2017年4月に、ユニヴァーサル傘下のデフ・ジャム・ジャパンと契約を結び、多くの人を驚かせた韓国出身の7人組ダンス・ヴォーカル・グループ、BTS(漢字圏の地域では「防弾少年団」表記)。彼らが2016年にリリースした、3枚目のフル・アルバム『Wings』に、ボーナス・トラックを追加した4枚目のアルバム。

2011年に結成。動画投稿サイトや音楽ストリーミング・サイトに作品を投稿したり、先輩グループのバック・ダンサーを務めるなど、地道な下積みを経た後、アルバム『2 COOL 4 SKOOL』でレコード・デビュー。同年には、韓国の音楽シーンでは異例ともいえる、小規模事務所発のグループによる新人賞の獲得という記録を残した。

その後も、順風満帆とはいえない環境の中で、地道にライブや新曲発表を重ね、2015年にはEP『The Most Beautiful Moment In Life 』(漢字圏では『花様年華』)シリーズで本格的にブレイク。2016年には、本作にも収録されている”Blood Sweat & Tears”(邦題は”血汗涙”)を発表。公開から約半年で再生回数が1億回を超え、複数の国でヒット・チャートに名を刻む大ヒットとなった。また、同曲を収めたアルバム『WINGS』がビルボード総合チャートの25位になる大躍進を見せた。

彼らの代表曲となった”Blood Sweat & Tears”は、グループの楽曲を数多く手掛けているPドッグとメンバー自身のペンによる作品。アリーヤの”Rock The Boat”やR.ケリーの”Loveland”を彷彿させる、浮遊感のあるトラックと、ファルセットを多用したセクシーなパフォーマンスが光る楽曲。線の細い高音はファレル・ウィリアムズにも似ているが、どちらかといえばマーカス・ヒューストンやトレイ・ソングスなどの、色っぽいヴォーカルをウリにする歌手が好きな人向けの曲だ。

一方、もう一つのシングル曲”Not Today”は、荒々しいシンセサイザーのリフが印象的なダンス・ポップ。こちらは、王道のK-Popが好きな人向けの曲っぽい。余談だが、廃工場や荒野でメンバーが忍者とダンスをするMVは、外国人の抱く日本文化のイメージが垣間見れて面白い。

また、それ以外のアルバム曲では、トリッキー・ステュアートがプロデュースした”BTS Cypher Pt. 4”が光っている。アッシャーの”Bump”やマライア・キャリーの”Touch My Body”などを手がけてきた彼らしい、艶めかしい音色を使ったトラックと、ヴォーカルの色気を引き出すメロディが魅力のスロー・ナンバー。ラップ担当の3人が、ドレイクを思い起こさせるメロディのあるフロウを聴かせているので、ぜひ注目してほしい。

それ以外にも、Vのソロ曲”Stigma”などは、R&Bが好きな人には見逃せない曲だ。ピアノやホーンを使った太く温かい音色の伴奏に乗せて、ゆったりと歌う姿が印象的な、ロマンティックなミディアム・バラード。ファルセットを効果的に使った、繊細で色っぽいヴォーカルも魅力的。日本のミュージシャンにも似たようなスタイルの楽曲はあるが、ディアンジェロの”Brown Sugar”やマックスウェルの”Fortunate”を彷彿させる、ソウル・ミュージックの要素を取り込んだR&Bを、ダンス。ヴォーカル・グループのメンバーのソロ曲に選ぶセンスは大胆だと思う。

そして、本作で異彩を放っているのが、サウス・ロス・アンジェルス出身で3回もグラミー賞を獲得しているブルース・シンガー”Am I Wrong”のカヴァーだ。ケブ・モー本人もプロデューサーに名を連ねたトラックは、ブルースハープが乱れ飛び、ハンドクラップが心掻き立てる、激しいビートのアップ・ナンバー。ダンスホール・レゲエの影響を伺わせる、跳ねるようなビートと、彼の声をサンプリングしたフレーズが、ブルースの泥臭さを、10代から20代の若者をターゲットにした、ダンス・ミュージックと融合するのに一役買っている。この曲を通して、ケブ・モーの存在が各国の若者に知れ渡ったら、面白いことになりそうだ。

元々、韓国出身のミュージシャンは、アメリカのヒップホップやR&Bを取り入れた作品が多いが、彼らの音楽は、その傾向が極端なように映る。彼らより前に成功した2PMやビッグバンであれば、前者はアジアのポップスの影響を残していたし、ビッグバンはEDMの要素を前面に打ち出していた。そんな、「アジアのアッシャー」「アジアのクリス・ブラウン」に厳しい評価を下すことの多い海外市場で、あえてアメリカのR&Bを韓国語に置き換えたスタイルで挑み、一定の成果を上げた彼らの存在は、非常に興味深い。

ザイオンTの作品でも書いたことだが、言語や体型、習慣が異なるアジア出身の歌手が、欧米のR&Bを取り込むことは簡単ではない。その中で、アメリカのトレンドをそのまま取り入れるという大胆な手法で、R&Bを自分の音楽に昇華し、ヒットチャートで戦える曲に落とし込んでいった点はもっと評価されてもいいと思う。アジア地域のポップスの常識を書き換えた野心的なアルバムを残してきた彼ら。今後の展開が今から楽しみだ。

Producer
Pdogg, BTS

Track List
1. Intro: Boy Meets Evil
2. Blood Sweat & Tears
3. Begin (Jungkook solo)
4. Lie (Jimin solo)
5. Stigma (V solo)
6. First Love (Suga solo)
7. Reflection (Rap Monster solo)
8. MAMA (J-Hope solo)
9. Awake (Jin solo)
10. Lost
11. BTS Cypher Pt. 4
12. Am I Wrong (Keb' Mo' sample/cover)
13. 21st Century Girls
14. Two! Three! (Still Wishing There Will Be Better Days)
15. Interlude: Wings
15. Spring Day
16. Not Today
17. Outro: Wings
18. A Supplementary Story: You Never Walk Alone