ダイアナ・ロスやグラディス・ナイト等の作品でドラムを叩いていた、ロナルド・ブルーナー・シニアを父に持ち、ベーシストのサンダーキャットことステファン・ブルーナーや、ジ・インターネットの元メンバーでもあるキーボーディストのジャミール・ブルーナーの兄でもある、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のドラマー、ロナルド・ブルーナー・ジュニア。

自身も2歳のころにドラムを始め、15歳のころにはウェイン・ショーターやダイアン・リーヴス、ロン・カーターのステージでドラムを叩きながら、ステファンと一緒に西海岸を拠点に活動するパンク・バンド、スーサイド・テンシーズの一員としても活動していた。

2000年代以降は、多くのレコーディング作品に参加。2004年にはカマシ・ワシントンやステファンと結成したユニットヤング・ジャズ・ジャイアンツの名義でアルバムを発表する一方、スタンリー・クラークやジョージ・デューク、ケニー・ギャレットといった大物ミュージシャンから、カマシ・ワシントンやサンダーキャットのような彼とは縁の深い面々、ケンドリック・ラマーやサイ・スミス、フライング・ロータスといったR&B、ヒップホップ、エレクトロ・ミュージックの録音まで、色々なミュージシャンの作品に携わってきた。

彼にとってキャリア初となるフル・アルバムは、マイルズ・モーズリーの『Uprising』や、ジョセフ・ライムバーグの『Astral Progressions』などを配給している、ワールド・ギャラクシーからのリリース。カマシ・ワシントンの『Epic』と同じ時期に録音された本作は、ベースをステファン、キーボードをジャミールが担当。多くのゲストとともに、彼自身がヴォーカルを担当した意欲作になっている。

アルバムの1曲目を飾る”True Story”は、彼の派手なドラム・ソロから始まるアップ・ナンバー。ドナルド・フェイゲンの『The Nightfly』に入ってそうな、緻密で爽やかなロック・ナンバー。楽曲の途中で披露されるドラムの乱れ打ちが、楽曲のアクセントになっている。

続く”Take The Time”も、”True Story”に近い、ロック色の強い楽曲。ヴォーカルをステファンが担当しているほか、曲中で複数のテンポとビートを使い分けた、起伏の激しい伴奏と、ステファンの甘い歌声が印象的なアップ・ナンバーだ。バラエティ豊かなビートと、エネルギー溢れるパフォーマンスは、スーサイド・テンシーズの影響を感じさせる。

これに対して、ソウル・ミュージックの影響が色濃いのは”Whenever”だ。柔らかい音色を響かせるホーン・セクションと力強いビート、ロナルドの甘い歌声が合わさった優しい雰囲気のミディアム。ナンバー。スマートだけど繊細で優しい歌声は、彼の音楽に多くの影響を与えた、スティーヴィー・ワンダーを連想させるものだ。

また、ミディアム・ナンバーの中では”One Night”も見逃せない存在だ。ギターとベース、ドラムが軸のシンプルな編成をバックに、泣き崩れるような歌を聴かせるロナルドの存在が光る佳曲。イーグルスやジャクソン・ブラウンのようなロック・ミュージシャンの音楽が好きな人には堪らない佳曲だと思う。

そして、本作の終盤で強烈な印象を残してくれるのが”To You / For You”だ。図太いビートとシンセサイザーの音色が心地よい、シックやシャラマーの音楽を彷彿させるスタイリッシュなディスコ・サウンドに乗せて、爽やかな歌声を響かせる前半から一転、後半に入るとトラップ・ビートの上でラップを披露する異色の楽曲。攻撃的な口調が、本職のラッパーっぽい点も面白い。

今回のアルバムは、彼より先にデビューした弟の作品同様、ヒップホップやR&B、ジャズやロックの要素を取り込み、自身の感性で編集したジャンルの枠にとらわれない作品になっている。しかし、このアルバムでは、色々な音楽のエッセンスを取り込みつつ、その要素をジャズの枠に落とし込んでいるように見える。おそらく、彼が多くのセッションを重ねてきた大物ジャズ・ギタリスト、スタンリー・クラークに代表されるフュージョンのスタイルを、積極的に採用していることが大きいのだろう。また、ジャズの要素に比重を置くことで、多くの音が乱れ飛ぶ、ダイナミックなドラム・ソロを随所に盛り込むことにも成功しているように映る。

ヒップホップやロックの要素を取り込んだ先鋭的な作風と、複雑で大胆なドラム演奏を両立した、長兄の面目躍如といえる佳作。CDで聴いても楽しいが、ぜひライブを観てみたいと思わせる。人間が演奏する音楽の面白味を再確認させられる充実の内容だ。

Track List
1. True Story
2. Take The Time feat. Thundercat
3. She'll Never Change
4. Geome Deome feat. George Duke
5. Whenever
6. Doesn't Matter
7. Open The Gate
8. One Night
9. Sensation feat. Mac Miller and Danielle Withers
10. To You / For You
11. Chick's Web

※動画は本作とは無関係のライブ映像





Triumph(トライアンフ)
Ronald Bruner Jr.(ロナルド・ブルーナ-・ジュニア)
rings
2017-04-19