1998年にイギリスのロック・バンド、ブラーの中心人物であるデーモン・アルバーンと、「タンク・ランド」シリーズなどで知られる同国出身の漫画家、ジェイミー・ヒューイットによって「創造」(あくまでも彼らはクリエイターであって、メンバーではない)された、多国籍のメンバーによる『架空の』バンド、ゴリラズ。2000年にEP『Tomorrow Comes Today』でレコード・デビュー。翌年には”Clint Eastwood”や”19-2000”などのヒット曲を輩出した初のフル・アルバム『Gorillaz』を発表。各国でプラチナ・ディスクを獲得する人気グループとなった。

その後も、2010年までに3枚のアルバムと複数の企画盤を発表。それと並行してライブ・ツアーやロック・フェスへも精力的に参加。”Feel Good Inc.”がグラミー賞を獲得した年のステージでは、マドンナとのコラボレーションも披露するなど、常に斬新な仕掛けを見せ続け、「最も成功したヴァーチャル・バンド」としてギネス・ブックにも掲載された。本作は、そんな彼らにとって、7年ぶり通算5枚目となるオリジナル・アルバム。

前作『The Fall』は、楽曲の大半をツアー先のホテルでiPadを使って制作したという、企画盤に近い作品だったが、本作は再びスタジオ録音中心に戻っている。しかし、楽曲の骨格を作る際には、iPad用のガレージ・バンドを用いるなど、色々なツールを目的に応じて使い分けているようだ。

だが、久しぶりの新作を手に取って、びっくりしたのは豪華なゲスト・ミュージシャンだ。デ・ラ・ソウルのように過去の作品に参加しているミュージシャンの他、ヴィンス・ステイプルズやドラマのような気鋭のアーティスト、メイヴィス・ステイプルズやグレイス・ジョーンズのような大ベテランまで、色々なスタイルの人気ミュージシャンが、彼らのために集結している。

本作からの先行シングルは6曲あるが、その中で一番最初に発表されたのは、ジャマイカ出身のレゲエDJ(ヒップホップでいうラッパー)、ポップコーンをフィーチャーした”Saturnz Barz”だ 。地鳴りのような低音が鳴り響く地味なトラックの上で、リズミカルに言葉を繋ぐスタイルが、ゴリラズのポップな世界観とマッチしているミディアム・ナンバーだ。

これに対し、ロングビーチ出身のラッパー、ヴィンス・ステイプルズが参加した”Ascension”は、エレクトロ・ミュージック寄りの華やかな楽曲。聴衆を煽るような勢いのあるパフォーマンスは、軽やかに言葉を紡ぐポップコーンとは対極的なもので非常に面白い、音色を絞りつつ、バンドマン出身らしい感性で高揚感のある電子音を使いながら、バンドっぽい演奏に落とし込んだ佳曲だ。

一方、シングル化されなかった曲に目を向けると、デ・ラ・ソウルを招いた”Moments”と、 アンソニー・ハミルトンが参加した”Carnival”が気になるところだ。

前者は四つ打ちを中心に、色々なタイプのビートを次々と繰り出してくるトラックと、変則的なビートを上手に乗りこなし、アドリブまで見せる巧みなラップが素敵なミディアム・チューン。色々なビートを組み合わせるという発想も面白いが、ビート毎にフロウを変える3人のテクニックも凄まじい。ロックを中心に色々な音楽に取り組んできたデーモンらしい柔軟な曲作りと、あらゆるビートを自分達の色に染めてきたデ・ラ・ソウルの持ち味が発揮された佳曲だ。シンセサイザーを担当しているのがフランスの有名なシンセサイザー奏者、ジャン・ミッシェル・ジャール(日本では小室哲哉とのコラボレーション曲”Together Now”がワールド・カップのオフィシャル・ソングに採用されたことでも話題になった)というのも見逃せない。

そして、アンソニー・ハミルトンを起用した”Carnival”は、彼のヴォーカルを前面に押し出したミディアム・テンポのソウル・ナンバー。電子音を多用した先鋭的なトラックの上で、自身の作品と同じように、武骨だけど温かい、ふくよかな歌声を響かせている。過去の作品でもボビー・ウーマックが客演するなど、ソウル・ミュージックとの親和性の強さを見せてくれたゴリラズだが、本作でもその路線をしっかりと継続している。

だが、本作の目玉は、なんといっても”Let Me Out”だろう。ラップ・グループ、クリスプのメンバーで、カニエ・ウエストのレーベルからデビューしたヴァージニア出身のラッパー、プシャTと、2016年の『Livin' On A High Note』では、年を重ねても進化を続ける姿を見せてくれたシカゴ出身のシンガー、メイヴィス・ステイプルズの二人を起用した力作。プシャTの作風に近いシンセサイザーを多用したトラックに乗せて、ワイルドなラップを披露するプシャと、貫禄溢れる歌声を聴かせるメイヴィス、いつもどおり気そうに歌う2Dが絡み合うミディアム・ナンバー。過去の作品ではボビー・ウーマックが担当していた「本格派ソウル・シンガー」のポジションをしっかりと引継ぎ、威圧的にも聴こえるくらい荘厳な歌声を披露するメイヴィスの姿が印象的だ。

今回のアルバムも、過去の作品同様、個性豊かなゲストを招きつつ、キャラクターの世界観とゲストのスタイルを上手く一体化した、独創的な作品に仕上げている。あえて変化に触れるとすれば、過去の作品に比べてゲストに占めるラッパーの割合が増え、ヒップホップ色が強くなっている点だ。それも、彼らの録音ではあまり耳にしないタイプのトラックと組み合わせることで、ゲスト名義での作品とは一線を画した、ゴリラズ色の強いものに落とし込んでいると思う。

デーモンの柔軟な創造力と、実力に定評のあるゲスト達の意表を突いたパフォーマンスが生み出した、唯一無二の個性的なポップ・アルバム。1+1は2にも3にもなれることを証明した、コラボレーションの手本のような作品だ。個人的には、この面々でツアーを行ってほしいけど、それは難しいんだろうな・・・。

Producer
Gorillaz, Remi Kabaka, The Twilite Tone

Track List
1. Intro: I Switched My Robot Off
2. Ascension feat. Vince Staples
3. Strobelite feat. Peven Everett
4. Saturnz Barz feat. Popcaan
5. Momentz feat. De La Soul
6. Interlude: The Non-conformist Oath
7. Submission feat. Danny Brown & Kelela
8. Charger feat. Grace Jones
9. Interlude: Elevator Going Up
10. Andromeda feat. D.R.A.M.
11. Busted and Blue
12. Interlude: Talk Radio
13. Carnival feat. Anthony Hamilton
14. Let Me Out feat. Mavis Staples & Pusha T
15. Interlude: Penthouse
16. Sex Murder Party feat. Jamie Principle & Zebra Katz
17. She's My Collar feat. Kali Uchis
18. Interlude: The Elephant
19. Halleujah Money feat. Benjamin Clementine
20. We Got The Power feat. Jehnny Beth





ヒューマンズ
GORILLAZ
ワーナーミュージック・ジャパン
2017-05-24