2008年にアルバム『Many Faces』でレコード・デビュー。ジェイムズ・ブラウンやファンカデリックなど、多くの先人のスタイルを吸収、混ぜ合わせた音楽性と、それを具体的な作品に落とし込む高い演奏技術で、熱心な音楽ファンを惹きつけたデトロイト発のファンク・バンド、ウィル・セッションズ。

2011年には、元スラム・ヴィレッジのエルザイが、ナズの代表作『Illmatic』をカヴァーしたアルバム『Elmatic』で、バック・トラックを担当。昔のレコードをサンプリングして作られたビートを、生演奏で忠実に再現したことで、一気に名を上げた。その後も、ヒップホップの有名曲のトラックをバンド演奏で再現した『Mix Takes』シリーズなど、複数の録音作品を発表。リリースの度に、その評価を高めていった。

この作品は、彼らにとって初のオリジナル曲によるアルバム。過去に7インチ・レコードで発売された曲の長尺版を含むもので、プリンスやジョージ・クリントンなど、多くのミュージシャンと仕事をしてきたデトロイト出身のキーボーディスト、アンプ・フィドラーや、ジェイムズ・ブラウンにそっくりな歌唱が注目を集め、ダップトーンズとのコラボレーション曲も残している、マイアミ出身のベテラン・シンガー、リッキーキャロウェイのほか、元ブラックバーズのフルート奏者アラン・バーンズや、『Elmatic』でも歌声を披露しているココ・バタフライなど、豪華な面々が終結している。

アルバムの1曲目、アンプ・フィドラーをフィーチャーした”In the Ride”は、ティム・シェラバーガーのブリブリと唸るベースと、ジェイムズ・ブラウンを支えた名手、フェルプス・キャットフィッシュ・コリンズを彷彿させる軽妙でセクシーなライアン・ジンパートのギターが光るアップ・ナンバー。絶妙なタイミングでリスナーを盛り上げるホーン・セクションや、複雑なリズムを最後まで正確にたたき続けるブライアン・アーノルドの存在も見逃せない。

続く ”Shake It Up, Shake It Down”はリッキー・キャロウェイがヴォーカルを担当した楽曲。曲の冒頭で流れる声を聴いた瞬間、ジェイムズ・ブラウンの録音をサンプリングしたのかと勘違いしたが、全てリッキーによるものらしい。奔放なようで計算されつくした歌唱など、ジェイムズ・ブラウンのスタイルにそっくりなリッキーのパフォーマンスも面白いが、ジェイムズの音楽を忠実に再現した精密だが荒々しい演奏も聴きどころ。彼が参加したもう一つの曲”Come On Home”は、ジェイムズの”Hot Pants”を意識したような、軽快なベースの演奏が光るミディアム・ナンバー。どちらの曲も、往年の名手を意識しつつ、彼らの音楽を自分達のセンスと演奏技術で再構築した魅力的な作品だ。

一方、ココ・バタフライを起用した”Run, Don't Walk Away”は、ギターやベースの粘っこい演奏と、マーサ・ハイやマーヴァ・ホイットニーを彷彿させる、グラマラスな歌声と、アグレッシブなパフォーマンスが格好良いミディアム・ナンバー。スロー・テンポでも、安定感抜群の泥臭いグルーヴを聴かせる演奏者にも注目してほしい。

だが、このアルバムの一番の聴きどころは、なんといっても彼らの高い演奏技術だろう。彼らのスキルを堪能できる単独名義の楽曲は”Off the Line”と”The Diesel”の2曲。中でも、2016年にシングル化された”The Diesel”は、『Elmatic』での演奏を思い起こさせる、ジェイムズ・ブラウン一派のスタイルを継承した、複雑だが精密なグルーヴと、リスナーの心を掻き立てる華やかなホーン・セクションが魅力の、インストゥメンタル作品。フルートやオルガンが次々と飛び出し、リスナーを飽きさせない構成も素晴らしい。

このアルバムは、『Elmatic』で彼らのことを知ったリスナーを意識しつつ、ジェイムズ・ブラウンやPファンク一派など、ファンクの歴史を築き上げてきた先達の手法を丁寧に継承した曲作りが目立つ。リッキー・キャロウェイやアンプ・フィドラーを起用したことも、当時の雰囲気を再現するのに一役買っているし、バンドと頻繁にコラボレーションしているココ・バタフライのパワフルなヴォーカルも、往年の女性ファンク・シンガーを彷彿させる。彼らの個性を取り込むことで、自分達の演奏に、往年のファンクの名手のダイナミックで奇抜な作風と、何度聴いても飽きることのない、普遍的な面白さを加えているように見える。

ドラムとベースを軸に組み立てた安定したグルーヴを核に、新旧のブラック・ミュージックのエッセンスを取り込んだバラエティ豊かな楽曲で、懐かしさと新鮮さを両立した魅力的なファンク作品。ヒップホップのサンプリング・ソースを通してファンクに興味を持った人にはぜひ聞いてほしい。ファンク・ミュージックの奥深さと、コンピュータとは一味違う、バンド演奏の面白さを体験できると思う。

Producer
Sam Beaubien

Track List
1. In the Ride feat. Amp Fiddler
2. Shake It Up, Shake It Down feat. Rickey Calloway
3. Run, Don't Walk Away feat. Coko
4. Off the Line
5. Jump Back feat. Rickey Calloway
6. Cherry Juice feat. Allan Barnes
7. Come On Home feat. Rickey Calloway
8. The Diesel