナー・サックス奏者、カマシ・ワシントン。

色々なミュージシャンの楽曲に参加する一方で、自身の名義でも、2005年にザ・ネクスト・ステップとのコラボレーション作品『Live At 5th Street Dick's 』でレコード・デビュー。その後、2015年までに自主制作で発表した3作品を含む5枚のアルバムを発表してきた。

そんな彼が、多くの人から注目を集めるようになったのは、2014年から2015年にかけて参加した3枚のアルバムによる部分が大きい。フライング・ロータスの『You're Dead! 』、ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly 』、サンダーキャットの『The Beyond / Where The Giants Roam』という、傑作と称される録音で印象的な演奏を聴かせた彼は、いち演奏家でありながら、多くの人から知られる存在になった。

そして、2015年には、フライング・ロータス達の作品を配給しているブレインフィーダーからCD3枚(LP盤も同じ)、約3時間という大作『Epic』を発表。ヒップホップやソウル・ミュージック、アフリカ音楽などの要素を楽曲の隅々にまで盛り込んだ作風で、昔からのジャズ愛好家からヒップホップのサンプリング・ソースを通してジャズの古典に触れた若者まで、幅広い世代から注目を集めた。

今回のEPは、自身の名義では『Epic』以来、約1年半ぶりの新作で、TheXX等の作品を配給している、ヤング・タークスからリリースされた、彼にとって初のEPでもある。

EPといっても、収録されているのは13分にも及ぶタイトル曲”The Truth”のみ。だが、この曲には、彼の豊かな経験と実績が生み出した、壮大な音の絵巻物が盛り込まれている。

参加ミュージシャンの一覧を見て驚いたのは、その人数。過去の作品でも2~30人規模での録音は残しているが、本作ではサックスが2名(もちろん、テナーサックスの担当はカマシ自身だ)に、ベースが2名、ドラムが2名(うち1名はパーカッションと兼任)に、チェロやバイオリン、キーボードやコーラスなど総勢17パート約30名のミュージシャンが、たった1曲のために終結ている。

しかも、この中には、エレキ・ベース担当のサンダーキャットことステファン・バーナーや、ダブル・ベース担当のマイルズ・モーズリー、ドラム担当のロナルド・バーナー・ジュニアなど、2017年に入って新作を発表した、人気と実力を兼ね備えたプレイヤー達も名を連ね、カマシの新作に華を添えている。

さて、肝心の内容だが、この曲では、キャメロン・グレイブスの滑らかなピアノ演奏から幕を開ける。その後は、ダブル・ベースやギターの艶めかしいフレーズが続くと、ヴィブラフォンやキーボード、ホーン・セクションなど、次々と色々な楽器が加わっていき、中盤からは、ストリングスやコーラスなども入り、まるでクラシック音楽の交響曲のような、雄大でロマンティックな演奏が展開される。

しかし、後半に入るとサックス、ドラム、ベースを軸にした、所謂ステレオタイプの「モダン・ジャズ」に近いスタイルの演奏を挟み、再び壮大なオーケストラへ。その後も、ベースやストリングスのソロ(ストリングスは複数なので厳密には「ソロ」ではないが)へと続き、エレキ・ギターVSストリングスの演奏バトルや、彼らの演奏に絡みつくコーラスなど、音と音が混ざり合ったバロック絵画のように鮮やかで躍動感たっぷりの演奏で幕を閉じる。

彼の新作を聴いた後に、真っ先に思い出したのはアリス・コルトレーンの『World Galaxy』やファラオ・サンダースの『Karma』のような、70年代前後にリリースされたジャズのレコードだ。ストリングスやコーラスといった、ジャズの世界ではあまり使われない楽器を加え、大人数で録音。レコード盤の片面をフルに使った、ジョン・コルトレーンの『Om』や、ファラオ・サンダースの『Black Unity』のように、収録曲を絞り、1曲でアルバム1枚分の起承転結を表現する。カマシの演奏からは、彼らの影響を強く感じた。

おそらく、本作の背景には、サンプリング文化や、レアグルーヴ・ムーヴメント、彼を取り巻く環境(『The Epic』を配給したブレインフィーダーの主催者、フライング・ロータスはジョンとアリスの甥だ)など、色々な要素があると思う。だが、一番大きいのは、物心がついたころからヒップホップやR&B、エレクトロ・ミュージックが身近にある現代のミュージシャンにとって、ソウル・ミュージックやアフリカ音楽を包括した彼らの音楽は、親しみやすく、刺激的だったのだと思う。

ヒップホップなどを聴いて育った新しい世代が、フリー・ジャズやソウル・ジャズを自分の時代に合わせてアップトゥデイトした演奏が繰り広げた、壮大かつ刺激的な作品。この録音が気に入った人は、ぜひ往年のジャズのレコード(できれば『Impulse!』のロゴが入ったもの)を手に取って欲しい。今から40年近く前に、ソウルやファンク、アフリカ音楽などが入り混じった複雑なのにキャッチー、緻密なのにダイナミックな音楽を作り上げた人々がいたことに驚かされると思う。

Producer
Kamasi Washington

Track List
1. The Truth