イギリス出身のギタリスト、ニコラス・ヒルマンと、フランス系アメリカ人のサックス奏者、ウォルフガング・パトリック・ヴァルブルーナが中心になって結成したファンク・バンド、エフェメラルズ。60年代、70年代のブラック・ミュージックを取り込んだサウンドと、ヴァルブルーナのエネルギッシュな歌唱が話題になり、ジャイルズ・ピーターソンやクレイグ・チャールズなどのラジオ番組でヘビー・プレイ。2016年にはフランスのDJ、クンズのシングル『I Feel So Bad』に参加。フランスを中心に、複数の国でヒットチャートに入る、彼らにとって最大のヒット曲となった。

このアルバムは、2015年の『Chasin Ghosts』以来となる、通算3枚目のオリジナル・アルバム。本作でも楽曲制作とプロデュースをヒルマンが、ヴォーカルをヴァルブルーナが担当。ファンクやソウル・ミュージックの要素をふんだんに取り入れた楽曲を披露している。

アルバムの2曲目、本作に先駆けて発売されたシングル曲”The Beginning”は、ゆったりとしたテンポのバラード。分厚いホーンセクションを軸にしたバンドをバックに、思いっきり声を張り上げるヴァルブルーナの姿が格好良い。余談だが、彼の歌い方が”Don't Look Back in Anger”を歌っていた時の、オアシスのリアム・ギャラガーに少し似ていると思うのは自分だけだろうか。

一方、これに続く”In and Out”は、陽気な音色のキーボードと、柔らかい音色のホーン・セクションに乗せて、切々と言葉を紡ぎ出すミディアム・ナンバー。ビル・ウィザーズを彷彿させる、スタイリッシュだがどこか温かい雰囲気の歌声が心に残る。良質なポップ・ソングだ。

そして、本作からのもう一つのシングル曲『Astraea』は、ストリングスを取り入れた、切ない雰囲気のアップ・ナンバー。徐々にテンポを上げていく伴奏と、何かに追い立てられるように、せかせかと言葉を吐き出すヴァルブルーナのヴォーカルが印象的な楽曲だ。

また、同曲のカップリングとしてシングル化された”And If We Could, We’d Say”はハモンド・オルガンの音色で幕を開けるミディアム・ナンバー。ヒップホップのエッセンスを取り入れた伴奏に乗せ、ギル・スコット・ヘロンの作品を引用したポエトリー・リーディングを聴かせるという通好みの楽曲。大衆向けとは言い難い素材を集めつつ、アイザック・ヘイズが”Ain’t No Sunshine”や”Never Can Say Goodbye”のカヴァーで見せた、テンポを落として低音をじっくりと聴かせる、キャッチーで粘っこいファンク・サウンドを使ってポップに纏め上げた名演だ。

そして、黒人音楽が好きな人には見逃せない曲が、スティーヴィー・ワンダーの”AnotherStar”にも似た雰囲気のアップ・ナンバー”Get Reborn”だ。オルガンのキラキラとした音色を軸に、華やかな伴奏と軽妙なヴォーカルを組み合わせた楽曲。ライブで聴いたら盛り上がりそうだ。

英国出身のファンク・バンドというと、ジャミロクワイのような世界中で人気のグループから、ストーン・ファンデーションジェイムズ・ハンター・シックスのように、好事家達を唸らせる実力派ミュージシャンまで、あらゆる趣向の人々に対応する層の厚さが特徴的だ。その中で、彼らを他のグループと差別化しているのは、古今東西の色々なソウル・ミュージックを取り込むヒルマンの制作技術と、デーモン・アルバーンやリアム・ギャラガーにも通じる、ヴァルブルーナの存在感のある歌声によるものが大きいと思う。

60年代、70年代のソウル・ミュージックに軸足を置きつつ、その子孫ともいえる90年代以降のブリティッシュ・ロックのエッセンスを混ぜ込むことで、先人や現行の同業者とは違う独自の音楽性を確立した面白い作品。ロック、もしくはブラック・ミュージックをあまり聴かない人にこそ聴いてほしい、ジャンルの壁を越えた魅力的なバンドだ。

Producer
Hillman Mondegreen

Track List
1. Repeat All +
2. The Beginning
3. In and Out
4. Go Back to Love
5. The Omnilogue
6. Coming Home
7. And If We Could, We’d Say
8. Get Reborn
9. Cloud Hidden
10. If Love Is Holding Me Back
11. Astraea
12. Repeat All





Egg Tooth
Ephemerals
Jalapeno
2017-04-21