キャメロン・グレイヴスはカリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のピアニスト。13歳の時に、同じハイスクールに通っていたカマシ・ワシントンと出会い、その後、2人にステファン・ブルーナー(後のサンダーキャット)、ステファンの兄であるロナルド・ブルーナー・ジュニアの4人で音楽ユニット、ヤング・ジャズ・ジャイアンツを結成。2004年に『Young Jazz Giants』でレコード・デビューを果たす。

その後、彼自身はリオン・ウェアが2008年にスタックスから発表したアルバム『Moon Ride』のタイトル曲をプロデュースしたほか、ロック・バンド、ウィックド・ウィズダムや、カマシも参加しているジャズ・バンド、ネクスト・ステップなどに参加。2015年にはスタンリー・クラークの来日公演や、カマシ・ワシントンのヒット作『Epic』に携わったことでも話題になった。

このアルバムは、そんな彼にとって初のソロ・アルバム。デトロイトに拠点を置くインディー・レーベル、マック・アヴェニューから複数のフォーマットで発売されており、プロデュースは彼自身。レコーディングには、『Truth』で共演したばかりのカマシ・ワシントンがサックスで参加している他、『Drunk』が好評のステファン・ブルーナー(”The End of Corporatism”と”Isle of Love”のみ)がベースを、彼の兄で、自身の名義では初のアルバムとなる『Triumph』を発表したばかりのロナルド・ブルーナー・ジュニアがドラムを担当している。それ以外にも、ジョン・マクラーリンとの共演したデビュー作も話題になった、先鋭的なセンスが魅力的なパリ出身のベーシスト、ヘイドリアン・フェラウドや、ネクスト・ステップの一員として活動しながら、アンソニー・ハミルトンの2011年作『Back To Life』やケンドリック・ラマーの2015年作『To Pimp A Butterfly』などでも演奏を披露しているトロンボーン奏者のライアン・ポーター、ビッグ・バンド・ジャズからロックまで、幅広いジャンルの作品に携わってきた、トランペット奏者のフィリップ・ダイザックなど、演奏技術と鋭い感性に定評のある面々を揃えている。

まず、ステファンが参加した2曲に目を向けると、アルバムの5曲目の収められている”The End of Corporatism”は、音の高低や強弱の激しい演奏が印象的なアップ・ナンバー。鍵盤の上で踊るようにフレーズを奏でるキャメロンのピアノを軸に、ピアノとデュエットをするかのように、複雑なフレーズを目にも止まらぬ速さでかき鳴らすステファンのベース、二人に負けじと、マシンガンのように音を飛ばすロナルドによるバトルが聴きどころ。3人の激しいプレイを脇から支えつつ、シンプルかつキャッチーなメロディで楽曲のバランスを整えているホーン・セクションの仕事も見逃せない。

一方、ミディアム・テンポの”Isle of Love”は、モーツァルトの月光を彷彿させるダイナミックなピアノと、力強く、激しいグルーヴを奏でるステファンの演奏が面白い楽曲。中盤で見せるカマシのソロ・パートの複雑で色っぽいサウンドも気持ち良い。この曲では脇役に徹しているが、緩急をつけつつ、難しいフレーズの正確に演奏しているロナルドの存在が楽曲の完成度を高めていると思う。

また、それ以外の曲に目を向けると、アルバムのオープニングを飾る”Satania Our Solar System”は、アリス・コルトレーンを思い起こさせる優雅で神秘的なピアノで幕を開けるアップ・ナンバー。その後、一気にテンポを上げ、各人が切れ味鋭いフレーズを繰り出すが、中でも目立ってるのはフィリップ・ダイザックのトランペット。エレクトリック・サウンドと生音の違いはあるが、マイルス・デイヴィスが”Bitches Brew”で見せたパフォーマンスにも通じる、音と音の隙間を効果的に使った、シンプルだが存在感のあるフレーズが光っている。

そして、しっとりとしたピアノの演奏から始まる”Adam & Eve”は、キャメロンのピアノにスポットを当てた楽曲。クラシック音楽の演奏家を彷彿させる、感情豊かな音色と、流麗で緻密な指捌きが光る楽曲。ピアノの鍵盤全てを効果的に使った、ダイナミックな演奏も魅力的だ。

今回のアルバムは、過去の録音では使用していたキーボードを封印し、ピアノ一本で勝負した野心的な作品だ。だが、本作の彼は、テンポ、音域、強弱を自在に操り、1台のピアノから様々な音色を引き出している。その手法は、チック・コリアのようにダイナミックでもあり、ハービー・ハンコックのようにキャッチーでもあり、セシル・テイラーのように先鋭的でもある。

カマシ・ワシントンの『Truth』ロナルド・ブルーナーの『Triumph』マイルズ・モーズリーの『Uprising』と同様に、ジャズの醍醐味を残しつつ、ジャズに詳しくない人でも楽しめる、シンプルだが味わい深い作品。キャッチーなフレーズと、一聴しただけでハイレベルとわかる演奏技術を、ぜひ堪能してほしい。

Producer
Gretchen Valade, Cameron Graves

Track List
1. Satania Our Solar System
2. Planetary Prince
3. El Diablo
4. Adam & Eve
5. The End of Corporatism
6. Andromeda
7. Isle of Love
8. The Lucifer Rebellion





Planetary Prince [Analog]
Cameron Graves
Mack Avenue
2017-05-26