リー・フィールズやダップトーン一派の周辺で活動していたレオ・ミッシェルが、2000年代初頭に結成したファンク・バンド、エル・ミシェル・アフェア。

2003年にデビュー・シングル『Easy Access』を発表すると、太く柔らかい音色と、重心を低く抑えた粘っこい演奏が、好事家の間で注目を集めた。そして、2005年にはウータン・クランのレイクウォンとコラボレーションしたシングル『The PJ's... From Afar』をリリース。その後、2009年にウータン・クランの楽曲をカヴァーしたアルバム『Enter The 37th Chamber』を発売。ヒップホップのサンプリング・ソースを通してソウルやファンクに慣れ親しんできた若い世代に、人間が演奏するファンク・ミュージックの面白さを知らしめた。その後もアイザック・ヘイズの楽曲をインストゥルメンタルでカヴァーしたEP『Walk On By (A Tribute To Isaac Hayes)』等をリリース。ヒップホップを経由して昔のブラック・ミュージックを知った若者から、往年の名アーティストをリアルタイムで聴いてきた年配の人まで、幅広い層から高い評価を受けてきた。

今回のアルバムは『Enter The 37th Chamber』以来、約8年ぶりとなる、彼らにとって通算3枚目のフル・アルバム。『Return To The 37th Chamber』というタイトルが示す通り、前作に引き続きウータン・クランの楽曲に加え、メンバーのソロ作品を演奏した、カヴァー・アルバムになっている。

本作の1曲目、2016年にシングル盤でリリースされた”4th Chamber”はGZAの95年作『Liquid Swords』に収録された曲のリメイク。ヘヴィーなビートとズンズンと鳴り響くベース、おどろおどろしいギターやホーンの音色が印象的なオリジナル・ヴァージョンを、原曲よりもギターやキーボードの音を強調した、キャッチーなファンクに仕立て直している。音のバランスや楽器の音色以外、原曲とほとんど変わらないあたりに、彼らの演奏技術の高さと、ウータン一派のブラック・ミュージックへの愛着が感じられる。

これに続く”Iron Man”はゴーストフェイス・キラーが2000年に発表したアルバム『Supreme Clientele』に入っている”Iron's Theme”が原曲。1分半のインターミッションを3分半の楽曲に再構成するアレンジ技術も凄いが、ゴーストフェイス・キラーの楽曲の醍醐味ともいえる、人間が歌っているかのような、豊かな感情表現を忠実に再現した演奏も本作の醍醐味。個人的な願望だが、彼らの演奏をバックに、ゴーストフェイスがラップするステージを見てみたい。

それ以外の曲で気になるのは、前作にはなかったゲスト・ヴォーカルをフィーチャーした楽曲群。その中でも、2002年のアルバム『Problems』以降、ほぼ全ての作品でレオン・ミッシェルを起用するなど、彼らと縁の深いリー・フィールズが参加した、93年のアルバム『Enter the Wu-Tang (36 Chambers)』の収録曲”Tearz”のリメイクでは、原曲にサンプリングされた楽曲のフレーズを取り入れて、ヒップホップのビートとソウル・ミュージックの歌を融合させた面白い楽曲。元ネタが女性シンガーの曲であるサビの部分は、きちんと女性ヴォーカル(シャノン・ワイスという人らしい)が担当しているなど、芸が細かい点にも注目してほしい。

また、歌ものという意味では、彼らのレーベル・メイトでもあるレディ・レイが参加した”All I Need”も見逃せない。メソッドマンが94年にリリースしたグラミー受賞曲をリメイクしたこの曲は、マーヴィン・ゲイとタミー・テレルのデュエット曲“You're All I Need to Get By”のフレーズを取り入れたオリジナル・ヴァージョンを意識したのか、メアリーJブライジが担当したパートをレディ・レイが担当している。メアリーJに比べるとレイの歌声は線の細いが、元ネタで歌ってるタミー・テレルも可愛らしい声がウリのシンガーだったので、特に違和感はない。むしろ、可愛らしさを保ちつつ、演奏に負けないパワフルな歌が印象的なくらいだ。個人的には、マーヴィンのパートを男性シンガーに吹き込んでもらって、本格的なソウル・ミュージックとして作り直してほしいなと思った。

本作では、メンバーのソロ作品にまで視野を広げる一方、ヴォーカル・パートを含む曲やシングル・カットされなかった比較的地味な曲も丁寧に取り上げている。おそらく、実績を積んで色々な音楽に挑戦する機会を得られたことや、メンバー以外の様々なアーティストを作品に起用できるようになったのだと思う。

ヒップホップのカヴァーと銘打ちつつ、そのサンプリング・ソースであるソウル・ミュージックやファンクの醍醐味にまで手を伸ばした意欲作。収録曲や原曲はもちろん、その曲のサンプリング・ネタも聴きたくなる。ブラック・ミュージックの入り口には最適なアルバムだと思う。

Producer
Leon Michel

Track List
1. 4th Chamber
2. Iron Man
3. Shaolin Brew
4. Pork Chop Express
5. Snakes feat.Lee Fields
6. Drums For Sale
7. Shadow Boxing
8. Sipped Up
9. Tearz feat.Lee Fields and The Shacks
10. Verbal Intercourse 11. Wu-Tang Clan Ain’t Nuthing Ta F’ Wit
12. All I Need feat.Lady Wray
13. The End (Eat My Vocals)





リターン・トゥ・ザ 37th チェンバー
エル・ミシェルズ・アフェアー
Pヴァイン・レコード
2017-04-19